私たちのもの。
「まだだ。まだだ。まだだ。」
杖男の声に2人は足を止め、振り返る。そして、俺は復活した杖男に首を絞められ、さらにナイフが右太ももに刺された。2人の想定より復活が早かったみたいだ。
「うぐああ。」
太ももに刺されたのは自分の目から抜きとったテリカ・ヒッス投擲用のナイフだ。目からも血が流れ落ちている。杖男は息も絶え絶えだが必死の形相で俺を抑え込んでいる。
「抵抗するなよ。抵抗するなよ。抵抗するなよ。」
杖男はさらにナイフを俺の左太ももに刺した。
「ぐう」
両足に力が入らずバランスを崩して地面に倒れこむ。刺された部分が痛い痛い痛い、熱い熱い熱い、血が流れ出る。涙がにじむ俺はまたやってしまった。何度目の足手まといだ。2人の目つきが一気に険しくなる。
「なにをにらんでいるのさ?僕も傷ついているから、対等にしただけさ。そんなことより武器を捨てな。捨てな。捨てな。」
価値2人は武器を投げ捨てる。
まずい。前回みたいに助けを期待するのは駄目だろう。じゃあ、どうする。答えは1つ、俺が動くしかない。ボトムズとは違いこいつは手負い、チャンスはどこかにあるはず。足はやられたが、手は動く、頭は動く。
「よし。よし。よし。」
だめだ。足の力が入らないので引き離せそうにない。この間もゴブリンイーターはのそのそと2人に近づいている。2人の目線が一瞬ゴブリンイーターへ。
「ふん、ゴブリンイーターが気になるようだが、今止めるぜ。」
杖男の言う通りにゴブリンイーターの動きは止まった。知性のあるゴブリンはともかく、知性なんてないと思われる植生植物のゴブリンイーターも操れるんだ。
「へえ。操れるのゴブリンだけかと思ってた。ねえ、愛音。」
「ええ。思考が似てるから操りやすいってね。」
2人は挑発しながら余裕を見せつける。少しでも冷静さを失わせようとしているのか。俺の負傷はなおせるもんな。うん。
「だまっていろ。くそが。くそが。くそが。お前らのその余裕が気に入らねえ。テリカみたいなその余裕が。女は黙って従っていろ。あの金髪や、槍の奴みたくな。負けてズタボロになって、人形のようになってればいいんだよ。」
案の定、冷静な2人の態度が杖男の癪に障るようだ。そして、金髪ちゃんや槍の子のことに2人は杖男を睨みつける。
「なんだ。その眼は、その態度は。こいつの命は俺が握ってんだよ。わかってんのか。こんな風にな。」
杖男はナイフを右肩に突き刺す。
「ぬあああーーーーー。」
声にならない声が出る。
「殺すのも生かすのも、俺が決めるんだよ。お前らはそれに従うしかないんだよ。わかったか。わかったか。わかっ」
「何を言っているの?」
足の痛みがふっとび、俺の背筋が凍る。杖男も才華の様子の変化にとまどっているようだ。
「殺す?在人を?あんたが?あんたが?あんたが?何をつけあがっているの?」
さらに怒気、殺気が増している。目が見開き、こちらをまっすぐ見ている。
「妙なことするなよ。」
杖男は叫ぶも才華には聞こえてないようだ。耳に入ってない。
「私と愛音のものなのよ。・・・・ありとあらゆるものは。在人のあらゆるものは。なにもかも、なにもかも。」
「はあ?」
杖男が抜けた声を出す。
「在人を傷つける権利は私たちのもの。在人を笑う権利は私たちのもの。在人にいたずらする権利は私たちのもの。在人を困らせる権利は私たちのもの。在人をこき使う権利は私たちのもの。在人で遊ぶ権利は私たちのもの。在人の苦しんでる姿を見る権利は私たちのもの。在人の泣いている姿を見る権利は私たちのもの。在人の悩んでいる姿を見る権利は私たちのもの。在人の喜んでる姿を見る権利は私たちのもの。在人の怒ってる姿を見る権利は私たちのもの。在人の笑っている姿を見る権利は私たちのもの。在人の落ち込んでる姿を見る権利は私たちのもの。在人の悲しむ姿を見る権利は私たちのもの。在人の憂いてる姿を見る権利は私たちのもの。在人の嘆きを見る権利は私たちのもの。在人の慟哭を見る権利は私たちのもの。在人の起きる姿を見る権利は私たちのもの。在人の寝てる姿を見る権利は私たちのもの。在人の働く姿を見る権利は私たちのもの。在人に甘える権利は私たちのもの。在人を甘やかす権利は私たちのもの。在人を癒す権利は私たちのもの。在人を慰める権利は私たちのもの。在人を看病する権利は私たちのもの。在人に看病される権利は私たちのもの。在人と食事をする権利は私たちのもの。在人とお風呂に入る権利は私たちのもの。在人の体を洗う権利は私たちのもの。在人を餌付けする権利は私たちのもの。在人の前に立つ権利は私たちのもの。在人と並び立つ権利は私たちのもの。在人の後ろから付いていく権利は私たちのもの。在人と腕を組む権利は私たちのもの。在人に寄り添う権利は私たちのもの。在人に頭を撫でられる権利は私たちのもの。在人に頬を触られる権利は私たちのもの。在人に胸を揉まれる権利は私たちのもの。在人に肩車される権利は私たちのもの。在人にあーんをする権利は私たちのもの。在人にあーんされる権利は私たちのもの。在人に膝枕する権利はわたしたちのもの。在人に抱き枕する権利は私たちのもの。在人とポッキーゲームをする権利は私たちのもの。在人にお姫様だっこされる権利は私たちのもの。在人におんぶされる権利は私たちのもの。在人に壁ドンされる権利は私たちのもの。在人に顎クイされる権利は私たちのもの。在人に抱かれる権利は私たちのもの。在人に抱きつく権利は私たちのもの。在人を椅子にする権利は私たちのもの。在人に泣きすがる権利は私たちのもの。在人にべたつく権利は私たちのもの。在人といちゃつく権利は私たちのもの。在人を手籠めにする権利は私たちのもの。在人を跪かせる権利は私たちのもの。在人に頭を垂れさせる権利は私たちのもの。在人にチョコを渡す権利は私たちのもの。在人からチョコをもらう権利は私たちのもの。在人と遊ぶ権利は私たちのもの。在人とJOJO立ちする権利は私たちのもの。在人とツープラトンを決める権利は私たちのもの。在人にツープラトンを決める権利は私たちのもの。在人と小宇宙を燃やす権利は私たちのもの。在人と買い物に行く権利は私たちのもの。在人と花見する権利は私たちのもの。在人と海へ行く権利は私たちのもの。在人と山へ行く権利は私たちのもの。在人と森へ行く権利は私たちのもの。在人と図書館に行く権利は私たちのもの。在人と映画館に行く権利は私たちのもの。在人と動物園に行く権利は私たちのもの。在人と遊園地に行く権利は私たちのもの。在人と水族館に行く権利は私たちのもの。在人と温泉に行く権利は私たちのもの。在人と日本国内に行く権利は私たちのもの。在人と世界に行く権利は私たちのもの。在人と異世界に行く権利は私たちのもの。在人と天国に行く権利は私たちのもの。在人と地獄に行く権利は私たちのもの。在人と死後転生する権利は私たちのもの。在人に歌を聴いてもらう権利は私たちのもの。在人の歌を聴く権利は私たちのもの。在人とお月見する権利は私たちのもの。在人の誕生日を祝う権利は私たちのもの。在人に誕生日を祝ってもらう権利は私たちのもの。在人とハロウィンを楽しむ権利は私たちのもの。在人とクリスマスを過ごす権利は私たちのもの。在人とコミケに行く権利は私たちのもの。在人と初詣する権利は私たちのもの。在人と初日の出を見る権利は私たちのもの。在人とデートする権利は私たちのもの。在人を愛する権利は私たちのもの。在人に愛される権利は私たちのもの。在人と付き合う権利は私たちのもの。在人とキスする権利は私たちのもの。在人と結婚する権利は私たちのもの。在人と末無く幸せになる権利は私たちのもの。在人の子供を生む権利は私たちのもの。在人と子育てする権利は私たちのもの。在人の最期を見る権利は私たちのもの。在人の・・・」
俺は体の痛みを忘れ、杖男も俺を絞める力緩め、絶句していた。オーラが、圧が、部屋を覆うじゃない、部屋すら壊しそうだ。
「あいつはなんなんだ。」
戦慄している杖男は俺に聞いてくる。
「愛狂しい奴でしょ。」
としか俺は答えれない。才華との交渉をあきらめたのか、愛音のほうへ向き言う。
「お前あいつを止めろ。」
愛音は首を傾げながら、
「止めるもなにも、抵抗はしていないですし・・。」
静かに答える、止める気はないらしい。そして、独白はまだ止まってないが、才華は両手を前に出す。
「お前、何をする気だ。こいつが見えんのか。」
杖男の当たり前の発言。愛音は力強く言い返す。
「私たちが在人を見失うわけないでしょ。何を言ってるんですか?馬鹿にしているの?」
いや、敵さんの言っていることはそうじゃないよ。
「あと何をしているかですって?見てわかりません?手を伸ばしているだけですよ。あなたは私たちに『抵抗するな』といったので、抵抗はしてませんよね。問題はないですよね。自分の発言をお忘れですか?もしこの状況で在人を殺した場合は、あなたが約束を破ったことになりますよ。そのときはあなたは死ねないですから。殺されて生き返ってを繰り返して。それに怯え、叫んで苦しんで、泣いて、許しを請うてもらって。発狂したり、考えるのをやめたりしたら正気に戻すのを永遠に繰り返すから。それとも手を伸ばすだけで抵抗を受けたと思うほどあなたは臆病なのですか?そんなに臆病なら今すぐ逃げたほうがいいですよ。逃げるなら私たちはなにもしませんよ。本来なら在人に傷をつけた段階で殺してるんだから。私たちだいぶ我慢しているんです。」
と冷たく言い放つ。杖男もびびったのか、
「いいから、それ以上、何ももするな」
としか言えず、再度才華を見る。才華はやりとりも目に入っていなかったのか、まだ独白を続けていた。
「在人の人生は私たちのもの。在人の未来は私たちのもの。在人の今は私たちのもの。在人の黒歴史は私たちのもの。在人の体は私たちのもの。在人の血は私たちのもの。在人の声は私たちのもの。在人の涙は私たちのもの。在人の視線の先は私たちのもの。在人の夢は私たちのもの。在人の希望は私たちのもの。在人の絶望は私たちのもの。在人の悩みは私たちのもの。在人の幸せは私たちのもの。在人の童貞は私たちのもの。在人の心は私たちのもの。在人の魂は私たちのもの。・・・」
終わりの見えない独白に杖男は
「あいつはおかしいぞ。」
と吠える。愛音は目に狂気をはらんでいる笑顔で平然と言い放つ。
「これが愛でしょう。あなたには一生縁がないでしょうけど。」
杖男は唖然とする。
「お前らはなんなんだ。」
「私たち?才華が在人の彼女で婚約者で将来の嫁。私が在人の恋人で許嫁で将来の妻。私たち2人は、幼馴染で、親友で、同級生で、戦友で、パートナーで、ライバルで、恋敵。ううん、恋敵じゃすまないわね。いずれは在人の全てをかけて、殺しあう仲。決着をつけるべき宿敵ね。」
愛音の言葉にも絶句する杖男。
「おい、あいつもなんなんだ。」
「愛狂のある奴でしょ。」
と俺は答える。これしか答えれない。
「もう一度言いますけど、逃げるなら今のうちです。」
愛音は俺を見て微笑む。杖男を見てもいない。気にも留めていない。杖男もこのことに気づき叫ぶ。とことん、女に無視されるのが気に食わないようだ。
「きっ貴様、ふざけるな。こいつはもう殺すぞ。い」
びびって冷静さを欠いた杖男、同時にゴブリンイーターの触手が伸びる。愛音はゴブリンイーターのほうへ走りだし、才華の手には魔法陣が浮き上がる。
「はぁーーーーーーーーーーーーーーーーー? 在人の生殺与奪も私たちのものに決まってるでしょーーーーーが。」
と叫び、手を振る。空間を削る魔法。防御不能の魔法。まだ制御しきれていない魔法。魔法陣の大きさから俺ごとだよね。杖男に殺されるくらいなら、自分の手でってことか。いいよ。そっちのほうがまし。って言えるかああ。
杖男はナイフを投げ捨て逃げようとするも、もう間に合わない。俺はあきらめた。
振り返ると『ガオン』という擬音が聞こえ、絶望した表情で頭から消滅していく杖男。その姿が俺の最後に見たのだった。
完
『短い間でしたがご視聴ありがとうございました。死後転生先のお話でお会いしましょう。』




