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決着

 2人の目線が気になり入り口に顔を向ける。すると入り口から謎の影が飛び出て、俺を襲う。まじでかい。逃げれない。ヒッ。目を閉じてしまう。


「グルルァ。」


「グワーン。」


「ぬわああああー。」


 なにも起きない?あれ?恐る恐る目を開ける。


 あ、ボトムズだ。影はボトムズに襲い掛かった。俺にはなにも来ない。びびったー。焦った。ナイフは覚悟したけど、襲われるほうの覚悟は消えてた。影に押し負けて、ボトムズが転げる。ふー。軽くなった。なんか知らんが助かった。


 ボトムズが倒れたと同時に千歳は後方に距離を取る。千歳の動きに少し遅れてアラクネルは口を開く。溶解液か糸を吐き出すつもりか。千歳の距離がまだ近い、避けれるか?


 放たれると思われたその瞬間、


「させないよ。」


 背中側から才華がアラクネルの髪を下に引っ張る。ガクンとアラクネルの顔が上を向き、それと同時に口から溶解液が放たれる。


「邪魔あああああ。」


 アラクネルが手を降るが、才華はすでに腹部から飛び降りている。


「にがす」


「おっとストップ。」


 さきほど、千歳を制したアラクネルへの意趣返しのように、右手を伸ばしアラクネルを制する才華。左手の指先には炎も灯っている。アラクネルは警戒したのか動きが止まる。


「おバカさん。」


 才華の手が握られると同時に、アラクネルが溶解液を被る。


「ぎいやぁーーーーーーー。」


 ついさっき真上に放ってしまったやつだ。両手で顔を覆い苦しむアラクネル。


「あとこれも。」


 いつの間にやら折れた刀の切っ先部分を手に持っていた才華。腹部から飛び降りた先は刀の切っ先が落ちていた場所か。最初からそこを目指していたのか。抜け目のないやつ。その刀を投げ、アラクネルの胸に見事突き刺さる。命中以前によくに投げれるな。すげっ。


「ぎばばーーーーーーーーーー。」


 スプリンクラーのように血があふれ出る。これは致命傷でしょ。


 この間に千歳は手放した刀を蹴り上げ手に戻す。すげっ。カッコイイ。才華もここまで戻りなぎなたを手に取る。



「離せえええええ。たずーーーーーーーー」


 ボトムズの絶叫が上がる。ボトムズを襲った影の正体は2匹の三つ目犬だった。リーダー格は首に咬みつつき、上半身を抑え込んでいる。そして、ナイフを持っていた右手に咬みついているのは千歳が治療した子供の三つ目犬だ。


「こんなことってある?」


 三つ目犬に助けられる。魔物が助けてくれる。ゲームじゃあないんだから。うーん。それともリーダー格はアラクネルのことを予想して他の三つ目犬を逃がしていた?弱まるのを待っていた?どっちにしろ俺は助かったんだけど。だとしても子犬がいる理由はわからんが。


「情けは人のためならず、ってことよ。ありがとうね。」


 助けてくれたことを素直に感謝している千歳。三つ目犬を見たあとはアラクネルの方へ移動する。ボトムズがどうなろうと気にしないみたいだ。


「だわあああ。離せ。はな。」


 ぶちゃっ。


 嫌な音とともに、リーダー格の首が天を向いた。ボトムズの首に凹みが見える。その凹みから血があふれ出る。あ、これはもう。


「はっ。はっ。はっ。はっ。」


 ボトムズの体から三つ目犬が離れる。ボトムズは天を仰いだまま、体が痙攣している。それもだんだんと弱まっている。自業自得としか言えない。コアもボトムズを見て複雑な表情をする。だが


「考えるのは後。このまま押し切ってケリをつける。」


 ナイフを構えアラクネルへ向かう。三つ目犬も続いた。そうだね。といっても俺はなにもできなさそうなので、従業員の護衛だ。



 

 アラクネルは糸で胸を無理やり止血した。そして、肩を激しく動かしながら、こちらを睨む。おー皮膚が爛れて酷い顔。


「犬が。人が。雑魚どもがぁああああああああああ。殺す。殺す。」


 先ほどまでの優勢を失ったアラクネル。またブちぎれた。今日何度目?


「ころせえええええええええ。」


 アラクネルは天上を向き吠える。その怒号の応じた天上の子蜘蛛数匹が降りてくる。うーん、まだまだいるね。なんとかアラクネルを倒して混乱のうちに脱出したいが。ん?


 蜘蛛の巣の一部が溶け出した。千歳、才華は魔法をつかっていないはず。2人を見るが、2人も横に顔を振る。ならなんで。


「情けは人のためならず、ってやつだね。よく見なって在人。」


 天上を見上げた才華が千歳と同じことを言う。?あ!


「クワー。」


 1羽の火吹き鳥が蜘蛛の巣に火を吹いていた。こっちも千歳、才華の治療した個体だ。たった1羽だが、蜘蛛の巣の子蜘蛛には充分脅威みたいだ。次々炎に包まれていく。

 

「コア、子蜘蛛よろしく。」


 才華の指示を受け、コアはうなずき、降りてきた子蜘蛛に向かう。


「ワウン。」


 その様子を見てたリーダー格も一言吠え、三つ目犬の子供はコアに続いていった。


「ありがと。」


 才華がリーダー格にお礼を言う。本当に助かります。


 

 アラクネルの前には才華、千歳、リーダー格の三つ目犬。


「お前ら。お前ら。お前ら。お前らああああああ。」


 激昂したアラクネルが突撃してくる。散開した2人と1匹。


「溶解液」


 アラクネルの真正面に対峙する才華は溶解液を避ける。


「手の糸で千歳狙いかい。」


 アラクネルは左手の糸を薙ぎ払おうとする。だが千歳はとっくにアラクネルの脚に乗っており薙ぎ払おうとした左手を右足で抑える。そのまま左肩に折れた刀を突き刺す。これで肩左腕は使えまい。


 「弾丸撃ち」


 アラクネルは顔をむけると同時に溶解液を放つ。顔狙いだった溶解液を首の傾けだけで避ける千歳。


「私を見過ぎ。」


 アラクネルの右腕に咬みつくリーダー格。ちゃんと、刀の刺し傷を狙っている。ヒィ。痛い痛い。


「ぎゃあああ。」


 叫びながら、リーダー格を振り払うアラクネル。リーダー格は余裕を持って着地する。千歳はその間に刀を抜き、アラクネルの脚を渡り、正面に移動。そして、刀を右足で押し付ける。悶絶するアラクネル。


「あ、間違えちゃった。」


『つい、うっかり』といった表情をした千歳。


「返してもらうわ。」


 刀を押し付けるのをやめて、突き刺さった刀の切っ先部分を抜き取る。刺さった刃物って抜かないほうがいいんだよな、確か。血があふれ出る。そこへ千歳は


「ほら、早く止血しないと。手伝ってあげようか。」


 血などお構いなしに右足を押し付ける。しかも足裏で押すのではなく、つま先でグリグリ抉っている。イタタタ。千歳の口元が少し笑っている。おいおい。


「糸ね。」


 意を決して口から糸を出すアラクネル。だが動きが遅いので千歳はとっくに前脚から降りている。


「はーはーはー。」


 右腕を必死こいて動かし、止血するアラクネル。だが完全にとはいかない。



 もうアラクネルはズタボロだ。だが野生のせいか、固有のタフネスのせいか、プライド故か、脚を全身を震わせながらもアラクネルは千歳と才華を睨む。


「おーおー辛そうだねぇ。あとなんで動きが読める、って顔だねぇ。はっ。胸の動きが口から吐くものを。目線が狙いを。それらがぜーんぶ教えてくれるんだよ。見てれば分かるんだよ。」


 ネタ晴らしをする才華。まじですか。すごいな。それ。こっちも余裕がある。その表情は楽しそうだ。


「あんたはさっき、自分たちは蜘蛛の能力に人の能力が加わった優れた種族だ、って優越に浸ってたねぇ。たしかに人の能力があるからできることが増えたかもね。でもそれだけ。ただそれだけ。ま、他の個体を見たことないから、断定は早いけど。少なくともあんたは確実にそれだけ。でも人型の上半身がなければ、目線で動きが読まれなかった。胸の動きで口から吐くものが読まれなかった。髪がなければ引っ張られることもなかった。指がなければ極められることもなかった。蜘蛛に人の能力が加わったてことは人の弱さも加わったそう考えるべきだった。人の弱さは私たちも当てはまるだろ。って思った?たしかにそうだね。でもそれを覆す技術を、補う知恵を、利用した駆け引きを人は持っている。培っている。磨いている。そこが違う。決定的に違う。あんたは人の能力の強さしか見ていなかった。人は人の弱さを見てきた。ここだよ。あんたは人の能力の弱さも見るべきだった。」


 ペラペラしゃべる才華。


「あれ?どうしたのさ?人より優れた種族なんでしょ。異論があるなら聞くよ。反論しろよ。覆してみろよ。ほらほらほらほらほらほらほらほらほら。」


 挑発に反論できないアラクネル。


「優れた種族なんてないのさ。どんな種族にも長所短所があるもんだよ。」


 言いたいことを言ってスッキリした顔をしている。怒り心頭のまま聞いていたアラクネルは口から糸を吐き出す。その着弾点に2人の姿はない。


「さ、どうするの?奥の手はあるのかい?あるなら出さない。っとぉ。」


 今度はアラクネルが口から溶解液を放つ。狙いは千歳だ。千歳は回避するも刀には当たった。溶解液を浴び溶け出す刀。だが千歳はそのまま、アラクネルに向かっていく。糸を出すもそれを才華が炎で相殺。


「ないようね。」


 千歳は腹に溶解液つきの刀を突き刺す。


「だばばばばっば」


 アラクネルは狂い悶える。痛みで。ここぞとばかりにリーダー格は左わき腹を咬み切る。才華は左前脚を関節部から切断。そのまま左側の脚全てを関節部から切断する。


 ドッダツン!


 アラクネルは左側を下に倒れた。これでもまだ動こうとするアラクネル。


「ふうううううううふ。ふふっつ。ふ。こ・・ころ。」


 アラクネルは虫の息。その喉元に折れた刀の切っ先部分が突き刺さる。


「がっ。」


 千歳が投げたものだった。あの位置なら首裏にいる本体も刺しただろう。アラクネルの体が痙攣を起こしている。


「終わりかしら。」


 千歳が静かに呟く。コアや火吹き鳥たちはまだ戦っているが、一安心する。




「は。はは。はーっはは。」


 アラクネルが笑い出した。絶望して発狂したか?それ以前にまだ生きてるのか?


「死期を悟ったかい。」


 冷たく見下ろす才華。才華を見上げるアラクネルの顔色がだんだんと蒼白になる。息も絶え絶え。いよいよアラクネルの最後か。


「・・・・・・・だ。」


 ぶつぶつ小声だ呟くアラクネル。小さくて聞こえない。


「からだーーーーーーーーーーー。」


 アラクネルは才華に抱き着いた。才華も動けないと思っていたのか、避けれなかったようだ。


「はな」


 アラクネルは相当な力が入っているのか才華を振りほどけないでいる。


 そして、アラクネルの首裏から肩へと本体が駆けてきた。刀は避けていたのか。本体が離れたことでアラクネルの体から力がなくなるのが分かる。だが体格の差、糸のせいか才華はアラクネルをいまだ振り払えない。


 本体は才華の右腕へ移動そのまま肩へ向かっていく。早い。才華にとりつくつもりか。千歳が駆け出しているが間に合わない。まずい。肩にたどり着いた。


 グシャリッ!!


 才華がアラクネルを頭胸部から噛み潰した。本体の足がブランと垂れ下がる。これがとどめとなった。

口から本体を吐き出す才華。


「不味い。」


 才華は息絶えた本体を見下ろす。


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