才華の回答
~そして、今、ボトムズのことをアラクネルが告白した。
「可能性は初めてボトムズにあったときから。確定はさっき。お墨をあんたが。」
アラクネルを指さし、堂々と嘘を交えて答える才華。この場で嘘をつく意味がわからんが、この度胸は見習いたい。
「なら、なんでボトムスと解放された人を残してきたのかしら。教えてくれる。」
アラクネルが目線を洞穴の入り口に向ける。つられて目を向けると、入り口からボトムスさんがさきほど助けた従業員(生きている人たちだけ)と現れた。うーん。また子蜘蛛をつけられているみたいだ。ボトムスいやボトムズはにやつきながら、先頭の従業員の首元にナイフを向けている。
「苦戦してるんじゃないのか。アラクネル。」
「黙りなさい。」
軽口をたたくボトムズをキッと睨むアラクネル。
俺もこうなるんじゃないかな、って思ってたけど、なんで才華はボトムズをあの場に置いてきたんだ?あの場では口を挟める雰囲気ではなかったけどさ。
「ここに連れてきて、在人を人質に取られる方が困るからね。それにアラクネルがいなくなればボトムズはなにもできないし、しないでしょ。疑われても哀れな被害者のふりをしてればいいんだから。」
「人質を助けられてからの行動で、あなたとの関係も量ったのもあるわ。」
才華と千歳がそれぞれ答える。ですか。それ本当?
「へー。ではこの行動でどう判断するのかしら。」
余裕のあるアラクネルは才華と千歳を見る。元々状況が有利なうえ、人質も戻ったから、相当余裕があるようだ。
「残念です。ボトムズさん。私たちが戻ってくるまで大人しく待っていれば、密告者の証拠らしい証拠なんてなかったのに。」
「もう何を言っても遅いからね。あんたは部下を売り、街を危険に陥れた。自らの意志で私たちと敵対した。」
目を閉じ肩を落とす千歳と冷たい視線を送る才華の回答に対し
「ふん。魔力、体力の切れかかっている。お前らに何ができる。それにこの従業員がどうなってもいいのか?」
ボトムズは従業員の首元にナイフを押しつけた。血が滲んできている。って自分の関係者だろ。
「やめろ!その人達、あんたの部下だろ。」
この状況にコアだけが声をあげる。
「おっさんは何が目的なのさ。」
「金。確かに最初は命乞いだった。わしは死にたくないからな。だがビジネスになることに気付いたんでね。今は共闘関係さ。いや共犯者か?そして、今、目の前にはこの森に金塊を隠しているお嬢さんたちと、名門カタム傭兵団の一員がいる。」
千歳の推測も当たった。分りやすい悪党はいるもんだ。だが、コアについては何を言っているんだ?
「カタム傭兵団の一員であることが、なんか関係あるの?」
「まっとうで凄腕の登録者や国レベルで依頼が来る集団は、裏社会の住人にとって邪魔もの。それで私たちの首にも賞金がかかっているの。とりあえず、団員ってだけでもそれなりの収入になるみたい。団長やガタクンはさらに高いみたいだよ。死体を持っていくのが査定の基準だけど、首やその人の物って特定できる物でもいいみたい。」
俺の質問に対して、コアは苦虫をつぶすような顔で答える。
「でも、それだけだとメリット薄い気がするけど。」
「アラクネルは極論、戦力と食い物があればいいだけだからな。クエストで登録者を罠にかけて賞金なり餌にする。子蜘蛛を使って、女子供を手に入れ売る。従業員には死なない程度の飯をあげればいい。仮に死んでも子蜘蛛でいくらでも変わりは用意できる。死んだほうも餌になる。わしなら上手く回せるのさ。」
俺の言葉に対して、興奮してまくりたてるボトムズ。さらにコアを見て
「お前と森で会ったときは正直わしの行動がばれてたのかと焦った。この森に誰かいたり来たりするのは想定外だったからな。しかも遠目で見たことのある傭兵団の一人。だがお前は子蜘蛛を倒しにいったので、ばれていないの安心したと同時にチャンスだと思った。傭兵団は金になることをわしも知っていたしな。そしてあっさり手に入れることができた。」
コアは歯を食いしばる。ボトムズのしゃべりは止まらない。
「しかも、子蜘蛛を取り付ける前にお前らが森にいることを話した。これは嬉しい誤算だった。この森のどこかに金塊なりを隠しているのは推測してたからな。それにお前ら2人も金になるとも思った。」
ボトムズは卑しい表情で才華と千歳を見る。その視線に対して平然としている2人。ボトムズは気にせずしゃべり続ける。
「そうだ。あのときの狼人のガキ。また一人ぼっちになったらかわいそうだからな、そいつも連れて行ってやる。あいつも売れるぞ。はーはっはははは。」
ボトムズは天を仰ぎ笑った。だがその高笑いが結果命取りとなった。
「もう黙って。」
「黙れよ。」
「おっさん。いい加減にしろ。」
コアはナイフを投げつけ、少し遅れて才華、千歳は魔法で電撃を放つ。ボトムズの右肩にナイフが刺さり、ボトムズは持っていたナイフを落とした。
「ぐおおおー」
叫ぶボトムズ。そこへ才華、千歳の電撃が右肩のナイフに直撃しボトムズは感電した。ナイスコンビネーション。
「ぎばああああああああああああああああああ。」
俺の背負っている女従業員の受けた電撃とはまるで違う威力。ボトムズはその場に倒れこんだ。死んだ?
「ふー。あんたは私達を怒らせた。」
才華はビジッと答える。ありゃ。格好いい。肝心のボトムズは、ピクピク動いているので死んではいない。・・・はず。たぶん。きっと。どっちにしろボトムズはここにきて数分でリタイア。
「あら。容赦ないわね。」
ボトムスが倒れたことに対して興味もないアラクネル。
「ボトムズは役に立ったの?。」
ボトムズからアラクネルに頭を向ける才華。
「追手の動向のリーク。西の森への卵の搬送。ニワトリの肉の搬送。人の手作業という労働力。人間の考え方。結構役に立ったわ。」
アラクネルの回答を聞くと、才華の考えも当たっていることが判明する。
「ふーん。今日の行動について考えたのはボトムス?あんた?」
「ボトムスのアイディアもあるけど情報をもとに私が考えた。西の森から子蜘蛛を襲撃させ、その間にボトムスの荷馬車で私はここを離れるつもりだった。そして、1週間後くらいにこの森に残した子蜘蛛と前の体が森を占拠して、追手と戦ってもらうつもりだったの。ボトムスが言ったのよ。死んだ存在に人は敬意を払っても、注意を払わないってね。目の前で対象が死ねば、これ以上の追跡はない。」
『死んだ存在に注意を払わない』か、確かにそうかも。俺らの前にこの体のアラクネルが現れなければ、俺も全て解決したと思っていた。千歳、才華は子蜘蛛の死体に気付いたけど、何人の人がそれに気付く?コアですら気付いていなかった。あのサイズの子蜘蛛が多数いる状況だったら2人でも気にしなかったかも。
「大分前から計画を立ててたね。」
「ええ。ボトムスによって安全に栄養を確保できることになったからね。ただ、子蜘蛛の数は予定の半分だけど。」
「半分?」
なんらかのアクシデントでもあったのか?
「追手によるこの森の探索が終わったタイミングで私はこの森に戻ってきた。でもなぜか探索がまた行われ始めたのよ。さすがに焦ったわ。そのときはすぐに動けない身体だったからね。」
あー、それは才華の情報だ。あと、そのときにはこの体を産む準備ができていたのか。
「そこで仕方なく、前もって準備しておいた西の森の子蜘蛛を街へ向かわすことにしたの。それでやりすごせたけど、子蜘蛛の数は半分になってしまったわ。」
あのときの子蜘蛛の数を生むのにどんだけ栄養が必要なんだ?それを全部あのニワトリからとったのか?もしそうならニワトリすげーな。
「あのときも結構な子蜘蛛の数だったけど、捨て駒扱いの子蜘蛛がかわいそうじゃないかしら。」
アラクネルの説明に千歳が釘さす。相当数を捨て駒扱いだしな。
「そこは生物としての考え方、生き方の違いね。子蜘蛛たちは、女王のために働き、死ぬことが喜び。実際、前の体についた個体は自ら志願してきた中から選んでいるわ。」
アラクネルが答える。ですか。
「ふーん。で、結局ここに残っている理由は?」
才華は質問を続ける。
「前から情報のあったあなたたちがこの森に入ったからね。ボトムスは金塊が手に入れられるって興奮してたわ。だから、本来1週間後に行動させるつもりだった子蜘蛛を前倒しで行動させて、その混乱のうちにあなたたちを手に入れるつもりだったの。」
「でこの後の予定は?」
「あなたたちを手にいれたら即座に脱出。ここに前の体と、君のバラバラに死体。それにあなたたち2人の服を破いて残しとけば、3人とも食べられて死んだ、ってことになるでしょう。」
「君」の部分で俺を見るアラクネル。ですか。
「ふーん。でこの森を離れてからは?」
「北に他の蜘蛛女の生息地があるから、そこで暮らす。まー子蜘蛛が用意できるまではボトムスから食べ物の提供を受けて、私の体制が整ったら、ボトムスが賞金首の登録者を雇ってそいつを陥れる。それで私は餌、ボトムスは金を手に入れる手筈なのよ。」
はーそうですか。でもパートナーのボトムスはリタイア。この件はどうするつもりなんだ?
「今ならボトムスの代わりをあなたたちが務めても問題ないわ。そうね。君にボトムスの代わりをしてもらいましょう。それでなら生かしてあげる。なに、死体はボトムスでもいいんだから。あなたたちはボトムスより賢いし強いでしょう。」
あっさりボトムスを切り捨てるアラクネル。
「予定変更した今の場合、これからどうするのさ?」
右手を顔に当て少し考え込むアラクネル。
「そうね。あなたたちの服の一部と武器を洞穴の出口とここに少し投げ捨てて、従業員をこの場でばらばらにしましょう。そして、この洞穴を人が入れないように崩す。あなたたちの魔力と魔法なら容易いでしょう。穴を調べるとしても時間はかかる。調べたとしても前の死体や服があれば追及はしないでしょう。それまでに私たちは体制を整えれると思うけど、どうかしら?」
「うーん。そうだーね。ここの技術や考えならあんたの言うとおりになると思うよ。」
「これで、あなたの知りたいことを一通り答えたつもりだけど。」
「そうだね。」
「なら、この状況から強く言わせてもらうけど。私の配下に入りなさい。それしか生き残れないわよ。特に彼が。」
視線を俺に送るアラクネル。
「本当に今配下になればれば、4人とも殺さずに生かしてくるの?」
「もちろん。念のため子蜘蛛はつけるけど。裏切らない限りは操らないわ。」
アラクネルの回答を受け、才華の顔がほほ笑む。その表情を見てアラクネルの表情も柔らかいものになる。
「いいようね。ならよろ」
「だが断る。」
アラクネルの言葉にかぶせて宣言する才華、うわーやった。ここでそれ。顔も濃く凛々しく見える。ええー。いや、かっこいいけどさ。




