出発前
「ねーちゃんたちはこれからどうするの?」
「ん。シクのためにクエストに行くの。」
空気を換えるためか才華がVサインで答える。
「シクのため?」
「そ。お金をかせいで、お薬や栄養たっぷりのお食事をシクにあげるの。」
首を傾げるライジーの質問に答える才華。
「だから、いつもと恰好が違うの?」
「似合ってる?」
「うん。」
「ありがと。サウラ。」
「もっと見せて。見せて。」
「ふふ。いいわよ。ルンカちゃん。」
2人はモデルのようなポーズをとり今日の装備、というかコーディネートをルンカたちに見せる。
矢除けのヘアピン
魔法により頭部周囲への矢、投擲武器、石つぶて、小さめの落石などをそらしてくれる。
魔力をヘアピンに送ることで魔法がオートで発動。気絶した際にも一定時間効果継続。
現在 ネコ、蝶、月の3種類を発売中 オーダーメイドも承ります。
常春のマント
膝下までのマント
炎、水、氷、雷、風への防御。対熱気冷気効果もあり。
移動時の体温調整にも役立つので遠距離移動のおともに1つにどうかのう。
青、赤 黒、白の4色販売中。氏名刺繍無料サービスしておるぞ。
鎖かたブラ
鎖帷子でも重いという方にお勧めします。心臓部には刺突対策つき。
金属とは異なる素材のため、軽く肌にも優しい一品です。
大小さまざまなサイズを用意してますし、特注もできます。
ガルララブーツ
食鳥魔物ガルララの繊維より作られたブーツ。弾力性、耐水性、通気性ともにバツグンなのよ。
魔力を込めることで硬さが増すぜ!
男女別のデザイン、子供用もあるぜ。
キリアルガのナイフ
大型蛾型魔物キリアルガの顎を加工してできた切れ味、強度、軽さのバランスが取れたナイフ。
金属ではないので錆の心配は不要だ。
ガンソドカタログve.1より
才華は蝶のタイプのヘアピンをおでこ右側、愛音は月のタイプのヘアピンを左耳上、それぞれつけている。
「ヘアピン可愛いいなぁ。」
「ネコのタイプのもお店で売っていたわ。ライジーちゃん。」
「それも可愛かったよ。」
「へえー。」
ライジーが羨ましがるヘアピン。2人はこれを購入したとき、シクに猫のタイプのヘアピンを買ってあげていた。
「マントにある文字?なんかカッコイイ。」
とルンカがはしゃいでいる。
才華の赤色マントの左肩付近には『天』、愛音青色マントの右肩には『地』の刺繍。
漢字がないこの世界なので、才華が字の意味を説明している。
「サイカねーちゃん。シクの風邪が治ったら、私にもなにかカッコいいの教えて。」
「いいよ。あとこの服の下にも」
「それは、別の機会で。」
更に才華が服をめくり、鎖かたブラを見せようとしたので俺は慌てて止める。やめい。
2人とも服の下、ブラジャーの上にこれを装備している。ちらっりと見えた鎖かたブラの見た目はまあスポーツブラ・・・・・・、もといレーシングトップだねって愛音が言っていた。
俺は鎖帷子を提案したが、重いと蹴られたのでこれで手を打ってもらい、その鎖かたブラにも才華は右胸付近に『闘』、愛音は左胸付近に『猛』の文字を入れている。ルンカたちが見ても判らないけど、まんまなんだよね。
二人のベルトの腰にキリアルガのナイフ。アラクネルとの闘いで愛音の刀が折れたことから、予備の武器として購入。戦闘以外にも使えるので出番は多くなるはず。肝心の戦闘では出番がないほうがいいけど。
ベルトの右側には小道具の入ったポーチ。ポーチ内にはクルン製傷薬、消毒薬、気付け薬、ライター、砥石等。
ガルララブーツは見た目ただのショートブーツ。だが魔力をこめた蹴りの威力を確かめてたところ、岩にひびを入れていた。防御力より攻撃力が上がった結果に見えるが、「戦闘中にうまく使えるかは別だけどね」と愛音は言っていた。
この新装備が紹介されているガンソドカタログve.1は才華が作成を提案し、暇だったその日のうちにガンソドの面々と一緒に作成してしまったものである。やることが早い。と言うより早すぎる。
この世界に本はあるが、この手の本はなかった。現在、お店とギルド、グラッチェ内に複数配布済みであり、売り上げには貢献しているとのこと。それはよかった。
愛音の腰に新品の刀。アラクネル戦で折れたため、バインさんに作ってもらったもの。切れ味、使いやすさは前より上とのこと。あっという間に作ったドワーフすげー。
この刀の鞘には魔法石も付いている。どんな効果はあるかはまだ教えてくれてない。
才華のなぎなたにも魔法石を追加している。こちらもどんな効果があるのかは教えてくれない。
2人の奥の手の1つだそうだ。1つってことはまだ他にもあるんだろうけど。
「それじゃあ、私たちはそろそろ行くかな。」
「ねーちゃんたち、クエスト頑張ってね!」
「頑張って下さい。」
「頑張れ。」
「ありがとう。3人も勉強頑張ってねー。」
手を振って3人が塾に入っていく。数日前ならその隣にシクもいる光景だった。
「もう、見納めね。この光景。」
愛音がつぶやく。シクがいないからこの時間に塾に来る理由がない。
「・・・・。」
何も言葉をかけられない。
「ガンソドに行くよ。」
「ええ。そうね。」
才華が歩き出し、愛音も振り返る。2人の表情は変わっていた。ルンカたちに見せた明るい感じは消え、暗く真剣な表情に。
ガンソドの中に入るとクルンさん、アルトアさんがカウンターで待ち受けていた。クルンさんからの呼び出したが何をくれるんだろう。
「お、来たな。」
「すいません。お呼び出しして、お待ちしておりました。」
開口一番謝るクルンさん。謝る必要ないのに。
「ううん。それより、渡したいものってなに?」
早速、確認する才華。
「これをお二人に。」
クルンさんはカウンターより小さな薬瓶を数本取り出す。お二人にと言っていることから才華と愛音だよな。
「これは?」
「避妊の薬です。効果は1週間、これは副作用などのない登録者向けのものです。」
控えめな弱気な表情と違い、キリッとした表情のクルンさん。
「はい?」
つい変な声をだしてしまった。
「えーと、なんのためこれを。」
「おいおい、ザイト。お前昨日の話忘れたのか?ゴブリンの話を。」
「ゴブリンは女性を襲う。結果、望まぬゴブリンの子供を妊娠した、出産した事例が数え切れないほどあります。」
戸惑った俺に、呆れたアルトアさんと真剣なクルンさん。クルンさんは2人がゴブリンに慮辱されることを懸念して用意してくれたのか。真剣な表情がそれを物語っている。
2人のそのような状況は想像もしたくない。させたくもない。だが絶対はない。それを考慮し、用意してくれた避妊薬。2人はこれをどう思うのか。
「最悪の中の最悪の中の最悪を防ぐための薬ってこと。ほれほれ受け取った。あ、これ、ゴブリン専用って訳じゃあないからな。」
アルトアさんがカウンターの避妊薬を愛音と才華に手渡す。受け取った2人は避妊薬をまじまじと見つめている。
「これを受け取っても使わず、後悔した登録者の話もよくあります。」
2人が躊躇したと思ったのかクルンさんが話を付け加える。2人はクルンさんを見る。
「サイカもイトネも生むならザイトの子なんだろう。」
アルトアさんがひやかしの笑みを浮かべながらこっちを見る。
「うん。」
「はい。」
2人は俺を見ないで頷く。迷いのない全肯定の2人を見てこっちが恥ずかしくなる。
「なら使っとけよ。お前らなら万が一もないかもしれないけど、色々想定して備えるのが一流の登録者だって話だぜ。」
「分かりました。」
「うん。ありがとう。」
2人はこの場で避妊薬を飲んだ。万が一は考えたくないが、これで最悪の最悪の最悪は回避できる。
「あのー。お代はいくらに・・・・。」
「前の宴会のお礼ってことで、今回はサービス。サービス。ほらこれも予備で持っていけよ。」
残りの薬を俺に渡し笑顔で答えるアルトアさん。
「ありがとうございます。そのシクのときと言い、いろいろとすいません。」
「いいから、いいから、気にすんなって。クエスト頑張ってなあ。」
「シクさんの件の解決を祈ってます。あ。すいません。」
クルンさんが謝る。謝る必要ないのに。
「ありがとうございます。」
「うん。頑張るよ。」
「薬、ありがとうございます。」
お礼を言い、ガンソドを出る。
ギルドに着き、ガーゼットさんのところへ。
「来たわね。あなた達のサインで依頼の手続きは終了するわ。傭兵団からはあそこの3人。詳細は道中3人から聞きなさい。」
ガーゼットさんの指さす方向にはキャノさん、ガタクンさん、以前見た傭兵団の杖を持ったじいさん。キャノさんがこちらに気付き手を挙げる。俺たちも頭をさげ応じる。
「りょーかい。じゃあ、行くね。」
「ええ。気をつけて。」
「はい。失礼します。」
依頼手続きを終えキャノさんたちのもとへ。
「応。」
「おはようございます。」
愛音が丁寧におじきをする。
それに応じて杖持ちじいさんが席から立ちあがる。オレンジの上衣に青色のズボン。3色の羽が付いたターバン。身長は才華と同じくらい。胸近くまで伸びてるあごヒゲ。ところどころ見える髪や眉などは白い。それらより目立つのがサングラス。
亀の甲羅を背負った仙人がなぜか脳裏に浮かぶ。
「初めましてじゃのじゃの。イトベス・ホーワじゃじゃ。」
仙人と同じ軽いノリのイトベスさん。その語尾に戸惑う俺。
「よろしく。じいちゃん。」
俺とは異なり普段のノリで才華はあいさつ。まあ才華らしいや。
「ほほは。よろしくのの。アラクネルを討伐したお若い方がたよよ。」
・・・・大丈夫かよ。
「ケガの後遺症やら呪いやらでこんなじゃべりらしいんだが、うちの2人いる副団長の1人だから安心しな。」
俺の不安を察したのかキャノさんがフォローを入れる。マジですか。これは失礼。でもどっちなんだ?
「とくにうちのお転婆は命を救われたようでようで。」
丁寧に頭を下げるイトベスさん。
「あ、いえ。こちらも助けられたんで。」
俺は手を振り答える。
「そうかいかい。ま。話はこれくらいにしてして。早速、出発じゃじゃ。」
「そうですね。キャノさん、ガタクンさん、イトベスさんご協力お願いします。」
愛音が再度、丁寧にお辞儀をし、才華もそれに続く。キャノさん、イトベスさんは頷く。ガタクンさんはこちらを見ているが特段反応を示さない。
「よし。行くか。」
キャノさんの音頭でギルドを出発する。傭兵団がいるのは心強い。




