勝負の訳
ジョーさんが戦士君を手を当て、軽く押すような動作をする。すると戦士君は目を開け、金髪少女が戦士君の顔を覗き込む。
「目覚めた?」
金髪少女の声にボーっとしていた戦士君はハッとして周囲を見回す。槍少女は現在、愛音と才華から腕の治療を受けている。
「あれ、勝負は。」
「私たちの負け。」
あっさりと金髪少女が答える。
「そっか。」
戦士君は体を起こす。その顔は晴れない。何もしていない俺が言うのもなんだけど、何もできなかったもんね。
「そっちはどうだい。」
ジョーさんが才華に尋ねる。
「ちょうど、終わったよ。」
才華が立ちあがり答える。槍少女は腕を曲げたり、回したりして腕の調子を確かめている。大丈夫そうだ。
「どう?大丈夫だとは思うけど。」
愛音が槍少女の顔を覗く。
「あ、大丈夫です。ありがとうございます。」
愛音の質問に槍少女は頭を下げ答える。
「戦士君も立てるかい?」
「あ、はい。」
戦士君が立ちあがる。
「はい。ちゅーもーく。」
ジョーさんが手をたたき、言われた通り皆ジョーさんに注目する。
「まず、分かっていると思っているけど、戦士君、君達のランクアップはなし。」
戦士君と金髪少女はうな垂れる。まぁしかたないよね。
「なんで、君たちは負けたと思う。」
「弱いから。」
ジョーさんの質問にムスっと答える戦士君。
「ま、そうだね。」
「く。」
あっさり肯定するジョーさん。悔しがる戦士君。ま、事実だね。
「講評をするけど。まず1つ確認。普段は槍ちゃんが魔法使いちゃんを守ったり、戦士君に指示したりして、2人をフォローしているでしょ。」
「ま、そうね。一番足が速いのもあるけど、ドトーが突っ込むから必然とそうなってるかも。」
「あー。言われたらそうかも。でそれが?」
戦士君と金髪少女は答える。
「それも敗因だね。」
この言葉に槍少女は理解しているみたいだが戦士君と金髪少女はピンと来ていない。
「魔法使いちゃんは接近されたときなにもできてないね。普段は槍ちゃんが守ってくれてるのかもしれないけど、それだけで安心しちゃあ駄目だよ。」
「な、私は足をすくわれて倒れただけよ。なんで分かるのよ。」
「俺も検定官として、色んな人を見てきたからね。倒されてから、抑え込まれるまでなにもできなかったでしょ。できる人は多少なりとも対応してたはずだよ。」
「う、それは。でも、魔法使いは魔法を使うから魔法使いでしょ。」
「高ランクの魔法使いは接近された際に1人でも対応できるよ。あと君たちが挑もうとしたゴブリンでいうと、複数で掴みかかって押し倒してきた。魔法を放ったけど、それで倒せなかったゴブリンが君に掴みかかった。そのときは君はどうする?魔法で対応できる?もしできるなら、今日倒されたときも魔法で対応できたよね。他にも魔法を使えない状況に追い込まれたら?君は守られぱなっしでいるつもり?それだけだと君は足手まといだよね。少なくとも自分の身を守れるようにはならなきゃ。回避に徹底するでもいい。助けられるまで粘れるだけの身のこなしはできなきゃね。」
口調は穏やかだが、ズカズカと言葉の槍を突き刺すジョーさんの講評に静まる金髪少女。
「そのために俺が先頭にいるんだ。」
金髪少女を庇うように立つ戦士君。
「そうだね。君が一番前で戦うそれ自体は間違っていないよ。でも。君の場合は勢いで前に出すぎ。もっと周りを見ようか。君が1人突貫したから、3対1にならないように槍ちゃんは君のフォローに行った。結果、各上相手に1対1になった。しかも、君は魔法使いちゃんが魔法を撃てない要因を作った。普段はもっと近い距離で戦って、槍ちゃんが立ち位置を含めてカバーしているんだろうけど、それでもまかせっきりにしちゃあダメだよ。あと安い挑発に乗りすぎ。攻撃が単調すぎ。その2つのせいで、今回攻撃が全く当たらなかったね。」
「でも鍔迫り合いは何度かあったじゃん。それって防御させたってことだろ。」
金髪少女と同じくズバズバと言葉の槍が刺さるが、反論を試みる戦士君。
「よーく、思い出してみな。鍔迫り合いは全部彼女からの攻撃だよ。」
「・・・・あ。」
ジョーさんの指摘に戦士君は口をふさぐ。へー。
「で槍ちゃん。君はもっと自信と自覚を持とう。最初の段階で戦士君を止めとけば不利な1対1にならなかったね。戦士君が突っ込んでいくことをあきらめているかもしれないけど、今回は明らかにいつもより冷静さを欠いていたのは分かるよね。これが実践だったら死んでるかもよ。守るのに遠慮はいらないよ。」
「はい。」
他の2人とは違い素直な槍少女。
「チームとしては自分の役割を理解しているけど、連携不足だね。普段は槍ちゃんが周りを見てフォローしてるとしても、それに頼りぱなっしでしょ。だから今回、最初に槍ちゃんが抑えられた時点でそのあとは連携もなにもなかったね。」
戦士君と金髪少女はバツが悪そうな顔をして槍少女を見る。
「君たちは登録者をはじめる最低限の力はある。でもそれだけ。実力、知識、経験、連携全てが不足している。仮に勝っていたとしても、ランクアップを認めなかったよ。以上。」
戦士君と金髪少女は俯く。ズタボロに言われたね。
「はい。反省は帰ってからで。もう少しだけここで休んだら街へ戻るよ。」
真面目な表情から笑顔を見せるジョーさん。
「あーい。」
「はい。わかりました。」
才華と槍少女が頷き答える。
「ねぇ。こいつ・・この人たちの講評はいいの?と言うか、私たちだけボロクソ言われて、恥をかいて。そっちはなにもないなんておかしいじゃない。」
金髪少女がこっちを見てくる。検定受けているのそっちだし、ボロクソ言われたのは実力不足のせい。
「と言っても、検定を受けたのは君たちだけなんだけど。」
当然の反論でに口を尖らせてり込む金髪少女。
「私たちだって、実力、経験、連携不足だわ。登録者になって2週間だからね。」
愛音がほほ笑んで答える。
「そゆこと。だから身丈にあったクエストで不足しているものを補っているってところもあるのよ。」
後ろから金髪少女に近づいた才華が少女のほぺったを突っつく。
「じゃあ、なんで私たちより強いのよ。」
嫌がって払う金髪少女。
「ふっ。それは登録者になるまでに積み重ねた努力と。」
それを余裕をもってかわす才華。嫌な予感しかしない。
「努力と?」
槍少女が興味深そうに才華を見る。
「愛の力。」
ひとさし指を伸ばした右手を天高く掲げる才華。その視線は俺。はいはい。言うと思った。努力は否定しない。愛の力も全否定はしないけど。
「はぁ?」
「え。」
呆れた顔の金髪少女。顔を赤くする槍少女。うんうんと肯く愛音。
「ふ、嬢ちゃんたちにはまだ難しかったかな。」
「うーん。今は登録者としての活動に夢中なんじゃないかしら。」
年頃少女たちの反応に勝手な解釈で納得する才華と愛音。違うと思うよ。
「そんなことより、街へ帰ろうぜ。そして、新しいクエストを探そう。」
「そうね。そうしましよ。」
「ええ。ドトー。帰りましょう。」
戦士君の声に少女たちは思考が動き出す。切り替えが早いのはいいことだ。と俺は思う。
「ジョーさん、ゴブリンのクエストって街のベテランと一緒に行くとかなら受けれたりできないんですか?」
「そうだね。それなら大丈夫だね。」
ジョーさんが俺の質問に答える。
「だってさ。ベテランの人にお願いしてみたら。」
「だって。ドトー。お願いしてみましょう。」
金髪少女が戦士君を見る。
「うーん。それは。」
ゴブリン対峙に行きたかったわりには渋る戦士君。
「そのクエストを受けるために、関係ない私たちを巻き込んだのに。人に頭を下げてお願いすることはできないの?なにがなんでもそのクエストをしたいんじゃなったの?」
愛音が不思議そうに戦士君の顔を覗き込む。
「これも不足している経験の1つになると思うし。やれるならやったほうがいいと思うよ。」
自分たちの立場を棚にあげ、俺も後押し。
「そうだよ。ドトー。ね。そうしよう。」
槍少女も賛同する。だが、戦士君はまだ納得しないようだ。
「もー。嫌なら私とアマの2人だけで頼みこんで行くから。ドトーは1人違うクエストを受ければいいわ。」
「ああもう。俺も行くよ!!!」
呆れた金髪少女の言葉に大声で答える戦士君。
「じゃあ、行くよー。」
ジョーさんが手を叩き、街へ足を向ける。
ギルドに戻り、ジョーさんは仕事に戻る。才華から、お金(10万ゴルと貸し1つで手をうった。)の支払いを取り決めた後、戦士君たちは受付に向かう。ま、頑張って。
俺は解決してない疑問を2人に尋ねる。
「なあ、才華、愛音。ジョーさんは俺達にこの戦いは検定のは参考にならない、って言ってたけど、あの意味って何?」
「真正面から小細工なしで戦ったら、勝って当たり前の相手と戦って参考になる?」
俺の質問にあっさり答える才華。それくらいの差があったんだ。
「なーる、じゃあギルドで「こっちのほうがいい。」って言ってたけど。あれは?」
「実力不足って口で言れるだけより、体感したほうがいいってことだと思うわ。」
愛音が答える。なーる。
「それだけじゃないけどね。」
ニヒって笑う才華。なんだろう。
「えええ。どうゆうこと。」
戦士君の叫び声だ。受付へ目をやる。
「なんで、クエストを受けれないの?」
今度は金髪少女。
「あなたたちがギルドを出たあと、カタム傭兵団の団員が受けたからよ。」
「「そんなああ。」」
ガーゼットさんの回答に戦士君と金髪少女のはもり声がギルドに響き渡る。
「ああゆうことね。万が一私たちが負けても、クエストがなければ受けれないってこと。」
ウィンクする才華。ジョーさんも最初からこのクエストを受けさせるつもりはなかったと。
「なーる。」




