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引き金

 千歳はアラクネルの頭部に水を放つ。威力なんかないただ頭を濡らしただけだ。


「ほらほらこっち。そのために左目は残してあげたんだから。」


 アラクネルは残った左目をギロリとさせ千歳に向かっていた。


 混乱状態の子蜘蛛たちを蹴散らしながら、才華、コアは1人目の従業員目のところへ。従業員がこちらに気づいたときには、才華はすでに従業員に触れていた。電気信号を狂わす魔法により、従業員は倒れ、離れた子蜘蛛をコアが踏みつぶした。まず1人。


 俺とコアでその従業員を肩で担ぐ。次は入り口付近の従業員のところへ。才華はすでに従業員の前にいる。

この従業員は才華に襲いかかるが、なにもできず魔法で倒れる。離れた子蜘蛛を才華が踏みつぶす。2人目。


「在人、私ときて。コアはここを少しの間お願い。」


 才華はすでに3人目の方へ走り出す。従業員を1か所にあつめ、俺もそのあとを追う。3人目もあっさり終了。3人目。これで全員。


「このあたりの子蜘蛛減らすから、従業員よろしく。」


 才華の指示に従い、俺は従業員を肩で担ぎコアのもとへ。あとはアラクネルを倒すのみ。


 従業員を運ぶ最中、入り口前で倒れるボトムズの脇を通りががる。どうする?ボトムズも近くに置いとくか?ギルドに引き渡したほうがいいのだろうか?とりあえずは従業員を運んでからと思い、そのまま進もうとしたところで、右足を思いっきり引っ張られ、俺は転倒する。なんだ?俺が足を確認しようとしたところ


 ドスン!


「グフ。」


 体の上になにかが乗る。重い。なんだ。俺が振り返ろうとしたところ、俺の首筋にナイフがあたる。


「う、動くな。ハーハー。」


 この声はボトムズだ。復活したのかよ、このタイミングで。そして、またやってしまった。今日何度目だ?くそ。学習しねえな俺。ほんと足ひっぱて、引っ張られて。っち。


 コア、才華も動きが止まる。アラクネルはこの状況が目に入ってないのか、千歳への攻撃を続けており、千歳はよけながらも視線がときおり、こっちを見ている。ボトムズも千歳までは気にしていないようだ。今はだが。


「ボトムズ。あんた。」


「じゅ、従業員はともかく、こいつは別なんだろ。はーはー。ひひ。」


 才華はボトムズを睨んでだ。その凄みに気圧される。


「う、うご」


「動かないけど、在人が少しでも傷ついたら、あんたを殺す。」


「なら」


「わかっているなら、ナイフの扱い気を付けてよ。意図しないで傷つけても、あんたを殺すから。」


「おい、ア」


「千歳、こっちまで来て。アラクネルも一回止まりな。」


 今日一の殺気を放ち、千歳とアラクネルに向かって叫ぶ才華。アラクネルも千歳も動きが止まる。千歳は無言で才華の横まで移動する。アラクネルはこの状況をやっと理解したのか、口がニヤリとする。


「まず」


「こうでしょう。」


 なぎなたを手放す才華。コア、千歳もそれに続き、ナイフ、刀を地面に投げ捨てる。


「よ」


「要求は?」


「あ」


「早く言ってよ。遅い。と言うか、あんたにそんな権利ないか。そういうのはアラクネルのほうだもんね。あと、ナイフの握り甘くなっているよ。しっかり握ってよ。危ないでしょ。」


 全くボトムズをしゃべらせない才華。ボトムズも辟易し口を閉ざす。主導権が才華にあるようにしか思えん。だがアラクネルはそうはいかない。才華やボトムズを無視して千歳に近づいてく。


「ススッ。」


 冷静さを取り戻したアラクネルを千歳を見据え、笑った。まずいまずい。



 

 のんびり見ている場合じゃない。俺が解放されれば事態は変わる。そうだ。それしかない。俺が体を動かそうとすると


「在人も動かないで。危ないから。」


 才華が俺を制する。これはボトムズやアラクネルが言うことだと思う。


 千歳の前に立ったアラクネル歪んだ笑みを浮かべる。そして、無言で千歳を蹴り飛ばす。


「あっ。」


 何度もバウンドする千歳。今日2度目のアラクネルの蹴り。あの体を支える脚で放つ蹴り。威力の高さは俺らの世界で喰らう、それの比じゃないはず。大丈夫じゃないよな。


「サスサハセリソオセイセ(まずは蹴りのお礼ね)。」


 俺の心配をよそに、千歳は痛がる様子もなく、無言で立ち上がった。平気な訳ない。体の汚れを払って、またアラクネルの前に立つ。アラクネルは喜々とした表情。


 「スシサソウサッササシサ(次はこうだったかしら。)」


 アラクネルは千歳の顔、それも右目を突き刺すように右前脚を構える。その脚を目の前にしながらも千歳は平然としている。その目はアラクネルをまっすぐ見つめている。度胸ありすぎ。その様子を才華は震えるほど両手を握り、歯も食いしばえいながら見ている。


 これはだめだ。いけない。なんとかしないと。俺が。今こそ俺が。はーはー。


「ちょっと待った。アラクネル!」


 腹の底から声を出す。この声に千歳、才華は驚き、視線を俺に向ける。


「サシサソウ(何かよう?)」


 大した興味もなさそうな目線を送るアラクネル。


「いいか、まだ無事な耳でよーく聞けよ。お前がそのまま、千歳の目をその脚で突き刺してみろ。俺はその瞬間、このナイフで自ら首を斬る。」


 俺は自らボトムズが持っているナイフの食い込みを強める。あ、首になんか流れている。血だよな。嫌な触感だ。だが気にするな。震えるな。強がれ。2人なみの度胸を見せろ。


「何言ってん。」


「だめよ。ざい。」


「2人も黙って。」


 声を荒げる才華、千歳を黙らせる。俺の真剣さに2人は口を閉ざす。よーしいい子だね。あとで頭なでたる。


「サシソシサイサセ?(何をしたいわけ?)」


 アラクネルは困惑した表情だ。


「俺がナイフで自害すれば、才華、千歳、コアが無抵抗でいる理由がなくなる。つまり反撃できるってこと。しかも才華、千歳はボトムズとお前が死ぬまで暴走する。従業員、コアへの巻き沿いも気にしない。この洞穴も崩れるだろうね。」


 この言葉を聞き、アラクネルは千歳、才華へ目線をやる。


「サシサシソウサソセ。サセソソセサ?(たしかにそうかもね。だけどそれが?)」


 ここだ押せ。笑え、狂気を見せろ。震えながらでもいい。


「分からないか。この2人が暴走すればまずボトムズは死ぬ。それに続いてお前は死ぬ。半歩ゆずって3人を倒したとしてもその体をは使えなくなるし、子蜘蛛での逃走もできない状況に絶対になる。1歩ゆずってその体が使えるとしても無傷はありえない。そんな体だと、ここへたどりつく傭兵団、この森にいる三つ目犬、火吹き鳥のどれかにお前は無残に殺される。つまり、千歳の目を潰す行為は全滅エンド、勝利者のいないエンドって結果へのスタート合図ってこと。」


 今までの戦いから、この発言を全否定できまい。アラクネルが考え込む。だが深くは考えさせん。


「そんなことないって考えるか?2人についてお前らはどんだけ知っている?たかが数日前からの情報しかないお前らと、10年以上の付き合いのある幼馴染の俺。俺の方が2人については分かっているんだよ。それにこれまでの戦いぶりから予測もつくんだよ。断言できるね。占い師じゃないけど予言できるね。」


 ハッタリって思うか?これは事実だぞ。


「人間の底力、なめんな。人を守ろうとする力、侮んな。実際、それを体験してるんだろ。また繰り返すかい?言わなくても、兵隊よりこの2人の方が数倍強いのはもうわかっているだろ。」


 強気な表情を崩すな。ビビらせろ。悩ませろ。これしか千歳を救う方法が思いつかん。


「全滅への引き金を引いているのは、アラクネル、ボトムズ、才華、千歳、コア、従業員、子蜘蛛のだれでもないからね。俺だから。まぁ長々と説明したけど、今なら全滅だけは避けれるってこと。さっさと決断しな。俺も首が疲れてきたから、このままズバっといっちゃうかもよ。」


 俺の言いたいことは言った。そして、アラクネルも右前脚を降ろした。とりあえずの危機は回避。はあああ。


「あーとりあえず、目を治すで手を打とうか。あ、あと口も、言いたいことは伝わるけど、やっぱりわかりにくいから。」


 アラクネルも特段何も言わない、この提案でいいみたいだ。俺は千歳、才華に目配り。・・・・目は治るのか?まあそこは知らん。さて治療してからどうしょう。


 千歳が近づこうとすると、アラクネルは手を突き出し制する。


「ササササソソシイササイ(あなたはそこにいなさい)。」


 千歳が止まるのを確認すると今度は才華に目線を送るアラクネル。


「ササ(あな)。」


「私の背じゃ届かないから、ここ乗るよ。」


 語りかけてくるアラクネルを全無視し才華は腹部に飛び乗る。うわー。怒ってる怒ってる。


「サ(か)。」


「治るまでしゃべんな。」


 振り向き何か言おうとするアラクネルに対して、両手で口を挟み治療を開始する才華。そのままアラクネルの頭を回して正面を向かす。


 ムッとしながらも黙り込み治療を受けるアラクネル。ただ左目は千歳を捉えているので、どうやら異変を感じたら、溶解液か糸を吐き出すつもりなのだろう。


 ものの数分のうちに才華は手を放す。


「治った。でもふさがりは甘いからあんましゃべるな。あとは自然治癒の方が良い。」


 そして、右目に手を当て治療を開始する。アラクネルは口を何度か動かし、治ったことを実感したのか、笑いが出ている。


「完治はできないのかしら。」


「魔法での治療は緊急的なもの。私たちはこの森でケガをする予定がないから薬なんてもってない。」


 よくよく考えると俺達はゲームでいうアイテムを何も持っていない。医療道具はあるけど、あれを戦闘中に使うのは無理。俺達はお金に困っているわけでもないし、登録者として生計を立てるつもりもないから、高難度のクエストはしてないし、するつもりもなかった。


 故に俺はともかく2人が怪我をすることも想定してなかった。俺が重症を負ったクルンさんのたちとのクエストも難易度自体は低いものだったからあの怪我は想定外。正直楽観視してたかも。これは反省材料だよな。これを切り抜けたらガンソドで薬でも買いに行こう。そのためにはここを切り抜けないと。


「目の治療は遅いわね。」


「当たり前でしょ、口より重症なんだから。それに魔力は尽きかけ。在人からのお願いだけど、あんたの治療だからモチベーション不足なのもある。これ以上は早くできない。」


 アラクネルに対して不平不満を言う才華。


「あと、目も今すぐ全快なんて思わない・・。」


 しゃべっている途中、入り口に一瞬目線を向けた才華。千歳も一瞬目線をこっちというより入り口に向けた。


「でね。」


 アラクネルは千歳が俺を見たと思ったのか気にも留めていない。なんだ?





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