廃墟へ
街を出て目指す目的地はルガンエの村。この村はミタキの街から北に位置し農業、酪農で生活を立てている。魔物の出現自体ほとんどなく、出ても村人でも対処できるものがほとんどである。だそうだ。
移動手段は傭兵団の馬車。ガタクンさん、キャノさんが交代しながら馬を操り移動。馬車は1回だけ乗ったことがあったなあ。村までは距離があるので助かる。さらに言えば馬じゃなくて馬車ってこともだ。
愛音、才華は1人で問題なく乗馬できる。俺は1人では無理。馬は俺に近寄らない、乗せてくれない、従ってくれない。色々試した結果、乗馬の際に才華、愛音のどちらかを俺の前に乗せ、後ろから手綱を握ればとりあえずは乗ることはできた。どんな気性の荒い、気難しい馬であっても才華とは友人関係のように、愛音は昔からの主従関係のように馬は接していた。
このような関係は馬だけじゃなく、身近な猫、犬はもちろん、他のあらゆる動物も基本一緒だ。俺はひたすら嫌われていたけど。今となればこの誰にもなめられる特性のせいなんだろう。だぶん。
馬はクザインさんが連れてきたときに見たが、よくよく見ると、鐙がついていた。よくこれがないから開発するのを物語では見る。
馬車内でゴブリン出現から昨日までの判明状況を教えてもらう。
5日前の朝、村の農作物の盗難があったことから、村人でとりあえずの調査を実施。その過程でゴブリン2体が逃走する姿を目撃したことからギルドへの依頼をすることにした。
4日前の朝一にギルドへ依頼。戦士君、金髪ちゃん。槍ちゃん新人3人組に中堅2人組(盾片手剣持ちの戦士、ナイフ使いの斥候)の5人が出発。目撃場所から周囲検索を行った結果、村の西側にある廃墟を拠点にしていると村人に報告。
3日前、登録者達、廃墟へ討伐へ向かう。夕方までには戻る旨を伝えていたが戻ってこなかった。
2日前、農作物の盗難被害発生。登録者未帰還のまま。
1日前、農作物の盗難被害発生。登録者未帰還のまま、さらに日中堂々と盗難事案も発生したことから、ギルドへ報告。
とのことだ。
「この人的被害の判断は適切じゃなじゃな。おそらく、明日にも人に手をだすかもかも。」
とイトベスさんの言。この状況から、けっこう切羽詰まっていると。
「村への人的被害を出させんために、村で馬を預けたら、直ぐ廃墟に向かうからな。今のうちに少しでも地理状況は覚えといてくれよ。役立つ立たないは別として。」
「りょーかいです。」
「わかりました。」
キャノさんから村人の用意した地図を受け取る。廃墟及びその周辺の地図だ。廃虚の地図は金髪ちゃんが作成したと言う。丁細かく書かれている。そんな才能があったんだ。動けよ俺の頭。こういうところで足を引っ張るわけにはいかん。
・・・・・・・気持ち悪い。凝視してたら、酔った。乗り物酔いはしない方なのに。緊張感のせいか?
「酔ったでしょ。はい。おいで。」
愛音はひざを叩く。
「ごめん。甘える。」
愛音の膝枕で横になる。意味ありげな視線を送るイトベスさんにキャノさん。
村につく前になんとか復活。地図もまあ頭に叩き込んだ。
「あと10分くらいで見えてくるな。」
現在、森の中を周囲を警戒しながら進んでいる状況。廃墟への道はあるが、念のため使用せず、一端廃墟全体を見渡せる高台へ森を突き抜けるように進んでいる。魔物はいない。そして、他の動物も。ゴブリンの餌となったらしい。
「キャノよよ。ここで少し休憩しておこうかのかの。休めるうちに休まないとのとの。」
イトベスさんの意見にキャノさんは俺らの顔を伺った後、
「そうだな。」
と頷く。
「りょーかい。クロスティ休みだって。」
才華の言葉にクロスティはお座りの態勢になる。
「エルージュは・・・・。ちょうど見えるね。」
木々の間から上空を見上げる愛音はエルージュの姿を確認し手を挙げる。それに気付いたエルージュは降下し近くの枝にとまる。
俺はリュックを下して、飲み物を2人に渡す。
「ありがとう。」
「ありがと。エルージュ、クロスティもおいで。」
才華に従い、エルージュ、クロスティにも水分補給。
「ふむむ。30近くかのかの。思ったより多いのの。」
廃墟方向を見てるイトベスさん。
「それってゴブリンの数ですか?」
「そうじゃのじゃの。」
「人の方は?」
才華と愛音を見る。最低5人はいるはずなんだけど。どうなっているのか?
「・・・・・・5人はいるね。」
愛音も廃墟の方向を見る。とりあえず、全員生きてはいるのか。
「でも、知っているのは槍の子の分だけ。あとは知らない魔力。」
廃墟の方を見ることなく才華が冷静に答える。それって、戦士君と金髪ちゃんは・・・・・。2人の笑顔が脳裏に浮かぶ。
今は他のことを考えよう。3人のうち2人は中堅2人だとして、あと1人は誰だ?
「・・・・・だとすると。」
「ああ。」
キャンさんとガタクンさんがうなずく。
「えーと?どゆことですか?」
ベテラン陣に説明を求める。
「まず、最低でもワンランク上の個体がいる可能性がある。」
ガタクンさんが一指し指を立て答える。
「ゴブリンは多くても4、5体の群れで行動する。この数でもチームとしてもまとまらない方が多い。」
キャノさんの説明に互いに利用しあってるって話を思い出す。
「じゃがが。大人数でそれなりにまとまっているチームってのがまれにあるのじゃじゃ。」
「その理由がワンランク上の個体。単純に強かったっリ、賢かったり、特殊な能力があったりとさまざまだけど。それらは大抵のゴブリンより手ごわいってわけだ。この場合だと、不明の魔力の持ち主1人は他所で攫われた女性になる。理由は分かるよな。はっきり言って男性を生かしておく理由がゴブリンにはない。」
空気が重くなる。汚すため。慮辱するため。子供を産ますため。
自然と目線は愛音の才華に。2人は女性。俺の主観でも美人。客観的に見ても美人。
ゴブリンはこのうえなく喜ぶだろう。想像上のゴブリンが舌をなめずり、下卑た笑みで2人に手を出そうとしている状況が浮かぶ。そんな地獄に2人を遭わせたくはない。
・・・・・・ん?キャノさんたちの話し方だと、他の可能性もあるってことだよな。
「あとはゴブリンと手を組んでいる人物がいる可能性だのだの。」
「利用しあっているのか。ザイトたちみたいに魔物使いがいるのかまでは分からんがな。」
ですか。またボトムズみたいな奴がいるのか。それとも魔物使いか。どっちにしろ、村を襲わせている時点でろくでもない奴なのは確かか。何が狙いなんだ?
あと俺達に魔物使い的な能力を持っている人はいない。
じゃあ、クロスティとエルージュはどうしてってと聞かれると答えに困る。強いて言うなら、クロスティにしてもエルージュに助けられた恩義とかで付いてきたきたと思う。動物に好かれる2人だから、その範囲に魔物がただけ。2人のことを知っている良子さんや千佳さんだってそう答えると思う。
「どっちにしろしろ、中堅2人、新人3人の即席チームが失敗した理由にはなるなる。」
ですか。これからどうするんだ。
「じい様よ、人の居場所はどうなっている。」
キャノさんが地図を取り出す。全員が地図をのぞき込む。
「んとじゃなな。今はここに3人。ここに2人じゃのじゃの。」
イトベスさんは中央付近のひと際大きい建物、そして、北西の建物を指さす。
「槍の子はこっちだね。」
才華は北西の建物を指差す。
「3人の方は地下にいるわね。なんの施設なのかしら。」
今の段階では見当もつかない。
「ゴブリンの動きは?」
「建物周囲に多いのの。一応入り口にも配置はしているがのがの。」
「よし、ザイトたちはこの北西の方を助けにいってもらう。」
イトベスさんの答えを聞き、キャノさんが俺らを見る。
「俺たちは正面から突入して、ゴブリンどもを引き付ける。その間にそこの新人を救出してだ廃墟を一旦、脱出。」
「それは分かりましたけど、この中央の方の人はどうするんですか?」
槍の子が入る方は廃墟全体でいっても端にある。森を回り込んで突入すれば、ゴブリンとの戦闘も極力少なく建物自体にはいける。だが、中央の方はどうあがいてもゴブリンとの戦闘は回避できない。時間が経てばたつほど、そこにいる人の危険性は増す。それこそ、人質として扱われたら、俺らは動きを止めてしまうことになる。
「そっちは、嘘くさい。」
「嘘くさい?どうゆうことです。」
意味が分からん。
「人の配置からして、北西は女性の幽閉場所。だから、ゴブリンが順番待ちしているんだろうよ。」
なるほど。
「じゃあ、中央は?」
「間違いなく、ゴブリンの協力者。」
つまり、被害女性ではないと。
「じゃのじゃの。もし攫った女性なら一箇所にまとめて置けばいいだろうのの。それ以外の男性は生かす理由がないのの。」
ですか。
「5人で力を合わせて逃げようとするかもしれないから、分けるとかは?」
「ふむ。ゴブリンだけならそこまでは考えん。賢い個体がいたとしても捕らえたという自信から、そのようなことはしない。」
才華の考えはないと。
「1人だけゴブリンの協力者で、もう2人が被害女性とかは考えられないですか?」
「ふむ。」
愛音の考えにキャノさんが考え込む。この可能性は否定できないのか。これだとその女性が一番危険になる。
「どっちにしろ、現状不明点は多い。だが、時間もない。」
ここまで黙って聞いていたガタクンさんが口を出す。
「仮にイトネの言うとおりで、俺達の前に人質としてだしきても、俺達がなんとかする。お前たちはまず、北西の方に集中しろ。」
「そうじゃのじゃの。」
「場合によってはお前たちが、奇襲をかけてその人質を救出ってくらいを想定しておけ。」
ですか。
「あとはその場その場で考えることだな。では行くぞ。」
キャノさんが手を叩き、皆立ち上がる。
「ここから先は、より警戒してくれよ。」
キャノさんの言葉に愛音がクロスティにしーっと合図をとると、クロスティも口を塞ぐ。
「よーし、いい子、いい子。クロスティはそのままキャノさんの横を歩いてね。ゴブリンの匂いがしたら止まってね。」
才華がクロスティの頭を撫で指示を送ると、クロスティはキャノさんの隣へ。本当にかしこいな。
「エルージュはどうします?」
「そのまま、上空を旋回してもらおうかのかの。」
愛音が空を指さすとエルージュは再び森の上空へ。こっちも賢いな。
「行くぞ。」
キャノさんが歩き出す。
「あのー、今更なんですけど、俺たちが来ることってむこうは考えているんですか?」
「今俺たちが来ていることを気付いているかはわからん。だか来ることぐらいは考えているだろうな。だから俺達のことは気づいているとして行動しておく。」
俺の疑問に答えるキャノさん。
「お。見えたのたの。」
森の切れ目、崖に到着。
「ふむ。廃墟といっても、そこまで古くはないようだのだの。」
廃墟周囲は2メートルくらいの外壁で囲まれている。そして南に唯一の出入り口があり、逆の北側は崖になっている。どうやら、廃墟から崖の中に入れるうだ。
廃墟の建物にコケやら蔓などはあるが、森自体に飲み込まれているわけではなさそうだ。
さらに赤、黄、緑、青色の物体がところどころにいる。あれがゴブリンか。確かに子供くらいの大きさだな。距離があるので細かい特徴は分からん。
「あの教会っぽい建物が不明2人のいるところで。赤い平屋が槍の子がいるところだね。」
「建物自体はしっかりしているから、中に隠れて襲ってくることも考えられるな。」
なーる。
「中央の建物に女性はいなそうだな。」
ガタクンさんの言葉。なにをもって判断しているんだ?
「それはどうして分かるんです?」
「中央の方はゴブリンは各々武器を持って待機している。だが北西のほうは武器も持たず、だらけている。」
なーる。協会っぽい建物周辺のゴブリンは座ったりしているが、手元には槍なりこん棒なりがある。だが北西のほうは誰一人武器を持って居ないし、建物周囲で寝そべったり寝てたりする。
「奴らにとっての無料娼館なんだろ。ほら。出てきた。」
1匹の赤色のゴブリンが出てきた。それを見て、替わりに黄色のゴブリンが入ろうとする。がほかの黄色のゴブリンが肩を掴み、阻止する。その隙に青色のゴブリンが入ろうとして喧嘩になっている。
「さて、始めるか。」
キャノさんは背負っていた斧を手に取る。




