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目的

「よくわかったわね。」


 しゃべった!見た目年齢にそった声だが、どこか威圧的に聞こえる。子蜘蛛に操られている蜘蛛女がしゃべったことに俺とコアは驚いたが、千歳、才華は平然としている。予想してた?


「コア。子蜘蛛に操られたらしゃべれるの?」


「それはないはず。叫んだりはするけど、無表情、無言のはず。」


 首を横に振るコア。ならなぜ、目の前の蜘蛛女はしゃべれる?疑問ばかりだ。


「才華はどうなっていると思う?」


「さぁ?思いつくことはあるけど正解は本人に聞こうよ。あー。まずは名前かな?アラクネルでいい?」


 才華は蜘蛛女に軽口をたたく。状況は悪いままなのに大胆というか。


「ええ。そのとおり。」


 蜘蛛女は頷く。アラクネルの子でもなく、第3者の配下でもなくアラクネル本人。じゃあさっき倒したのは?もーなにがなんだから分からん。考えるのやめていいかな。


「へー。その首裏にいるのは子蜘蛛サイズの女王ってことかな。」


「だから他の子蜘蛛とは違うのね。」


 才華と千歳の発言に蜘蛛女いやアラクネルは目が丸くなる。子蜘蛛サイズの女王?俺は気づかなかったぞ。そんなのいるの?俺はコアを見るがコアも顔を横に振る。もう展開についていけん。


「なぜ分かったのかしら。よく見ているわね。」


 アラクネルは髪をめくりあげ、首を見せる。確か首に子蜘蛛がいる。ただ他の子蜘蛛とは毛並みとういうか柄が微妙に違う。禍々しい気もする。そんな蜘蛛女?がいるんだ。


「はっ。騙されてやんの。これまでの経緯と経験から推測してカマかけたんだよーん。」


 してやったりとした顔の才華。千歳はしれっとしている。アラクネルは睨みをきかせるが平然としている2人。なにこの展開。


「・・・・どこまで気付いているのかしら。」


「どこまで答えてくれる?」


 にらみ合う才華とアラクネル。妙な流れになってきた。アラクネルが攻撃をしてこないのはありがたいけど、何を考えているんだ?


「才華。なにがどうなってるの?」


 俺は口をはさむ。


「首の子蜘蛛がアラクネル。子蜘蛛の能力を持った蜘蛛女か、自我が強い子蜘蛛か、子蜘蛛サイズの蜘蛛女か。どれにしてもアラクネルはさっきの蜘蛛女に取りついていた。でも兵隊との闘いでここまで逃げてきて、目の前にいる蜘蛛女を産ませた。アラクネル本人はすぐさま取りついたってかんじかな。」


「カタムさんが言っていた、タフなのもアラクネルが負傷した蜘蛛女を無理やり動かしたから。しゃべれるのも子蜘蛛じゃなく蜘蛛女自らが操っているから。都合のいい解釈かも知れないけどけど、現に目の前にいるからね。」


 才華の説明に千歳の補足が加わる。突然変異の蜘蛛女ってことでいいのかな?突然変異って考えは都合よするかな?でも事実は小説より奇っていうのは幼馴染2人で実感はしている。うーん。


「魔物の突然変異、規格外、亜種とかの考えはありえるでしょ。どうコア?」


「あ、うん。危機、瀕死、悪環境にいる魔物の子から突然変異の個体がたまに生まれるって説があるよ。そして、それらは手強いってのも相場が決まっている。ただ大抵は大きくなったり色違いだったりするんだけど、小さいってのは初めて。」


 才華の質問に頷くコア。でありますか。




「そんなことより。さっきからベラベラしゃべるけど、何が狙いなの。」


 コアがアラクネルにナイフを向け問いただす。


「あなたたちが欲しいのよ。」


 アラクネルは舌を伸ばし、品定めをするように才華、千歳、コアを一瞥する。微妙にエロい。でもそんなことより、欲しい、って何だそれ。俺を見ないってことは俺は不要ってことね。3人に比べればそうだけどさ。


「このまま、あなたたちを殺すのは訳無い。それはあなたたちの方がわかっているんでしょう。でも戦えば私の駒も確実に減る。今までの戦いで戦力は減っているから、その分を補強したいのよ。あなたたちは子蜘蛛数十、百匹分の力を持っている。純粋にほしいのよ。」


 こちらをよく観察している。そして、アラクネルは俺を見る。


「どうかしら。あなたが一言「はい」と言ってくれたら、全員死なずに済むわ。3人には裏切り防止のため子蜘蛛はつけさせてもらうけど、操ったりはしない。あなたもここから遠くにいくなら追いはしない。」


「なんで俺に聞く?」


「戦うとなると、私にとって用のないあなたは間違いなく死ぬからよ。子蜘蛛に3人は糸で捕らえよと命令

しているけど、あなたに関しては倒せとしか命令していない。おなかも空かしたうえ、同胞も殺されてこの子たち、ずいぶん気が立っているから容赦ないわよ。」


 アラクネルの回答を受け3人が俺を見る。この場の皆、俺が真っ先に死ぬと分かっている。そんなの言われなくても、俺だってわかってらぁ。あ、それとも、アラクネルは俺を真っ先に殺すと宣言しているのか。弱いからか?なめられているからか?さてどうしょう。アラクネルの提案だと、3人はとりあえず死ぬことはない。俺も少なくともこの場で死ぬことはない。俺は3人を見る。


「在人。答えちゃだめだよ。」


 才華が俺を釘さす。ムッとするアラクネル。


「そう。仕方ないわね。あなたたちはなるべく死なせないつもりだけど、彼は死ぬわよ。」


 口角をあげ俺を見るアラクネル。空気が一層重くなる。


「早まんないでよ。まだ聞きたいことがあるって・こ・とよ。疑問を全て解決してから契約するのが基本だよ。これは覚えたほうがいいよ、アラクネル。」


 一人空気を読んでいないというか、気にしていない才華は呆れる。空気が緩くなった気がする。俺だけかもしれないけど


「なにを」


「コアちゃんも少し黙ってて。」


 この提案なんて論外と言いたげなコアを千歳が制する。冒険者、登録者、傭兵団の誇りがこの提案を否定するんだろう。だが才華、千歳としては俺の命がかかっているから慎重に話を進めるつもりだ。俺としてもありがたい。話が長くなれば2人の体力も少しは回復したりとかも考える。


「まずあんたの今までや、先の展開、目的などを教えてもらわないと困るよ。この場で生き延びるために軍門に下っても、すぐ全滅、捨て駒扱いなんてまっぴらごめんだからね。ここまであんたたちが少し考えているのはわかったけど、それが偶然だったりもするからね。」


 才華はなぎなたで自分の右肩をポンポン叩いている。じっくり話を聞くつもりのようだ。それがアラクネルにも通じたみたいで、アラクネルは再度を髪をめくり、本体を指さす。


「私は突然変異だとしてもこのサイズだからね、この世界は危険の方が多いのよ。だから私が安心して生きれる領域を作りたいだけ。なにをしてでも。」


「なにをしてでも」の部分に力が入っていた。アラクネルの覚悟と決意が見える。


「なら、生まれた森奥でとりついた蜘蛛女で静かにしてた方がよかったんじゃないの?」


「そうはしたくても、私の生まれた森には登録者、冒険者がひっきりなしに来るんでね。こちらも必死で生き延びてきたの。だから森近くにあった人の集落を襲って、子蜘蛛を生むための栄養を確保したんだけど、それは失敗だったわね。反省したわ。」


 アラクネルの存在が確認された事案のことか。あと、蜘蛛女に取り付くのは何度か行っているのかも。


「反省って?」


「その後、王国の兵隊がその集落にきて、こっちも手負いになったのよ。私は集落の栄養で生れた子蜘蛛たちとこの体で戦力が整ってたと思ったから、傷を負うなんて思いもしなかったわ。己惚れていたのね。」


 才華の質問に答えるアラクネル。今度はロシック王国の兵隊のことか。兵隊を全滅させるのは当たり前、傷を負うことすら想定外だったのか。今の状況はこの件の反省から来ているのか。反省したら強いって困るな。


「なんで生まれた森を捨ててここまで来たのさ。そこで新しい蜘蛛女に取りつけばよかったんじゃないの。」


「遠くまで逃げたほうが見つからないと考えたのよ。実際今日まで見つからなかったし。あと前の体は私が見てきた中でも強い個体だったのよ。正直捨てるのはおしかった。だからここまで必死に走ってきた。食事をしたのは1回だけ、道中にいた狼人の家族だけね。1人逃げられたけど。」


 シクの家族の件か。千歳、才華はなんらかの反応を見せると思ったが、平然としている。


「最初からここでその体を産むことは考えてたの?」


 少し声のトーンが低くなった千歳。平然に見せているだけか。


「ううん。十分な栄養が確保できて、なおかつ安全な場所を見つけるまでは、走り続けるつもりだった。」


 つもりだった?予定を変更したのか。


「でも」


「ボトムズという協力者ができたってことね。」


 千歳と同じく声のトーンが少し低い才華が言葉をかぶらせる。ここでボトムスさんかい。一瞬驚くがアラクネルはすぐ平静に戻る。


「・・・・あなたの言うとおり、ボトムスを襲った私に、『わしならもっといい食べ物を用意するからからわしを見逃せ。』って歪んだ顔で必死に訴えてきたわ。私はそれを無視して糸を浴びせたところで、『こいつらを食べてもいいし、使ってもいいぞ。』って取り巻きの人を指さしたわ。人の便利さもこの件で知ったわ。」


 想像しやすい光景だな。


「それより、いつからボトムスのとことに気づいていたのかしら?」


 アラクネルは興味を持った目をしている。それともこちらを値踏みしているのか?








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