VS大型ゴブリン・・・・あと杖男。
一般的なゴブリンと変わらない大きさのこん棒と斧をもつゴブリン2匹。でかい。
ゴブリン2匹は獲物を振り回し、まだ残っている氷の塊を粉砕していく。体の大きさからして、動きの邪魔になるものの排除と、こちらの隠れる場所を奪っていく。これで物影からの強襲もできない。
ゴブリン2匹と才華、愛音のコンビが対峙する。愛音すらゴブリンの胸に届かない。体格では完全に負けている。
ゴブリン2匹は同時に武器を振りおろしてくる。戦いは始まった。斧とこん棒は床をたたき、水しぶきが舞い上がり、地面が確かに揺れた。
こん棒の相手は才華。斧の相手は愛音。ゴブリンの武器を振る速さは殺し屋よりは遅いが思った以上に早い。だが殺し屋とは違って体格差、筋力差からその攻撃を防ぐことはできない。2人は振り回される獲物の回避に専念している。
こん棒がなにかを壊すたび、斧が空を切るたび、振動が室内に響き渡る。殺し屋とは異なる種類の脅威がある。この2匹を従えているからか、杖男に動きはなく、欠伸までしている。どうやら、ゴブリンに全てを任せるつもりのようだ。この2匹以外にも同格のゴブリンはいるのか?だとしたら、早急にキャノさんたちと合流するべきだ。
「あ。」
ゴブリン2匹に挟まれる形になり、2人は背中合わせになった。ゴブリンたちは間合いをゆっくり詰めてくる。
ゴブリン間でも意思疎通があるのか。2匹は武器を水平に構えた、これだと武器に左右からも挟まれる形になる。
ゴブリンの武器が振られる。それと同時に2人は矢のように突撃。身を屈め、武器を回避。才華はゴブリンの足を薙刀で切り裂き。愛音は左わき腹を切る。ゴブリンは顔を歪めるもダメージにはなってないようだ。すぐさま獲物を振り下ろしてくる。2人はそれも回避し、振り下ろされた腕を駆け上がる。そして、
「レッグラリアート。」
「えい。」
才華は叫んだ通り、愛音はサッカーボールキックでゴブリンの顔面を蹴り飛ばす。ゴブリンはふらつくが、武器で体を支え倒れずにいる。
2人は着地し、体勢を整える。ゴブリンは顔を蹴られたことでプライドに触ったのか、怒ったのか。叫びをあげる。
「おい、なに油断しているんだ。」
杖男が一喝し、ゴブリンはその声にビクつき、叫びを止める。
「テリカを殺しただけはあるようだね。」
杖男は杖をバトンのように回しながら、前に出てくる。参戦するつもりか。てっきりゴブリンまかせで戦う気はないのかと思った。
「なんだい?僕が戦えないとでも思ったのかい?心外、心外。心外。」
俺の目線に気づいた杖男。違うの?
「ふん。魔物使いが魔物を従えるのは屈服させる力がいる。そんなの常識じゃないか。それともこの周辺じゃあ、魔物使いもいないから、知らないのかい?」
見下した表情をする杖男。魔物使いの常識なんて知るか。
「本当はネクロマンサーの兄さんに倒してもらっているんでしょ?」
俺をバカにした仕返しに杖男を挑発する才華。この発言にムっとした杖男。
「その杖でゴブリンと戦ってきたのかしら?魔力は感じられないけど。」
「そうさ。そうさ。そうさ。刃物は間違えると殺ろしちゃうからね。これならよほどじゃない限り死ぬことはないからさ。」
愛音の質問に下卑た笑みを浮かべる杖男。ゴブリン以外はそれでいたぶってきたのか。
「ま、君たちの動きも分かったし、他の奴らもいるから、終わらせてもらうよ。」
先にゴブリンを戦わせたのは2人の動きをみるためだったのか。それにしてもあの数手のやりとりで、見切ったのか?欠伸なんかしてたけど、あれは余裕からなのか?
ゴブリンの間に杖男が立ち、間もなく第2ラウンドが始まる。
「おや、おや、おや?彼は戦わないのかい?」
杖男がこちらを見下した表情で観る。もうわかっているんだろ、俺が戦力外なのは。
「在人はテリカ・ヒッスとの闘いで消耗しきっているのよ。私たちが手を出せないレベルの戦いだったわ。」
「そうそう。私たちを全力で守ってくれた。だから、今度は私たちの番なのよ。」
平然と嘘、大嘘をつく2人。この言葉を聞いた杖男は口を閉ざし、こちらを睨む。嘘か真実か判断がつかないでいるようだ。迷ってくれるなら儲けもんではある。
真実と信じたら、それはそれで判断に困るのだろう。
単純に考えるなら、動けない俺を狙うのが普通。だが、杖男より各上の殺し屋を1人で倒したことを考えると下手をしたら返り討ち。
なら、3対2で数が有利なうちに才華、愛音を倒しにいく。それにしても先ほどのやりとりから、すぐに決着がつくとは思えない。長引けば、その間に俺が復活するかもしれない。
それとも引くか。奥に戻ればネクロマンサーとかぎ爪の殺し屋がいる。ただ、この場合、外にいるキャノさんたちと合流される。
さあ、どうする?俺としては引き下がってほしい。
「今、逃げるなら、追いはしないよ。ま、後で再会することにはなるけど。」
才華はバスガイドのように、奥へつながる扉のほうへ手を向ける。才華としてはどっちなんだ?3対2でも勝てる自信があるのか?それとも引き下がってほしいのか?
「女にエスコートされるのは嫌いなんでね。僕は。僕は。僕はああああああ。」
杖男の目に怒りが見えた。馬鹿にされたととったのね。とりあえず、冷静さを欠いてくれればいいのだが。
杖男が杖を振るとゴブリン2匹が愛音に突撃してくる。そして、杖男自体の狙いは才華。
杖男は叫びをあげはしたが、思いのほか冷静である。杖をブンブン振り回してくれたら、楽になるとおもったが、杖男はズッシリと構えてきた。そして、ゴブリンの方にも余裕も油断もないようだ。先ほどまで感じなかったプレッシャーや圧力を感じる。それは2人も同じであり、武器を構えて対峙している。
先に動いたのはゴブリン2匹。振り下ろされたこん棒をよける愛音。間髪いれず、斧が襲う。これも避けるが、きわどい。思ったより連携がとれた動きをするゴブリン。愛音は回避に専念するしかないか。
才華のほう中段の構えをとり、互いに睨みあっている。杖男の攻撃手段が未知数なため、慎重になっているようだ。
「女は受けてりゃあいんだよ。」
杖男は杖を突きだしてくる。才華はそれを右のよける。続いて蹴りが襲う。それを薙刀で防御。少しぐらついたように見えるが、ゴブリンほどの筋力の開きはないのがわかる。今度は才華が薙刀で突く、払うなどで攻めるが杖で捌かれている。
愛音、才華ともに膠着気味になってきた。これはこっちに不利だ。体格的にスタミナも向こうが上に思えるし、こちらは少し休憩したとはいえ、あの殺し屋との心身を削った戦いのあとだ。
その連戦の影響がでたのか、杖男の攻撃が激しくなってきたのか、才華はだんだん下がってきている。
愛音との間が狭まってきた。
杖男が杖を突き出し、才華が避けたところで、
「うらあ。」
杖男は今度は裏拳を突き出す。才華は裏拳を薙刀で防ぐ。だが、拳が当たる直前に杖男は手を開き、なぎ薙刀をつかんだ。さらに
「「才華。」」
俺と愛音の叫びが重なる。才華は自分の背後にこん棒を持ったゴブリンがいることに気付く。
杖男が杖を突きだしたと同時にこん棒のゴブリンは突然、才華にむけ走り出していたのだ。愛音が追いかけようとするも、その前を斧を持つゴブリンが立ちはだかり、助けにいけない。
俺もこん棒持ちゴブリンの狙いが才華と気づいた時点で動き出したが間に合わない。
こん棒が振り回され、才華は俺に向かってはじけ飛んだ。吹っ飛んできた才華と俺はぶつかり、倒れこむ。




