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戦士君

「といことで、なにもしないでね。俺も足は引っ張りたくないから。あと、腕は大丈夫じゃないと思うけど大丈夫?」


 右ひざで体重をかけながら槍少女に尋ねる。


「あ、はい。えーと、サイカさんと言いましたっけ?腕を触ったときに、魔法を使ってくれてたんです。それで動けはしませんが、痛み自体はなくなっています。」


「あ、そうなの。」


 痛みが和らぐ。うーん。神経を麻痺らせたとかかな?そんなことまでできるんだ。でもなんでそんなことをした?優しさからと素直に思えない俺。俺が疑いすぎか?まあいいや。話ついでに1つ確認。


「君は魔法使えないのかい?」


 教えてくれないとは思うけど。


「使えるのはルーパ・・・、金髪の子だけです。」


 あっさり答える槍少女。正直すぎると思っていいのかな。


「ですか、あと、俺が戦士君たちを見たあと、振り向いたら、両腕折られていたけど、なにをされたの?」


「えーと、対峙して2、3回私の攻撃を避けたあと、私が突きをだしたら、サイカさんはあの槍で・・・いいんですか?とにかく武器を手放して、私の槍を掴んだです。そして、間合いを詰めたと思ったら、バランスを崩されて倒されていました。その後は槍を取りあげられて、よくわからないうちに腕を折られたって流れです。」


 たしか、杖取りだっけ?千佳さんに教わった気がする。槍を相手に実践したのか。


 あと魔法があるせいなのか?それとも村出身だからか?対人戦より対魔物が主の世界のせいなのか?それで関節技の対応はできなかったのかな。


「なるほどねー。」


 ここまでの抵抗するそぶりはない。油断はしないとして。


「じゃあ後は、大人しく見てるでいいかい。」


「そうなりますね。」


 停戦協定が結ばれたところで戦士君たちへ目を向ける。



 

「ドトー。アマが。」


 金髪少女が叫ぶ。戦士君は愛音と向き対峙しているが視線はちょくちょくこっちにきている。


「2対1だったからか。くそっ。」


 残念はずれ。 倒されるところは全く見てなかったのか。気にしてなかったのか。それとも恋音が相手だから見る余裕もなかったのか。


「ごめん。私が魔法を撃てればよかったんだけど。」


 金髪少女が愛音を睨む。その視線に対して不敵な笑みで答える恋音。金髪少女はどうやら愛音の動きの意図に気づいたみたいだ。


「そうだ。なんで撃たなかったのさ。ルーパ。」


 声を荒げる戦士君。


「それは、その。」


 戦士君の声に萎縮する金髪少女。


「駄目よ、君。女の子に怒り任せで大声で出すのはね。それに撃たなかったじゃあなくて、撃てなかったっだよ。君は気づいてないのね。」


 恋音が戦士君を窘める。


「なににさ。」


「在人、才華へ撃とうとした魔法の射線上に、私を追いかけながらブンブン剣を振り回す君が入って撃てなかったのが3回。私に撃とうとしたら、君と鍔迫り合いをしたので撃てなかったのが2回。術式を使おうとしたところで、私の魔法が来たので断念したのが3回。」


 数える余裕があったのか、単純に流れを憶えていたのか。すごいねー。戦士君は呆然としている。


「もう少し、君が周りを見て、射線に入らない、間合いを広げる、撃つまでの時間を稼ぐをしてたら魔法を撃つことができたわね。」


 恋音の言葉を受け戦士君は金髪少女に目をやる。金髪少女は何も言えないでいる。金髪少女の様子から戦士君も自分が足をひっぱたことを自覚したようだ。 


「普段はさ、それを槍ちゃんがしてたんじゃないのかな?場合によっては戦士君に指示もしてたんじゃないの。たぶんだけど。」


 愛音の横に並び立つ才華。金髪少女も戦士君も心あたりがあるようだ。すげーな。なんでわかったんだ?


「くっ。」


 戦士君は歯を食いしばっている。図星で悔しいんだろうなあ。あの性格だと冷静でいられるんだろうか?金髪少女も才華のほうに向きなおる。


「あんた、アマになにをしたのよ。」


「ん。槍取り上げて、両腕を折っただけだよ。あと復帰されないように在人にはナイフを押しつけてもらっているけど。」


 金髪少女の問いに答える才華。


「な、そこまでやる必要あるのかよ。」


 戦士君は怒号を上げる。


「何言ってんのさ。殺さないことがルールだから腕を折るのはなにも違反じゃあない。実際ジョーさんも何も言ってこないじゃない。腕を折っただけで100パーセント戦闘不能になるわけでもない。放置して後ろから攻撃されても困るじゃない。これが実践だったら首を折るなり、心臓にナイフを刺すなりしてるわよ。それで人数の利を得て、君たちと対峙するよ。ま、流石に今はしないから。あ、あとで腕も治してあげるよ。」


 冷酷な目線の才華。


「ねえ。戦士君もあなたも。怪我をしないなんて思っていたの?魔物退治で怪我はありえるでしょ。それとももう怪我を負うことはないくらい強いつもりなの?この状況で。」


 哀れんだ表情をする愛音。


「あと戦士君さー。私たちがなんで、槍ちゃんを最初に倒したか分かる?」


「たまたま最初にやられただけだろ。」


 戦士君はなにも考えずに答える。


「ざんねーん。違う。違う。ぜんぜーん違うよ。」


 オーバーアクションに手を広げる才華。これ完璧に挑発しているな。


「1番強いからだよ。君なんかよりずううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううっとね。私たちも見てある程度の強さはわかるよ。この際はっきり言っとくけど、君が一番弱いよ。弱いだけじゃない足まで引っ張てる。だから君を敢えて残したんだよ。実際、魔法を撃つ邪魔になってたわけだし。」


 うわー。戦士君の顔が真っ赤になる。怒ってる怒ってる。あーあー。


「な、なめんなあー。」


 激昂した戦士君は剣を振りかぶって才華に突進する。が愛音がそれを横からの突きで阻む。戦士君はまた愛音と対峙する形になる。戦士君はまんまと挑発に乗ってしまっている。あらら。


「ま、君の相手は愛音がするから、頑張って。私は君の相手だよ。魔法の準備はいいかい?」


 そんな戦士君を無視して才華は金髪少女と対峙する。今度は魔法を撃たせるつもりなのか?


「ああ。ドトー。怒っちゃダメだって。ルーパを守りながら戦ってよ。」


 その様子を見て槍少女は困った声を出す。


「戦士君さ、単純?」


「あ、はい。」


「ああ。やっぱり。あと、金髪少女はあれかい、言い方あれだけど、魔法だけしかできない?」


「はい。」


 ですか。なら、もうこれって。


 


 才華は1歩1歩と間合いを詰めていく。金髪少女は才華を見据えて、集中している。


 術式を展開した杖から3つの炎が放たれ、それぞれがミサイルみたいに才華に向かう。才華は指先から水の塊を放ち、1個1個炎にぶつける。炎は才華にたどり着く前にすべて相殺された。才華は間合いを詰める。


 金髪少女は今度は炎の数を6に増やし魔法を放つ。だがそれも、同じ要領でかき消される。才華は余裕がある。


 金髪少女は炎の数を10に増やす。才華が両手を地面につけると氷の壁が出来上がり、炎を全て受け止める。才華は氷の壁の後ろから顔をひょこっとだし、


「これで終わりじゃないでしょ?次は?それともこっちから行く?」


 金髪少女を煽る。


「当たり前よー。」


 金髪少女は杖を掲げる。杖の上に術式が展開していく。今までのよりも大きく複雑だ。大技かな。


「あ、ルーパ、それは。あ!」


 槍少女は焦りの声をあげる。


 金髪少女は足元をすくわれ、あおむけに倒れた。足元をすくったのは、盛り上がった土。どうやら才華が魔法を使っていたみたいだ。


 そして、才華は氷の壁から飛び出し、あっという間に金髪少女のところへ。金髪少女は杖を支えに片膝をつく体勢まで戻るが、その杖を才華は足払い。今度は前に倒れこむ金髪少女に才華は間髪入れず腕関節を取った。キーキー叫ぶ金髪少女に才華が耳元でなにかを告げると金髪少女はおとなしくなった。何を言ったんだ?


「ああ。」


 槍少女はうなだれる。結局魔法で攻撃するとこなく才華は戦いを終える。


「さっきの魔法って時間掛かるの?」


「はい。なので、いつもは私が守るんですけど。」


 戦士君は相変わらず剣を振り続けている。御覧のありさまだもんね。


 その戦士君は最初に比べ明らかに速さは落ちているし、肩で息もしている。呼吸を整えようとすると、愛音が攻めてくるので休めずにいる。愛音のほうはまだまだ余裕がある。この差はなんだ?


「すごい。」


 ボソリと槍少女が呟く。


「何に驚いて?」


「ドトーが疲れているのもありますが、全部紙一重、皮一枚と避けています。ドトーが動き出した最初は拳1つ分空いていましたが、今は指先もないと思います。」


 憧憬の目で愛音を見ている。ですか。余計な動きもないから疲れに差が出ているのか。


 戦士君は今だ剣を振り続けている。根性あるなぁ。だがそれでも、動きが止まる間隔も短くなり、当たる雰囲気も全くない。たぶんそろそろ、愛音も動きそうだ。


 そして、決着は着く。あっさりと。


 戦士君が剣を振り上げると同時に、愛音は間合いを詰め、鳩尾を刀の柄で突いた。戦士君はそのまま後ろに倒れた。気を失ったか。


「ここまで。」


 ジョーさんが手を挙げ決着宣言。うーん。アラクネルとの闘いを経て強くなった気がする。たぶん。ではない。確実に。









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