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VSゴブリン。あと、えーと、あ。杖男、杖男。

 一緒に倒れこんだ才華は俺の腕の中に包まれている。パッと見た感じ、出血はない。


「ケガは?」


「鎖かたブラのおかげで、ちょっと痛かっただけ。地面にぶつかる覚悟だったけど、ちょうど良く在人が走ってきたからね。助かったよ。」


「走ったかいがあったならよし。」


「ナイスアシスト。これぞタッグマッチの醍醐味だね。」


 才華は俺の腕の中という状況にご満悦なのか笑顔で立ち上がる。才華の胸の部分には氷片が付着し、濡れている。


 こん棒が命中する直前、才華は薙刀を手放し、薙刀を蹴り反動で後方へジャンプ。さらに自分の胸近くに手をあて魔法の氷を自らに放つ。結果こん棒は空を切り、才華は俺というクッションへ。


 あの場面を負傷なく乗り切ったのはいいが、手放した薙刀は杖男によって遠くへ投げられた。戦闘中に回収するのは厳しいか。


「よし、いくよ。離れてて。」


 この間に愛音が、斧持ちゴブリンの右腕を切りながら抜き去り、さらに炎で牽制。杖男とこん棒持ちゴブリンの前に移動していた。そのため、追撃はなかった。


 2人は並び立ち、第3ラウンドの開始か。


「大丈夫?」


「問題ないよ。」


「薙刀がなくても?」


「なーに。あのゲスな目をつぶすくらいできるよ。」


「そんなこと言って大丈夫?」


「占い師の私の前で予言など、10年は早いんじゃあないかって言う、占い師がこの場にいないから大丈夫。」


 2人は余裕がある。その余裕が杖男の癪にさわったようだ。


「ふん、ずいぶん余裕だな。あと一歩でつぶされていたところなのに。」


「あ、あと愛音。」


 わりと真剣な口調の才華。なにか弱点や癖でも気づいたのか。


「なに。」


「やっぱり、在人の腕の中はいいね。色々伝わってきたよ。ひひ。」


「いいなあ。」


 目前の杖男を無視して惚気る才華。羨ましそうにしている愛音はこちらに目線を送る。


「おい、聞いているのか?聞いているのか?聞いているのか?」


「私も抱かれたいなあ。」


 刀をぶら下げてこっちを見てる愛音。油断しすぎではないのか?


「ただ、抱き着かれるだけじゃなくて、助けにきた状況ってのも、嬉しさがこみ上げるね。」


「聞けや。聞けや。聞けやああ。」


 杖男が杖を地団駄を踏む。2人は視線を戻す。


「おーお。気の短いこと。女には好かれないタイプだね。」


「だから、敗れた女性に手を出すのね。と言うより、その人たちしか相手にできない。」


「だろうね。そりゃあ。テリカ・ヒッスも見下すわ。」


「そうね。」


 溜息がシンクロする2人。


「お前らあ。」


 激昂した杖男が、才華に襲い掛かる。ワンテンポ遅れてゴブリン2匹も追従。


 愛音は炎、才華は氷でゴブリン2匹に対して牽制。愛音はゴブリンの前へ移動、才華はそのまま杖男と対峙する。


 接近してきた杖男が才華に杖を振り下ろす。防ぐか、よけるのか?どちらでもなかった。


 才華はその腕を取り、見事な一本背負い。杖男は受け身をとらず、地面にたたきつけられ、悶絶している。俺だってとれるのに。


 それにしても杖男は受け身を知らないのか?以前、槍の子も才華にあっさり投げられていた。それを考慮しての投げか。これを狙って挑発したのか。


「くそ、がはっ。」

 

 動きの止まった杖男に対して才華はそのまま、顔面を蹴とばす。さらに後ろ回し蹴りのおまけつき。

頭がふらついた杖男を無視しして、才華はそのまま愛音のほうへ走り出す。


 斧を持ったゴブリンは愛音に執拗に攻撃をしてくる。腕の恨みゆえか。こん棒持ちのゴブリンもこん棒を振り回してくるが、愛音は全て回避している。


「愛音!」


 呼び声に反応し、愛音が才華に向かって走り出す。ゴブリン2匹が愛音を追う。愛音のすれ違った才華はこん棒持ちのゴブリンの前へ。ゴブリンはこん棒で薙ぎ払ってくるが、才華は勢いそのまま、飛び上がる。


 そして、俺は絶句する。


 掠るだけでもダメージを負いそうな勢いで振られるこん棒。才華はそれを踏み台にし、ゴブリンを飛び越える。


 それだけでも驚きなの、それだけでは終わっていなかった。


 才華が着地すると同時に、こん棒持ちのゴブリンの顔には斜めに線が入り、その線に沿って顔の一部はずり落ちる。そして、ゴブリンは倒れた。


 才華の手には愛音の刀。あのすれ違いの間に手渡していたのだ。


 斧持ちゴブリンはここぞとばかりに武器のない愛音を追い立てる。愛音はキリアルガのナイフを取り出し、それを回避しながらスキをうかがっている。


 そして、ゴブリンが左腕で殴り掛かったところ、愛音はその拳に向かっていく。拳を避けて、その左腕の刀傷にナイフを突き立て走らす。叫びながらゴブリンが斧を振ってくる、愛音もその斧を踏み台にゴブリンの右目にナイフを突き立てた。


 ゴブリンは左腕をふりながら、絶叫をあげる。愛音はナイフを手放し床に着地する。ゴブリンは荒く呼吸しながら左目で愛音を見下ろす。おーおー怒ってる。


「愛音。後ろ!」


 俺は叫ぶ。杖男が復活し愛音に杖で襲いかかってきたのだ。


「愛音!」


 今度は才華の叫び声。愛音が杖男の方を振り返る同時に、ゴブリンが斧を掲げていた。


「死ねやあ。」


 さらに愛音の後ろから杖男が杖で突いてくる。逃げ場がない。


 だが、愛音がゴブリンのほうへ向き直すと同時にゴブリンの動きが止まった。ナイフがゴブリンの右肩に刺さっている。そこから数本がゴブリンの胴体に刺さり、そのナイフには避雷針のごとく、雷が直撃する。


「愛音ちょっと恋人側へ。」


 才華の叫び声。恋人側?俺とは異なり意味を理解している愛音は左側へ飛ぶ。そして、飛んできた曲刀を受け取り、振り向きざま、杖男の杖を切り落とす。そして、間髪入れず顔面に右ひじ打ち、柄での殴打を入れる。


 杖男も負けていない、愛音の左手首をつかみ。愛音の首元へ杖の切断面を突き立ててくる。


 愛音は曲刀を手放し杖を受け止める。左手首も愛音姉さんから教わった護身術で振り払い逆につかみ返す。そこから右前足で杖男の左足を踏んだところで、愛音は杖男の顔に頭突きを決める。


 左手首をすんなり外されたことに意表を突かれたのか、頭突きをモロに食らう杖男。愛音は止まらない。2発、3発。4発。


 愛音が5発目を決めようとしたところで、杖男は杖を再度振りかぶる。


「これでええ。」


「愛音!」


 頭部を切断され、倒れたこん棒持ちのゴブリンの後ろから、ナイフが飛んでいく。


 愛音は左に頭を傾ける。杖男は自らに向かってくるナイフに気づき、顔を愛音は反対に傾ける。その動きに反応するように愛音は頭を右に寄せる。


 なんで?ナイフが愛音の後頭部まで飛んできている。このままだと愛音に当たる。


 だが、ナイフは愛音の動きに合わせるように右に逸れて、そのまま、杖男の右目に突き刺さった。


「え?」


 杖男の言葉はシンプルだった。まだ自分の状況が理解ができていない。そして、


「ぎいいああああああああああああああああああああああああああ」


 杖男は絶叫しながら、地面を転げまわる。


「目があ~。目があ~!!」


「そのセリフはもう何度も聞いた。」


「だね。」


 才華は顎を蹴り上げ、愛音は跳ね上がった顔面をかかと落としで地面に押し付ける。杖男は血を流したまま倒れた。


「飽きてはいないけど。」


「そうね。」





「死んだの?」


 気絶した杖男の目にはナイフ。そして、愛音の手には曲刀。それはテリカ・ヒッスのものであり、ついさっきまで俺達の命を脅かしたもの。だが今はこれらによって命は助かった。


「ううん。よく見て、生きてるわ。」


 愛音は杖男の胸を曲刀で指す。本当だ。胸は動いている。


「こいつはどうするの?」


「このまま捕らえて、傭兵団に引き渡す。」


 薙刀を回収し、刀を愛音に渡す才華。曲刀と刀の二刀流の愛音、佇んでいるだけでもなんか、カッコいい。


「それはなんでさ、才華?」


「この殺し屋に小遣いを渡す依頼者がいるかも知れない。ってことでしょ、才華。」


「ってこと。納得した?在人。」


「なーる。」


「でもその前にあっちね。」


「そうね。」


 今度は倒れたゴブリンを見る。2人の視線に答えるように顔のないゴブリン2体の上半身が起き上がる。さらに顔の切断面や胴体を貫いて触手が生えてくる。やっぱり、ゴブリンイーターは寄生していた。そして、体格に応じた太さ、数の触手だ。


 ゴブリンイーターは切り落とされた頭部を飲み込んで、消化中。この体内にあるゴブリンイーターの核を探して切れるのか?見つけたとしても体格は先ほどのゴブリンとはケタ違い。2人は顔や腕を切ることはできたが、胴体自体は切断できていない。突き刺すしかないか。だとしても、あの触手をかいくぐって近づけるのか?


「コツは掴んだから、私は大丈夫だけど。」


 愛音は才華のほうへ目線を送る。あの1回の戦闘でか。


「今、核の位置はつかんだから、私も問題ない。突き刺せる。」


 才華も薙刀をゴブリンイーターに向ける。2人には何も問題がないらしい。2人はゴブリンイーターに向かっていった。














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