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帰界

 翌朝、俺が目覚めたときには2人はもういなかった。それに気づかないのは、俺が薬の副作用でぐっすり寝てたからだろう。キッチンに行くと2人が朝食を並べていた。


「おはよう。」


「「おはよう。在人。」」


 昨日の夜はあんなだったが、今は至って普通だ。あれだな2人の適応力の高さ故だな。


「腕の調子は?」


 千歳に聞かれ、左腕を伸ばしたり、折りたたんだりする。うん。痛みはない。クルンさんの薬はすげーな。


「痛みも動きも問題ない。」


「脇腹は?」


左脇腹にそこそこ鋭いチョップを入れる才華。・・・・怪我の痛みはない。怪我の痛みは。


「・・・・こっちも大丈夫。」


「本当?顔色悪くなったよ。」


 ニヤニヤ笑う才華。わかってるくせに。


「痛いに決まってるだろ。今のチョップ自体が。そこそこ鋭かったぞ。」


「超人強度0のベルリンの赤い雨なんだけどねー。まー怪我は大丈夫そうだね。よかったー。うーん、クルンさんの薬はすごいねー。」


 脇腹や左腕を触診?しながら唸る才華。そこは同意する。ただ、触診するならベル赤いらなくね?


「おはようございます。」


 シクも起きてきた。


「「「おはよう。」」」


 全員そろったので、朝飯だ。



 

 朝食をすませ、ギルドへ。東門へ向かっているとコアに出会う。オフかな?


「おはよう。コア。」


「おはよう。コアちゃん。」


「はよう。コア。」


 片手をあげ元気いっぱいの才華。ただ、あいさつはちゃんとせい。ばあさんに殺されるぞ。と心の中で思うだけだが。


「あはよう。朝からどこ行くの?」


「一旦、帰界する。」


 きかいする?聞きなれない言葉だ。コアも首を傾げている。


「サイカ、きかいって?なに?」


「私たちの世界に帰るってこと。事情は分かるでしょ」


 才華の説明。あー帰る世界ってことか。


「あー、りょーかい。うん。ずいぶん早くに行くねー。」


「移動よりも、集める方に時間掛かりそうだからねー。コアは休み?」


 確かにそうだ。まー、道具集めの他にもやりたいこともあるだろうし。俺も夢に連絡を入れとくか。いらんとは思うけど。


「うん。やっとこの休み。他のオフ組はまだ死んでいるので、1人寂しく散歩中」


 口を尖らせるコア。・・・?死んでいるとういのは。


「・・・魔法で蘇生中ってこと?」


「?人を生き返らす魔法なんてないよ。バテ果てて寝てるだけ。」


 コアはやれやれとポーズを取る。そのポーズは俺に対してなのかオフ組に対してなのか。まあいいや。他の団員は連日の探索、クエスト業務で疲れているよな。とりあえず、この世界でも死んだら終わりってことは分かった。


「昨日、ギルド前でコアを見たときはバテバテに見えたけど。元気そうだね。」


 昨日の姿は何処へやら、若さ故の回復の早さか?・・・こんな事考えている俺はまだ20歳。コアは15歳。


「ありゃ、見てたのザイト。全然気づかなかった。まー元気回復の速さは団員ナンバー1だね。」


 才華に負けないくらいの元気でVサインを出すコア。ですか。元気いっぱいキャラでいいんだね。


「コアちゃん。予定は?」


「ない。故に死んでしまう。あーーーーーーーーー。」


 千歳の質問に即答のコア。そして、つまらなくて死ぬのか顔が項垂れる。・・・連れていくか?俺がそう考えたところで千歳が先に動く。


「あのね。コアちゃんが嫌じゃないならね。シクと一緒にいてもらっていい?シクも今日は1人で留守番なの。頼」


 「いいよ。」


 千歳のお願いが言い終わる前に、大ジャンプし返答するコア。顔が生き生きしている。切り替え早。才華や千歳に劣らない早さだ。


「ありがとう、コアちゃん。これで傭兵団でお勧めのお店で昼食とか買い物でも行ってちょうだい。あと夜ご飯は私たちが用意するから、食べていって。」


 千歳がお金を渡す。はぶりいいのー。まー反対はしないけど。


「りょーかいだよ。」


「遅くても夕方には戻る予定なんだけど、それまで、シクのことお願いね。」


 コアへ自宅の住所とシクへのメッセージを渡す千歳。


「コアねえちゃんに任せなさい。では早速むかうかな。そっちも気を付けてねー。」


 コアは笑顔で消えていった。これでシクの寂しさも和らげばいいが。・・・いいが。


「寂しさは和らぐかもしんないけど、あのテンションについてけるのかシクには?」


 俺は振り回されるシクが頭に浮かぶ。


「大丈夫でしょ。こうゆうときのために普段から私が振り回してるんだから。」


 腰に手を当て胸を張る才華はこちらをドヤ顔で見る。自覚してるのはいいが、自慢することではない。


「コアちゃんなら心配ないでしょう。外に出れば、他の団員にも会えるかも知れないし。」


 含み笑顔の千歳。


 団員御用達のお店で昼食、そこで他の団員に会う。コアのテンションに突っ込む常識人、例えばジーファさん。キャノさん。そこからシクのことを考え、一緒に行動する。結果、振り回される可能性が減る。そうゆう考えでお金を渡したのか?おいおい。



 

 街を出て、東の森のポイントへ。俺にとってはコアと行った以来。ポイントまで半分のところまできたが、今のところ魔物には襲われなかった。安全でいいんだけど、逆に不安になる。


「シクの件のとき、魔物は?」


「出てきたけど、少なかったわ。」


 と千歳。余裕があるのか、先ほどから魔法の練習をしているみたいだ。今は開いた右手の指先にそれぞれ小さな炎が出ている。それも親指から小指へ行くほど炎の大きさがでかくなっている。先ほどから氷、水などを指先に出しては消すを続けている。すげーな。


「傭兵団が検索してたから、大分減ったんじゃない。あとアラクネルに食べられたとか。」


 と才華。こちらも魔法の練習をしている。こちらは親指から火、水、氷、雷、風と指先に出ている。こちらは出す度に属性が一つずつずれていく。こっちもすげーな。こうゆうのを見ると羨ましくなる。いいなー。結局、ポイントまで魔物には襲われず。拍子抜けだ。いやいいんだけど。


 ポイントにて装置を呼び出し、俺らの世界へ。まずは良子さんへ状況説明。相変わらずいい顔はしない。そして、あきらめてもいるので淡々と才華の指示に従う。千歳、才華、良子さんは道具、資料集めに部屋を出て行った。俺は装置隣の部屋で待機する。 


 待っている間、俺は妹の夢へ近況の確認をする。俺が才華、千歳に連れられ、家を連日空けることは過去何回もあり、その都度、天城家の援助を受けているので、夢が困っている様子はない。また、1人マイペースで過ごせるので、それはそれで楽しいそうだ。


 休日だったので即返信がくる。結果、


『いない方がいい。故に帰ってくるな。』


 だそうだ。さいですか。そんな気もしたから2週間ぶりだが帰宅もしなかった。妹は1人でも逞しいことです。これなら将来、自立しても心配は少ない。


 不要と言われるのは複雑な気分だが、夢が困ってないなら一安心だ。次に帰界するときは、良子さんたちに何かお礼を用意しとこう。・・・・両親が亡くなってから、天城家には今まで援助されっぱなし。これを正直、幸運と思う部分と頼りになりすぎだよなと思う部分が俺の中では渦巻いている。独立しなきゃとは思いつつ、才華の誘いを断り切れず、結果、天城家の援助を受ける。当たり前と思ってはいけない連鎖。


「在人君。お茶でもどう?」


 良子さんがお茶と菓子を持って部屋に入ってくる。


「すいません、いただきます。2人の方は?」


「資料集め中。道具等の手配は済んだから、配送待ちね。ま、どちらも間もなく終わるでしょ。」


 ですか。相変わらず手早いことです。


「それより君は何を思い悩んでいたの?」


 質問しながら紅茶を差し出す良子さん。


「あーっと。夢のことを良子さんを初め、天城家に大変助けられて、恐縮だなと。」


 俺は思いのたけを素直に述べる。


「・・・そこはお互いさまでしょう。君には暴れ馬お嬢様の相手をしてもらっているんだから。」


 2人なので軽口の良子さん。じゃじゃ馬じゃなく暴れ馬ときたか。


「だとしても、俺は3人でのんびり異世界生活してるだけですよ。その間に夢を支えてもらって。申し訳ないというか、ずるいというか。いや今回だけでなく、俺の就職の際とかもで。」


 両親に先立たれた以上、夢が自立するまで俺一人で家を支えなければならない。高校卒業時、将来のことを考え俺は即就職することにした。だがそれも、何連敗もしたので、才華の兄、才馬さん夫婦の説得に甘え、天城家のコネを使って現在の職についている状況。甘えすぎと思うが、才華や才馬さんには気にするなと言われている。


「そのことを気にしているだけいいことよ。おじさん達が亡くなった際、君はどんな形になろうとも妹との2人暮らしを選んだ。才馬様、千佳、才華様もそのことを知っているから、援助をためらわない。発おばあさまもこの件には何も言わないわ。それでも思うことあるなら、君が才華様と行動するのは、私たちのためにはなっているということは知っといて。」


 良子さんの言っている意味が分からない。良子さんたちのために?俺は首を傾げる。


「君が才華様の相手をしてくれるだけで、ここで働く人はずいぶん楽なの。これはこの屋敷全員の総意。才華様の相手は良くも悪くも疲れるってこと。」


 ウィンクする良子さん。


「はー。」


 そう言われると意味が分かる。俺や千歳は慣れているけど、才華の相手は省エネでは無理だ。静かに引きこもって入れば無害に近いが、いったん外にでると周囲を振り回すタイプ。巻き込むタイプ。滅ぼすタイプ。


「あと、結果論だけど、天城家のためにも、才華様のためにもなっているから。」


 これも首をかしげる。


「装置の開発にいろいろ研究して、その結果、新技術が生まれた。それが天城へのプラスになっている。そのプラスがあるから、才馬様はお父上に才華さまを技術者、研究者として家にいた方がいいって説得できた。」


 それはそうかも。


「もしそれがなければ、本来なら家業の手伝いをし、場合によってはお見合いをしたり、結婚もしてたかも。あの子が社交界とか仕事でのお堅い付き合いが苦手なのは知っているでしょ。」


 確かに。才華はどっちかと言うと1人で没頭するタイプ。俺は無言でうなずく。あの件やこの件が脳裏に浮かぶ。


「そのことを考えると、今後も人付き合いはなくせないけど、望まない結婚は回避できる。少なくとも好きな君といられる。だからお互いマイナスにはならないの。ま、異世界は想定外だけど。」


 少し笑う良子さん。


「そうですか。そういわれると少し気が楽にはなるかな。」


 俺も才華の誘いを断り切れない理由に、才華の悲しむ顔が見たくないのはある。そこは否定しない。 


「で。2週間でどうなったの?」


 ここまでで一番の真面目な顔付きをする良子さん。


「へ?」


 意味が分からない。どうなった?なにが?


「へっじゃないでしょ。親や目付け役もいない家に若い男女。しかも君を好きな子が2人。自称彼女に恋人。両手に花。傍目からは相思相愛。義理の兄、姉予定の夫婦からはお墨つきなのに。どっちとどこまで?まさか2人一緒に?」


 良子さんから意外な質問が来る。ネルフの指令みたいなポーズで問いただしてくる良子さん。こえーよ。

「えーーーー。」


 俺は抜けた声を出す。いやいやこの手の質問は千佳さんでしょう。キャラじゃないですよ。


「えーーーーじゃないわ。一応これ、才馬様夫婦からも聞いといてと言われているから。」


「・・・沙緒里さんも含めた女子会での話のタネにでもするんですか?」


「・・・・。いいから答えなさい。保護者としての確認よ。怒ったりはしないから。」


 俺の質問に答えない良子さん。その予定もあるんだろう。


「キスは?」


 目が怖いので俺は観念した。


「口を切った際、千歳が口の中に舌を入れて魔法で治療しました。そして、その夜、才華に同じ方法で治療してもらいました。」


 俺は背筋を伸ばし、ありのままを説明する。こういうとき俺は嘘をつけないし、それを良子さんは知っているので追及はなかった。


「・・・・・。寝た?」


「えーと、2人が魔法で俺を眠らせて、そのスキに入ってきたのと。昨日、2人が遺体を見たので、ストレスや不安の解消になるならと思い、2人と一緒に寝ました。あ、でもその本当に寝ただけです。今のところ、それ以上は進展ないです。」


「・・・・・。今のところは?」


 嘘は言ってないが、言葉のあやを追及してくる良子さん。


「それ以上にいくなら、少なくとも避妊薬を用意しないと俺はいけません。はい。」


「いくつもりなの?」


「俺も人ですし男ですから。いきたいという部分はあります。いっちゃえと思うときがあるかもしれません。ただ、昨日俺から誘ってベッドで一緒に寝たんですけど、なんか2人とも別人みたく緊張混乱してましたから、すぐにはその領域にはいくことはないです。うん。」


 俺は思いの丈を素直に話した。


「・・・羽目を外しすぎてはないようね。」


「そのつもりです。」


「わかったわ。まー千佳が今の状況をヘタレととるか紳士的ととるかはわかんないけどね。」


 にっこり笑って良子さんは部屋を出て行った。ふー。良子さんの用意した紅茶にやっと口をつける。あーおいしい。







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