新人と受付嬢
「では、当日は北門で落ち合いましょう。」
「はい。お願いします。」
トラブルもなくクエストを終え、ギルド前でクザインさんと別れる。時間は昼を少しすぎたところだ。シクはイナルタさんの塾。
「さて、どうしょうか。」
「そうねぇ。」
「2人はどうする?」
才華はクロスティとエルージュに尋ねる。
「ワン!」
「クエー!」
2匹はそのまま、東門のほうへ向かっていた。たぶん、東火葬場付近に魔物の姿がなかったので、クロスティとエルージュには退屈だったみたい。
「夕飯には戻ってきてね。」
愛音が2匹に声をかける。
「で、俺達は?」
「そうだねー。あ、コアたちだ。おーい。」
カタム傭兵団の一員がギルドから出てくる。たしか、傭兵団の半数は東の街へ至る街道一帯を調査しているはずだから、終了して帰ってきたってところか。お疲れ様です。コアとジーファがこちらへ向かってる。
「お疲れさま。」
「ありがと。イトネ。」
手をあげ答えるジーファさん。
「お疲れー。」
「うー。ちかれたよー。サイカ。」
才華にもたれかかるコア。
「おーよしよし。がんばったねぇ。えらいぇ。」
抱きついたあと、ペットのようコアを可愛がる才華。顎を頭をなでる、なでる。するほうもされるほうも互いに顔が緩んでいく。
「蜘蛛はどうだったんです。」
「どこにもいなかったです。ザイトさん。」
ですか。なら一安心。
「今後はどうなる予定なんです?」
「次はボトムズが足を運んだ西の街へ至る街道一帯の調査ね。」
「大変ですね。」
「ま、これが仕事だし、生き甲斐だしね。」
髪をかき上げながら答えるジーファさん。うわあ。見惚れるなあ。
「明日にも出発なの?」
「いえ、4日後よ。イトネ。明日からの3日間は休息日になったわ。」
「なのよ。今日は全力で休んで、明日はどうしょう。」
「ならさ、明日の夜はうちでさ、女子会しよ。女子会。うちで飲んで食べてだべって、ダラダラしようよ。料理は用意しとくからさあ。」
才華がイエイと挙手。
「さんせーい。飲んで食べてだべりたーい。やろやろ。」
コアが真っ先に手を挙げる。
「イエーイ。そうこなくっちゃ。ジーファは?」
コアにハイタッチする才華。
「いいの?イトネ」
「ええ、もちろん。あ、イナルタさん、ガーゼットさん、ターロホさんにも助けてくれたお礼をしたいわ。」
「ならクルンさんとアルトアさんも呼ぼうっと。いいでしょ。在人。」
どんどん人数が増えていく。・・・・女子会。女子?
「ん。いいよ。でも。」
「「でも?」」
「女子会で俺はどうすれば?外に出とく?」
「女装とか?」
首を傾げ、こちらを見る才華。 んんんんんんんん?なぜにそうなる。
「ああ、そうね。」
愛音が手を叩いて賛同する。うしろでコアが笑っている。にゃろ。
「ぜええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええったいに、いやだ。」
「冗談よ。絶対に嫌でしょ。言わなくたって、分かるよ。」
才華が手をヒラヒラさせる。なら言うな。
「切り落とすのは。」
はさみを持ち動かすしぐさを見せるコアの視線が下がる。なにを切るつもりだ。ジーファさんは呆れている。
「あ、その手もあるね。」
賛同した才華もはさみで切る仕草を見せる。ただ、そのはさみは枝切りばさみ。ふざけるな。おい。
「冗談はここまでね。普通に参加して。アラクネル討伐の打ち上げも兼ねましょう。」
愛音が締める。ですか。そこは一安心。
「と。そろそろ行くよ、コア。じゃあ明日ね。サイカ。イトネ。ザイトさん。」
「楽しみにしてるよー。明日ねー。」
ジーファさんとコアが傭兵団を追いかけていく。
「じゃあ、まずはガーゼットさんに聞かなきゃ。」
だね。才華を先頭にギルドへ入っていく。朝よりは人が減っているが、注目はされる。
「ガーゼットさんは・・・っと。受付だね。」
ガーゼエトさんはクエストの受付にいる。そして、俺らより少し年下に見える3人組の受付をしている。3人組は10代半ばってところか。彼らの後ろで受付が終わるのを待つ。が空気は良くないようだ。
「なんで、俺らはこれを受けれないんですか?」
「実力不足、経験不足。」
以前も見たやりとりが。デジャブ。
「なんで、見てないのに分かるのさ。」
剣を背負った銀髪短髪の少年が食い掛かる。その後ろで、杖を持ったショートヘアの金髪少女はムスっとしており、槍をもった黒髪一本結び少女がハラハラとしている。あらら。
「見ないでも分かる人がいるってことが理解できない時点でダメね。」
ズバッとぶった切るガーゼットさん。きっびしいな。まー役職的に必要なことなのかも知れないけど。
「いやいや、俺らだって、村で散々魔物倒してきたんだよ。」
「あなたの育った村で出る魔物は、単独行動が基本の赤オオトカゲか黒牙ネズミ。この付近の魔物としては最弱のもの。1人で倒したとしたら、最低限の実力はあるけど。それだけ。このクエストの魔物は南の方から流れでやってきた少人数のゴブリン。野生の本能だけでない知恵もあるのよ。トカゲ、ネズミと同じにように考えているなら甘いわよ。」
ゴブリンかあ。名前だけなら、物語には出てくるけど、ニワトリの件を考えると、この世界のはどんなのだろうか。ああ。それで人的被害があったからナファフの従業員も出払っているのか。お悔み申し上げます。
「大丈夫だって、私の魔法で蹴散らすから。」
今度は金髪少女が噛みつく。あらっら。ものすごい自信だ。
「そうそう。多少の数は問題ないって。」
ここぞとばかりに少年もカウンターに乗り上げる。あーあー。しつこいと怒られるよ。
「何を言っても駄目よ。新人に回せないわ。」
「なんでよ。アラクネルを倒した人達だって、登録者になって2週間程度の新人なんでしょ。なんでそいつらはアラクネル退治に挑戦できて、私達はダメなのよ。私たちだっていいじゃない。アラクネルほど危険ではないでしょ。」
そいつらが後ろにいることに気づかないほど熱中している。と思うべきか。あと俺らは偶然巻き込まれたんだよ。そこんとこ間違って伝わっているな
「そうだそうだ。もし俺達がアラクネルと戦っていたら、俺らが退治したって。将来、英雄になる俺は、ここで足踏みしなんかしてられない。」
戦士君と金髪少女、その発言は死亡フラグに見えるよ。過信じゃないのかい。まあ、止めはしないけど。
諦めない金髪少女と戦士君。槍少女は2人を止めたいみたいだが、オドオドして声をかけられないでいる。大変だねぇ。
「彼らは偶然、森にいてまき込まれたのよ。そして、子蜘蛛に憑りつかれた人がいたから、傭兵団の団員と一緒にアラクネルと戦って、結果退治したの。」
ガーゼットさんは淡々と説明する。憑りつかれた人だってやばくなったら、見捨てようともしたけどね。
「じゃあ、なんで森にいたのよ。あの森に入る理由なんてそうそうないわよ。」
この世界に来るための装置があるから。なんて説明はできない。
「彼女らは火吹き鳥や三つ目犬を相手に訓練するつもりだったのよ。そうでいいのよね。」
ガーゼットさんが俺ら目線を送る。それにつられて新人3人組もこちらに振り替える。槍使いの子が一番驚いた表情をしている。
「え、ええ。あー、はい。その、えーと。」
突然のふりに動揺する俺。
「うん。そうだよ。1対多と対空戦を磨くためにね。でも行けども行けども、魔物は出てこない。それで、奥の方まで行ったら、今度は一斉に子蜘蛛が出てきて、あっという間に包囲されちゃった。ああ、困ったなぁと思ったら、傭兵団のナイフ使いが、蜘蛛に操られた人を救助に来たって言うじゃない。そうなったら、微力でも協力しないといけないのが登録者ってもんでしょ。その結果、なんとか退治したって流れなのよ。」
才華が平然と嘘を言う。ガーゼットさんの話に合わせて、スラスラしゃべるから、もともと考えていたのかも。
「退治できたのは私たちだけの力じゃないわ。ナイフ使いの子に、森でアラクネルの被害にあってた火吹き鳥、三つ目犬の協力もあったおかげね。3人だけだったら、間違いなく死んでいたわ。」
愛音も話に便乗する。
「そうそう。もう俺はこりごりだね。今すぐ再戦しろって言われたら断るよ。正直いうと俺はあの世が見えたし、退治したとはいえ、反省だらけなんだから。」
そう反省だらけだった。討伐した翌日に、3人でだらけつつ反省会を開いた。その結果が回復アイテムの購入。武器の損失対策。技術はそうあがらないので、まずは道具から。
もともと2.01の戦力しかないこのチーム。むしろ足手まといの俺がいないほうが強い。そこにクロスティ、エルージュの戦力の補強はでかい。今日はなにもなかったが、クロスティの匂いによる感知、牙に爪。エルージュの上空からの偵察、炎、爪。どれも頼もしい。
そう。俺なんかよりズううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううっと頼もしい。自分で思って悲しくはなったけど。
「だそうよ。あと、少なくとも君たち3人より、彼らの方が強いわ。」
ガーゼットさんの言葉に戦士君と金髪少女はまじまじでこっちを見る。うーん。俺よりは戦士君たちのほうが強いと思うけど。
「だから、なんで試してもいないのにわかるのさ。」
戦士君は納得いかないみたいだ。まぁ、俺を見たからね。
「君達の祖父祖母が君達くらいの時から、ここで登録者を見てきたのよ。佇まい、動作、気配で分かるの。少なくともそれが分かる元登録者だったの。強い登録者になりたいなら、これくらいはできるようにならないと駄目ね。」
ちょっときつい目つきで戦士君をみたガーゼットさん。うん、カッコいいけど、怖いね。戦士君も言い返せないでいる。
「そんなはずない。こいつよりは私たちの方が強いわ。こんな抜けた男がリーダーをしているチームよりは。」
金髪少女が俺を指さす。ああ。俺で判断したね。俺らの世界でもよくあったな。力関係なんかを俺を基準に判断して、結果、愛音、才華コンビに返り討ちにされる。ってやつを。俺は弱いけど、才華、愛音が俺と同格に見えるか?よく見なよ。
あと失礼じゃないかい。年上の他人に『こいつ』、『指さし』、『こんな抜けた』は。俺は舐められるのは慣れているから、別にいいけど。と思った矢先、悪寒が走る。・・・・これは。
「そうだそうだ。俺もそう思う。」
金髪少女に便乗する戦士君。おいおい。
「やめなよ。失礼だって。ルーパ。」
槍少女が金髪少女の手を下す。
「なら、試す?金髪ちゃん。」
才華のボルテージが上がっている。ひぃ。やっぱり背筋が凍ったのは才華のせいか。いかん止めなきゃ。
槍少女も怯えている。
「才華。だめだめ。ちょっと興奮しているだけなんだから、これはスルースルー。な。帰って明日の準備しよ。な。俺はそっちが楽しみなんだけど、こう見えてね。」
俺は慌てて才華をなだめる。口を尖らせて黙り込む才華。よしよし、いい子だね。あとで褒めてあげよう。
「どっちにしろ、検定で合格されるまでは私以外の職員に言っても無駄よ。」
「なら、いますぐ受けさせてよ。」
「検定官は帰ってきてるけど、検定日の日付が決まっているから、それまで待ちなさい。はい。話はこれで終わりよ。諦めて違うのを選ぶか帰るかどちらかにしなさい。」
バッサリと話を終わらせたガーゼットさん。他の職員に呼ばれたため、そちらへ行ってしまった。




