じゃあ、またね。
気が付くと、以前見たことがある暗い空間。えーとここは。あ。
「ゼフォン様。」
「あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
「あら、まあ。」
目の前にいるのは妹の夢・・・じゃないえーと、ゼフォンって女神。そのお付きの天使エルドラさんだったかな。そして、死別してから1時間もたっていない殺し屋テリカ・ヒッスとの再会。
1人でテリカヒッス遭遇する状況に背筋が凍る。
えーと。つまりここは、あれだ。あれ。あれ。死後の世界。脳内妄想、夢とじゃなかったのか、これ。目の前に殺し屋がいることでこの世界が夢じゃないと実感してしまう。殺し屋には夢でも会いたいとは思わない。
この中で一番驚いているのがゼフォン。口を大きく広げ、俺を指差している。エルドラは最初こそ目を丸くしていたが、すでに平静を保っている。殺し屋は微笑みながらゼフォンと俺を交互に見ている。状況把握に努めているのか。
「あ、あ、あ、あ、あんたーーーーーーーーーーーー。なにやってるのよ。勝手に消えたら、今度は勝手にここに来て。」
ウルセエ。そんなこと言われても、俺にはわからん。
「2回目なのね。」
なにか叫んでいるゼフォンを無視して殺し屋が俺の前へ。殺した側と殺された側が死後の世界で合間見る。・・・・・仕返ししてこないよな。警戒はするが、対応できる自信がない。
「ええ。まあ。東の森でアラクネルと対峙したときに。」
「へえ。で今はどうしてここに?」
「魔物使いにナイフで刺されて、才華の魔法で空間ごと削られました。俺の生殺与奪も才華たちのものだってことで。」
俺の末路を説明するとこうなる。この説明を聞いて、殺し屋の目が丸くなり、笑い出した。
「あはははははは。自分たちで守って、自分たちで殺すの。うふふふ。あはははっは。」
つぼに入ったようだ。
「そんなことより、ここにいるってことは、」
「ふふふ。ええ。転生ってことね。話が一通り終わったところよ。にわかには信じられないけど、君がここに来たことから、真実味がましたわね。特に死後の世界ってことは。」
俺の死を基準にされてもなあ。まあ、俺も殺し屋がここにいることで信じたからおあいこか。それよりもこの殺し屋でも転生できるのか。悪人でも問題ないのか、争いが起きるのであれば。
「ですか。」
「私を無視するなああああああああああ。」
ゼフォンの叫びに殺し屋と同時に振り替えると、俺に向かって、槍が飛んできていた。うおおおい。顔面狙い、よけ、・・・・・間に合わない。無理。ここで死んだらどうな。
カキン!
口元に笑みを浮かべた殺し屋がその槍を弾き飛ばす。た、助かった。
ドサッ!
弾かれた槍が鼻先数センチを通り、床に突き刺さる。・・・偶然?ワザと?やっぱり、俺らに殺されたの根に持ってる?それともここに来たのが俺だからか?才華か愛音がよかったのか?
「これはすいません。つい、見知った顔に出会ったので。」
「殺す気か!」
謝罪の言葉だけの殺し屋と怒りを示す俺。ここに来たのは2回目の俺より、殺し屋の方が冷静に見える。
「こっちの話を聞きなさいよ。」
俺を指さして見下ろすゼフォン。はいはい。
「まずは、あんたよ。なに勝手にここからいなくなっているのよ。」
「はあ。死亡かく・・・・・生き返ったからじゃ?」
「私がここに呼び寄せたからには死んだことになるのよ。」
「んなこと、俺に言われても。そっちの死の判断とこっちの判断が一緒だと思われても困るがな。」
「それよ。あの世界であの状況は死確定なのよ。それなのにあんたは。」
「知らんがな。こっちの医療技術プラスここの魔法技術はそれを超えたってことだろ。あと生き返って不都合があるのかよ。」
「私が決定した状況なのよ。」
なんじゃそりゃあ。
「あと、あんたの転生先での無様な人生を堪能できないじゃない。」
なんじゃあそりゃあ。
「いやいや。あんた、あのとき一旦生きかえっていいって。」
「それはそれ。私の許可なくってところも気にいらないのよ。あとあんたなら、すぐ死んで、また同じ願いで10回使い切るはずでしょう。」
こいつううううう。・・・・・いやそれよりも。
「それに。」
「あ、ストップ。ストップ。」
俺はゼフォンの言葉を妨げ、不服そうな顔をするゼフォン。
「なによ。」
「その願いで、俺たちと一緒に暮らしていた、シク・クォーテツを蘇生させてくれ。」
願いで俺を生き返らせれるなら、シクだってできる、今しかない。今頃、才華や愛音が俺の治療をしているはず、蘇生できるかは別として、いや生き返りたいけど。生き返る前に、この空間にいる間にそれだけでも。シクが蘇生して困ることはなにもない。
「それは無理よ。」
俺の期待とは裏腹に、ゼフォンは冷静な表情となり答える。はあ?
「な。俺はよくて、シクがダメな理由があるのかよ。」
「あなたの言う、シク・クォーテツは私の管理する世界の住人、ゆえに私の決まりの中で、正確には私たちの決めた定めの中で生きてもらう人物。私のルールは同じ世界への転生は一切認めない。」
ガキ丸出しの雰囲気だった先ほどまでとは違い、重々しい雰囲気を出してきたゼフォン。醸し出す空気が殺し屋や才華、愛音とは違う。これが神なのか?殺し屋も感心した視線を送っている。
「じゃあ。俺はなんでいいんだよ。」
「人多在人、あなたは神のいない世界、神無界の住人。私や私と同じ存在が創造した世界、神有界とは異なる世界の住人。だから、私の定めたルールの適用外の方が多い。ゆえにその条件を認めた。」
神無界?神有界?世界はたくさんあるのか。どっちにしろ目の前が真っ暗になる。結局、シクのためになにもできないのか。・・・・・・・・・・
「口を挟んで悪いんだけど、君・・・君たち3人は別の世界の住人ってことかしら。」
「・・・・・ええ。転移ってやつです。」
「へえ。」
殺し屋に転移が通じたのかはわからないが、異世界の住人であることは理解したようだ。あ、異世界!それだ。
「なら、シクを他の世界に転生させることは」
「それはいいけど。」
「いいけど?」
「魂がまだこっちにはきてないからね。」
ネクロマンサーを倒さない限りは無理なのか。なら、やるべきことは決まった。・・・・・現状、死んでいるけど。ああ。今すぐ生き返ればいいのか。
・・・・・このことを2人に伝えるのは、どうなんだろう。多少は救われるのかな。自己満足なのかな。シクも1人で別世界で生きるのはどうなんだろう。生きてるだけでもうれしいとは思うけど。つらいいかな。あ!
「・・・・・あと、シクの家族も一緒に転生させることは可能?」
状況はきっとゼフォンたちが説明してくれるはずだ。家族と新天地で幸せに生きてほしい。俺の問いにゼフォンはエルドラさんのほうを向く。エルドラさんはそれに合わせて目を閉じる。なんだ?
「エルドラどう?」
「残念ですが。」
目を開けたエルドラさんは首を横にふる。残念?
「もう、魂はすべて浄化されています。つまり、家族は既にこの世界にも存在していないということです。」
[・・・・・・そんな。」
俺は体の力がぬけ、座り込む。できるとしたら、シク1人の転生。1人での転生はどうなんだ?俺はまだラッキーとか思えるけど。いいや。深くは考えない。
「・・・・・・1つ、聞きたいんだけど、そのシクって子の遺体を死んですぐの状態に戻せるのかしら?」
?殺し屋が間に入ってくる。どういう意味だ?
「・・・・・それは可能ね。」
「あと話からして、魂の管理はこの世界に来てから。それまではあなたたちでも手を出さない。それでよろしいのね?」
「はい。選定者以外はそのようになります。」
「魂はどれくらいでこちらに来るのかしら?」
「選定された魂はすぐにでも。それ以外は1日くらいですね。」
殺し屋の質問にエルドラが答える。
「シクは君みたいに運がいいわねえ。」
殺し屋が俺の肩に手を掛ける。どういうことだ。
「何が言いたいんです?」
「ふふ。その子の魂が解放された状態で 死後間もない遺体を君たちの手で蘇生させればいいんじゃないのかしら。死後間もなければ、君みたいに生き返る可能性があるんでしょう。」
「あ。」
確かにあの2人ならできる可能性がある。重症の俺を蘇生できるんだから、外傷のないシクなら心臓マッサージとかで蘇生できそうだ。仮にできなかった場合はシクを他の世界に転生させる。俺の願い全てを使ってもいい。
「これなら、彼女らの力で蘇るわけでもない。ルール違反にもならない。」
「そうなりますね。」
再度、エルドラさんはうなずく。
「まあ、あとは遺体を措置するタイミングと君たちの頑張り次第ね。」
願いを発動するタイミングか、早すぎたら、魂がもどらず、同じことの繰り返し、遅かったら、魂はこっちに来る。考えろ、考えろ。前提条件はネクロマンサーの確保か。あと、死者蘇生の説明が面倒だから、記憶とかも改善したい。
「シクの魂解放後、俺たちがシクの遺体の元についたら、その遺体を死後、間もない状態に戻してくれ。あと混乱が起きないように俺、才華、愛音以外の記憶はシクが風邪をひいたことにして」
できるならネクロマンサーを確保して、街のギルドまで連行、そこで開放、蘇生がベストだな。うん。
「・・・・・わかったわ。ただし、今回だけの特例ね。これ以降は同じような手段が使えないようにルールを改定する。死者がポンポン生き返っていいと私は思わないからね。」
ゼフォンはやや不満そうにしながら、うなずく。これでシクが生き返る可能性がある。
「ふふ。よかったわね。」
「・・・・・・なんで、協力というか、アドバイスを?」
その理由がわからない。感謝したほうがいいんだろうけど、ここまでの流れでしにくい。
「楽しませてくれた、お礼よ。」
妖艶な笑みを浮かべる殺し屋。
「・・・・・じゃあ、俺からの礼はないんで。」
「ええ。もちろん。でもいいの、願いは1つだけのはずじゃあ?他にお願いはないの?」
「うーん。俺を好きって言ってくれる奴らといつまでもいたい。ってのはあるけど。」
「へえ。」
ニヤニヤしている殺し屋。俺は変なこと言ってな・・・・る。言ってる。変なことではないけど、恥ずかしいことを言っている。シクのことで少し気がぬけたのかも。
「えーあー。その女神さんの気まぐれで賭け事で勝負して、その結果、10の願いになってるんで。」
「あら、そう。」
「おーい。またこっちを無視するな。」
「ああ。すいま、」
俺の体が光に覆われる。これって2人によるものだよな。ん?空間ごと削るなら、俺の遺体はないはず、もしくは、大半が欠損しているはず。たしか大幅な欠損は魔法では直せないはずだよな。どうなってるんだ?いや、今はそれよりも。
「あ、あんたまた。」
俺は慌てふためくゼフォンのほうへ向く。
「えーっと。とりあえず、さっきの願いは今すぐ叶えて。あとシクが蘇生できなかった場合はシクを転生、俺の願いの権利を全てシクに譲るから、頼むよ。絶対にだぞ。」
今度は、冷静な殺し屋へ振り返る。殺しあった敵、殺した相手。だがシクの件で恩ができた。お礼は言わないが、無視することはできなかった。
「ふふ。じゃあ、またね。」
「転生先に行く方法はありませんよ。」
正直、会いたくない。
「勘はいいほうなのよ。」
「ですか。」
いやな予言だ。目も開けれなくなり、会話は終わる。
ふと気づき目を開ける。俺の目の前は暗い物体で覆われていた。
「あっ、まだ動かないで。」
物体から愛音の声、まだ頭がぼんやりしている。
「生きてる?んだよな。」
抜けた声の俺、体の重み。以前と同じ感覚だ。
「死んだと思ってたの?」
心外なって声の愛音。俺は目線をきょろきょろ動かすと才華がおれの両足を治療していた。そして、杖男の死体にゴブリンイーターの残骸。杖男の死体もよく見るとバラバラに落ちている。見た感じ、ヨコシマを入れるように体を削ったようだ。どうやったのかはわからんが、全身を削ったわけではないのか。俺があっちに行ったのは、出血と死んだって思い込みのせいかな?
「起きた?気分は最高かい?このシチュエーション。」
いつもの軽いノリの才華。シチュエーション?なんん・・・あーなるほど。やっと頭がはっきりしてきた俺は自分の状況を理解する。愛音の膝枕ね。うん最高だね。
「さそっく権利行使でございますか。」
俺も軽い口調で言う。俺に膝枕をする権利は2人のものらしい。
「当然ね。助けてあげたんだから。」
笑顔の愛音。
「そうだ。そうだ。助けてあげたんだから。感謝しなさい。在人もなにか忘れてるんじゃないの。」
才華はにやり笑う。俺はちょっと考え、
「・・俺が最後に見るものは愛音と才華。も加えといて。」
と答える。




