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私たちは通りすがりの

 アラクネルの表情が困惑する。


「なにを言っているのかしら?」


「この天城才華の好きなセリフの一つは自分で強いと思っている奴に「NO」って断ってやる、このセリフ。」


 そこまで言うのかい。セリフのやりとりを知っている俺は唖然とし、うんうん肯く千歳。やりとりの意味分からないがホッとするコアと、ますます困惑するアラクネル。


「いや在人。ここは『さっすが愛しの才華。俺にはできない事を平然と~』ってのを言ってよ。待ってたのに。」


 俺のほうに振り返り、指さす才華。そんなノリの空気じゃないでしょうに。


「いや他に言うべきことあるんじゃないの。」


「ん。そーね。このセリフのあらゆる関係者に『ありがとうございます。』という感謝と『すいませんでした。』と謝罪を。そして、このセリフを言える流れを作ってくれたアラクネル。あんたにも感謝してるよ。」


 深く頭を下げる才華。いやいや。いやま確かに、前者は必要だと思うよ。俺も謝罪するよ。本当にすいませんでした。いやそれよりもね。


「何を言っているのか分からないんだけど。ああ。恐怖でおかしくなったのかしら。しょせんは人ね。」


 アラクネルが心底憐れんだ眼で才華を見る。


「お、本性が見えたよ。あんたさ、人・・・エルフやドワーフなんかも含めて人を見下しているでしょ。」


 割と自然な流れでセリフを言えたせいか、テンションが妙に高い才華。


「・・・・・・ええ。それがなにか?。両手両足しかないドワーフ、エルフや人に対して、6本の脚に両手、糸と酸を出せる私たち。能力の差はあきらかでしょう。」


「できることが多い方が優れているってこと?」


「ええ。そうでしょう。単純に考えても、蜘蛛の能力に人の能力が加わった生物よ。」


「はっ。」


 千歳の問いに当然といった表情で答えるアラクネル。その回答をせせら笑う才華。


「確認したいんだけど、私たちに断られた場合はどうするつもりだったの?」


 のんびりした口調で質問する千歳。アラクネルは千歳へ向き直る。


「それはあなたたちを倒してから、考えるわ。」


「んはっ。そこよそこよ。あんたの考えの浅さはそういうところにでているのよ。自分の計画が絶対にうまくいく。人間が簡単に命乞いする。んなわけないでしょーに。この状況でのプランがないなら私が提案してあげる。今すぐあんたが子蜘蛛とついでにボトムズと逃げるってのはどうよ。それなら私はあえて見逃してやるよ。少なくともこれ以上戦力は減らない。どうよこれ。」


 せせら笑いの才華。あきらかに挑発している。


「逃げる?私が?魔力切れ、体力切れで逃げるを選んだのあなたたちに対して?」


 アラクネルも口調が激しくなっていく。こめかみがピクピク動いてる気がする。


「ここを離れたかったのは、場所がよくないから。この数に対して、広範囲の魔法で蹴散らすのが一番楽なんだけど、それだと天上や壁を崩して在人を巻き込む恐れがあるから。」


 え?そうだったの?千歳の言葉をにわかに信じられない俺。本当かよ?


「そゆこと。私はこれからあんたを倒して、お家に帰り、夕飯、お風呂を済ます。そして、このテンションを維持したまま、明後日の朝まで在人とアンなことをするのよ。」


「そうね。」


 才華の言葉に頷く千歳。ううーん?


「子蜘蛛を取り付けた人がどうなってもいいのかしら。」


 従業員を指さすアラクネル。う、そうだ。


「卑怯なやつ。」


 コアが怒りを見せる。が


「どすうるって、どうするつもりなのさ。」

 

 気にもとめていない才華。


「あなたちが抵抗すれば殺すわ。」


 冷笑を浮かべるアラクネル。そうなるよね。うーん。状況がどんどん悪化している気がする。いや間違いなくしている。だがそれに平然としてるのが才華だった。


「やるならやれば。でもさ、あんたは人を見下しているけど、利便性は認めている。子蜘蛛たちじゃできないことは多いもんね。だから実際のところは捨てがたいんだろ。」


「従業員がいなくなれば私たちは従業員に魔法が当たることを一切気にしなくていいことになるわね。不利になるのはそっちね。」


「本当に従業員を見捨てることができるのかしら?」


 アラクネルが問う。


「私たちはここに入る前、誰かが死ぬもんだとして覚悟を決めている。そして、コアや従業員には悪いけど、在人の命と従業員の命を平等に扱う気は全くないよ。」


「それにあなたは嘘をついている。ここで、私たちが降伏しても、すぐに子蜘蛛で操って在人を殺す。絶対にそんなことをさせないわ。」


 2人の声が冷たい。そしてこれは演技じゃない、本心だ。アラクネルが少し後ずさりした。


「あ、あなたちは従業員を救いにきたんじゃないの?従業員を助けにきた登録者なら手をだしてこれないないはず。ボトムズだって言ってたわ。あなたたち2人はなんなの。」


「私たちにとって一番最悪なのは全滅して、アラクネルの情報も残せないこと。確かに従業員を助けに来たけど、救えないときは救えない。その点はあなたの方が上手だった。ただそれだけ。」


 アラクネルをまっすぐ見つめる千歳。その視線から目をそらし才華をみるアラクネル。


「私たちは通りすがりの吐き気を催す邪悪。私と千歳は在人の命のため、ひいては私たちの幸せのためなら、他者を踏みつぶせる人間なのさ。たとえ意識のない人であっても。」


 今日一の邪悪な笑みを浮かばせる才華。



 

 アラクネルは言葉を失った。完全に想定外だったみたいだ。だろうね。そこへ才華は追い打ちをかける。


「恐怖でおかしくなったのしら?所詮は小さな蜘蛛ね?」


 さきほど聞いたセリフを返す才華。この言葉にピクっと反応したアラクネル。そして一呼吸を入れゆっくり口を開く。


「もう遅いわよ。」


 「もう遅いから。」


 才華とアラクネルの言葉がかぶる。いや才華がかぶらせた。これが合図となった。


アラクネルが口を一瞬閉じ、糸を吐き出す。才華はアラクネルの糸を炎で相殺し、千歳が最前列の子蜘蛛を風というか竜巻地獄で吹き飛ばす。


 交渉は終了し戦闘が始まる。もう突破するか、死ぬしかない。あとは従業員をどうするかだ。従業員は3人で現在のところは立っているだけ。さっきの風の影響はないようだ。まずはあそこまで移動したいところだが、現状は厳しいか。


「もうあんたたちは殺す。私の手でバラバラにする。」


 アラクネルは両手をあわせ糸を出しながら右に薙ぎ払ってくる。


「やらせないよ。」


 才華は両手に対して氷をぶち当て、それを阻止する。痛みで顔が歪み動きがとまるアラクネル。その隙に千歳がアラクネルの顔面をめがけて炎を放つ。アラクネルは千歳の炎を糸で相殺する。2人の魔力、体力切れが気になったがこの数手からその疲れをは見えない。あと蜘蛛女の痛みをアラクネルも感じているのか。


 気になるのは子蜘蛛が動かなかいこと。そしてアラクネルが今動きを止めたこと。そのまま目を閉じ、深呼吸を始めた。


「ふーはー。ふーはー。駄目ね。うん。ダメダメ。怒りのまま行動するのは、前もそうだったわね。」


 それになんの意味があるのかわからないが、いい予感がしない。同じ判断をした千歳、才華、コアがアラクネルを攻撃しようと動き出す。が、それを子蜘蛛たちが糸を吐く飛び掛かるなので阻止する。


 何度かの深呼吸を終えたアラクネルが目を開く。さきほどの怒気はなく、冷静になったみたいだ。


「あらっらら、冷静になった。」


「そうみたいね。」


 千歳と才華も同じ感想を述べる。


「ええ。行動も荒くなるし、子蜘蛛の指示もできなくなってしまう。だから怒りまかせはよくないってのは分かっているんだけどね。まだまだ自制できてないわ。」


 アラクネルが冷静に回答する。


「その体が深呼吸をしているけど、本体もしているのかしら?あと本体からじゃあ私たちの動きなんて見えないわよね。」


「ええ。こうすることが冷静になるからね。あとこの体を通じて音を聞き、動きを見ている、ただ、ダメージを食らった際の痛みもあるわ。」


 千歳の何気ない疑問にも答えるアラクネル。冷静になって有利だってことを思い出したのか。


「さて、さきほどと同じように子蜘蛛に天上から援護してもらいましょう。天上から私が見てないから隙は多いけど、その方が無駄が少なさそうね。」


 舌を出すアラクネル。天上の蜘蛛の巣は数十匹の子蜘蛛がこちらを見下ろしている。子蜘蛛は等間隔に配置しており、援護の死角はなさそうだ。アラクネル周囲の子蜘蛛は壁際に移動した、アラクネルの回避範囲を広げ、尚且つ俺らの壁伝いの移動を防ぐつもりだ。


 これじゃあ正面からアラクネルと対峙するしかない。


「アラクネルに正面からいったら、上と側面から糸の援護が来るわね。上のを排除しようとしたら、アラクネルと側面から。側面に行けばアラクネルと上から。互いに援護しあう配置ね。」


 子蜘蛛の配置をみた千歳の発言。ですか。正面から行くのも罠か。


「なら魔法を全面に撃てば?」


 俺の発言とともに、従業員たちがアラクネルの背後で扇形になる位置へ移動した。?


「広範囲の魔法は従業員に当たる可能性あるね。救助したくても3方向の攻撃をかいくぐらなきゃならない。救えたとしても3人を1か所にまとめないと守れもしない。」 


 コアが冷静に答える。ですか。俺の背負っている従業員のときみたく、先制攻撃もできない。1人1人がバラバラにいるから救出移動を繰り返さなきゃならない。うん。無理。これはもう救助は無理かな。俺にアイディアは浮かばん。


「才華。なんか策は?」


「従業員を助ける術は今のところなし。」


 俺の問いに即答する才華。困った感じより堂々と言っている。まずいまずい。


「まーさっきはあー言ったけど、やるだけのことはしたいから、とりあえず粘ろう。どうやら従業員を人質として交渉するよりも盾として使うみたいだから。広範囲で魔法を使わなければ何かアイディアが浮かぶかも。私も千歳もまだまだ元気だからね。」


「そうね。宣言はしたけど、結論を出すのは早いわね。コアちゃんは大丈夫?これでいい?」


「うん。私は大丈夫。あきらめない。」


 才華と千歳は改めて獲物を構える。コアもそれに続く。とりあえず長期戦か。それしかないか。


「ただ、誰か1人でも危なくなったら、魔法でここを突破するからね。そのときは迷わないでね。」


「わかってる。」


 才華の言葉にコアがうなずく。


「長期戦ねらい?それはさせないわ。」


 アラクネルがニヤリと笑い迫ってくる。















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