杖男。
「・・・・・この件は全て解決してからにして、これからどうする。一旦外にでる?それとも、奥へ向かう?」
殺し屋の話しぶりだとこの先に他3人はいる。たぶん、ゴブリンはそんなにいないはずだ。奇襲にもなるかな?
「合流しに外へ行くよ。40近くのゴブリン、そのままの数のゴブリンイーター。流石に大変でしょ。」
「それにゴブリンイーターには大物もいるんでしょう。心配だわ。」
「って思ったけど。」
「遅かったのね。」
2人は奥へのドアのほうへ顔を向ける。なにが?
「落ち着いたから、魔力感知したんだよね。」
「もう来てるの。しかも1人と2匹ね。もう来るわ。」
「まだまだだね。私たちも。」
「ごめんね。在人。」
2人とも項垂れて反省している。
「まあ仕方ないよ。でどすうる?ここで戦う。」
ドン!
扉を吹き飛ばし、見上げる大きさのゴブリン2匹と男が入ってくる。相談する時間もなかった。
「あれ?あれ?あれ?水びだしと氷?さむっ。さむっ。さむっ。」
杖?でいいのかな?ジーファさんやイナルタさんたちの杖の半分しかない長さの杖を持った男が部屋を確認しながら身震いしている。まあそうだよな。ひざ丈のズボンじゃあ。炎で遺体を燃やしたとはいえ、まだまだ部屋自体は冷えている。
「あれ。あれ。あれ?」
杖男が床に刺さったままの曲刀に気づき、こちらを見る。
「あれ?あれ?あれ?もしかして、テリカ死んだ?やられた?やられた?やられた?」
杖男はこっちというより、才華、愛音を見定めている。
「なんだ。なんだ。なんだ。あの女、口だけ?口だけ?口だけ?ははっはは。はははははは。」
杖男は笑いだした。カンに触る笑い方だ。この考えは才華、愛音も同感のようで、不愉快が顔に出ている。
「あのー、お仲間とは言わなくても、契約した協力関係なんですよね。なんで笑っているんです?」
「そりゃー。僕と契約は結んだけど、どんなときも僕たちに無関心で、僕をあきらかに見下していたあの女が一番に死んだんだ。死ぬなんてつまらない状況になったんだそ。笑えるじゃないか。あの女が。あの女が。あの女が。」
愛音の質問にせいせいした表情を見せる杖男。嫉妬?たぶん、実力うんぬんより、自分好みの音が聞こえなかったせいだろう。あと性格かな?それでもあの殺し屋が契約を結んだとなると、なにか魅力のある内容なんだよな。ん?ってことはこの杖男が魔物使いってことか?
「確かにあんたからはいい音はしなさそうだね。だとしたら、よくあの殺し屋と契約が結べたね。」
俺と同じ疑問を持った才華の言葉に、杖男は一瞬不機嫌な表情を見せる。実際に言われたようだ。
「ふん。カタム傭兵団と戦う内容だからさ。あの戦闘狂はそれだけで契約は結んでくれた。」
この杖男はカタム傭兵団が狙いなのか?
「カタム傭兵団で小遣いかせぎかしら。」
コアが言ってた裏社会では金になるってやつのことか、愛音よ。
「ま。そうだよ。団員ってだけで、生きてても死んでても金にはなるからね。」
すんなり答える杖男。
「ふーん。いくらなんでも4人とゴブリン40匹じゃあ、カタム傭兵団の相手は無理じゃない。」
「ま、全員を相手にはそうなるね。でも今はアラクネルの件がある。あの傭兵団は国レベルの依頼を受けた際、非戦闘員を除く団員を依頼対応班、ギルドのクエスト対応、生活費を稼ぐ班、休息班に分ける。クエスト班はそこから、さらに数人に分かれて依頼を受けるから、1回で相手するのは3から5人くらいになる。」
このことはコアが言っていた。
「団員でも実力には差はあるし、実力上位10名を一度に相手にすることはない。だから、1、2回団員を相手にして、そのまま逃げるってとこかしら。」
「ああ。そんなとこだよ。よくわかったねえ。」
愛音の言葉に頷く笑いながら杖男。確かに小遣い稼ぎか。あの殺し屋の相手をできる団員が何人いるのか分からない。かぎ爪の男やネクロマンサーも同格の実力を持っているとしたら、ゴブリン、ゴブリンイーターを相手にしながらは危ないか。
「ああ。そうか。それでゴブリンか。」
才華の言葉に一瞬驚き、明るい笑顔を見せた杖男。なぜゴブリンが?どうゆうことだ?
「倒すなり、殺すなりした団員は換金するんでしょうけど、この場にはゴブリンが食べたように偽装する。そして、ゴブリン数体をその場に残して、のちに来た登録者なり団員に退治させる。これで自分たちは表に出ないで済む。ってことね、才華。」
愛音の補足に頷く才華。
「せーかーい。よく言えました。有名人は生死問わずに金になる、女性は売れる、男性は餌。ゴブリンはすぐ補充できる。困ることはゴブリンの性欲くらいかな。」
性欲の言葉に2人が反応した。
「それに、まずゴブリンってだけで、ほとんどの人が油断する。さらに最初に2、3匹を囮にして退治させれば、もう慢心する。魔力感知して数が多いと知っても帰ることもしない。実際、ここに来た奴らは2回目でスキがあったからな。そこに数の暴力、後ろの2匹みたいなワンランク上の個体を当てるだけで、中堅登録者でもやられる。何匹か倒してもゴブリンイーター。ここまでやれば大抵の奴はやられるさ。」
実際に何人もの人を倒してきたのだろう、杖男の顔には自信が満ちている。
「ま、カタム傭兵団だからこちらも油断せずに、殺し屋を雇ったのさ。僕は1人で十分だと思うけど、兄貴が念のためって言うから、テリカを雇ったのさ。ザンネンながら傭兵団には出会えずじまいだけど。」
兄貴?こいつの兄貴はネクロマンサーってことなのか。
「・・・・・あんたたちの考えでは何回目で傭兵団に会えると思ったのさ。」
「1回目が新人チーム。2回目が中堅登録者。3回目に傭兵団。ってとこだね。ゴブリンの相手なんてこんなもんだよ。」
「へえ。じゃあ。いきなり予想は外れてるんだ。」
また不機嫌な顔をする杖男。だって才華の指摘通りだもんな、最初は新人3人組に中堅2人組だから。さらに予測は甘い。もう傭兵団は俺達ときている。ガーゼットさんは油断なく、依頼するつもりだったことから、俺達が関わらなくてもここに来ていた。
「ふん、外れてもなにも問題はなかったさ。中堅と思える2人組はテリカに瞬殺。少年は後ろのゴブリンに八つ裂き。黒髪の槍使いはゴブリンの性欲のはけ口。金髪は僕のおもちゃになってくれたからね。」
金髪ちゃんをおもちゃ?じゃあ金髪ちゃんは槍の子と一緒で当初は生きていたのか。
「あんた、ルーパ、金髪の子をどうしたのさ。」
「ん?黒髪と同じさ。僕の相手をしてもらったよ。ま、ちょっと乱暴にしたから、死んじゃったけど。ま、これも問題ないし。」
平然と話す杖男。罪悪感がない。世界が違うだけじゃない、こいつはこういう奴なんだ。こいつが金髪ちゃん、ルーパを殺した。そして、そのことを思い出し、舌なめずりをし、才華と愛音を見ている。再度見定めている。
「・・・・・私たちのことはどう思ってる?」
「うーん。ゴブリンにはもったいないね。高くも売れる。」
「売った先でも価値が釣り合わないけどね。」
「そうではなくて、中堅に見えますか?」
「うーん。テリカを3人で奇跡的に倒したのを考えるとまあ、中堅だろうね。外の奴らも含めてね。」
まだ傭兵団が来たとは思っていないのか。そっちも油断しすぎじゃあないのかい。
「ふーん。でここに何しに来たのさ?テリカ・ヒッスになんのようだったの?」
「うーん。外の奴らがそこそこ頑張っているそうだから、テリカを連れて迎撃してこいって兄貴が言うのさ。だから、呼びに来たんだけど、死んでるときた、使えねー。ま、僕だけでも問題ないね。」
杖男が杖を振るとゴブリンが前に出る。
「あ、そうだ。しゃべる気力のあるうちに聞きたいんだけど。テリカの死体は?見当たらないんだけど。」
「遺体はつい先ほど燃やし尽くしました。本人の望みだったので。」
「っち、あの女。まじでつかえねー。」
愛音の説明に杖男の顔がゆがみ、地団駄を踏んだ。あの殺し屋はこのことを予測していたのだろう。
「まあいい、代わりは目の前にあるし。いけ。」
ゴブリン2匹は前にでてくる。




