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死後ドッキリ

 首もとから血が噴き出る俺に対して、コアはナイフで心臓を貫こうとする。容赦がない。だが異変に気づき、駆け寄っていた才華が


「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。」


 言葉にならない何かを叫びながら俺をなぎなたの柄で押し飛ばそうとする。が、それも間に合わずナイフは俺の胸にまっすぐ突き刺さる。そのまま胸から血を噴き出て倒れこむ俺。才華は柄でそのままコアに追撃していくが、コアは後方に飛ぶ。


 だが才華は一瞬でその間合いを詰め、間髪入れずコアの体に触れ何らかの魔法を放つ。その途端コアはその場に倒れこむ。コアは立ち上がろうとしているのだろうが、右手を上げたり、舌を出したり、意味不明な行動をしている。どうやら、例の魔法を使ったみたいだ。


 これにより、コアの首筋にいた子蜘蛛はコアから離れ、即座になぎなたで串刺しにされたけど。とりあえず、これでコアは無事だろう。よかったよかった。




 ・・・・俺はこの状況を見てた。幽体離脱して森の上空から。・・・ではなく黒い空間、部屋?でスクリーンみたいに映し出された映像を。


 気づいたら俺は黒い部屋に横わたっていた。黒いといっても、真っ暗ではなく俺の体は見える。俺の体に先ほど刺された傷はなく、痛みもない。服も穴や血はない。脳内イメージでもなさそうだ。あるブラックホール製のブラックホールの中かなと思う俺。違うよなー。


 ダメ脳で考えると、死後の世界?あるんだ。黄泉比良坂からの地獄かナッシングのどっちかじゃないのか。それともこの世界は死んだらこんなところに来るのか?うーん。そうこう考えていたら先ほどの映像が現れたのだ。


「状況理解したー?」


 後方より女の声。ビクっとし後ろを振り返る俺。だが誰もいない。こえーよ。心臓に悪い。気のせいではないのだがどこからだ。


「はーーーーーーい。死んだけど元気かーい。この凡人!」


 黒い空間の一か所にスポットライト?が当たり、誰が聞いても人を馬鹿にしたしゃべり方の女性が登場する。ド派手に飾られた椅子に座り、偉そうに踏ん反りながらこちらを見下ろす女性。派手な赤色ベアトップワンピースみたいな服。右手にはこれまた赤い扇をもっている。顔は・・・。明かりが強すぎて顔が見えん。目がチカチカする。女性の両隣には垂れ幕があるがこっちは足元からのライトで模様は見えん。


 俺が目を凝らしてみていると、明かりが少し落ち、女性の顔がじょじょにはっきりしてくる。人を馬鹿にした話し方に、ど派手な衣装を着た女性の顔は見慣れたものだった。そう千歳や才華並みに。その顔を見て俺は一言。


「なにやってんだ、夢?」


 女性は妹の夢だった。どうりで聞いたことのある声だ。これで俺は全て悟った。死んだって夢は言っていた。つまりこの状況は死後の世界。・・・・・に見せかけたドッキリか。


 俺はナイフの怪我で気絶し、医療技術および魔法で治療された。だから体に傷あとがない。そして、目覚めるまでの間に俺らの世界まで運ばれた。最近の医学の勉強で目覚めるタイミングを予想し、ここは目覚めた際のドッキリのための部屋か。この黒い部屋や映像も才華なら用意できる。ドッキリ、いたずらに夢が協力していたことは何度もある。うん。隙あればイタズラをする才華。辻褄があう。たしかに後ろから声をかけられたときはびっくりしたけど。まーそのコントには多少付き合うとして。さて俺は、どれくらい寝てたんだ。


「夢、俺は何日寝てたんだ?あと、その恰好派手すぎる。」


「・・・あんた、何もわかってないのね。」


 『あんた』って。いやその前の『凡人』もだけど、ずいぶんイラっとさせるな。そういう設定なのか。


「凡人さ、後ろのこれ読めないの?」


 俺がイラッときているのことを気にしていないのか、構わず夢は後ろの垂れ幕を扇で指さす。垂れ幕も先ほどまでライトでよく見えんかっただろ。とりあえず、垂れ幕に目をやる。


 夢の右隣には『君は選ばれました。この私に←』と書かれた垂れ幕。夢のことを指す「私」の部分に力が入りすぎている。左隣には『私は女神。敬いなさい。ひれ伏せなさい。』と書かれた垂れ幕。こっちは「女神」の部分に力が入りすぎている。どっちの垂れ幕もこれまたド派手。


「選ばれた」に「女神」。とりあえず、自己主張つえーな、おい。ってことは理解した。バカらしくて力が抜ける。


「おーい。凡人が間抜け面さらしても誰も喜ばないわよ。」


 相変わらず人を馬鹿にしたしゃべり方。凡人も否定しないし、間抜け面も否定しないけど。設定とはいえイライラが募る。


「もしかして、いまだに状況わかってない?はーこれだから凡人は。」


 やれやれと呆れたポーズをとる夢。いい加減「凡人」はやめろ。


「まず、私はユメじゃない。人?誰よそれ。」


「はぁ。」


 ずいぶん凝った設定のドッキリなのか。名前まで用意したのかい。俺は周囲を見て、カメラがないか探す。芸能人でもないのに、ここまで手を入こめるのか。まー才華だからで片付くんだけど。


「いい加減ドッキリはいいんだけど。」


「?意味わからないこと言わないで、凡人。そしてこっちを見なさい。」


 夢はしょうもないものを見る目で俺を見る。らちが明かん。はーもう少し付き合うか。


「あーあなたは誰ですか。」


 片言で聞く俺。


「これ見ても分かんないの?だったら、凡人じゃなくて落ちこぼれね。」


 垂れ幕を再度指差し、馬鹿にした目で俺を見下ろす夢。口元を扇で隠しているが、その口は歪んでいるだろう。


「あー女神ってことはわかったけど。1から説明求む。落ちこぼれに理解できるように、できるならだけど。」


 こっちも少し挑発する。どこまで凝った設定なのか。


「たっくもー。落ちこぼれは面倒ねー。エルドラお願いね。」


 椅子に座ったまま夢が右手を上げると


「はい。ゼフォン様。」


 垂れ幕の後ろから黒いヴェールだったけ?とりあえず、目や鼻が網目の布つきで隠され、黒色のシスターっぽい恰好の女性が出てくる。その服にはところどころ赤線が通っている。黒と白ってイメージなのは漫画の見すぎか?姿勢から尊大かつ馬鹿さのにじみ出る夢とは違い、謙虚、誠実さがにじみ出ている。誰だろう?


「エルドラと申します。お見知りおきを。」

 

 キャスト名エルドラさんは両手を前で組んだ状態で頭を下げる。俺もつられて頭を下げる。


「そして、こちらのお方は争いの女神ゼフォン。私がお仕えし、この空間の主でもあります。」


「そーそー。敬ったり、跪いたりしてもいいのよ。むしろそうするべきね。今すぐしなさい。」


 鼻高状態の夢をスルー。するかボケ。夢に女神役ですか。はっ。しかも争いって物騒な女神だな。


「はー。そういう設定ですか。女神ですか。神ですか。じゃあ、エルドラさんは天使ってとこですか。」


「その考えで差支えないです。そのまま続けますが、まず、あなたは死んでおります。原因はわかりますね」


 さっくり俺の状態を説明するエルドラさん。あーそうですか。そこはそうだよなー。ナイフで4箇所刺され、首に一閃。とどめに心臓だもんなー。映像で見てもまさに血の海地獄だったよなー。よくあの映像作ったなー。そこそこ時間かかりそうだけど。どっちにしろあれじゃあ、俺は死ぬよなー。誰でも死ぬよなー。


「ですか。いやまー。はい。」


「大丈夫ですか?」


 淡々とこちらを心配するそぶりを見せるエルドラさん。表情はいまいち読み取れない。まー取り乱すところだよなー。普通なら。ドッキリじゃないなら。


「えー。まー。思ったよりは冷静ですね。自分でもそう思います。」


「つまんなーい。もっと取り乱すと思ったのに。」


 座ったまま足をばたつかせ、口を尖らす夢。ドッキリじゃなければそうなると思うよ。もっと神らしい威厳を保つべきなのでは?まー神なんてあったことないし、信じてもいないけど。


「ここは?」


「ここは死者の魂が集まり、輪廻転生へ至る入口の1つとなります。」


 ほー。さいですか。入口の1つってことは


「入口は複数あるというわけですか?」


「そのとおりです。ほとんどの魂は元いた世界での転生へと至ります。ですがあなたのように女神様によって選ばれた魂が集う場所もあり、ここもその1つとなります。」


 とりあえず、選ばれたねー。俺が?なんで?そしてどうなる?ってしてればいいのか。あとまた1つと言っているから


「選ぶ女神は複数いるってことですか?」


「はい。ゼフォン様以外にも女神はおります。ゼフォン様は現在この世界を含め、6つの世界を担当しており、皆複数の世界を担当しています。」


「落ちこぼれにも私のすごさ分かった?」


 ドヤ顔で見下ろす夢。はー。才華や千歳も女神の恰好でもしてるのか?そんなことより世界の基準がわからん。宇宙レベル?1つの星?6つは多いのか少ないのかも分からん。突っ込みは面倒だからパスだけど。


「選ばれた魂はどうなるんですか?」


「違う世界で生きてもらいます。」


 淡々と答えるエルドラさん。・・・そうか俺が寝ている間に装置の試作2号機を完成させたから、それを使って新しい異世界へ行くぞってことか。そのための死後世界の設定か。


「落ちこぼれは直ぐ死にそうだけど。」


 また口元を扇で隠し、冷やかてくる夢。うるせー。だまれ。では話に乗っていろいろ聞くか。


「転生?転移?」


「特に決まりはありません。ある程度の要求には応じます。」


 淡々と答えるエルドラさん。転生は無理だ。ようするに装置での転移と特定されないためのブラフか。


「その権利を挙げることに感謝しなさい。」


 胸をはる夢。うるせー。だまれ。


「記憶や能力は?」


「引き継ぐことも可能です。」


 淡々と答えるエルドラさん。よくあるパターンだ。


「落ちこぼれの技術はないも同然でしょ。ぷぷ。」


 とうとう口を押えて笑いを堪える夢。うるせー。だまれ。


「なにをすればいいいので?」


「何もありません。自分の思ったままに生きてください。」


 淡々と答えるエルドラさん。違う世界にいったところで、千歳と才華に振り回されるだけなんだけど。あ、シクも連れて行ったりするつもりかな。それはあるかも。


「何もできないでしょ。」


 ニヤニヤする夢。うるせー。だまれ。


「なんのため違う世界に?」


「バランスをとる切っ掛けになれば。」


 淡々と答えるエルドラさん。なんじゃそりゃ?


「落ちこぼれは死んだら、切っ掛けになるかも。いやないか。」


 少し考え込むも鼻で笑う夢。うるせー。だまれ。


「バランスって?」


「ゼフォン様は争いを司る神。1つの世界で争いが続いていれば、終わらせる切っ掛けをつくり。久しく争いのない世界では起きえる切っ掛けとつくります。その手段の一つとして違う世界の死者を送る時もあるのです。ただ先ほど申し上げたように、転移しても率先してそのための行動をしてもらう必要はありません。その世界で自由に生きてもらいます。ですが争いを起こすにしろ、終わらせるにしろ、ゼフォン様の選んだ人はその切っ掛けとなりえることが多いです。」


 淡々と答えるエルドラさん。細かい設定だ。争いの終わる世界からしたら女神だが、平穏な世界からしたら悪魔だな。まーこれは人間目線での考え方か。どういうつもりでこんな設定の女神にしたんだか。


「ふふ。」


 冷たい目で笑う夢。自分の目が確かだといいたいのだろうか。それとも争いを起こすことを楽しんでいるのか。そういう演技としては上手いが。


「はー。争いって戦争とかですか?」


「その場合もありますが、種の保存をかけたもの。名誉をかけた戦い。1対1の殺し合い。子供のケンカ。世論との闘い。商品の売り上げ。なんらかの大会。口論なども含めます。生物の争い全てを司るのがゼフォン様です。」


 淡々と答えるエルドラさん。大雑把なのか細かいのか、よくわからん。


「争いが技術、思考、精神などを進化させるわね。かといってそれで全滅したら元も子もないけど。それを間接的に調整するってこと。」


 不敵に笑う夢。言いたいことはわからんでもない。


「俺を選んだ理由は?」


 先ほどの話からすると、俺も争いを起こすか終わらす可能性をもっている設定ってことだけど。凡人のいわれ通り、どっちも絶対無理って知ってるくせに。


「ゼフォン様のご判断です。」


 淡々と答えるエルドラさん。立場的にはそうだよな。


「今までとは違う無謀、無能な人物にしようと思ったわけ。そしたら、無謀にもアラクナルの配下と戦っている落ちこぼれがいて、丁度よく死んだから選んだの。ふふ。だからはっきり言って期待はしていない。」


 見下し、死んだことを笑う夢。ただ、今の話でアラクネルが東の森にいたことは確定した。こんな状況だからもう倒されたのだろう。コアと重症の俺を連れて脱出して、その情報からカタムさんたちが討伐したか。それともあの場で才華、千歳が倒したのか。どっちもありえるから、あとで確認だな。


「他に説明しておくことは?」


「異世界に行くにあたって、ゼフォン様のできる範囲で願いをかなえれます。今の世界、新たな世界でのことある程度のことはかないます。」


 淡々と説明するエルドラさん。出た出た異世界ものあるある。そうか、そうゆうことか。、ここで俺が願いを言ったところでネタバレするつもりか。そうはいくか。いやだとしたら、単純すぎる。うーん。も少し様子見。


「神の力を見る機会ってやつね。落ちこぼれにはうれしすぎるサービスね」


 ニヤニヤ笑う夢。・・・黙って朽ち果てろ。








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