日本語、魔法、メイド服は異世界共通
俺を先頭に才華、千歳と北西をまっすぐ進んでいく。道なんてないので俺が枝や草を払っていく。俺が先頭をなのは俺が男だからと言うより、俺がになにかあっても2人なら助けてくれるし、乗り切れる計算が高いからだ。情けないけど過去の経験上どうしうようもない。俺の役割は1撃目を食らう盾と囮である。才華か千歳、どちらかが欠けたら、俺達は全滅する。それは言い切れる。
30分ほど歩いただろうか。俺の額には汗が滲んできた。ここまではスムーズだった。
後ろを振り返り2人の様子を見る。2人に疲れは見えない。才華はのんきに歌っている。
「こぶし~♪」
歌ってるのは動物を美少女擬人化っていうか武人化した、拳で語るアニメ『獣武錬ズ』のオープニングだ。以外と面白かったなぁ。
千歳は森の風景を楽しんでいるのか。きょろきょろしている。2人とも余裕だなぁ。
「♪~っ。いる。」
才華が歌をやめ、目つきが変わる。えっ何?
「在人。止まって前になにかいる。人じゃない。」
千歳も静かに言う。何がいるの。なになに。なんで分かるの?うろたえる俺とは違い、2人はすでに武器を構え戦闘態勢。もめ事なれしてるせいか切り替えが早い。俺も準備しなきゃ。俺も慌ててリュックを下し、ハンマーを構える。俺を中心に2人は少し後方に位置する。くそ、街まで無事行きたかったのに。
森の中でも樹木の切れたすこし開けた場所のようだ。小さい崖が前にあり俺達は崖の下。真上から太陽が見える。しかし他の姿は見えない。というかわかった理由は?気配?
「さっきの気配で?どこに、どれくらいか、分かる?」
俺の質問に千歳は
「崖上に7、いや9くらい。気配ね。」
上を見ながら素早く答える。
「来るよ。」
才華が叫ぶ。
9つの影が小枝を折る音とともに、崖上の茂みから飛んでくる。写真で見た3つ目の犬だ。大きさはドーベルマンくらいで爪も牙鋭い。よだれをたらし、グルル唸っている。
こえーよ、めっちゃくっちゃ。とりあえず、落ち着け俺。二人を横目で見る。あせりはないようだ。胆座ってんなぁ。対人戦なら2人はこなしているけど、モンスターはどうだろう。数も向こうが上。あとモンスターを殺したりできるか?あー人の心配してる場合じゃない。俺が足手まといなんだから。落ち着け、落ち着け。
痺れを切らした右端の1匹が飛び込んでくる。狙いは俺。俺はハンマーで払いのけようと構える。が、千歳が前に飛び出し、犬をたたき落とす。そして犬の首を才華が吹き飛ばす。その間に千歳は正面に構えて、他をけん制していた。これらが一瞬だった。嘘。嘘。嘘。何今の?そんなことできるレベルなの?
「それ誰に教わったの?」
こんな状況だが質問せずにいられない。
「じっちゃん。これくらいできるようになれって。家の地下で鍛えられた。」
「いつもどおり、在人が狙われると思ったからそれを狙っただけね。あと1匹だからうまくいった。」
犬から目を逸らさず、淡々と答える2人。じーさん。俺には受け身と防御しか教えてくれなかったのに。
俺はもう1つ質問する。
「・・・大丈夫?生き物を殺したけど。」
「・・・・。」
「うん。そうね。でも在人のほうが大事だから。」
才華は無言。千歳が答える。何も感じてないわけではなさそうだ。
「まだ終わってないよ。」
才華が注意してくる。。確かにあと8匹もいるし、さてどうしよう。何ができる?何もしていないけど息が上がる。
「また叩き落せる?」
「1匹なら。」
「真正面からは無理。」
それぞれ答える。その間に間合いがずるずる狭まっていく。俺は才華に聞く。
「首とばすのは簡単?」
「動きが止まっていれば簡単だった。」
あっさり答える才華。ほんとですか。それ。まあ信じよう。
「俺が囮になって、千歳が1匹ずつ仕留めていく方向で。才華はなぎなた振り回して他をけん制。千歳、仕留めれなくても、追いかけられないようにして。異論はなし。俺になにがあってもよそ見はしないこと。」
思い付きなので、うまくはいかないとは思う。だが2人は殺す覚悟をもったんだ、俺も覚悟を決める。昔じーさんに「才能ないから体張れ、盾になれ。」と言われてたので、それをやる。俺の覚悟を読み取ってくれたのか。2人は無言でうなずいていた。
俺はハンマーの先で首元を隠す。今度は2匹とびかかってきた。狙いはやっぱり俺。本当に昔からこの体質は変わらない。1匹は予定通り千歳がたたき落とす。もう1匹は俺の右腕に噛みつき、そのまま俺は押し倒される。
「くっーーーー。」
声にならない声が出る。牙が腕に食い込むのがわかる。痛い痛い痛い、熱い熱い熱い熱い熱い。俺の胸板に引っ掻けてくる爪も痛い。血が出ているのも分かる。ただただ熱い。犬の唾液もかかっている。
犬を蹴り飛ばしたいが、痛みで押し切れない。くそが。
すると「キャン」の鳴き声とともに犬の力が抜ける。千歳の刀が犬の体を貫いている。もしかして心臓一突き?
「大丈夫?普通の犬と一緒でよかった。うまくいったね。動きにも慣れてきたわ。」
千歳は少し微笑む。興奮しているせいか淫靡的だ。一瞬見とれる。ってそれどころじゃない。
才華は細かくなぎなたをふるい、他6匹を寄せ付けていない。すげーな。犬も恐れてきたのか?首の飛んだ犬の死体2匹、心臓貫かれた犬の死体1匹 軽傷者1名。3人対6匹まだ不利だ。痛みははっきりしている。が気にしている場合じゃない。
「さて、もいっちょいきますか。左端に俺が突っ込むから孤立したやつ狙って。」
「うん。」
千歳は心配そうな顔をしているが無視。
「っしゃーーー。」
俺はハンマーを振りかざし、左側の間へ突っ込む。犬が1、5に別れる。ラッキー。俺は5匹いるほうへ向きを変える。そこを後ろから左脇腹を噛みつかれる。
「いってーーーーーーーーー。」
だがすぐ、風切り音とともに犬の顎の力は抜けていく。本日3匹目の首切り死体。千歳だ。
「ごめん、少し遅かったね。」
「問題ない。」
俺は自ら犬の頭を蹴飛ばし強がる。遅かったてことは噛む前に切るつもりだったのか。さらりとすごいことするつもりだったのね。3対5。あとひと踏ん張りか。
「在人は下がって。もう動きに慣れたから見てて。」
千歳は刀で俺を制しウィンクする。千歳も才華もこうゆう状況で強がりはしない、本当に慣れたんだろう。
「・・・わかった。少し下がる。他にいるかもしれないから油断はしないで。」
千歳は才華に加勢し、俺は呼吸を整える。血は出てるが、動けないわけではない。よし。俺はスタンガンを取り出す。
「在人、上ーー。」
才華がこちらを見て叫ぶ。ふっと俺の周りが暗くなる。俺が顔を上げると黒い影が俺の肩を掴んで飛び上がっていった。爪が肩に食い込む。えっ?俺の思考が一瞬停止する。いてーーー。痛みでハンマー、スタンガンを落とす。引きはがせそうにない。あー火吹いていた鳥だ。このタイミングでかい。油断してたのは俺でした。くそ。
俺に気を取られたのか、才華が犬の体当たりで飛ばされ、千歳が慌てて才華のほうに近づいていく。それが森の切り目から見えた2人の最後だった。まずいまずいまずい。
鳥は切れ目からどんどん離れていく。終わった。俺じゃこいつを倒せない。スコップもないスタンガンもない。あとここから堕ちたら間違いなく俺は死ぬ。負傷箇所から血が滴り、落下している。異世界にきて40分ちょいで終わりかー。
俺は絶望していた。来なければよかった。どうしよう。いやどうにもできない。はー。頼むから2人だけでも無事であればいいんだけど。
あきらめた俺。・・・。キエーーーと鳥が叫ぶ。いい餌を手に入れたとか思ってるんだろうか。すぐに殺さないってことは小鳥がいるんだろうか。・・・ならそいつら1匹でも殺してやる。殺せななくても片目をつぶしてやる。卵は割ってやる。弱いものいじめだとか知ったことか。生きるのはあきらめたが、嫌がらせをとことんしてやる。
俺の腐った性根が爆発してきた。心の支えを折ってやる。生きがいを奪ってやる。希望をつぶしてやる。自害したくなるほど後悔させてやる。絶望させてやる。絶望させてやる。絶望させてやる。絶望させてやる。絶望させてやる。絶望させてやる。絶望させてやる。絶望させてやる。絶望させてやる。絶望させてやる。絶望させてやる。
キエーー鳥がまた叫ぶ。が今度は羽ばたきがやむ。そして落下していく。なんだ?俺は鳥を見る。鳥の体に矢が数本刺さっている。さらに矢が追加される。たっ助かるのか?いやでも落下している。今度は鳥の体に氷が貫通する。なにこれーーーー。鳥の足が俺をはなす。鳥と俺は落下していく。
「あーーーーーーーーーーーーーー。」
俺は叫ぶしかできない。死期早まっただけだーーーー。地面にぶーーーーーーーつーーーーーーーーーーーかーーーーーーーーーーるーーーーーーーーーーーーーー。
樹木の天辺付近で落下速度が落ちる。はいぃ?何ですか。次はなに。地面にゆっくり着地する。
俺の目の前にはRPGの戦士や魔法使いの恰好の人たち。髪の色は銀髪や緑やらしているけど。第1異世界人発見ってやつだ。とりあえず、助かった?・・・いや、まだだ。才華と千歳を助けなきゃ。
戦士さんたちは俺の恰好をもの珍しく見ている。俺は気にせず深呼吸をして話しかける。落ち着け、落ち着け。
「えっと。助かりました。ありがとうございます。すいません。でも友達が向こうで三つ目に犬に襲われているんです。助けてください。」
よし、冷静に言えたぞ。これで助けに行ける。無事でいてくれ2人とも。
茶髪の戦士さんが答えた。
「--------------------------?」
銀髪の魔法使いさん。
「----------------------。」
緑髪のハンター?さん。
「------------。--------?」
群青色鎧で全身を固めた騎士さん。
「------。----。--------。」
へっ?何を言ってるか分からない。日本語、英語でもない。いや英語は元々わからないけど。
・・・・・・・・どーーしよーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。俺は頭を抱える。そうだ、異世界だ。日本語しゃべってるわけない。
異世界で日本語共通なのは漫画、小説、アニメだけだよね。この漫画脳が。言葉のこと気にしてなかったー。
どうしよ。どうしよ。いや悩んでいる場合じゃない。切り替えろ。切り替えろ。行かなきゃ。行かなきゃ。2人のところへ。
俺はお辞儀をし、2人のところへ駆けだそうとする。くっそ負傷箇所が痛む。
そこを戦士さんが俺の右腕を掴む。傷に響くんだけど。
「------------。」
戦士さんは魔法使いさんへ何かを伝えてる。魔法使いさんは俺に近づき、
「-----」
何かをつぶやく。俺の体を光が包み、光が体に染み込む。なにかが変わったわけではない。
「? あー急いでるんで。」
時間がもったいない、俺は手を振りほどこうとする。
「何を急いでいるんだい?そんな体で。見たところ登録者とかでもないし。」
戦士さんが聞いてくる。・・・日本語だ。さっきの光で?・・・あれは魔法?この異世界に魔法はあるんだ。あーでも、そんなことよりもあれだ。
「ええと。向こうで連れの女性2人が犬に、三つ目の犬に襲われていて。俺何もしないうちに鳥につかまって。えーーと、あーー助けてください。お願いします。」
えい、落ち着け俺。戦士さんは頷き、
「了解。とりあえず落ち着いて。くわしい話はあとで聞くとして、場所は?あと傷は大丈夫かい?」
「怪我は大丈夫です。この近くに街はありますか。」
魔法使いさんは指さす。
「ここから西北西に拠点の街があるわ。」
「そこから南東方向の場所です。道はありませんでした。森の切れ目、小さい崖のある場所です。」
「うん。確かにここから北東の位置にさっきの魔力の気配を感じるわ。そこね。急ぎましょう。」
魔法使いさんの案内で走り出す。俺は思いついたことを魔法使いさんに質問する。
「さっきってどいうことです?」
「私たちは街の南側にいたんだけど、そこから東方向にいきなり大きい魔力の気配が現れたの。気配を消すことは訓練でできるようになるけど、急に気配をだす理由もない。道もない場所だったから一応調べることになったの。」
「なるほど。それ俺達ですね。」
才華と千歳が言っていたのはこの人たちのことか。そして魔力ね。しかも2人の魔力は大きいと。つまり2人は魔法を使える可能性があると。
先ほどの戦いの場所へ着く。そして俺は絶句する。そこは血の海となっていた。内臓、血が飛び散り、ばらばらになった死体、死体、死体。血で地面が滑る。鼻と胸に来る血生臭い匂い、吐きそうになる。
なぎなた、刀には血が滴っている。服はところどころで破れがあり、ドロや血が付着している。
2人は無事だった。
「あっ在人無事だったの。よかったー。」
手を振るケロっとしている才華。
「在人は大丈夫?後ろの人は?」
首をかしげる千歳。
「・・・俺は大丈夫。2人とも怪我は?」
「私はかすり傷だけ大丈夫だよ。」
「私も平気ね。荷物も無事だし。呼吸を整えて、追いかけるつもりだったところ。」
俺は力が抜け、しゃがみ込む。2人は余裕だ。
「でありますか。」
様子を見てた戦士さんが割り込んでくる。
「2人が何を言っているか分からないけど、大丈夫そうだね。」
「あっはい。ご迷惑をかけました。」
俺は立ち上がり、頭を下げる。
「いいよ。いいよ。こうゆうの俺達の仕事だから。でも君たち何者なんだい?」
手を振り戦士さんは言う。人格者だ。俺は安心したせいか。俺の腕と脇腹、肩が痛みだす。
「いててて。とりあえず。応急措置するんで。待ってもらっていいです?」
俺は笑いながらまたしゃがみこむ。一難は過ぎた。
3人とも魔法使いさんの魔法で治療された。まじまじと見てると、見る見る負傷個所が治っていくのは不思議だった。・・・消毒はいらんだろうか?あっという間に痛みは引き、傷跡も見当たらない。魔法ってすごい。いやでも血は足りない気がする。
治療が終わり、俺は改めて戦士さんたちに礼を言う。
「助かりました。ありがとうございます。」
「それはもういいよ。っと自己紹介がまだだったね。」
戦士さんは笑顔で答える。
「俺はカタム。一応傭兵団の団長。今はここから北西の街ミタキを拠点に活動中。」
トリコロールカラーの軽鎧に片手剣。茶髪のくせ毛。20代後半くらい。
「私はジーファ。魔法使いね。」
ローブを外しながら銀髪の魔法使いさん。青色フード付きローブ、装飾のついた白色の杖。翠眼。
年齢は俺たちと同じくらい。あれだね。美人だね。
「ガタクン。」
緑色の服のハンターさん。弓を持ち、背中に矢筒。緑髪。碧眼。眠たそうな目。近づきがたいとうよりボーとした雰囲気を感じる。20代半ばっぽい。この人が鳥に捕まった俺に気づいてくれたらしい。命の恩人。
「キャノだ。よろしくな。」
群青色の全身鎧の騎士さん。盾。斧。褐色肌に金髪。豪快なイメージ。でも目は円らだ。30代後半かな。
第1異世界人の紹介終了。今度はこちらの番。(千歳と才華も既に魔法をかけてもらっている。)
「人多在人です。本当に助かりました。」
「天城才華。よろしくね。」
「地陸千歳です。在人を助けてくれて、ありがとうございます。」
自己紹介終了。ちなみにカタムさんたちは才華、千歳のメイド服に追及しない。メイド服に異世界の壁はないのか?
カタムさんが質問する。やわらかい雰囲気だが目は鋭い。
「で君たちは何者でどこから来たんだい」
さて、どう答えたもんか。今までのことって信じてくれるか。俺が回答に窮していると。
「「日本。」」
2人は迷いなく答える。カタムさんたちぽかんとしている。
「日本?日本って聞いたことある?」
カタムさんはジーファさんに聞いている。ジーファさんは知識者なのかな。
「日本はないです。」
ジーファさんも分からないって顔。のこり2人はすでにお手上げらしい。そりゃそうだ。
「いいじゃない、遠いところってことで。ねぇキャノさん。」
才華は告げる。気軽さ全開。たぶん異世界の住人に会えて興奮してきたんだろう。
「じゃあ、なんで急に魔力の気配を出したの?」
次はジーファさんから
「「魔力?」」
才華と千歳は首をかしげる。
「分からないの?ほら、感じない?私や団長から魔力の気配を。でないと道がないのに街へまっすぐ進んだ理由が分からないわ。」
目を丸くするジーファさん。
「ああ。気配のことですか。それなら分かります。もしかして、街の南側にいた人達ですか?」
千歳が冷静に答える。
「なるほど、魔力ねー。じゃあ私たちは魔法が使えるかもってこと?魔力ってどんなの?」
才華は興味津々に質問する。逆に困惑しているのはジーファさん。
「魔力を知らないけど、感じることはできる。うーんどこから説明すればいいかしら。」
「それはあと、あと。それより何者だい?」
キャノさんが割り込む。その質問も回答に困ります。
「旅人です。故郷を出たら、光に包まれ、気づいたらここにいました。理由はわかりません。」
俺の様子を見たのか、千歳が迷わず答える。とりあえずそれに乗るか。
「そういうことです。魔法もモンスターも初めて見ました。」
キャノさんが驚きながらまじまじとこちらを見る。
「信じられんけど、魔法も魔物もいない地域からいきなりここに来たってことかい。だとしたら、初めて魔物と戦ってあの結果かい。たいしたもんだ。」
静かにやりとりを見てたカタムさんが真面目な顔つきで答える。
「遠いところから、来たってことは分かった。嘘じゃない事と隠し事があるのも。」
あっやぱり分かる?まぁ俺の様子からわかるか。
「まっ。誰だって言えないことがあるからそこは追及しない。でも最後に1つ。今の目的は?」
「当面は衣食住の確保。就職。あと魔法を覚える。そんなとこよ。」
今度は才華が答える。しばしの沈黙のあと、カタムさんは微笑み。
「なるほどね。じゃあ街にいきますか。」
カタムさんたちの案内で街へ向かう。




