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穏やかな日

「よーし。」


 皆泣きやんだところで、涙を拭いて立ち上がるルンカ。


「よーし。やるぞー。」


 いったん縮んだあと、両腕を天に伸ばし、元気な声を上げる。


「何を?」


「どうするの?」


 ライジー、サウラがルンカを見上げる。


「あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーそぶぞーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。」


 大声をあげる。


「そうね。」


「それが目的。」


 ライジーもシクの手を取って立ち上がる。


「いくぞーーーー。」


 ルンカはシクの手をひっぱりながらブルーシートから飛び出していった。


「「おー。」」


 ライジー、サウラも続いていく。


「ワン。」


 クロスティもだ。


「これならさ、私たちがいなくなっても少しは安心できるね。」


「そうね。いい子たちに会えたわね。」


 俺らはこの世界で生活していくわけではない。近いうちに必ず帰ることになる。そのとき、シクは1人になってしまうと考えていた。でもこの子らがいるから、大丈夫だと思う。


「だね。と。さて、俺達はどうする。」


「少しここで、休みましょう。」


「そうだね。邪魔しちゃ悪いもんね。」


 ルンカたちの方を見る愛音と才華。


「だね。」


 俺らはそのまま4人と1人の様子を見守っていた。




 お昼が近づいたことから、シート上に昼飯の準備をしていたところ、


「にーちゃん、ちょっと来てー。」


 ルンカが手を振って走ってきた。


「どうしたの?ルンカちゃん?」


「帽子が風に飛んで木の枝に引っかかちゃった。私たちじゃ高くて取れなーい。早くー。」


 愛音の質問に答えるルンカの頭から帽子がなくなっている。


「じゃあ、帽子を取ったらお昼にしようか。」


 才華が立ち上がり、俺と愛音もそれに続く。


 帽子の引っかかった枝はシクたちには届かない高さ。そして、俺でも届かない。木を登るには幹が太すぎるし、手足をひっかける場所もあることにはあるが、登るには厳しい。うん。どうしょう。困り果て枝を見上げる俺の前に才華が立つ。


「在人、しゃがんで。」


「どうするつもり?」


「私を肩車すれば届くでしょ。愛音は在人を支えてちょうだい。シクたちはちょっと離れてね。倒れたら危ないから。」


 なるほど。確かにそれなら届くか。才華の指示に従い、俺はしゃがみ、愛音は左隣へ移動する。


「いいよ。才華。」


「乗るよ。」


 才華は俺の両肩に跨る。


「・・・・・・逆じゃね?」


 才華は俺の正面から両肩に跨った。目の前は才華。耳横も才華。


「いつも通りやってるでしょ?いいから、いいから。早くひったてい。」


 才華は俺の頭を叩く。


「危ないし、アブナイ。」


 実際、視界は悪い、バランス悪い、呼吸しずらい。


「君が立つまでまたぐのをやめない。」


 いや、かっこよく言われても。


「もう、いつも通り気持ちいいからワザと立たないんでしょう。在人のスケベ、エッチ。今はシクたちが見てるんだから、私だってちょっとは恥ずかしいいんだから。もー。」


 ペシペシ頭を叩かれる。あと嘘をつくな。


「在人、早くましょう。」


 才華の言葉に触発されたのか、愛音の言葉にはトゲが感じられた。そんな訳ないのに。・・・・この状況では。


「ええい。いくよ。」

 

 諦めて気合を入れる俺。


「きて。」


 場違いな声で答える才華。


 ややふらつきながらも愛音が支えてくれていたので帽子はすんなり回収できた。


「にーちゃん、ねーちゃん。ありがとう。」


 ルンカが無邪気な笑顔でお礼を言う。全く気にしてない笑顔だ。


「いつもこうなんですか?」


 ライジーは顔が少し紅い。


「なわけないから。」


「えっちぃ。」


 口元が笑っているサウラ。はいはい。


「はい。お昼にしますよ。」


 愛音が手を叩く。


「ごっはーん。」


 帽子をかぶり直したルンカがブルーシートに向かって走り出す。


「あ、待ってよー。」


 ライジーが追いかける。


「待てー。っと。」


 同じく追いかけようとしたサウラが立ち止まりこちらを振り返る。どした?


「行こうシク。」


 手を伸ばすサウラ。


「うん。」


 シクはその手を握る。


「待てー。」


「待ってー。」


 2人も走り出した。


 微笑まし光景をみたもんだと思った矢先。


「「行こう。在人。」」


 俺の目の前に手がさし伸ばされる。


「うん。って言えばいいのかい?」


 と呆れつつ、手を取り走り出す。そこで、俺は気づく。


「2人ならジャンプすれば取れたんじゃない?」


 大蜘蛛に飛び乗った愛音。それと同じくらいの能力はあるはずの才華。わざわざ肩車する必要はないはず。


「そうね。」


 あっさり頷く愛音。気づいてたのに黙っていたのか。


「もー、なに言っているのよ。シクたちに私のパンツ見られちゃうでしょ。大人なパ・ン・ツを。」


 才華は色気たっぷりな声で「パ・ン・ツ」と答える。ですか。なら肩車の向きを考えろよ。つい先まで見てた肌色とは別の色が脳内に浮かび上がる。


「思いだしてるね。」


「ひひ。感想はないのかい。」


「『TPOを弁える』という言葉を覚えて欲しい。」


「昂る夜に在人の部屋で、ってことね。分かったよ。」


「待っててね。」


 2人の目の色が変わった。だからTPOを弁えろよ。お願いだから。


「とりあえず、この場所でシクたちに見せれる目の色にしてくれ。」


「「はーい。」」


 2人は文句も言わず、目の色がもとに戻る。



「おいしーーい。」


「シク、上手ね。」


「今度、教えて。」


 シクも作った昼飯を食べるルンカたちが思い思いの感想を述べる。その感想を聞き、照れてるシクが可愛らしかった。


 昼飯を食べ終えたら、シクたちは遊びに行き、才華、クロスティも着いていった。ブルーシートに残った俺は、


 「くはあああ。」


 眠気に襲われる。まあ満腹感にほどよい温度と天候。少なくとも俺は眠くなる。そんな俺を見た愛音は微笑む。


「ふふ。眠たそうね。少し眠ったら。」


「うーん、愛音のお言葉に甘えるかな。」


「はい。どうぞ。」


 正座している愛音が手の広げる。?俺はこのポーズの意味が理解できない。


「えーと、これは?」


「寝ないの?」


「ん?」


「膝枕。」


 息をするように正解を言う愛音。


「ですかー。」


「ですよー。抱き枕よりはTPOを弁えてるよね。」


 にっこり笑う愛音。


「まあ、そうだけど。」


 反論に困る俺。


「ほら、どうぞ。気持ちいい天気なんだから。シクもそうだけど、在人も私たちにもっと甘えても問題ないんだから。」


「ですか。」


 押し切られたので、行為に甘える。・・・ほっとはする。・・・いい天気だ。・・・・・・・・。


 ・・・・・・・・・・・・・・・。ふと目が覚める。俺の目の前にはコクコクと頭を揺らして眠る愛音。あらら。まだ寝ぼけているせいか、魅入ってしまう。可愛いこって。


 さて、どれくらい寝た?気持ちよく寝ていたのか体が軽く感じる。


 顔を右に向けると、いつの間にか、才華が腕を抱いて寝ていた。スヤスヤと気持ちよさそうだ。


 少し頭をあげを周囲を確認する。俺の左側にはライジーとサウラに挟まれたシク。ライジーの奥にはクロスティに抱き着いてルンカが寝ている。皆して日向ぼっこか。のどかだ。


 この状況を才華の奥にいるエルージュだけが起きて見守っていてくれたようだ。エルージュ、ありがとう。

 

「あ、起きたの。」


 愛音も目を覚ます。


「うん。休ませてもらったよ。俺が起きるから、横になる?」


「ううん。もう少しこうしている。」


 愛音は両手で俺の頭を押さえる。ですか。



 皆がひと眠りを終えた後、シクたちは花冠を作っていた。そして、それを帰りの道中、シクの家族の埋葬された場所に捧げていた。


 夕方よりちょっと前に西門に着き、ルンカ達の保護者が待っていた。俺達がそれぞれにあいさつをしている間、シクたちはまた、どこかへ行こうと約束している。


 それを聞いていた才華、愛音は活き活きと


「海で水着回?ニヒヒ。」


「それとも、混浴風呂での温泉回かしら?」


 俺に尋ねる。うーん。どっちも行っても楽しそうだけど。ただそれは、俺じゃなくシクに聞くべきだろ。あと近くにあるのかな?


「それだと泊まりになるよな、そこまで家族は容認してくれるかなぁ?」


「なら、まずはおうちでお泊り会ね。そこから攻め込もう。」


「それも、楽しそうね。」


 ある意味、シクたち以上に楽しそうだ。


「ねーちゃんたち。今日はありがとう。シク、また、明後日ねー。」


「ありがとうございました。楽しかったです。それじゃあ、シク。」


「また、お願いします。バイバイ。シク。」


 3人ともそれぞれ家族と共に帰路につく。


「うん。ばいばい。」


 手を振り3人を見送るシク。


「またねー。」


「ばいばーい。」


 愛音、才華も手を振る。これをもって『クォーテツ湖ツアー御一行様』は解散した。


「楽しかったね。」


「はい!」


 愛音の感想に同意するシク。満面の笑みだった。


「ニヒヒ。次は海?温泉?どこ行きたい?」


「どっちもです。」


 才華の質問に即答するシク。これには才華は驚く。


「そうきたか。いいね。いいねぇ。」


「どこでも楽しそうだもんね。」


「はい。」


 そして、俺らも自宅へ歩き出す。



 夜になり、俺の部屋で愛音、才華と話していると、シクが扉をあけ、顔を覗かせる。めいいっぱい遊んだせいか、大分疲れた顔をしている。


「どうしたの。シク?」


「また、さびしいのかい?ニヒヒ。いいよ。寝てあげるよ。」


 手がやらしい才華。


「いえ。その。ありがとうございました。」


 頭を下げるシク。この感謝に対して3人でお互いに顔を見合わす。なにに対しての礼なのか、分からないからだ。


「皆さんに助けられたから、ルンカたちに会えて、今日みたいに楽しい1日を過ごせたんです。だからありがとうございました。」


 再度、頭を下げるシク。


「それだけです。おやすみなさいです。」


「ちょっと待って。シク。」


 頭を上げて、戸を閉めようとするシクを俺は慌てて止める。


「なんですか?」


「ん。だいぶ疲れているみたいだからさ、明日の当番は休んでいいから。というか休めって言わないと休まなさそうだから、休め。俺達も朝早くには起きないから。」


「・・・はい。そうさせてもらいます。」


 素直に応じるので、相当疲れているんだなぁ。


「あ、最後にもう1つ。シクのなりたいものってなに。」


 才華が手を挙げる。


「えーと。うーん。その、サイカさんやイトネさんみたいに、私みたいに1人になった人を助けれる人になりたいです。おやすみなさいです。」


 今までで一番恥ずかしそうな表情で答えシクはすぐさま部屋を出て行った。シクの回答に才華と愛音は固まっていた。あらら。


 シクがいなくなって数秒後


「尊いわね。」


「健気すぎる。」


 2人が顔を抑えて震えている。


「そうだね。2人みたいじゃなくてもいいから、かなえばいいね。」


 俺の感想。それを聞いた2人はうんうんと無言で頷く。


「じゃあ、私たちも寝ましょう。」


「そうだね。」


 2人はごく自然に布団に入った。おい。俺が2人を見下ろす。


「今、ここから出されると、シクのとこ行っちゃうよ。」


「健気なシクを朝まで抱きしめたくて我慢できなくなるわ。」


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


 俺はなにも言わず、布団に入った。シクのためだ。うん。


「「おやすみ。」」


 2人は腕を組んできた。






































次の日、シクは死んでいた。



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