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足りない。

「うーん。うーん。おしいわね。うん。どうしようかしら。」


 愛音が立ちあがっても攻める様子がない。なにかを考えこんでいる。ろくでもないことなんだろうけど。


「愛音、大丈夫?」


「ええ。飛ばされただけだから。」


 2人は殺し屋を警戒しながら、俺達の方へ移動してくる。飛ばされただけ、が大丈夫になっているのはどうなんだ、それ?


「アマは動ける?」


「はい。すいません。何度も迷惑をかけて」


 愛音がこちらへ視線を送らないまま質問に槍の子に尋ねてきた。先ほどのやりとりから、目を離すともできないでいる。


「そう。次のやり取り始めたら、ここから逃げて、案内はクロスティがしてくれる。」


「そんな。私も」


 登録者のプライドか、槍の子は戦う意思を示す。


「悪いけど、足手まとい。今なら外のゴブリンはカタム傭兵団が相手してるから、ゴブリンに追われることはない。ここを出たら、すぐ近くに外壁に穴が開いてるから。全力で村まで逃げて。」


「本当は私たちが一緒に行ってあげたいんだけど、それは難しそうだからね。もし私たちが今日中に村まで帰ってこない場合はギルドへ行って。」


 愛音の言葉を聞いて槍の子は黙る。『足手まとい』の言葉を痛感しているようだ。一緒に逃げるとしてもあの殺し屋に背を向けるのは危険だよな。


「クロスティ、村までその子の護衛。」


「クーン。」


 才華の言葉にクロスティは2人を心配して様子を見せる。できることならここにいたいようだ。2人と殺し屋のやりとりの間、クロスティは当初いわれたとおり、槍の子を守るように陣取っていた。そんなクロステュイにも殺し屋は油断なく目をやっていた。


「お願いね。頼りにしているから。」


「ワン!」


 愛音の言葉にクロスティは決意を決め、槍の子のマントを引っ張る。


「うーん。本来なら逃がしちゃダメなんだけど、逃げてもいいわよ。むしろ2人の実力を測るには邪魔なのよね。」


 考えこんでいたと思いきやこちらの話を聞いていた殺し屋。本当かよ。


「ああ、安心して、他の誰かに追わせることもしないわ。」


 安心させるつもりなのかにっこり笑顔を見せてくる。だが逆に怖い。そんな俺とは違い愛音と才華は殺し屋を信じたようで、


「行って、アマ。」


「愛音のいう通りだね。さっさと行って。」


 戸惑う槍の子を促し、その顔には反論は許さないと出ている。


「ごめんなさい。無事を祈ります。」


 悔しそうな顔をして槍の子は入り口への部屋に向かって走りだし、クロスティも追っていく。頼むよクロスティ。



「これで。互いに邪魔者は消えたわね。」


 にっこりと笑みを見せる殺し屋。・・・・まだこっちには俺がいるんだけど。


「あー1つ教えてよ。なんであの子は邪魔者で、在人は違うの。」


 才華の言葉に俺は暗に邪魔と言っているのが分かる。事実だけどさ、事実だけどさ。


「うーん。いざとなったら、あの子は見捨てれるけど、彼は無理でしょ。」


 殺し屋の言葉に2人は反論しなかった。否定できないってことだ。


「あと、私の提案を聞いてもたうためにね。」


ウィンクをする殺し屋。


「提案?」


 愛音が尋ねる


「ええ。あなたたち、私の元に来ない?このままやりあえば、2人ともに死ぬことになるわ。それでも良い音を聴かせてくれるんでしょうけど、でも私はあなたたちの奏でる音をもっと聴いていたい。もっとよくしたい。」


 今まで見せてた妖艶、危険な笑みとは異なり、子供のように無邪気な笑顔を見せる殺し屋。興奮を抑えられないのか饒舌となる。


「はっきり言って、あなたたち2人にはいろいろと足りない。2人とも人を殺したことないでしょ。」


 曲刀を2人に向ける殺し屋。当たり前だ。魔物しか退治していない。せいぜい関わってボトムズだ。あれは三つ目犬のリーダーが咬み殺した。俺らは助ける余裕も、気もないから見殺し。殺し屋は無言でいる2人を見て確信したようだ。


「うんうん。やっぱり。今まで人間相手なんで、せいぜいが街にいる2、3流をのして終わりかしら。私がわざと、首、胸をスキだらけにしたのに、そこを切りさいたり、突き刺したりするそぶりすらなかったもんね。それに技術も体と合っていない、ずれているわね。昔の財産に頼っている感じがする。対人戦の経験自体も足りない。」


 俺達は譲二じいさんやはつばあさんに色々習っていたが、それも高校時代まで、今は特段しているわけではない。たまに運動不足解消で2人が、軽くやっていたくらいだ。それも分かるのか。対人戦の経験も殺し合いではなく、喧嘩くらいだ。


「それで、ここまで戦えること自体は評価できるんだけどね。それでも今のままじゃ、おしいのよ。ゴブリンを斬った音はすごくよかった。私との鍔迫り合いもよかった。でもまだ足らない。」


 シュンと落ち込む殺し屋だが、すぐさま笑みをこぼす。


「肉を斬る、骨を断つ、臓器をえぐる、あふれ出る血、叫び声。声にならない声。倒れこみ震える体。それらから聴こえるあの音をあなたちはまだ知らない。あの心をざわつかせる素敵な音を。」


 悦に入った表情で思い出して身震いしている。


「私が手とり足とり教えてあげる。どうかしら。」


 手を差し伸べる殺し屋。2人は構えを解かない。


「でしょうね。だから、君を残したんだけど。」


 殺し屋は俺を見る。


「俺を逃がす代わりに 配下になれってこと。」


 だが殺し屋は首を振る。違うの?


「うーん。それも1つの考えなんだけど。それよりも君を殺すことにするわ。」


 殺し屋と目が合い、背筋が凍った。息苦しい。


「2人にとって君がとってもとっても愛しい存在なのはわかるわ。でもそれを失って折れた心を、屈服させるのも得意なのよね。」


 舌を出し妖艶な笑みを見せる殺し屋。


「そんなこと絶対にさせない。」


「やってみろよ。殺してでも止めてやる。」


 愛音と才華の空気が変わる。


「ふふ。今までよりは大分良くなったわ。でも。それでも足りない、全然足りない。殺すと口には出してるけど、本当の殺気にはほど遠い。君を殺せばあなたたちの殺気を感じられると思うのよね。」


 確かに2人のは怒気。だが相手は殺気。実際は気なんて分からない。でも何かが違うことは俺ですら理解できてしてしまう。言葉にできない違いあることは間違いない。まずいまずい。


「言う通りだとも思うし、むしろ返り討ちにもあうんじゃない。」


 俺は声を振り絞る。


「それでも私は2人を抑え込む自信があるのよ。それに万が一死んだり、殺しちゃってもきっと生涯忘れないものになる。私はそれでも問題ない。あ!その前に降伏するのは受け付けるわよ。私にとって一番いやなのは2人に逃げられることね!」


 そう言うと同時に殺し屋は俺に向かって突っ込んでくる。2人も俺の前で迎撃態勢をとり、殺し屋とのやりとりが再開する。だが状況は変わらず、2人は攻め込め切れていない。


 これはまずい。むしろ、状況は悪くなっている。だんだんと2人が防戦になってきているのだ。殺し屋も力を隠していたのか。俺もなにかしたいと思うが、殺し屋の目は俺の動きを逃さないでいる。俺も目を離したら、一瞬で殺される気がする。考えろ。考えろ。相手が嫌がるのは逃げること。俺がこの場から逃げきれば勝ちなのか?だがそれも一気に難しくなった。


 疲れたのか、殺し屋は一旦間合いを取る。だがその場所は建物の入り口に陣取っている。2人とのやりとりはだんだん移動していたが、最初からこれを狙っていたのだろうか。


「はい、これで逃げられない。」


 壁を壊そうとしたら、そのスキを突かれる。正面突破もさせてくれそうにない。たった数メートルの距離なのに遠く感じる。


「・・・・・才華、いつも通りなにか策をお願い。」


 愛音はそのまま殺し屋に向かっていく。誰が見たって無謀すぎる。


「な!一人じゃ。さい・・・・」


 才華にも止めてもらおうとするも、才華は歯を噛みしめ愛音と殺し屋を見ている。動きを1つ足りとも見逃さないようにしている。動きの癖やスキを探す、出し抜く策を必死で探している。


 愛音は最初の突きを出した以外、あとは防戦となっている。曲刀を防ぐ、紙一重で回避。ときおり、髪

が舞い上がっている。


「ほらほら、きれいな髪がもったいないわよ。」


 殺し屋はこちらに顔を向ける余裕もある。だがその動きを愛音は狙っていた。2度目の突きは殺し屋の髪をかすめる。


「あら?」


「きれいな髪がもったいないですね。」


 少し驚きを見せる殺し屋に言い返す愛音。おいおい。


「そうね。」


 笑みを浮かべえう殺し屋の曲刀の動きが加速する。また愛音は防戦になる。だめだ、状況を変えたい。


「才華、とりあえず、勝てなくても時間を稼ぐ方法をとろう。」


「・・・・・・。」


「才華?」


 返事がないので肩をたたく。


「あ、ごめん、聞いてなかった。」


「とりあえず、時間をかせぐ方法でも、あ。」


 愛音の腕にかすり傷が、そこからだんだんと傷が増えていく。


「うーん、だんだん動きが硬くなってるわね。遅いし無駄も多い。余計なことを考えすぎ。焦ってきたのかしら。」


「まずい。才華。」


「わかってる、逃げる準備。」


 才華は一歩前に出て手を突き出す。この動きを察したのかこちらに顔を向ける殺し屋。


「燃えろおお。」


 才華は叫んで魔法を放つ。「燃えろおお」と叫ぶが弾丸のように打ち出されたのは氷。その範囲は広く愛音も巻き込む。これじゃあ愛音が


 だが次の瞬間、愛音の左上半身に炎が舞い上がり、当たると思われた氷は蒸発した。対して、殺し屋は入口のある部屋へ吹き飛ばされていった。これで終わってくれたらいいが、そうはなるまい。それでも時間はできた。


「助かったわ。」

  

 愛音はこちらへ寄ってくる。左上半身の燃え上がった部分から『猛』の文字が見える愛音。鎖かたブラがあってよかった。


「ごめん。あれしか思いつかなった。」


 咄嗟の判断だが、2人とも息はあっている。これを活用してなんとかこの状況を打開したい。だがまずは・・・・どうする?


「とりあえず、どうする。」


「奥に逃げる。」


「出ないの?キャノさんたちに合流するとかは?」


「あの先で待っているわよ。それにゴブリン、ゴブリンイーターと戦っているところに、あれを連れていくわけにはいかないでしょ。もしかしたら、他の奴とも戦っているかもしれないんだから。」


 確かにそうだが、あの殺し屋を倒す手段はあるのか?


「そうね。」


 愛音は傷を治しつつ入口のある部屋の方を見る。才華は両手を地面につけ、ドア部分に氷を張った。


「これで少し時間をかせげるはず。いくよ。」


 未知数な建物奥へ3人で走る。追いつかれるまで策が思いつけばいいが。








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