それはそれ
到着と同時に3つの影が飛び出す。無論俺を除く女性3人。やーかっこえーの。絵になるのー。俺の前にはコア、さらにその前に才華と千歳。上かみるとY字型の陣形。俺のうしろには氷のトンネルの出入り口。さむっ。
ここ、つまりおっさんのいるところ、ついでにアラクネルのいるところ。移動方法はコア救出時と同じ。土製プレハブ小屋を内側から吹き飛ばし、それで周囲の蜘蛛も撃破、あとは炎、氷、風の3拍子。違いはそりにコアがいるだけ。俺と才華の間にコアがいるだけ。コアならこの移動方法は平気かなっと思っていたが、
「はやいはやいはやい。やーーーーーーー。こわいこわいこわい。あーーーーーーー。」
コアは悲鳴を上げパニック。正直意外。かわいいところもあるじゃないの。絶叫系は苦手なんだ。この世界にそんな乗り物はないだろうけど。
「コア私に掴まって。」
2回目で慣れたのか、才華は右手をコアの手を握り励ます。たしか手をにぎると安心させる効果があるとかないとか。どっちにしろ才華の行動はたくましいし、かっこいい。
「は、はい。」
涙目なコアは促されるまま、才華の体にがっしり抱きつく。そして、才華に見惚れている。・・・・空気が違う。ハッ、フラグ立った?吊り橋効果?
「出るよ。コアちゃん。いける?」
千歳の言葉に我に返るコア。一旦目を閉じ
「大丈夫。」
力強い言葉とともに目つきが変わっていた。これはこれでかっこいい。
トンネルを抜け、目に入ったもの。まず大量の蜘蛛。こんなにいると気持ち悪い。ひと際大きい蜘蛛がいる。その蜘蛛に対峙する位置におっさん。そのおっさんはボトムスさん。お久しぶり。大蜘蛛とボトムスさんの間にガタイのいい従業員たちだ。従業員は壺を持っている。あと糸の塊を引きずる従業員もいる。なんだ?ボトムスさんだけ驚いた表情をしている。従業員に動揺はないといより、無反応。コアの件から従業員は操られていると。
森の奥は断崖があり開けている。蜘蛛の糸が樹木に絡んでいて、地面には骨やら肉片やら。不気味だ。崖上からなら蜘蛛はこれそうだ。・・・よく見ると断崖に洞穴があり、蜘蛛の出入りが見受けられる。あの中にでもアラクネルでもいるのか。
才華たちの登場にワンテンポ遅れて蜘蛛達が動きだす。才華が本日2度目の
「ダブルサイクロン。」
まず俺らとボトムスさんの間に位置した蜘蛛はねじ切られ、細切れになる。まだ竜巻の余韻が残る中を、才華はボトムスさんに向かっていく。これも絵になりそう。前もって決めた役割として、才華は人の救助。千歳はそのサポート。コアは俺および救助された人の護衛。 俺は全体を見て、指示という応援。正直俺はいないほうがいいんだけど、俺を安全な場所まで移動させる時間がもったいない。才華、千歳は応援した方がプラスになるのでここまで来た。だからがんばれ3人とも。フレフレ才華。フレフレ千歳。フレフレコア。イエーーーー。
俺の応援に関係なく、才華たちが動きだした蜘蛛を切り伏せ、ねじ伏せていく。従業員も動き出した。
「や、ボトムズさん。状況は?」
才華は冷静にボトムスさんの周囲にいた蜘蛛を全滅させる。ただそれじゃあ最低野郎。ボトムスさんは戸惑いながらも
「あ、ああ。従業員に蜘蛛がついて人質になっている。あ、さっきの子は無事か。」
コアを見て意外と冷静に回答してくる。この間に才華は掴み掛ってきた従業員の腕に右手を添え、魔法を放つ。その従業員は倒れ挙動がおかしくなる。従業員が地面にたおれるまでの間に首元にいた蜘蛛をなぎなたの柄で頭を潰した。
「従業員は今いる6人で全員ですか?他に人は?」
次々向かってくる蜘蛛を切り伏せながら千歳は質問する。
「ああ、全部・・・。い、いや違う、もう1人この奥にいる。助けてくれ、礼はする。」
ボトムスは洞穴を指差す。
「りょーかい。従業員の蜘蛛は私が取り除く。ボトムズさんは従業員をトンネルまで運んで。在人もお願い。コアは2人の護衛。今度は油断しないでね。千歳は従業員に蜘蛛近づけさせないで。あの大蜘蛛は基本無視。」
才華が指示をだすと、従業員に走りだす。
「任せて。」
簡易な指示に対し全てを理解し千歳も続く。この間も蜘蛛はドンドン増えてくる。肝心のアラクネルは洞穴の奥か。こっちに来るか?それまでにここの従業員は解放したい。
俺は倒れた従業員を肩で支えながら、トンネル内へ運ぶ。ガタイがいいから重い。だがウダウダ言ってられない。この間に才華は2人から蜘蛛を追い払い、1人をボトムスさんが運んでくる。
「はーはー。これからどうするつもりなんだ。」
ボトムスさんはここまで運ぶだけで汗だくだ。俺も汗がにじんでいるが、負傷故。
「6人はここに運んで、そのあと奥の1人を救いに行くってかんじですかね。」
「そうか。」
話ついでに確認。
「あの2人組は?」
「2人組?あーあの壺の件の奴らか。壺を確認した翌日にいなくなった。」
でありますか。あの2人組は逃げない方が幸せだったのかも。まー正直どうでもいいけど。
この間に、他の従業員も全て倒れていた。才華は最後の一人から蜘蛛を除いたところで、ひと際大きい蜘蛛の方へ体を向けた。殺るつもり?
戦闘に参加しなその蜘蛛は才華と目が合うと、即座に洞穴へ逃げていった。ビビった?といより戦略的撤退だろう。ひと際大きい蜘蛛の撤退とともに周りの蜘蛛も逃げ出した。それこそ蜘蛛の子をちらすみたく。千歳、才華も追うことはしなかった。ま、従業員がいるしな。
森から騒々しさがなくなり、残ったのは倒れた従業員と、無数の蜘蛛の死骸。蜘蛛の増援は来る雰囲気はない。・・・あくまで雰囲気だけどね。俺に具体的な気配は読めん。だが才華、千歳も同じ考えだったらしく、戦闘態勢を解いた。ほっとする。
「・・・3人は死んでる。」
才華が倒れた従業員を見て静かに口にする。確かに倒れた従業員のうち3人からは生きている空気や雰囲気が感じられない。俺でもわかってしまう。千歳、コアも倒れた従業員に目をやる。・・・・っつ。だとしたら、残りの1人も危ないか。
「奥に1人とアラクネルがいるんですね?」
千歳がボトムスさんに尋ねる。止まっている場合ではないと判断し切り替えたか。
「あ、ああ。」
「急ぎましょう。ね、才華。」
千歳が才華を見る。
「うん、そうね。でもその前に。」
才華はうなずく。そして、少し移動して地面に手を触れ、魔法でプレハブ小屋を作る。
「在人、ボトムズさん、コアは倒れた人この中に運んで。私と千歳は少し休憩する。」
ボトムスさんは「ボトムズ」と言われムッとしているが、素直に応じていた。コアは2人を少し心配そうに見るがすぐに従業員のもとへ。才華の口から「休憩」という言葉がでたことに不安を感じたんだろう。こういう状況では口にしないキャラだと思ってるのか。ま、間違いではない。
「大丈夫?」
多少の疲れが見える2人に、俺は声をかける。ここまで大威力の魔法を連続使用。さらに俺の治療で疲れてもおかしくない。2人が戦えないなら引くことも考えなければならない。従業員には悪いが、俺には2人の方が大事。
「うーん、少し疲れたってところ。」
才華は口を尖らす。
「呼吸を整えれば大丈夫。」
千歳は目を閉じている。
「無茶ではない?しんどいなら逃げるのも手だと思うよ。アラクネルもいるんだから。」
「「大丈夫。」」
2人はVサインを出す。
「さっき言ったでしょ。もうケリをつけるって。」
「そうね。」
でありますか。2人の決意は固いようだ。
「ーン。」
微かだが確実に鳴き声が聞こえた。俺はビクっとする。なんの声?才華、千歳、コアの3人は地面に放置されたままの糸の塊に目を向ける。先ほどまで従業員の1人が引き引きずっっていたものだ。もぞもぞ動いている。
「クーン。」
鳴き声はこの中からだ。犬というより、この森だから三つ目犬か。糸の塊の周囲に集まり塊を見下ろす。さてどうしよう。俺が考え込むと、
「ボトムスさん。この中は犬ですね?」
千歳は塊の前にしゃがみ込む。
「ああ、そうだ。アラクネルの餌だ。」
ボトムスさんは汗をぬぐいながら答える。その回答を聞き終わる前には千歳が糸の塊に手を当て、火で糸を溶かしだす。決断が早い。
「少し熱いけど、我慢してね。」
「おいおい、魔物だぞ。」
千歳の行動にボトムスさんは驚き声。ま、普通そういう反応だよな。
「はいはい。ボトムズさんはいいから従業員運んでて。」
才華はボトムスさんを押し出す。ボトムスさんはなにか言いたそうだが、才華の無言のにらみにあっさり引く。その間にみるみる糸は溶け、三つ目犬の姿が見えてくる。動ける状態になるや否やその犬は飛び跳ね、千歳から距離をとる。今まで見た個体よりやや小さい、まだ子犬?また、茶、黒色の毛に覆われている三つ目犬のなかでは目立つ全身真っ黒だ。その三つ目犬は前足、頭部から出血しガクガク震えている。恐らく立っているのもつらいと思う。大した根性だ。
「お、根性あるじゃないの。」
その様子を見て関心している才華。
「うーん。ほらこっちおいで。」
屈んだまま手をこまねく千歳。この状況をはたから見ればほほえましい光景。普通の犬なら。でも目の前にいるには魔物。これいいのか?どうなんだ?コアもやや呆然として2人を見ている。やっぱ普通とは言いがたいのだろう。俺もそう思う。2人にはこれが普通なのか。ここが凡人と天才、チートとの差なのか。犬のほうは警戒を解かず、静かに唸っている。ま、三つ目犬から見たら、人も蜘蛛も敵だよな。逆に2人からみたら三つ目犬は子犬ポジションで敵として見てもいないのか。
「仕方ないなー。」
才華はなぎなたを手放し、三つ目犬に飛びかかる。ポーズが一瞬ルパンダイブだった気がするのは目の錯覚か?三つ目犬は負傷のせいか反応が遅れ、才華に後ろから抱き込まれる。口、前脚を両腕で挟み込まれ、後ろ足も才華の足で抑えられた三つ目犬。才華の腕の中でブンブンと暴れ逃げ出そうとする。牙や爪はあるので正直ハラハラしてその様子を見る俺。だが才華は意にも介していない。むしろ犬の抱き心地に癒されている気がする。顔がほころんできている。
「そのまま押さえておいて。」
すぐさま、千歳は頭を治療する。みるみるうちに負傷が治っていく。野生の強さか。俺より治りが早い気がする。だんだん犬の暴れが弱まり、唸り声はなくなる。
「在人、けっこう抱き心地いいよ。」
千歳が足の治療に移行するとともに犬に頬ずりしながら、にやけた顔をする才華。ですか。確かに毛はふさふさしているが。
「はい、終わり。よく我慢しました。」
千歳は立ち上がり犬の頭をなでる。犬は黙って千歳を見ている。
「ほら、仲間のもとにいきな。ここはアラクネルがいるんだから、逃げなきゃ。」
才華は名残惜しそうな表情で体を離す。犬はこちらから距離を取り、無言で才華、千歳を見て、振り返り森の奥へ消えていった。才華は手を振っている。千歳もじっと見ていた。
「あのさ、今度あの犬に襲われたらどうするつもり?子供だけど魔物だよ。」
黙って様子を見ていたコアが2人を伺う。そうなんだよね。俺もそこが気になるんだよ。
「立ちはだかる敵は皆殺しがモットーの私は、敵対するなら容赦しないよ。もし在人を傷つけたらバラバラにする。」
才華はなぎなたを手にとる。
「じゃあなんで治したの?」
「だって、今は敵対してたわけじゃないからね。『それはそれ。これはこれ。』ってやつね。」
あっさり答える才華。ただ、『それはそれ。これはこれ』のとき目に力が入っていたのを俺は見逃さない。
「この森は三つ目犬や火吹き鳥のテリトリーで人の出入りは本来ないって聞いたわ。それを鳥も犬も把握しているってこともね。だから、犬たちからしたら私たちが侵入者でしょ。襲ってくるのは仕方ないわ。そこでやられるつもりはないけどね。」
千歳も立ち上がる。
「できたらあの子とは会いたくないけどね。会ったときはそのとき考える。」
少し微笑む千歳。
「ま、済んだことは忘れて、次に備えよ。ほらほら、コアも在人も従業員を運んで運んで。」
才華が促すのでコアも俺も従業員を運びだす。才華は元気が回復したみたいだ。犬のおかげとみるべきか。千歳は魔力の分がどうなるか。




