しめてまけて
「なに、あれ。酷くない?」
無人となった受付前で、金髪少女が声を荒げる。他の職員にとっては日常茶飯事なのか、目線を送るもすぐさま、自分の作業に集中する。
「諦めて、違うの探そうよ。ね。もうそうしようよ。ね。」
槍少女がなだめる。
「先ほどはすいませんでした。」
こちらを見て、槍少女が頭を下げる。
「大丈夫よ、彼は怒っていないから。でも他の登録者のときはしっかり止めたほうがいいね。ほら、新しいの探しに行ったら。」
手を振って愛音が答える。「彼は」の「は」に力が入っていた。たぶん、恋音も頭には来ているんだろうけど、槍少女の態度で水に流したのか。よしよし。後で褒めてあげる。
「あ、はい。すいませんでした。ほら行こうよ。ドトー、ルーパ。」
槍少女が連れの2人を促す。が
「ねぇ、あんたたち。森に入った理由って本当?」
金髪少女が俺に近づきを疑った目で俺を見る。いい勘しているね。
「そうだよ。それがなにか?」
金髪少女を俺から離して、才華が答える。
「どこか嘘っぽいんだよねー。」
「私達を疑っても、事態はなにも変わらないよ。」
目線を合わす、金髪少女と才華。
「なあ、ルーパ、アマ。俺らが強いって分かれば、クエスト受けれるよな。」
ドトーと呼ばれた戦士君が俺らというより、俺を品定めしている。何を考えているんだい君は?
「え、それはそうかもしれないけど。」
アマという名の槍少女は意図がつかめず困惑している。
「だからさ、検定官の前でこの人達を倒せば、強さの証明になるよな。」
ニヤリとして俺らをみる戦士君。うわ、面倒くさい流れだ。あと戦士君、絶対それはないと思うよ。こんなことが起きないためにう検定があるんじゃいのかい。
「あーなるほど、そうかも、うん。」
同意する金髪少女。やる気は伝わるけど、考えが浅すぎないかい。そんなにうまくいくわけないでしょ。
「え、やめようよ。この人達に迷惑だよ。」
唯一常識的に考える槍少女。うん、迷惑だからやめて。
「よし、検定官を呼んでくる。」
全く話も聞かない戦士君はジョーさんを探しにいってしまた。おいおい、俺らの意向は?
「あー待ってよ。駄目だって、ドトー。」
槍少女が呼び止めるも聞こえないのか、行ってしまった。
「あー、もお。あ・・・・。」
槍少女はこちらを見る。
「すいません。あの、今のうちに要件を済ませてください。ドトーとルーパは私がなんとかしますので。」
槍少女は再度頭を下げる。じゃあ、お言葉に甘えて。が
「なに言っているのよ、アマ。だめよ。行かせないわ。」
金髪少女が槍少女を押しのけて、前に立ちはだかる。
「どうしようか。」
俺は才華、愛音を見る。しつこそうだ。
「ん。ガーゼットさんを待とうよ。まだ女子会のこと伝えていないんだから。」
それもそうだけど、戦士君たちからの挑戦は?怒りを収め、考えを切り替えた才華は目の前のやりとりが目にはいってない。いれないようにしてたのか。
「あなた、私たちの話聞いてたの?じょしか、」
「あ、ガーゼットさん。」
金髪少女を遮り、受け付け前に戻ってきたガーゼットさんに声をかける。
「まだ、いたの、あなたたち?」
ガーゼットさんは金髪少女を呆れた顔で見る。
「で、なにか用、サイカ?」
「明日の夜にさ、うちでジーファたちと飲んで食べて、だべるの。それにガーゼットさんに来れないかなぁって。あ、イナルタさんやターロホさんにも声をかけるよ。」
「あら、いいの?」
「もちろんです。アラクネルの件で助けてくれたお礼もしたいので。」
「気にしなくていいのに。ありがとう、イトネ、サイカ。ならお呼ばれになるわ。」
「じゃあ、明日の夜待ってるから。」
「待ってるから、じゃない!!」
金髪少女が激高する。が
「よし、要件終了、帰ろうか、在人、愛音。」
「明日の仕込みもしなきゃね。あ、在人はなに食べたい?やきとり?」
激高もスルーして才華は入り口へ歩きだし、愛音も続く。
「おわってなーーーーーーーーーーーい!!!!」
金髪少女は杖を突き出し行く手を阻む。
「危ないから辞めようね。」
愛音が前にでて、杖を引っ張る。だけじゃない、足も払った。あっさり杖を手放し、倒れた金髪少女。
「私たちは忙しいの、お嬢ちゃん。ばいばい。」
倒れこんだ金髪少女に手を振る才華。倒れされたことに驚いているのかポカンとしている金髪少女。
「はい、これ。」
杖を槍少女に渡す愛音。
「あ、すいません。」
金髪少女は顔を真っ赤にさせ立ち上がり、キーキー叫んで向かおうとしているが、槍少女がヒーヒー言いながら抑えている。
・・・頑張って槍少女。面倒そうだから俺らは帰る。君の頑張りは無駄にしない。
「待たせたな。ルーパ、アマ。」
心の宣言、槍少女の頑張りが無駄になった瞬間だった。戦士くんが受付ジョーさんもといジョーさんと戻ってきた。
「ジョー。なにをしているの。」
呆れた顔のガーゼットさん。
「いや戦士君が、実力を見せたいって熱心に頼み込んできてね。」
「検定日はまだ先でしょ。」
「ま、堅いこと言わないでくださいよ。ガーゼットさん。俺の仕事ですし。」
「たっく。」
「で、君たちが相手をして、彼らが勝てば、ランクアップしてこのクエストを受けれるようになる。でいいのかい。」
「どういうこと。ジョー。普通に検定をするんじゃないの?」
対戦ってことを知ったガーゼットさん。ま、いなかったからね。
「戦士君たちと彼らが模擬戦をするんでしょ。だから彼らも待ってたんじゃないのかい?」
「彼らは私に要件があって、もう帰るところだったのよ。」
「あれ、もう両方とも準備OKって聞いてだけど。どういうことかな?」
ジョーさんが戦士君の顔を覗き込む。戦士君は目を泳がせている。おいおい。
「あれ、違ったかなー。どうなの。ルーパ、アマ。」
戦士君の想定では金髪少女によってもう説得済み、臨戦態勢だったのだろうか。・・・・バカだねぇ。実にバカだねぇ。
「え、えーっと。」
「ふむ、戦士君は早まりすぎだね。うーん。」
腕を組んで考えるジョーさん。
「君たち、やってくれないかい。悪いようにはしないから。」
ジョーさんが俺達に頼み込む。
「ジョー。どういうつ。」
問いただすガーゼットさんを伸ばした腕で制するジョーさん。
「こっちのほうがいいと思うからね。」
俺たちと戦士君たちを交互に見るジョーさん。こっちのほうがいい? 意図が分からないが何か考えでもあるみたいだ。
「ま。任せてくださいよ。責任は俺がとりますから。で返事は?」
「・・・・そうね。ジョーさんには貸し1つということで。」
ここまで黙っていた才華が口を開く。
「で、君たちは私たちに挑戦する権利、その他もろもろの代金。しめてまけて10万ゴル。」
才華は金髪少女を見て手を伸ばす。ふっかけたー。
「な、なにそれ。」
「権利ってなんだよ。」
金髪少女と戦士君は大声をだす。ま、想定はしてないだろうね。自分たちの希望どおりに行くとしか思ってないなら。
「権利はそのままの意味よ。挑戦者はあなたたち。だけど私たちに戦う理由はなにもないでしょ。」
「検定官が見てくれるんだから、ランクアップするかもしれないじゃん。」
「あーそのことだけど。私たちは君たちと違ってランクに興味ないんだよね。英雄になる気もないし、無理なクエストをするつもりないんだよ。その日の生活ができればいいだけなんだからね。」
才華のいうとおりだ。俺らが登録者になったのはお金を稼ぐためだ。ギルドで規定されているランクを特段を急いであげる必要がない。
目論見が外れて黙り込む戦士君。
「じゃあ、そ、その他はなによ。」
「私たちの時間を割く、面倒ごとに巻き込む、しなくてもいい戦いをする、人の彼氏を彼女の目の前でバカにした、分ね」
堂々と「彼女、彼氏」と言われ、顔が少し赤くなる槍少女と金髪少女。
「そうね。私の恋人をね。」
同意する愛音。続く「恋人」発言で戸惑う槍少女と金髪少女。
「だとしても高い。」
立ち直った戦士君。
「私たちは明日、おうちで飲み会を開くから、いいお酒を用意したいってことね。わかった戦士君。」
ウィンクで答える愛音。見惚れる戦士君。ムッとした顔でその耳を引っ張る金髪少女。
「はっきり言うけど、私たちのメリットは今のところ、ジョーさんへの貸ししかない。私たちはただ働きしてあげるほどいい人でもないし、君たちとそこまでの関係でもない。君たちがクエストを受けれないことも私たちには関係ない。ま、村の人に悪いって思わなくはないけど。だからシンプルなお金で手を打つってこと。」
「ちょっと待ってよ。いくら、なんでも高いでしょ。」
「あ、やなの。じゃあ、帰るよ。いこっ。愛音、在人。」
入り口へ向き直る才華。
「ちょっと待ってよ。」
戦士君が立ち阻む。思いっきりにらんでいる。理不尽だって訴えているねぇ。
「はぁ。言わせてもらうけどさ。すぐにでもランクを上げたいから、アラクネルを倒した私たちを巻き込んだ。しかも運よくジョーさんが見てくれる状況。なのに、想定外のお金がかかった途端に躊躇する。一呼吸分考えるくらいなら私は容認するけど、それもなく2度も躊躇した。私からしたら躊躇した時点でなんだその程度か、ってなるよ。その程度の覚悟に付き合う気ないよ。」
才華に圧倒され戦士君は口を閉じる。
「全力、本気で好きなことにのめり込む人、目標をやり遂げる人は、ただ努力を惜しまないだけじゃないよ。時間を掛けたり、お金を掛けることにも躊躇しないよ。周りからバカだ、考えが甘いとか言われても止まらない。それに、将来英雄になるために足踏みしてられないだっけ。君の夢や目標をバカにするつもりはないし、なれないなんて言うつもりはないけど。考えは甘いって言わせてもらうよ。英雄やら偉人やら神様やらって呼ばれる人だって基本的に地道な努力をしてるし、いろんな過程を経ているよ。例外的にちょっとしたことでやり遂げる人はいるかもしれないけど、その人はその人で最初は自分が英雄だなんて考えず、自分なりの努力をして、あらゆる過程を経ている。英雄、偉人は努力、過程を足踏みなんて考えてないと思う。ま、私は英雄や有名な人になったわけでもないし、あったこともないから実際のところは分からないけど。」
俺が覚えていない約束のために、異世界転送装置を作った才華。世間に公表すれば間違いなく世紀の発明者として歴史に名は残す人物。だからか、重みや真剣さがある。と俺は思う。それは戦士君たちにも通じたようで、黙りこんでいる。だが、まだまだ才華の口は止まらない。
「それに本来ならガーゼットさんの言い分が正しいよ。討伐系のクエストなら特にね。明らかに実力不足の者にクエストをしてもらってその結果、失敗。自分たちにできないから、クエストにした依頼者の期待を裏切る。そんな登録者を派遣したギルドの信頼はなくなる。それくらいわかるでしょ。ギルドの職員だってむざむざ登録者を死なせないために、ランクわけしているんだよ。ガーゼットさんがダメって言ったのはあんたたちは死ぬ確率が高いって判断したからだよ。ガーゼットさんはあんたたちみたいに無謀な人を何人も見てきたんじゃないの。だからはっきり断ったと思うよ。」
新人君たちは黙りこんで俯く。
「それに。」
「才華、もういいよ。」
終わりが見えなかったので止める俺。一息ついて才華は再度手を出す。
「で、どうするの?払うの払わないの?言っとくけど、君たちにどんな事情があるかなんて関係ないからね。一切まけないよ。」
戦士君は槍少女、金髪少女を交互に見る。そして
「ぶ、分割払いでお願いします。」
戦士君が頭を下げる。
「よろしい。」
才華が笑う。戦士君は、ホッとし、金髪少女は顔が晴れた。ただ2人は気付いていないけど、才華のあの表情にはなにかある。まだなにか考えているな。




