いつも
シクの家族の埋葬を終えた翌日、シクを塾に送った後、ギルドで遺体盗難の件をガーゼトさんに報告する。
「アラクネルの場合、ギルドで動いてましたけど、今回はどうなります?」
「他にそういった話があるなら街を上げて、警戒を強めることはできるけど、今の段階ではちょっとね。」
愛音の質問に答えるガーゼットさん。そもそも犯人がここにいるかも分からない。動くほどの危険性もアラクネルほどは感じられないか。
「依頼の方は?」
「それは大丈夫だけど、情報が少ないからネクロマンサーを捕まえることをメインにするより、期間を設けて、情報収集、警戒をメインで依頼するほうがいいわね。発見した場合は捕らえてもらうけど。これでどうかしら、サイカ。」
「それでお願いします。期間はとりあえず1週間にして、継続中止かはその都度相談。報酬は傭兵団とギルドで決めてください。」
ガーゼットさんの提案を受け入れる才華。
「あのー。ここらの死霊使い(ネクロマンサー)ってどんな感じなんですか?」
俺の中では死体を操るイメージくらいしかないが、この世界ではどうなんだ。どうな感じって質問も大雑把だけど。
「死体そのもの、骨を媒体に作り上げる人形などを操るのが基本ね。あとは個人個人の才能しだい。人、動物、魔物のどれが得意なのか、とかわね」
「やっぱ。危険なんですか?」
「それも個人個人ね。単に魔物や動物の骨か人形を作りあげている登録者とかもいるし、全員が全員悪人とは言えないわ。まあ。今回のは危険、悪人には該当するし、この手の奴は保身のためなら何をするかわからないわよ。だから、シクのことを考えるなら関わらない方が安全ね。」
ですか。
「分かりました。クエストの件はお願いします。」
才華が頭を下げ、愛音も続く。その後、簡単なクエストを受けギルドを出る際、先日の新人3人組がクエストを選んでいた。どことなく楽しそうだ。
簡単なクエストを終えて、シクを迎えにいく。どこかに死霊使い(ネクロマンサー)がいるかもと思うと、街が違って見える。白昼堂々と街中で何かをするとは思わんが、通りすがる人を変に警戒してしまう。
「在人。」
突然、才華が腕を組んでくる。
「もお、ぎこちないよ。もっと力抜いて。いつも通りにいこ。いつも通りに。」
「そうそう。そんなんだと、シクにばれちゃうわよ。」
愛音もだ。ですか。シクに心配させたくないのはわかるけど、
「いつも通りは分かったけど。俺の中でのいつもはこうじゃない。」
道行く人はチラチラこちらを見る。恥ずかしい。見ているはずが見られる側になっている。
「え、どこか違う?」
ワザとらしく驚く才華。うん。違う。
「あ、ごめんなさい。こんな感じよね。私たちも少し緊張してるわね。」
愛音はそう言ってもっと体を寄せ付ける。左半身に圧と温が。気分は悪くないけど、そうじゃない。それを見て才華も続く。右半身に圧と温が。
ひっきりに体を寄せ付けてくる2人を押しのけながら、イナルタさんの塾へ着く。他の保護者も自分の子を待っている。
保護者たちもチラチラ視線がこっちにある。この時間帯に通っている子供の年齢を考えると俺らは若い。兄弟なら通じるが3人でいるから、やっぱ変わっているんだろう。どうしようもないけど。
しばらくして、シクの友達3人が出てくる。あれ、シクは?友達3人は俺達に気づくと走ってこっちに来た。なんだ?
「シクのねーちゃん。あのね、お願いがあるの。」
猫人の子が元気いっぱいに手を挙げる。
「明後日、シクと一緒に遊んでよろしいですか?そのお願いします。」
角の子が頭を下げる。
「お願いします。」
目隠れの子もボソリと言って頭を下げる。
「あ、お願いします。」
2人が頭を下げるのを見て、猫人の子も慌てて頭を下げる。あらら。
「あら、かわいらしい。そして、シクは人気者だねぇ。」
才華がしゃがみ込む。
「どうしたの?皆して。」
愛音もしゃがみこむ。
「シク、今日いつもより元気ない。」
表情は読みづらいが心配そうな声の目隠れの子。まぁ、家族の埋葬後だから、気持ちの整理がついてないよな。今日は休んだらっ聞いてみたけど、友達を心配させたくないと言って塾に来ている。
「シクはいつも通りだよとか、ちょっと眠たいだけって言うけど、辛そうでした。だから、元気になってほしくて。」
少し目が潤んでいる角の子。
「だから、遊ぶのいっぱい、いっぱい。辛いことを吹き飛ばすの。だから、お願いします。」
猫人の子がもう一度頭を下げる。3人とも優しいねえ。
その様子をみながら才華、愛音と目を合わす。
「分かったよ。3人ともありがとうね。」
「じゃあ。まず、お父さんやお母さんから許可を取ってこようね。私たちはここで待っているから。」
才華と愛音が微笑む。その笑みを見た友人たちは嬉しそうに顔をあげ、
「うん。」
「待っててください。」
「わかった。」
周囲を見渡し、各々の家族のもとへ走っていた。これでシクの気持ちも少しは和らげばいいが。
「さて、大人気な姫さんはっと。あ、出てきたでてきた。」
塾から出てきたシクがこちらに走ってくる。
「すいません。当番で遅くなりました。」
シクは心なしか今朝より明るく見える。
「いいよいいよ。」
シクの頭をなでる才華。
「いい友達を持ったねシク。」
「え?」
愛音の言葉にキョトンとするシク。その後ろから猫人の子が飛びついてくる。
「シク。いいってさ。」
「キャ!え、なになに。」
言葉の意味が分からず困惑しているシク。
「私もいいって。」
角の子もシクに抱き着く。
「え、え?なになに?」
誰も内容を教えてくれないので戸惑っているが、楽しそうではある。
「今度、塾休みの日、皆で一緒に遊ぶ。」
戻ってきた目隠れの子が端的に説明した。
「遊ぶ?」
「遊ぼう。シク。」
「そうよ。」
「うん。」
「そゆこと。」
友人3人の隣に、ちょっとだけ大きい大人が両手でシクを指さす。微笑ましい光景なんだけどなー。なんかなー。大人しく見てほしかったなぁ、才華よ。まぁ、このノリが才華なんだどうけど。
「あの、いいんですか?」
「ええ。大丈夫よ。」
不安な顔をするシクに愛音が微笑む。
「だって。シク。」
「楽しみだね。」
「なにしよ。」
「うん。」
「だねー。」
「なにがいいかしらね。」
3人は盛り上がり、シクも笑みが零れていた。そこに大人2名も加わる。おいおい。このノリは2人らしいけど。
「ねーちゃんたちありがとう。あ、私、ルンカって言います。」
猫人の子のしっぽがピンと立っている。
「ライジーです。」
両手をお腹の前に当て、角の子がお辞儀する。
「サウラ。」
チラっと右目が見えた目隠れの子。
「シクのねーちゃんの才華。よろしく。」
「ねーさんの愛音。よろしくね。」
「在人、にーさんかな。」
この紹介に猫人のルンカを除く2人は少し気になっているようだ。狼人ではなく人間の姉2人と兄1人。
「で、3日後はどうしたい?」
それを察してはいるが、才華はスルーして話を進める。
「はいはい。私、南にある湖を行きたい。」
元気よくルンカが手をあげる。シクがピクっと反応していた。そこはシクにとって因縁のある場所、否応なく反応はしちゃうか。
「それいいね。ルンカにしてはいい考え。」
「なにおー。」
ライジーは胸の前で手を叩き、その発言に頬を膨らませるカンバ。2人は楽しそうに言い合っている。シクはこの様子を見ている。
「シク、大丈夫?」
サウラがシクの肩に手を当てる。シクの違和感に気付いたのか。
「あ、うん。湖、私も賛成。」
「ホント?」
心配と疑いの混ざった声を出すサウラ。
「うん。私も皆と行きたい。」
シクの強いまなざしをじっと見るサウラ。
「そう。ならそこにしよ。」
「ありがとね。心配してくれて。」
引き下がったサウラの頭に才華が頭に手をのせる。才華は視線をシクに向けると、シクはわずかに頷く。どうやらこれでいいようだ。なら俺らも何も言わない。
「よーし、そこにしよう。また、お父さんお母さんに許可を得てもらうとして、当日は西門に朝元気に集合。」
「それまでは風邪をひかない。塾での勉強は頑張る。晴れるように祈る。夜更かししない。お父さん、お母さんの言うことをよく聞くいい子でいる。おねーさんたちとの約束よ。」
教育番組やショーの司会を彷彿させる言動で3人に伝える2人のねーさん。この後、親から許可を得て、3日後、西門前に集合と決まった。
場所が場所だけに不安だが、本人は友達と行くことを決めた。シクのいい気分転換となればいいんだけど。




