明日の予定
「では、本日は失礼します。先ほども言いましたが、魔法の効果は1週間となりますので、再度かけ直す際にはこちらから出向かいますので、在宅のほうをお願いします。また、そちらの方が一段落すれば連絡をお願いします。」
「はい、わかりました。」
「万が一、同じような出来事が発生したら教えてください。」
「分かりました、サイカさん。それでは。」
「ありごとうございます。」
ニヒトさんを見送り、リビングへ。そこにはスリッターさん、バインさん、ガーゼットさんもいた。
「とりあずは済んだのか?」
スリッターさん。
「水でも飲んで一息つきな。」
アルトアさんが水の入ったコップをテーブルに並べる。
「食べ物はキッチンに置いといたぞ。」
バインさんが手を挙げる。
「ありがとう、アルトアさん。バインさん。スリッターさん、ガーゼットさんも。でもまず話ときたいことがあるから聞いて。」
才華は家族の埋葬の日から今日までの出来事を話した。ガンソドの面々は無言に。ガーゼットさんは頭を抱えた。
「3人ともごめんなさい。私の読みが甘かったわ。」
ガーゼットさんが1番に口を開く。
「その手のネクロマンサーのことは知っていたけど、日数が経っているから可能性はないと考えたの。」
「ううん、ガーゼットさんが謝る必要はないよ。私たちがしっかりしてれば。」
才華も下を向く。悔やんでも悔やみきれない。
「これから、どうするつもりなのじゃ。」
バインさんが顎をこすりながら尋ねる。
「無論、犯人を見つけて、シクの魂、シクの母親の遺体は取り返す。なにがなんでも。」
「具体的にはどうするつもりなんです?あ、すいません。」
謝るクルンさん。謝る必要はないのに。
「もともとネクロマンサーの捜索は依頼していたから、より慎重かつ徹底的にしてもらう。」
「移動したとは考えられんのか?」
「この周辺にはいるはず。」
「なんでそう思う?」
「もともと遺体盗難から今日まで時間が空いてる。当初は遺体だけでよかったんだろうけど、なんらかの理由で魂が必要になった。この街から移動しているなら、移動先で新しい遺体を見つけてやればいい。わざわざ戻ってくるよりは楽だと思う。だから当分はこの街にいるって前提で情報を集める。」
「なるほど。」
スリッターさんの質問に自分の考えを述べる才華。その考えはありえそうだ。
「ガーゼットさん。なにか情報は入りました?」
「いえ、なにも。」
愛音の質問に首を横を降るガーゼットさん。
「そうですか。」
愛音は肩を落とす。
「俺達はどうする?」
人を殺せる危険な相手。アラクネルと同じで俺達には危険すぎる。良子さんには間違いなく止められる案件。だがシクのためになにもしない訳にはいかない。
「私たちはいつも通り、クエストをこなす。」
「それはなんで?探さないの?」
才華の言葉は意外だった。
「素人な私たちより、傭兵団のほうが情報集めのほうが上手でしょ。それとアラクネル以降、戦闘は抑え目だったからね。犯人との対峙に備えて、調子を整えていく。」
「犯人を確実に倒すための準備期間ね。才華。」
「うん。」
2人は目を合わせて頷く。なるほど。
「そうか。なら、うちはなんらかの情報があったら連絡しよう。」
「必要な道具があれば、優先して作成しますので。あ、すいません。」
「何か人手が必要なら、手伝うからよ。遠慮なく言ってくれ。」
「お前たちが遠慮しても助けてやるからな。」
ガンソドの面々の言葉。胸が熱くなる。
「ありがとう。」
「その際はお願いします。」
2人が頭を下げる。
「アラクネルの次は、ネクロマンサーに、ゴブリンか。」
ガーゼットさんが天上を見て呟く。
「ゴブリン?」
「ええ。4日前にまたゴブリンの出現があったのよ。」
「この辺でゴブリンは珍しいのお。」
「流れで来るのはたまにあるけど、連続ってのは珍しいな。」
「それだけなら、まだなんとかなるけど。3日前に中堅2人組に君たちも知っているあの新人3人組が向かったんだけど、どうも失敗したみたいなの。」
「失敗?そりゃ、穏やかじゃないわね。」
「さっきね、依頼を出した村人がギルドに来たの。登録者の姿が見えなくなったけど、ゴブリンの出現は変わらないってね。」
「登録者の安否が心配ですね。あ、すいません。」
謝るクルンさん。謝る必要はないのに。
「それ、私たちが受けても大丈夫?」
才華が尋ねる。
「実力的には問題ないと思うけど、ランク的には対象外ね。」
「なら、私たちの依頼を受けている傭兵団から1、2名、こっちに回して。それならどう?」
「それなら問題ないけど、もともと明日にでも傭兵団に頼もうとしていたところだから。」
「ならそれで受ける。できるなら、私たちと面識のある人でお願い。」
「そう。泊りがけになるけど、大丈夫?」
「りょーかい。」
「ねえ。どうしてこれを受けるの?」
どこか、歯切れの悪いガーゼットさん。俺たちに受けさせたくないように思える。
「ネクロマンサーの件って滅多にある?」
才華の質問にガーゼットさんの表情が変わる。
「・・・・・最後にあったのは、あの騒動のときだから70年くらい前ね。」
・・・・・あの騒動ってなんだ?それも気にもなるが。
「連続ゴブリンにネクロマンサー。偶然にしては、引っかかるの。」
「関係があると?あ、すいません。」
クルンさんが謝る。謝る必要ないのに。
「根拠はなにもないけどね。ま、これが、本命に当たるとは思わないし、メインは戦闘だけど。あ、無茶する気もないよ。安心して、在人。」
・・・才華、愛音の勘は当たる。いきなり犯人と遭遇する可能性はないにしろ、なんらかの情報は手に入るか。
まあ、傭兵団の人と一緒なら安心だろう。いざとなったら、その人たちと才華と愛音を止めればいいか。なら今すべきことは。
「あのー、今更なんですけど、ゴブリンってどんなのですか?実物を見たことないのでよくわんないですが?」
まずはクエストへの準備か。
「亜人種の魔物で手があるから道具は使える。体格はシ・・・子供くらい。でも筋肉は人の大人なみ。多少知性がある。」
アルトアさんが手で背丈を現す、たしかにシクやルンカたち子供の大きさだ。
「大概は4、5匹で組んで行動しているけど、仲間意識はなくて、互いに利用しあってる関係。だから連携とかなくて数の有利で攻めてくる。」
「1匹いたら、5匹はいると思えって昔から言うのお。」
ゴキブリか。
「アラクネルみたいな例外や共存したりはしているんですか?」
「もちろんいるな。筋肉ムキムキになった個体や100匹近くのゴブリンを率いる個体がいて、やっぱり手強いって話だ。共存の方も、1000年前に英雄となったゴブリンもいるし、海の向こうじゃあ、ゴブリン退治専門の登録者をしているゴブリンもいるらしいな。」
スリッターさんの話からすると魔物はピンキリが激しすぎないかな。うーん。中堅含め4人組が失敗、一般的よりは強い個体がいるのか。今回のはそこまでよりは強くはないとは思いたいが。それともネクロマンサーに助力があるからか?
「女性の敵って言いますね。あ、すいません。」
「謝る必要はないです。女性の敵ってのは?」
才華と愛音がいる以上、クルンさんの言葉が気になる。女性の敵って言葉自体は俺の世界でも聞くけど。
「えーっと、その、すいません。」
答えにくそうなクルンさん。
「返り討ちにあった女性を汚すのよ。これでわかるでしょう。」
ガーゼエトさんが静かに答える。俺は反射的に才華、愛音を見てしまう。
「それで心折れた登録者はよくいるわ。だから。」
「だから、受けるのを考え直した方がいいってことですか。」
「ええ、ザイト。新人たちにも伝えたけど、被害にあった場合、失うものは多いのよ。」
それでさっきは歯切れが悪かったのか。俺は2人を見る。
「それはどんなクエストでも一緒ですよね。失うものが少なければいいってわけではないですよ。」
「そう言うこと。」
愛音、才華はあくまでクエストを受ける覚悟だ。
「ということだそうです。」
ここで俺が反論するわけにもいかない。
この回答を聞いてガーゼットさんも説得はあきらめたようだ。
「わかったわ。明日、準備をすまして昼にギルドに来て。手続きはこっちでしておくから。」
「わかりました。」
「ふむ、話はまとまったようじゃな。それじゃあ、わしらも花を添えて失礼するか。」
バインさんが立ち上がる。
「そうだな。」
「サイカ。花瓶あるかい?」
スリッターさんとアルトアさんが花を取り出した。
シクへの供花をすました後、玄関で見送り。
「あ、すいません。明日、ギルドへ行く前にお店へ寄ってください、時間は取らせませんので。」
「謝る必要はないです。とりあえず、わかりました。」
「このことはいつイナルタには伝えるの?」
ガーゼットさんが聞いてくる。あ。明日は塾か。
「そうですね。明日にでも。」
イナルタさんもそうだけど、ルンカたちにはどう伝えよう。気が重い。俺は2人を見てしまう。
「そう。」
ガーゼットさんは2階いやシクの部屋へ目線を送っている。
「ガーゼットさん?」
「私やイナルタ、ターロホもだけど、もう150年以上この街にいるからさ。登録者、教え子、お客が先にいなくなっちゃうのにはある意味慣れているのよね。」
自嘲気味なガーゼットさん。同族のクルンさんも目を伏せる。物語でも書かれる長寿故の悩み、実際目のあたりしたら、なんて声をかければいいかわからない。愛音、才華もそうなんだろう、黙っている。
「ただ、それでも、あの子くらいの子ってのはね。」
「ガーゼットさん・・・・・。」
「あ、ごめん。サイカやイトネのほうがつらいのにね。それじゃあ、明日、ギルドで。」
「あ、はい。」
「それでは、失礼します。」
ガーゼットさん、ガンソドの面々は帰宅していった。




