VSテリカ・ヒッス
「ふーっ。ふー。」
心臓に負傷はない(はず)とはいえ、胸に刀が刺さっていると苦しい。きつい。痛い痛い。熱い。目がかすむ。だが愛音のことを思うと、ど根性でやせ我慢。倒れるのは決着がついてからだ。それまでは殺し屋には余裕をみせつけろ。
「ふ。ふふふ。まだ終わりじゃあないわよ。」
俺の右腕を掴んでいる殺し屋の左手に力が入る。刀が刺さった瞬間、確かに力は抜けた。なのに今は前より力が入っている気がする。まだ動けるのかよ。計画ではここで戦闘終了なんだけど、くそ、まだ考えは甘いか。殺し屋の右肩が動く。斬られる?
「在人!」
愛音が叫ぶと俺の右腕を押し込む。
グッサリ。
俺のナイフが殺し屋の左腹部に突き刺さる。
「っかは。」
殺し屋は目を見開き、血を吐き出す。それと同時に俺も蹴り飛ばされる。くそが。愛音が俺の体をさばいたのか、俺は右半身を横に愛音に抱えられた。
愛音の胸がクッションとなってくれ、このおかげで刀は変に動かずにいた。それでもつらい。ただ殺し屋も胸から血を噴き出している。ただなぜ斬らなかった?あの間合いなら俺は真っ二つ、愛音にも深手を負わせれたはずだ。
「才華がなぎなたを押し込んでくれてたから、斬られずに済んだわね。」
右手首をひねり曲刀でなぎなたを止めた殺し屋。才華はなぎなたを押し込んでいるので、曲刀をずらせないでいる。さらに殺し屋の体勢から曲刀を手放さず、才華のほうへ体を向けるのは厳しい。
「っふふ。いい判断。」
殺し屋は才華のほうに首を回し、殺し屋と才華は目があい、互いに笑みを見せる。
「ね。」
「きゃっ。」
殺し屋の蹴りで、才華は飛ばされる。おいおいおい、まだまだ死なないのかよ。
殺し屋は追撃することなく呼吸を整てながら、右足のスリット部分に手を回し、薬を取り出した。
そして、その取り出した薬を胸にぶっ掛ける。回復されたら、まずい。
「・・・・愛音。刀・・・・・。抜いて・・・・・・・・・・、戦って。」
「バカ言わないで。抜いたら。」
血があふれ出るのはわかってる。現に実例を目の前で見た。でも刀なしで戦うのも不利なのもわかる。
「死なない・・・・・・程度の応・・・・・・急措置・・・・して」
殺し屋より負傷は少ないのに、俺の方が死にそう。これが実力差なんだろう。
「・・・・・・・。才華。3分。」
俺の意をくんでくれた愛音が才華にさけぶ。才華は立ち上がり、無言でうなずく。そして、空になった薬を投げ捨てた殺し屋に向かっていく。殺し屋も曲刀を才華に向けた。
「3分?」
「その間に刀を抜く。そのあと私より魔法の扱いが上手な才華と交代する。」
「それ。」
2人で戦うのではなく、1人で殺し屋と戦うつもりなのか。今までの戦いからどうしてその結果になる。
「今、在人を1人にする方が危ないわ。追い込まれた私なら人質にする。」
そういう考えか。そこまでは考えなかった。
「痛いけど、才華を見てて。」
「ああ。」
俺は言われたとおり、才華に目線を戻す。その間も刀が抜かれていくのがわかるし、苦しいのもある。だがやせ我慢・・・・・がまんだ!
「ふふ。いいハンデかしら。」
殺し屋と才華は互角にやりあっていた。薬をぶっ掛けただけだから、殺し屋は先ほどよりも動きが遅い気がする。・・・・むしろ、才華の動きのキレが増している気がする。
「・・・・そんなに動いて、最後までもつの?」
明らかにオーバーペースなのは殺し屋にもわかるのか。
「聞いてなかったの?3分後には交代だからね。」
「へえ。」
「つまり、私の音はあと3分で聞き納めってこと。」
「へえ。それって。」
「そうだよ。とどめは愛音にゆずるさ。私は在人とイチャイチャするんでね。」
「あははは。じゃあ、私はこのあとイトネとイチャイチャしてればいいのかしら。で、今はあなたとイチャつけばいいのかしら。」
「そうだよ。在人がうらやむくらいにね。」
何度、刀となぎなたがぶつかり合ったのかは分からない。互いに致命傷こそさけているが、かすり傷は増えてきてる。それでも2人の動きに変化はなかった。
「そろそろ。3分ね。」
「ね。」
才華の視線が一瞬こっちを見た。
「でもよそ見はダメよ。」
その一瞬に殺し屋は曲刀でなぎなたの先端を床に押し付けられる。だが、このやりとりで表情を変えたのは殺し屋の方だった。なんだ?
「凍り付いてる。」
刀を抜き終え立ち上がった愛音が曲刀を指さす。! 本当だ、愛音の言うとおりだ。なぎなたの刃と刀の接触部分が凍り付いている。あの一瞬でか?さらに才華は狙っていたのか。殺し屋の傷口に手を突き刺していた。
「っつ。」
殺し屋は吐血しながらも、曲刀を捨てて、後方へ飛び下がる。才華はなぎなたを振り回すと、曲刀が回転しながら殺し屋を襲う。接触した瞬間に凍結させた次は、投擲の瞬間、溶かすという芸当を見せつけるのかい。たった少しの時間でここに来たときより、強くなっている。
殺し屋も殺し屋でなんなく曲刀を受け止めていた。この間に愛音は才華の元へいき、戦闘と治療を交代した。
「ふう。」
才華は俺の元につくなり、座り込む。肩で息をしている、やっぱり相当無理をしたみたいだ。
「ごめん、少しだけ待って。」
俺は無言でうなずく。
「よし。直すよ。在人は愛音を見てて。」
才華は魔法で治療を始める。2人して同じことを言うので、目線を愛音に向けるともう戦いは始まっていた。
「ふふ。彼を刺したことで、ふっきれたのかしら。狙いがこわーいわよ。」
殺し屋のいう通り、愛音の攻撃には首、心臓を狙うのも含まれている。それでも殺し屋はそれを防いでいるのだが。
「そちらも、才華のセクハラは相当痛かったみたいですね。」
「ああ。これね。感じたわ。」
「そうですか。」
「ええ。あなたも感じさせてね。」
「頑張ります。」
刀と曲刀でつばぜり合いをしながら2人は会話していた。
「ふふ。」
才華のときと同じく、何度も打ち合い、互いにかすり傷が増えていく状況になっていた。殺し屋は才華の貫き手で、胸から流れる血が増えているのに。
一旦間合いを取った殺し屋は曲刀を横におお振り。愛音はそれを見切り、そこに容赦なく愛音が刀を振り下ろす。だが殺し屋は胸の傷口に左手を当て、血を振りまく。目つぶしか。
愛音は目に入ったのか一瞬動きが止まり、殺し屋が曲刀を振り上げた。
「愛音!」
才華が叫んだ。愛音はほんの少しだけ下がっていたので曲刀を避けている。だが刀の柄より何かが落ちた。なんだ?
・・・4つ。・・・愛音の指?
愛音が苦痛の表情でその場でしゃがみ込む。それを見て才華は愛音のもとへ走り出す。愛音の足元には指が落ちている。左手の指が。おいおいおい、あの女。愛音はもう切り込むのは無理だろ。まずい。
「もう少し遅かったら、両手の指が落ちたわね。」
殺し屋は愛音の前で曲刀を振りあげ止める。さらに口もとから血を垂らしながら顔が歓喜に歪む。
「ふふ。おやす。」
殺し屋の曲刀が下されると同時に、愛音が立ち上がりながら刀を振り上げた。一瞬の静寂のあと、殺し屋は曲刀を落とし、体から血が吹き出す。殺し屋は口元にかすかの笑みを浮かべゆっくりと倒れた。
決着はついた。
だが、そんなことはどうでもいい。俺も立ち上がり、愛音のもとへ。
なぜ片手であの振り上げができたのか不思議だったが、その答えはすぐに分かった。愛音の左手は親指しかない。その変わり、刀の柄と左手は凍り付いていた。氷で止血と指の代わりをさせたのか。だとしても、無茶を。
「なにやってんだよ。」
俺はしゃがみこんで、愛音の前へ。
「うーん。頑張っただけよ。在人のほうはもう大丈夫なの?」
平然としている愛音。こっちは問題無い。
「愛音の手料理が食べれなくなるのも。指を絡ませれなくなるのも、俺は嫌だよ。」
両手で刀を持ったままの愛音の右手を抱え込む。愛音は顔を赤くした。
「うん。そうだね。私もそれは嫌だね。」
愛音ははにかみながら頷いた。こんなときだけど可愛いな。
「じゃあ、直すよ。はい、左手伸ばして。氷を解かすよ。」
才華の言われた通り、手を伸ばすし、才華は氷を溶かした。手から血が流れだし、愛音は顔を歪める。
「指は自分で押さえて。じゃあ、いくよ。」
指を受け取り手にあてる愛音。才華は切断されたところに、手を添え、魔法を使う。
「いったーい。」
涙目の愛音。指を斬られたときは声には出さなかったのに、気が抜けたせいなのかな?
「指がもとに戻ってる証拠だよ。我慢、我慢。」
口をかわいらしくかみしめて耐える愛音。
「ふふ。かわいらしい声ね。」
殺し屋の声に俺たちは振り返る。まだ生きてるのかよ。死んだと思ったのに。
殺し屋はうつ伏せに倒れてたはずなのにあおむけになっている。俺はナイフを取り出す。2人は治療行為に集中してもらいたい。俺がとどめをさす。
「ああ、安心して、もう。がっ。死ぬから。」
殺し屋は吐血をしながらも笑顔だった。愛音も才華も冷静に殺し屋を見る。
「はあはあ。・・・・・1つ教えて。彼を刺すのも、私を斬る・・・・・・ことができた・・・・・・・のはなんで?」
「私は初め体の制御に関する魔法を作ってました。血が流れても、骨にひびが入っても、痛みで体が止まることはない。動ける限り体の動きが悪くならないようにする魔法です。」
物理的に動ける限りは動く。実際のところ、痛みがあるが、動くと決めたら、痛みを伴っても普段通りの動きをする。そのように体を動かす魔法。
「・・・・・初めは?」
愛音は殺し屋の体を見つめる。心臓付近の風穴、肩から腰へと至る切り傷、それは自分が作った傷口、死に至らしめる負傷。
「ここで、在人の作戦を聞いたとき、私は心の制御も魔法に加えました。在人を刺すのに手元狂わせないため。あなたを斬る・・・・殺すため。震え、罪悪感、恐怖、それらが戦いに影響しないようにするためです。」
ある意味自分を機械にするための魔法。これのおかげで、この状況に至っている。
「この場で改良したってわけ?」
驚きで殺し屋の目が丸くなる。その通りである。
「はい。在人を守るために。」
「ふふ。ふふふ。あはははっは。がっあ。ごっ。」
殺し屋は笑った。それと血もあふれ出る。
「ふふ、・・・・・・・・・本当にもっと・・・・・・・・・見てたい、・・・・・・・・・聞いていたかったわ。残念だわ。」
愛しそうに2人を見つめる殺し屋。
「お褒めの言葉ありがとう。で、死ぬ前に悪いんだけど、ゴブリンを操る魔物使い以外の2人ついて教えて。」
もう少し雑談をしたかった殺し屋は残念そうにする。教えてくれるか?
「はあ。はあ。かぎ爪の・・・・・・。と・・・・・・・・・ネクロ・・・・・・マンサー。・・・・・
あの先・・・・・・。」
殺し屋は洞窟との境界の扉を指さす。だがそれよりも重要な言葉が出た。ネクロマンサー。その言葉が出たとき、才華と愛音の目の色が変わった。怒り、喜び、それらの混ざった目の色に。
「・・・・・いい目つきね。」
「教えてくれて、ありがとう。」
「・・・・・・私は細切れ・・・・・・・か、燃やし・・・・・・といて。・・・・・・・・・音も切った感触も・・・ 楽しめ・・・・御免だから。がはっ。」
殺し屋は大きく吐血する。まだまだ情報はほしいがもう。
「ふふ、最後に・・・・・・・心の・・・・・・・魔法に・・・・・・・頼・・・・・・やめなさい。・・・楽しかっ・・・・・・・・・・。」
殺し屋は微笑んで死んだ。




