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未来煌めく。

「ルンカちゃんたちはなんでイナルタさんの塾に行っているの?」


 愛音が友達3人に尋ねる。魔法を覚えるため、なのは当たり前として、シクのように護身の術として?それとも登録者になるため?イナルタさんの言う魔女になるため?


「ねーちゃんたちみたく、強くなるためー。」


「私もです。」


「同じく。」


 愛音の質問に、3人が順次右手を上げ答える。


「登録者になるってこと?」


「私は冒険者兼登録者。いっぱい冒険とか宝探しとかしたーい。」


 飛び跳ねるルンカ。


「私は0級の登録者。」


 ライジーの言う『0級登録者』は最上級の登録者ランクだったはず。大雑把な分け方は、国レベルの有名で2級、大陸レベルの有名で1級、パヴォロスに残る伝説で0級なはず。でっけー夢だ。


「先生みたいな魔法使い。」


 ここらで有名だった魔法使い、魔女のイナルタさんを目指すサウラ。詳細不明なるも同族の魔女から危険視されたイナルタさん。その強さレベルの魔法使いかあ。アラクネルのとき、ちょっとその戦闘を見たけど、まだまだ力の底は見せてないよなぁ。遠いなぁ。


 才華の質問に答える3人。まぶしいまぶしすぎる。純粋な瞳と夢がここにある。あー。直視できない。目がぁ~、目がぁ~。


「へー。いいね、いいね。ねーちゃん、好きよ。そういうの。」


 純粋なものを見る不純の化身、いや不純そのもの、才華。


「いい夢ねー。」


 同類の愛音。


「ねえ、シクはー?」


「私も気になる。気になる。」


「教えて。」


 友達3人がシクに寄り添い注目する。


「え、私は・・・。うーん。その。」


 シクは答えるのに窮する。そりゃそうか。塾に入ったには、才華、愛音の考えのもとだもんなー。本人の意思は実際どうだったんだろう。


「シクはね。何かになるために塾に入ったんじゃなくて、自分の身を守れるようにね、私たちが入れたの。」


「そ。だから、皆とは違って将来の夢はまだまだ悩んでいるところなのよ。」


 愛音と才華が助け舟を出す。


「じゃあさ、じゃあさ、私と一緒に冒険いこう。いろんなところ見てこよ。」


「ううん。私と0級の登録者になりましょう。」


「相棒は君に決めた。」


 友達3人はさらにシクに詰め寄る。あっらら。


「えーと、その。」


 シクは戸惑っているが、その顔に笑みがこぼれていた。


「あらら、助けにならなかったね。」


「そうね。人気者は大変ね。」


 才華も愛音もその様子を見て嬉しそうだった。今、思えば、才華や愛音は、友達ができることを望んでいたのかも。


「私は、・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・かな。」


 3人にもみくちゃにされながらも、シクが小声でつぶやいた。俺は友達3人の声で聞き取れとれないし、愛音に才華も同じみたいだ。


「ええ。なんて言ったの?」


「もー。ルンカの声が大きいから、聞こえなかった。」


「ライジーの声もね。」


 友達3人も同じだ。全員の視線が集まる。だが、


「やっぱり恥ずかしいから、おしえなーい。」


 シクはプンとそっぽを向く。あらら、可愛いこって。


「「「えー。」」」


 友達3人が口を尖らす。シクはその3人を見る。


「ぷっ。」


「「「「「あはははは。」」」」


 シクが噴き出すと、4人は一斉に笑いだした。


「えーおしえてよー。」


「だめ。」


「私だけにね。ね。」


「相棒は私。」


 4人でまた、騒ぎ出す。


「楽しそうね。」


 愛しそうにその様子を見ながら愛音が俺に寄り添う。愛音の目元は少し潤んでいる。シクが心から気を許し、笑っていることに心緩んだようだ。


「にひひ。塾に入れてよかった。」


 同じく寄り添ってきた才華も心底嬉しそうだ。


「そうだね。」


 俺もそう思う。


「それにしても、シクの夢はなにかしら。薬剤師?料理人?」


「うーん。勇者?英雄?」


 2人も腕を抱えて首をかしげる。まー気にはなる。


「商人?戦士?パラディン?スパースター?召喚士?忍者?神官?シスター?ダンサー?うーん。」


 どこかで聞いた職業やらジョブやら。


「波紋の戦士?不動産王?海洋博士?ギャングスター?ジョッキー?これらは恥ずかしくはないよねぇ?」


 誰かがなってた職業ばっか。あと、恥ずかしいってそうじゃないと思うけど。


「花屋?服屋?ケーキ屋?看護師?先生?」


 ありかな?


「海賊王?地上最強?究極生命体?ビキニの戦士?エロカワ魔法少女?」


 才華、それはない。突っ込むべきだけど突っ込まん。


「あ、素敵な女性とか?」


「なるほど。なら、私みたいな素敵な女性かな?ねえ、在人どう思う。」


「才華みたいな女性か、それは恥ずかしいか。」


 いろいろな意味でね。


 わいわいとした空気で歩き、湖の見える坂の頂上へ着く。


「あ、湖だーー。」


「みずうみー。」


「みー。」


 友達3人は大はしゃぎ。まだ見える場所に来ただけでこのテンション。着いたら、どうなるんだ。


 それとは対照的に、少し後ろから3人を見るシクの表情には影が見える。


「大丈夫?」


 愛音が静かにシクに尋ねながら、手を握る。


「はい。」


 シクは小さくうなずく。


「よーし、あとちょっと。」


 シクの様子を見ながらも才華が明るくふるまう。


「私に続けぇー。」


 才華が旗を振って歩き出し、ルンカたちも続く。


 そして、家族の埋葬されていた場所へ近づいていく。一番最初に気づいたのは、先頭を歩いていたルンカ。


「あ。これって。」


 ルンカが3つの石や花かんむりのある場所で立ち止まる。


「亡くなった人が共同墓地に移されってことだよね。」


 ライジーが石の前でしゃがみ込む。詳しいね。


「花かんむりはまだ新しい。」


 サウラもライジーの横でしゃがみ込む。ま、そうだね。


「じゃあ、最近なんだね。えーとしたら、あ、これにしよ。えーと、数多の思いを心に魂に。」


 ルンカが腰のポーチから飴を取り出し、石の前に置く。


「ゼフォンの元へ。」


 チョコを置くライジー。


「新たな世界へ、肉体へ。」


 ここまでの道中で摘んでいた花を置くサウラ。3人はそのまま黙とうに入る。その様子を俺たちは黙ってみていた。


「これでいいね。」


 黙とうを終えたルンカが立ち上がる。


「ええ。行きましょう。シク?どうしたの。」


 立ち上がりこちらを見たライジー。シクは静かに泣いていた。


「シク。」


 心配そうに声を出すサウラ。


「ありがとう。みんな。」


 シクは静かに涙を流しながら3人に答えた。


「え、なんでなんで。シクなんで泣いてるの?」


 ルンカはおろおろしている。


「『ありがとう』ってどういこと。シク。」


 ライジーもつられて泣きそうである。


「・・・。あ。・・・・家族?」


 理由に到達したサウラ。シクが無言でうなずいたことで両手で口を覆ってしまう。


「え?え、ええ?」


「そうなの。」


 ルンカとライジーも驚いた表情をし、この場の空気が重たくなる。


「はい、皆まずは湖に移動して、そこで腰を下ろしましょう。」


 その空気を打開するように、愛音が手を叩く。


「そこで説明するから移動するよー。はい、ついてきてー。」


 才華がお手製の旗を振って皆を促す。


「行こうか。」


「はい。」


 肩に手を乗せるとシクは頷いて歩き出し、その横をクロスティが寄り添う。


「ほら、サウラたちも行くよ。」


 ルンカたちもシクの後ろを着いていく。つい先ほどまでの明るさはなかった、疑問と困惑でいっぱいのようだ。詳細を知ったことでどうなるのか。不安しかない。だが才華と愛音はその辺を気にもしていないように見える。


 

 湖についたところでブルーシートをひいて、皆座る。視線はシクに集まる。シクに注目していないのは、飛び立ったエルージュのみ。

 

「さてと、まず私が知っている範囲で説明していくよ。」


 シクの口が開くまえに才華が話を始める。


「はい、こんな感じ。」


 説明を終えるとルンカたちは、言葉を失っていた。しばらくして、


「ご、ごめんなさい。シク。」


 ルンカが頭を下げ謝ってきた。


「私が、わたしが、湖に行きたいなんて言わなければ、辛いことを、辛いことを・・・・・ふわああああああ。」


 そのまま大泣きするルンカ。


「なんで、教えてくれなかったの?」


 つられるように泣き出すライジー。


「なんで?」


 その2人を抱き寄せるサウラ。抱き寄せているせいか、たまたまか、左目がチラっと見えた。その目に批判はなく、ただただ、哀しそうだ。


「それは・・・・。」


 シクが口を紡ぐ。


「これは、シクにしか分からないことよ。」


 愛音が肩に手を当て、背中を後押しする。


「私のせいで、3人に心配かけていたから。これ以上迷惑かけたくなかったから。3人とも楽しみにしてたから。だから、だから。私の都合で行きたくないなんて言えなかった。」


 シクも泣き出した。そのまま愛音の胸に顔をうずめる。


「それに。変えたかったから。」


 少しだけ落ち着いてきたシクが顔を上げる。変えたかった?


「この湖を辛い場所だけにしたくなかったから、皆と楽しい場所にもしたかったいから。これから何度でも来れるようにしたかったから。」


 この湖を友達と遊んで楽しい思い出にある場所に変えたかったってことか。愛音の言うとおり、自分なりに前へ進むつもりだったんだ。


「だって。」


 この言葉を聞いて、才華がルンカたちを見る。


「「「シクーーーー。」」」」


 ルンカたちはシクに飛びついて、そのまま泣いていた。


 愛音も才華もその様子を静かに見守っていた。きっとこれからも、この湖は辛い場所だろう。でも今日からそれだけの場所じゃなくなる。一緒に悲しんで、楽しんでくれる友達におかげで。



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