VSゴブリン
廃墟入り口の方が騒がしくなる。北西でだらけていたゴブリンたちもそれに気づき、慌ただしく廃墟入口へ向かっていく。
「エルージュはここで待っていてね。万が一のときはお願いね。」
愛音はエルージュの右足に便箋を巻き付けたあと、頬を撫でる。
「クエ。」
短く吠えて答えるエルージュ。足に巻き付かれた便箋には現時点での判明状況と応援要請が書かれている。イトベスさんの判断で赤の煙があがった際、俺らへは撤退、エルージュにはギルドへの応援を求める合図。エルージュには次へ繋げる役目を背負ってもらっている。エルージュには悪いが出番のないことを期待したとこだが。
「クロスティも頼りにしているよ。」
才華はクロスティの頭をなでる。
「ワン。」
こちらも静かに吠える。クロスティは俺らと同行。槍の子や被害女性を救助できた際、その護衛を頼み、この場所までの案内もしてもらう。
「こっちもよさそうだよ。」
北西にいたゴブリンは全て入り口へ走っていた。この付近には残ったとしても建物の中に1、2体。俺達でもなんとかなるはず。
「行くよ。」
「ええ。」
才華が走り出し、俺、愛音も続いていく。
北西の建物の直近の外壁へ着く。まずはこれをどう壊すかだ。壊すだけなら魔法でなんとかなるが、音を立てないようにしたい。音でゴブリンが気づいてしまう可能性がある。
ただ、事前に才華が
「外壁はまかせて。」
と言っており、今はそれに期待する。
「2人とも離れていて。」
才華の指示に従い後方へ。
才華は左手になぎなたを持ち、右手を広げ前に伸ばす。右手大の魔法陣が浮かびあがる。才華はその右手を掲げ、そのまま振り下ろす。
その手の動きに合わせて、目の前の壁がかすかな音と共に消えていった!音は聞こえないけど、どう考えても擬音は『ガオン』。どう見ても空間ごと削っている。これ防御不能だよな。
「すごーい。」
愛音は素直に感心している。
「はい。いくよ。」
才華は気にせず廃墟へ。
「これ戦闘にもつかえるレベルだよね。」
魔法の開発はまだまだとか言ってたけど、使えるじゃないの。
「まだ、横幅、縦幅の大きさや射程が調整しきれてないんだよね。今だって本当はゴブリンなら一苦労レベルの高さ程度に壁は残したかったんだけど、結局地面まで消しちゃった。」
壁には縦長の半球状に穴が開いている。だが才華としては球状に穴を開けたかったのか。
「それに集中しないと陣が壊れて私まで被害に遭いそうなんだよね。今みたいに止まってならまだしも、動きっぱなしの実践にはまだ使えないよ。」
「そうかい。」
才華の満足レベルには到達してないと。
建物のドア両脇に立ち、愛音がドアを開ける。なにかが飛んでくることはなかった。愛音が中を見て突入。クロスティ、才華、俺と続く。
天井の穴や窓のおかげで光は入っているがやや薄暗い。ドア横左にはあるの受付カウンターかな。右には正面には通路その脇にはテーブルがある。建物内の雰囲気からギルドのように思う。とりあえず見える範囲には中には誰もいない。
「この奥に槍の子とゴブリン1匹。」
愛音が奥へと続くドアを指さす。入ってきたと同じようにドアをあけ、奥の部屋へ。
「あ、あ。」
「ギイイ。」
聞こえるのは悲痛な声と浅ましい声。鼻につくは男よりのにおい。目に映るは惨状。
奥の部屋の中央に動く者が2人。
裸でボロボロの槍の子が地面に這いつくばっており、その腰元にゴブリン。
ゴブリンは下卑た笑を浮かべ、槍の子に夢中でいる。どうやら外の騒ぎにも直近にいる俺らにも気付いていない。
「おい。」
才華がゴブリンに声をかける。冷酷な声で。だがゴブリンは気付かない。槍の子もだ。
「おい。」
これにも気づかない。
「ワン。」
才華を気遣ってかクロスティがひと際大声で吠える。これでゴブリンは気付く。いや気づいていないかも。
首が飛んだことに。
才華が2度目の声掛けをしたとき、愛音は走り出しており、ゴブリンがこちらを振り向いたときには愛音の刀が首を通りすぎていた。
ゴブリンの胴体から血が噴き出し、愛音は容赦なくその胴体を壁に蹴とばした。ゴブリンの血をかぶって槍の子も異変に気付き、顔を上げる。
「あ。」
俺らに気付いた槍の子の顔は以前よりやつれている。そして、目にも光がないように見える。
「在人、飲み水、タオル、予備のマント。クロスティは警戒、ゴブリンが近づいたら吠えて。」
クロスティは入り口側に体の向きを変える。
「あ、うん。」
才華の指示に従い、リュックを下してそれらを取り出して手渡す。
才華が槍の子に予備のマントをかけ、愛音はタオルで槍の子の顔を拭く。槍の子の恰好が恰好なので俺は距離をとったまま。
「大丈夫?」
「・・・・・・。」
愛音の声に槍の子は反応を示さず、茫然としている。
「ごめんね。私たちも少し固まっていた。部屋に入った時点でゴブリンを殺せばよかったのに。」
「・・・・・・。」
才華の謝罪にも反応を示さない槍の子。
「辛いよね、苦しいよね。」
耐えかねた愛音が槍の子を抱きしめる。
「あ、うううううううううう。」
堰を切って槍の子は静かに泣きだした。
「よしよし、少しだけ泣いてな。」
才華は右手で槍の子の頭をなでる。
「在人、薬出して。」
才華は槍の子の隣から俺を見る。そうだね、パッと見だったけど腫れとかもあったもんな。
「ちょっと待ってよ。傷薬っと。」
俺はリュック内の方から薬をとりだそうとする。俺も腰にポーチをつけており、その中にも傷薬はある、だがこれは戦闘中用。
「それもだけど、今朝、もらった薬を1本ね。」
・・・・避妊薬か。
「あ。うん。わかった。」
言われた通り2種類の薬を才華へ。
「はい、泣くのはここまで。まず傷薬。新人でも登録者なら場所、状況を考えてね。」
才華は有無を言わせずに薬を槍の子に手渡す。厳しい言い方だけど、ここはゴブリンプラスαのいる場所。泣きやむのを待つことはできない。槍の子は登録者としての意地か、涙をふき薬を飲む。これで、動くことはできるはず。
「はい、続いてこれ。」
避妊薬を受け取る槍の子。薬をまじまじと見る。
「あの、・・・・・これは?」
傷薬を飲んだ今、他になんのためなのか考えが思いつかないんだろう。
「避妊の薬。ただ、妊娠してから効くかは知らない。でもとりあえず飲みな。私たちはもう飲んでる。」
クルンさんの避妊の薬というだけで、薬の詳細、原理は知らない。槍の子の胎の中がどうなっているのかは誰にもわからない。ゴブリンの生態についても詳しくは知らない。知らない、わからないことだらけだが、できることはやっておくということか。
槍の子はこれを飲む。ゴブリンの子なんて妊娠したくない。懸命な願いをこめて。
「次々いくけど、アマ、あなた以外の登録者は?」
才華の質問に槍の子はうつむく。才華は少なくとも戦士君、金髪ちゃんの安否はわかっている。
「私以外はもう。」
槍の子は首を横に振る。中堅もダメだったか。
「そう。ここに他の」
「ワアンン。」
突然、クロスティが吠え、質問が中断される。ゴブリンか?愛音は刀を構え、才華は槍の子を俺に押し付ける。
「ガルルウ。」
クロスティは愛音が蹴り飛ばしたゴブリンの死体に唸りをあげる。なんだ?な!
ゴブリンの死体がむくりの起き上がる、そして、首元から触手?根っこ?が生えてくる。さらに胴体からも飛び出てきた。なんじゃ?この世界のゴブリンってこうなっているのか?それともゴブリンの知られてない一面なのか?とりあえず、気持ち悪い。
ゴブリンの首から生えている触手が伸びて床に転がっている首を絡み取る。そして、首元まで引き寄せる。で終わらず、そのまま切断面を入口に頭が胴体に入っていた。首元、胸と順に膨らみ腹部でその動きが止まる。そして、腹部がもとの大きさに戻った。消化されたのか。
才華も愛音も不気味さに固まっている。
「ワンワン!!」
クロスティが吠える。これで才華、愛音もハっとする。
「アマ、あれは何?」
「分かりません。」
愛音の質問に短く答える槍の子。
「食虫植物みたいな感じかな?」
ゴブリンは立ち上がり、首から出てる触手が周囲を警戒するように動いている。そして、ピタッと止まる。なんだ?
次の瞬間、1本の触手がこちらに向かって伸びてくる。速い。愛音、才華は横に飛んで避ける。俺もつられて槍の子を抱えたまま横っ飛び。
「キャッ。」
槍の子が小さく叫ぶが、回避は成功。だが触手はこちらに迫ってくる。いやいや。また俺の特性のせいかい。
俺は槍の子から離れて距離とる。抱えたまま逃げれる能力は俺にはない。それにそっちのほうが槍の子も安全だろう。
しかし、俺の考えは裏目に出てしまう。
触手は槍の子の足を絡めとり、そのまま槍の子はゴブリンの方へ引きずられる。なんで?
「あああ。」
恐怖した表情の槍の子。クロスティがその触手に咬みつき、触手の動きが止まる。それを逃さず触手を愛音が切断。ナイス!クロスティ。
「在人、アマを。クロスティも。」
「りょーかい。」
「ワン!」
愛音に指示に従い、俺は槍の子の元へ戻る。
「グルルウ。」
クロスティが俺らの前へ陣取る。少しの間、護衛よろしく。俺は槍の子の足に残った触手を取る。
「放置してごめんね。俺が狙われていると思ったから。」
「あ、いえ。」
首を横に振る槍の子。とりあえず、怒ってはいない。ふー。
「とりあえず、立てる?」
「はい。」
手を伸ばすと槍の子は手を取り立ち上がる。
この間にゴブリンからはさらに触手が生えている。おいおい。これをゴブリンと言っていいんだか。才華と愛音は少し様子見か?
「消化と成長が早いなあ。」
「他のゴブリンも同じなのかしら。」
40匹全部がそうだとしたら、ここには80匹分の魔物がいることになる。正面入り口で戦っているキャノさんたちの負担は大きいじゃすまない。
また、触手が伸びてくる、狙いは相変わらず槍の子だ。なんでだ?愛音、才華は触手をスパスパ切っていく。そして2人とも一端間合いを取る。
「燃やしたいけど、室内だから危ないかな。」
愛音は室内を見渡す。
「この広さだから大丈夫だと思うけど、まずは。」
才華は手を床に手を付けると、ゴブリンに向かって氷が走りゴブリンを飲み込み、氷漬けとした。
「どうかな?」
どうやら才華としては手応えがないようだ。実際、才華が立ち上がると新たな触手が氷をぶち破った。まだまだ活動できるようだ。
「駄目ね。」
才華はため息をつく。
「なら、これは。」
愛音は触手を切り捨て間合いを詰め、ゴブリンの胴体に3連撃。ゴブリンはバラバラとなり氷とともに床に転げ落ちる。今度はどうだ?
触手はビチビチと床をはねていたが、動きを止めた。
「あたりどころがよかったのかしら。」
愛音はこれで倒せるとは思っていなかったのか。拍子抜けしている。
「一応、燃やしておこ。」
「そうね。」
才華と愛音はゴブリンと触手を丁寧に魔法で燃やし始めた。




