死後転移は本当にあったんだ。
夢の態度がいい加減、嫌になってきた。このドッキリはもういいだろう。終わらせよ。
「もう話はいいよ。」
「では、記憶や技術知識をもって転生します?それとも死ぬ直前の肉体で転移します?または年齢を前後させます?」
淡々と説明するエルドラさん。いや、聞いてる?俺はガクッとする。
「そうじゃなくて。」
「それとも、願いにします?」
淡々とこちらの様子を見て伺うエルドラさん。いやそうじゃあない。
「あーエルドラ、落ちこぼれにはもったいない気がしてきた。だからやっぱやめ。」
・・・終わらせようと思ったが、追及して夢を困らせてみるか。はっきり言って俺もイラっとしている。ドッキリとわかっているけど、やられっぱなしはむかつく。
「ずいぶん勝手な話だな。」
「ゆえに神。それが神。だから神。」
困りも、悪びれもしない夢。その口元がせせら笑う。この女神の設定のはろくでもない。相手が俺だからか?ドッキリと知ってても、その顔にハラが立つ。
「本当は願いを叶えるなんて、出来ないんだろ。ドッキリだって分かっているだよ。」
核心をついてみる。天城家の財力なら現実的なことはできるんだろうが。無理なことはあるだろう。
「はぁー?」
顔が氷つき、声のトーンが下がる。空気が冷たくなった。ただの演技ではないなこれ。ここまで想定して仕込んだのか。逆にすげーな。
「たかが人間が何を言っているの。凡人が何を言っているの。落ちこぼれが何を言っているの。」
声のトーンが一気に上がる。声のテンションとは逆に目は冷たい。すぐにでも殺されそうだ。見たことのない夢の怒り方。夢は立ち上がる。そして、右手を天にかざすと、槍が下りてきた。その槍は神々しい輝きがあった。どっちも芸が細かい。
夢は槍を手に取った次の瞬間にはその槍を俺に投げつけてきた。
サクっ。
槍は俺の足元に突き刺さる。あぶねー。ここまで仕込むか?やりすぎだ。槍とやりをかけたつもりはないけどそんなことを思う。
「ゼフォン様、たかが人間の発言にそこまで気を荒げる必要はありません。」
夢の怒りに動じず、淡々と話すエルドラさんは左手を伸ばしていた。。どうやらエルドラさんが左手で槍を叩き落してくれたみたいだ。それで足元に刺さったのか。それがなければ俺は串刺しだ。まじで殺す気か。また治療コースだぞ。
「・・・・そうね。今までの英雄、有能、可能性に満ちた人間とは違って、落ちこぼれだもんね。」
落着きを取り戻し、人を見下す顔に戻る夢は椅子に座りなおす。
「そのとおりです。」
淡々と同意するエルドラさん。なにげに酷い。
「脱線しましたが、転移に当たって、何か1つ願いはありますか。」
何事もなかったように淡々と説明するエルドラさん。これはこれですごい。願いは1つか。
「落ちこぼれには1つじゃ足りないでしょ。10個にサービスしようか?」
ニヤニヤして見下ろす夢。俺が10の願いを考える様をどこから録画しているのだろう。そしてそのシーンを流すんだろう。
「よろしいのですか?」
淡々と夢を伺うエルドラさん。
「ゆえに神。それが神。だから神。」
調子よく言う夢。千歳と才華にとって神はこうゆうイメージなのか。
「ちなみに今までどんな願いを叶えたんです。例えばサイヤ人を追い返せるんですか?人造人間を人に戻せるんですか?」
俺の中の思いついた例えを出してみる。
「仰っている意味は分かりませんが、そうですね。残された家族へ夢の中で別れを告げた方。残された家族、友人等へのささやかな幸せを望んだ方。争いを起きる間隔の長期化を望んだ方。などです。」
首を少し捻るも淡々と話すエルドラさん。例えを無視というより本当に知らない感じだった。漫画やアニメに興味ない人なのかな?そして、願いの内容が英雄的というか、なんか欲を感じない。
「落ちこぼれはどうせ、圧倒的な力がほしい。都合のいい能力がほしい。役に立つ人望がほしい。使いきれない金がほしい。輝かしい未来がほしい。他者を見下せる地位がほしい。最強の武器がほしい。絶対服従する美女がほしい。誰もがうらやむ幸せがほしい。ってとこでしょ。あら1つ余ったわね。」
指を折りながら願いを数える夢。・・・願いは否定はできんけど。先ほどの例を聞いたら、頼みずらいだろ。この葛藤も笑うネタか。
「ないものが多いと大変ね。」
哀れみの目で止めをさす夢。ないのは事実だが、わざわざ言わないでもいい。
「本当に10の願いを叶えるのですか?」
淡々と質問するエルドラさん。
「そーね。私に勝負で勝てたらそうしようかしら。うん。そうしましょう。ふふ、面白そうだし。あ、思い上がらないでね、結果は分かっているんだから。」
何かをイメージし楽しそうな夢。ようは神を相手に死に物狂いで挑む俺を見て楽しみたいのか。そして、俺の勝ち負けに関係なく、「願いはかないませんよー。夢見すぎー。」って才華、千歳の2人が出てくるのか。必死こいた俺を笑いに。
「・・・俺が勝てば、願いは10個。負ければ?」
「もちろん願いは0ね。どうせなら転移もなしにしようかなって思ったけど、そこは勘弁してあげる。私って寛大ね。」
至る結果が分かっているから余裕の夢。負けることも考えていないようでもある。
「勝敗の判定は誰が?」
「エルドラにしてもらうわ。神と人だけどそこは公平にしてあげる。結果には従うわ。」
神と人は判定も不平等であるもと言っている夢。ろくでもない存在だな。
「承りました。」
淡々と頭を下げ了承するエルドラさん。
「で勝負の内容は?」
「1回勝負で私の問題に答える。回答権は1回、それだけね。答えるまでの時間は10分あげる。」
俺の悩む状況を10分も見れば満足ってことかい。ない知識、知恵を振り絞る俺が見たい。結局答えが分からず、絶望している俺が見たい。ってところか。このドSどもが。なら即答してやる。
「そうかい、今、勝負を辞めるならやめてもいいよ。どうする?」
「まさか。それにその提案は私からするものでしょう。」
負けるなんて微塵も思っていない夢。神と人の戦いの結果も決まっている。と言いたげだ。本物の神ならな。
「あー。そうかも。」
「そうゆうこと。では始めましょう。」
もうこのドッキリも終わりだ。長かった。さて問題は?恐らく微妙に知ってて知らなそうなギリギリのラインを狙っているはず。専門的なのは攻めてこないだろう。
「私の胸にほくろは何個ある?左右正確に」
「4つ。右に3つ、左に1つ。」
夢のバカまるだしな質問に即答する俺。問題から解答までの間は1秒もあるまい。
「え?」
人を見下していた夢の表情がポカンとする。開いた口が閉じない。間抜け面がすごい。
「正解です。」
驚くこともなく、淡々と答えるエルドラさん。
「ななななななななななななななななななななななななななななななななななななななななななななななななななな、なんで、なんで、なんでー。なんで知っているのあんた。エルドラならともかく、死んだばかりのあんたがなんでーーーーーー。しかも左右の数まであってる。なんで、なんで。」
バカみたいに取り乱す夢。取り乱しすぎて「あんた」呼ばわり。さっきまでの余裕はどこさいった。
俺の名誉を守るため説明するなら、子供のころ一緒にお風呂には入ったがほくろの数を気にしたことはない。この情報源は言わずもなが、酒酔い状態の才華と千歳だ。ほくろのある場所での占いとかを話していたはず、それで記憶にあった。
「人間が神の思考を呼んだ?それとも透視した?まさか。そんな能力こいつにはない。偶然?だとしても、左右の数まで合う?なんで。あんた何をしたの、答えなさい。」
どうやら正解を答えるのは想定外みたいだ。だろうね。俺もそう思う。とりあえず、この状況でも神の演技をしていることがすごい。
「答え方からして、知っているふうでしたね」
夢とは対照的に淡々と話すエルドラさん。それでもすこし不思議そうだ。
「まー、千歳や才華に教えてもらったことある。よくこんな問題にしたね。」
俺はありのままを答える。問題の内容が2人にしては抜けている気がする。それとも覚えていた俺がおかしいか。だってさ、その話をした2人が、「私のも数えて。」って言いながら服を脱ごうとしたんだぜ。全力で止めたけど。そんな記憶に残ることしたら否応なく憶えるっての。2人とも酔っていたから忘れてたのか?
「チトセ?サイカ?」
誰って顔の夢。まだドッキリ続けるの?
「一緒に行動している登録者ですね。」
淡々と答えるエルドラさん。まーそれもそうだ。
「なんで、その2人が知っているのよ。なんなのその2人。」
動揺を隠せない夢。
「もういいんじゃない、このドッキリ。才華も千歳もでてこいよ。夢が困っているぞ。」
ラチが明かない気がした俺は周囲を見渡す。が2人は出てこない。俺の困る姿は見たくても夢を困らせることはしない2人なんだけどなー。2人も想定外で驚いているのか。だったら面白い。ははっ。
「さっきも言ってたけど、ユメって誰よ。あとドッキリって何それ。あーもー面倒くさい。一から説明しなさい。刺されたくないなら。」
夢は立ち上がり、先ほどから地面に刺さった槍の方に手を伸ばす。すると槍が地面から抜け、夢の手元に回転しながら戻り、それを夢が両手で受けとる。・・・・どうなっているんだこれ?ワイヤー?
「早く答えなさい。」
夢は槍を俺の顔前に向ける。あぶねーな。あーもう。
「ゼフォン役を演じている人多夢はこの俺、人多在人の正真正銘の妹だろ。で。俺がナイフで刺されて気絶したから治療した。それで目覚めるタイミングで、死後転移できるぜ。って演じているんだろ。装置の試作2号機も完成したから、それで違う世界に行くって算段なんだろ。願いは叶いませんよってするつもりなんだろ。俺が問題に悩んでいる姿を楽しむつもりだったんだろ。分かんないのはエルドラさんの正体だけだよ。いや、屋敷のメイドかなとは思うけどさ。カメラはどこさ。このストーリを千歳や才華が仕組んだだろう。いい加減出てこいよ。」
俺の理解している状況を大声で話す。なんかバカ臭いけど、これで正解だろ。だが2人は出てこない。
「あんたがいい加減にしなさいよ。私があんたの妹?バカじゃないの。女神役?女神そのものよ。気絶?死んだって言ったでしょ。装置?なにそれ?願いはかなえるわよ。あんたの悩んでいる姿は楽しむつもりだったけどさ。どっちにしろ、あんた何も理解していないじゃない。エルドラの正体?エルドラ見せつけないさい。」
逆切れ気味の夢。お前が何を言っているんだ?翼?剣?
「承知しました。」
興奮している俺らと違い淡々と話すエルドラさん。そんなエルドラさんの背中から翼が生えた。そうまさに天使のような翼が。そして、羽ばたきはしないが翼が若干発光し浮かびあがる。ワイヤーなんてない。魔法か?さらにエルドラさんが左手を前の伸ばすと、何もない空間から、剣が現れる。さも当たり前に掴むエルドラさん。翼にしろ剣にしろ、いやエルドラさん自体に、作り物ではない神々しさがある。この感じ方は俺のいた世界ではない。シクたちの世界?少し見惚れる。もう少し上までいったらスカートな・・・いやそれどころじゃない。
「はーーーーー。えーーーーーと。エルドラさんって何者?」
「天使って言ったじゃない。」
俺の改めた質問に夢が呆れて答える。へ?
「じゃあ、夢は?」
「ユメという方ではなく、争いの女神ゼフォン。魂の転移を行い、願いを叶える力を持つ神。私の主。」
「じゃあここは。」
「死者の魂が集まる場所に1つです。」
「じゃあ、俺は。」
「死んでいます。」
翼や剣を消し、地面に戻るエルドラさんが淡々と答える。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ。死んだ。いやー、ま、そうだよな、あんなに刺されたら。まじでか。いや。どうしよう、あ、どうしようもない。」
俺は理解した。真実を。現状を。俺は何も理解していなかったってことを。ドッキリじゃなかったってことを。あーーーーーーーーなんか恥ずかすいーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。
俺は夢、いや女神ゼフォンを見る。取り乱した俺に驚いたようだ。どう見ても外見は夢。声も夢。違いは性格か。今までの態度が演技、設定じゃあないなら、性格は良くない。良子さん、千佳さん、沙緒里さんに続いて、ここで夢そっくりな人か。いや神か。気付くか。どんな確率よ。見えない範囲まで一緒かよ。
「あーゼフォン・・・さん。」
はっきり言って、今更、様付けはできない。呼び捨てもしづらい。さん付けでいく。
「なによ、落ちこぼれ。」
呆れ顔のゼフォン。落ち着いたのか、「落ちこぼれ」に戻っている。
「俺は死んで、違う世界に行くってことでよろしいので?」
「そうよ。理解遅すぎ。過去最低記録ね。ここまで落ちこぼれとは思わなかったわ。流石私。英雄だけじゃない、落ちこぼれを見る才もある。うーん。」
愉悦に浸っているゼフォン。はっ。
「で。死んだことは実感してきた?」
ですか。死後転移って本当にあったんだ。はー。死んだ実感が湧いてきた気がする。・・・・嘘。今だないです。
「妹と同じ顔に、この状況を言われても信じるわけがない。嘘だと思うのが人間。少なくとも俺。」
「ふーん。まー私と同じ顔の妹がいるなんて、落ちこぼれ唯一の自慢ね。それでほくろの数がわかったのね。ちっ。」
神の舌打ちって。おいおい。こんなんでも女神なのかい。そうだ勝負の件は?
「あ、願いは10個のまま?」
「そ、それは。ええーそうよ、そうよ。落ちこぼれは欲深いわね。」
こんな女神でも矜持はあるのだろう。しぶしぶながら認めていた。うーん、ラッキー。
「ではどうしますか。」
俺の取り乱しにも動じずにいたエルドラさんは淡々と聞いてくる。
「どうしましょう。」
願い10個に、どう転移する、それとも転生?あと死んだ事実に。
・・・そうか死んだのか。才華、千歳はどうなっているんだ。コアは?無事なのか?
「願いとは別に確認したいんですけど、俺が死んだとき、死んだのは俺だけですか?」
「状況確認に願いを使わないのは、凡人ね。まーそれくらい答えるけど、あんただけね。」
面倒そうに答える夢、もといゼフォン。答えてくれるなら、凡人のくくりいらないよな。おい。
そうか、少なくとも皆生きているのか。アラクネルはどうなっている?ミタキの街は?シクはまた泣くかな。才華、千歳は大丈夫じゃないよな。コアはどうなったのかな。・・・・そうか死んだんだなー。やっと実感してきた。うん。
あー俺らの世界に戻ったら、良子さんに2人も怒られるか。もう装置も使えないか。そうなるとシクも1人か。夢も1人か。やっちまったなー。うーん死んだけど、死んでいる場合じゃないな。なんとかならんか。
・・・・いったん元の世界で生き返らせてもらって、寿命で死んだら転移って願いにしてみるか。ダメかな?ダメ元で言ってみるか。先人とは違い我欲まみれだが。落ちこぼれらしいって言われるだろうが、まぁいいや。
「あのー。いったん元の世界で生き返らせてもらって、次に死んだら転移か転生って願いは問題ないですか?」
「はい。1つ目ー。」
あっさり答えるゼフォン。適当だな。おい。いいんかい。・・・どうせ直ぐ死ぬって思っているんだろうか。それともなんでもいいから叶えるつもりなのか?
「こちらとしては、最終的に違う世界に行ってもらえればよろしいので。」
俺の疑問に対し淡々と答えるエルドラさん。でありますか。
「そうゆうこと。」
適当に答えるゼフォン。その答えと共に体が光だす。あれ、もう生き返るの?いやそれにするってまだ答えてない。あとほかの願いについてまだ何も答えてないのに。せっかちすぎるだろ。おい。
「早速生き返るんですか。」
「いえ、まだです。」
初めて驚くエルドラさん。え?どうゆうこと?じゃあ俺は今どうなっているの?
「あんた、ちょ」
全身が光に包まれ、2人の姿が見えなくなる。




