葬儀屋と、受付ジョー
アラクネル討伐から1週間がたったミタキの街。なぎなたを肩に背負った才華と帯刀した愛音とともに1週間ぶりにギルドへ向かっている。
1週間も間が空いたのは、アラクネルとの闘いで折れた愛音の刀の新調や、シクの家族の埋葬の準備などをしていたからだ。才華の力でお金に困ることはないとはいえ、全てまかせるわけにはいかない。
ギルド前についたところで、
「ちょっと、ここで待っててね。」
愛音が俺達のお供?同僚?仲間?家族?どの言葉が適切かは分からんが、2匹の魔物に指示する。火吹き鳥のエルージュに三つ目犬のクロスティだ。
クロスティは入口前でしゃがみ込み。エルージュはギルドの屋根にとまる。
「絡まれたら吠えるんだよ。襲っちゃあ駄目だよ。」
才華がピッと指立てる。
「ワン!」
クロスティは一言吠える。賢いから理解しているはず。屋根にいるエルージュのほうは、ま、あそこなら絡まれんか。
ギルド内に入ると一瞬、時間が止まり、登録者の視線が集まっているのがわかる。ああ、アラクネルを打ち倒したら、そうはなるか。刀を持つ女になぎなたを持つ女、ハンマー所持の男によるチーム。このギルドにそんなチームは他にいないみたいだから、間違いようもないよな。正直、注目されすぎて萎縮する。
「ほらほら、なにボーっとしてんの。在人。」
俺とは違い、てんで気にしていない才華。
「入口で止まったら、邪魔になるわよ。」
同じく気にも留めていない愛音。
「あ、うん。」
2人に押されて歩き出す。
2人は気にしなくても、周囲はそうはいかない。視線は逸れないし、ひそひそ話もしている。ちらちら見ていると、どうも疑いの視線がいくつかある。
ですよねー。俺らがここにきて2週間ほど。ギルドの登録者として駆け出しのルーキー。そんな新人がアラクネルを退治する。信じられんよね。どう考えても物語での出来事だよね。誰だってそう思う、俺だってそう思う。うん。
でも、現実は小説より奇を体現する2人なんだよ。せいぜい疑うだけにしといてほしいな。絡んでこんでね、面倒ごとはやだよ。
「あ、いたいた。」
ギルドで待ち合わせをしていた人物を発見する。
葬儀屋ナファフの従業員クザインさん。細長いというよりひょろ長い体格、糸目で常に笑顔。それに飄々とした雰囲気をまとっている。笑顔だけでみれば好青年、イケメンになるんだろう。でもそこに裏がありそうと思うのは、俺が嫌なヤツだからか、見た目からの嫉妬か。いかんいかん。
「おはようございます。」
丁寧におじきをするクザインさん。
「おはようございます。クザインさん。」
愛音も頭も下げる。
「今日はよろしく。」
才華も続く。
「こちらこそ、お願いします。では早速、受付を済まして、現場へいきましょう。」
今日はシクの家族の埋葬の件でのクエストだ。報酬は埋葬にかかる費用の割引。
この世界での埋葬は火葬。火葬場で全てを灰にし、それを街、村ごとの共同墓地に埋葬する。貴族や平民、種族、街の住民、旅人、英雄、悪党は関係なく死んだら、魂は転生するための場所へ。肉体は灰から大地、大地から動植物、動植物から新しい肉体へ移り変わっていく。その長い年月を経て、魂は肉体に戻ってくるって考えで、この世界で個人のお墓は数えるしかないとのことだ。
あと現実問題、土葬だと場合によってはゾンビとなる、死体を使う存在などがいるので火葬している面もある。ゾンビか、嫌だな。シクの家族は話だとバラバラだからそうなることはないんだろうけど。
受付へ向かい、才華とクザインさんが職員に届け出る。・・・!
「在人。あの人、初めてみるよね。」
「だよね。」
才華たちがクエストに受注を受けているギルドの職員の男性。黒髪ほうき頭、椅子に座っているけど2メートル近くあると思われるがっちりした体格。ガーゼットさんたちと同じギルドの制服をきているが、腕をまくっている。他の職員がひときわ小さく見えるのは仕方ないとして、どう見ても事務職じゃない。最前線、現場、登録者、冒険者、武闘家、熱血にしか見えない。
その職員は受付をしながら、俺らを一瞥し、何かに気付く。
「君たちがアラクネルを倒した登録者かい。」
声がでかい!
「まあ、そうなるね。」
才華がVサインで答える。
「そうか、そうか。いやー、ありがとうな。危険な魔物を倒してくれて、街の住民として、一職員として礼を言うよ。」
声はでかいが意外とさわやか。もっと熱血なイメージでした。
「おっと失礼、自己紹介がまだだったな。受付のジョー。よろしくな。」
「よろしく。受付ジョーさん。」
ジョーさんと握手する才華。・・・・受付ジョーですか。
「あのー、会うのは初めてですよね。今まではどこに?」
俺の疑問を愛音が聞く。
「ああ。北の街で登録者ランクの検定をしてたんだよ。帰ってきたのは3日前だね。」
「検定ですか?」
「そ。君たちも知ってのとおり、登録者としてランクが上がれば、高難度のクエストに挑戦できる。そのランクの検定官なんだよ。」
登録者ランク、10段階あるそのランクの上げ方は3つ
① クエストを多数こなす。
② 検定で合格
③ 特定のギルド職員によって認められる
基本は①と②でランクを上げ、高難易度のクエストに挑戦していく。③であがるのは滅多にない。その滅多にない③で俺らは1つあがった。アラクネル討伐が認められたのだ。
②のそれを判断するだけの実力と経験があるのか。その肉体から後者なんだろうけど。
「と、邪魔したね。クエスト頑張って。」
ニッコリ笑うジョーさん。見た目よりさわやかだなぁ。
ギルドを出て、目的地へ。・・・?目的地ってどこ?やることは?最初に話をした際には手伝いをしてといった内容だったから詳細を知らないや。
「えーと。目的地は?」
「まずは、北にある、火葬場と墓へいきます。そこの平野でエルドラの花を採取します。」
エルドラ。死後の世界らしき場所であった自称女神に使える天使と同じ名前だ。
「その花の用途は?」
「埋葬された死者を掘り出した場所への捧げ、その場で眠る魂を死後の世界へ送るためです。」
才華の質問に答えるクザインさん。なーる。
「あとは、水、材木、土壌の採取。お墓、火葬場の掃除。あと周辺に魔物が住み着いていないかの確認をお願いします。」
けっこうやることはいっぱいだ。
「以前もお話しましたが、周囲の村のも請け負っていて、何分人手不足なもので。すいませんがお願いします。」
東西南北にそれぞれ街があり、その交点として発展したミタキの街。その周辺にも村が複数ある。そして、ここら一帯の葬儀、火葬場、共同墓地の管理を葬儀屋ナファフが請け負っている。ってクザインさんが説明していた。
「特に魔物のほうはお願いします。戦闘は専門外なので。」
「はい、わかりました。」
頭を下げるクザインさん。
「だって、クロスティ。魔物っぽい臭いがあったら教えてよ。頼むよ。」
才華が、クロスティの頭にポンと手を乗せる。
「ワン!」
「ええ。お願いします。」
「任せろ。」といわんばかりに吠えるクロスティ。クロスティにも軽く頭を下げるクザインさん。




