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お迎え

 ぐっすり寝たせいかスッキリして目覚める。となりの布団の千歳の表情は幸せそうだ。少し目が離せないでいた。俺の体は・・・。うん、左腕、左脇腹ともに痛みは残っているが、昨日よりまし。確かに明日、明後日には治ってそうだ。すげーな、クルンさんの薬。当て木は邪魔だから断ろう。


 ・・・・あれ?いつの間に才華と千歳は入れ替わったのだろう。確か今日は才華、明日は千歳って説明してたよな。・・・?あれ1日おきじゃなく、日付で交代したってこと?突っ込みはいれたいところだが、まーいいや、面倒そうだ。あと寝てたら意味なくね?いや俺はこう平気だからいいんだけど。


「おはよう。」


 俺が考えていたら千歳が起きる。まだ眠たいのか目がとろんとしている。


「おはよう。いつの間に?」


「言ったでしょ。今日は私って。日付変わってから私がいたけど、うなされたり、熱もなかったわ。クルンさんの薬のおかげね。だから、安心して私も寝ちゃった。」


 はにかむ千歳。さいですか。



 4人で朝食を終えたら、千歳、才華を見送り、シクの送迎。帰宅後、掃除、洗濯、庭の草むしり、久々の1人での昼食。うん。1人でこの家は静かすぎる。夕方近くになっても才華、千歳の帰宅する気配がないので、シクを迎えに行く。


 イナルタ塾に着くと、シクくらいの子がわらわらと塾から出てきた。年少者の通う週3回コース、結構な人数がいるんもんだ。俺みたいに迎えに来る保護者もちらほら。あ、シクも出てきた。数人の女の子と話している。数日で友達ができたんだ。子供のコミュニケーション能力は高いもんな。いいことだ。うんうん。感慨にふけっている俺に気が付いたシクたちが近づいている。


「シクのお兄さん?お父さん?似てないね。」


 と明るい雰囲気の猫人の子は俺をまじまじ見てくる。もう親父扱いの年齢に見えるか?年齢相応にしか見られたことなかったのに。


「なんか、頼りなさそう。」


 と短い角がおでこから見える大人しそうな子も俺を不安そうに見る。鬼みたな種族の子か。


「格好悪い。」


 独特の雰囲気を醸し出す、目隠れ状態の子が片目をチラっと覗かせ、ボソッと言う。顔が?服装が?それとも両方?


 子供は遠慮なく、好き放題いうもんだ。グサグサと刃が突き刺さる。慣れてるかいいけど。シクはシクで俺の説明に困っている。朝送っていたときは誰にも会わなかったからな。


「シクの保護者だよ。それよりも・・・これからもシクのことよろしくね。」


 子供たちに適当な内容で終わらす。説明は長くなるからパス。


「言われなくたって。」


 Vサインを出す猫人の子。


「もちろんです。」


 シクの手を握る鬼の子


「べー。」


 舌を出しチラっと片目の見えた目隠れの子。 


 シクと仲がいいことは分かった。俺に対する子供の態度はどこでも一緒ってことも。前者は朗報だ。2人に報告しなければ。うん。


「えーと、じゃあ帰るから、またね。」


 シクが気遣ってくれたのか、3人に手を振る。


「うん、じゃあね。」


「さよなら。」


「また。」


 3人の子もそれぞれ手を振り、親の元へ分かれていった。そして、親と一緒に帰宅していった。その様子をシクはじっと見つめている。家族のことを思っているのだろうか。目が潤んでいる気がする。家族と死別して1か月半ほど、まだまだ気持ちに整理がついてなくても仕方ないと思う。むしろ、無理している気がする。どうせばいいのか正直わからない。俺はこの問題から逃げることにした。


「4人でいるの楽しい?」


「うん。」


 俺の質問にニコっと笑うシク。心底楽しそうだ。やっぱり、同年代の子と一緒にいるほうが楽しいんだろう。俺らといるより自然体でもいれるのだろうし。


「あれだからね。遊んだりするなら、遊びに行きなよ。家事とか気にしなくてもいいし、家呼ぶのも問題ないからね。一言言ってくれればいいから、遠慮しないで言ってくれよ。」


「うん。あ、はい。分かりました。」


 シクの素が出たみたいだ。やっぱり、俺らといるときは気をつかっているんだろう。7歳なんだもっと子供らしくしてほしいと思うが、そうなるのはまだまだ先かな。とりあえず、素でいれる場所が見つかったのは良かったと思う。


「そしたら、帰ろうか。」


 イナルタさんが塾前に出て、他の子を見送っていた。優しい笑顔のイナルタさんは初めて見た気がする。子供に教えるのは大変そうだけど、楽しいのだろう。イナルタさんに会釈をし、帰路につく。

 シクの様子から、ここに通わせてよかったと俺は思った。けど、千歳や才華の提案でここに来た感はあるがシク本人はどうなんだろう。


「塾の方はどう、楽しい?」


「楽しいです。」


 俺の質問にシクの力強い即答。


「授業は?」


「・・・ちょっと難しいです。」


 先ほどとは違い弱弱しい回答。俺は千歳、才華の飛び級しか見てないから分かんないけど、実際の魔法習得は大変なんだろう。


「でも。」


「でも?」


「先生は優しいですし、友達もいるんで、やっぱり楽しいです。」


 シクはニカっと笑った。苦痛に思ってないなら良かった。ホッとする。この笑顔を2人も見せてあげたいところだ。


「なら、良かったよ。なんか流れで来ることになった感があるからさ。あと魔法のことはあの2人にも聞いてみれば。あの2人も初心者だけど、教えれる範囲のことを教えることはできるから。」


「わかりました。・・・でも、抱きつかれそうです。」


 シクは腕を抱え悩んでいる。結構真剣に。


「・・・確かに。それは否定できない。」


 シクが2人にベタベタと抱き着かれ、キャーと叫ぶ姿が頭をよぎった。シクもそうなんだろう。


「昔から、あーなんですか。」


 シク不思議そうに見上げてくる。はい、そうです。


「あー、まー、そうだね。あとそういう影響を与えたのは、千歳の姉で、才華の義理の姉の千佳さんだね。まー関係ないか。」


 千佳さんは俺らにところかまわず抱き着いてきていた。その際、才華は迷うことなく千佳さんの胸に顔をうずめていた。そんな千佳さんも結婚してからは少なくとも、俺には抱き着かなくなった。あー色々と懐かしい。


「あきらめるか、慣れるか、回避する体さばき、交渉術を身に着けるしかないなー。」


「回避するのは魔法覚えるより難しそうです。」


 俺の話にシクは困った顔をする。そうかも。場合によっては2人同時に相手しなきゃいけないし。


「頑張ってとしか言えん。」


「・・・慣れたら、昨日みたいに2人に挟まれても平気なんですか?」


 再度俺を見つめるシク。その目は純粋だ。


「あーまーそうかも。あと片手じゃ2人の回避は無理無理。」


「はー慣れるのも難しそうです。」


 適当な回答に、うーんと困っているシク。


「逆に抱き着きに行くのが一番被害少ないかも。」


 仕返し、感謝、その他の事情により俺から抱きついたことはある。ペタンと力が抜ける才華。力いっぱい硬直する千歳。そんな反応もあった。


「・・・・したことあるんですか?」


 純粋な瞳でこちらを見るシク。いやー眩しい。その瞳はやめて。俺をみないで。


「シクより年下の年齢のときに、ね。」


 嘘は言ってない。


「そうですか。はー。うーん。でも。」


 躊躇しているシク。とりあえず・・・頑張って。うん。



 

 家に戻るも、2人は帰っていないので、シクとギルドへ向かう。まー『グラッチェ』で合流といわれていたが、少し余裕がある。シクの笑顔で気分が和んだのと気まぐれと治療のお礼を兼ねて2人を迎えにいくか。2人が高揚して、抱きついて来たらシクでやり過ごそう。


 ギルドには続々と登録者がクエストを終えて、戻ってきていた。その様子をギルド入口前で見つつ、2人が出てくるのを待つ。中に入り、アラクネルの情報を確認したいところだが、シクがいるのでやめておく。

なるべくその手の話はシクに触れさせたくはない。


 外で待っていると、キャノさんを先頭に20名近くの集団がギルドに戻ってきた。ガタクンさん、コアもいる。ガタクンさんはこっちをチラっとみた。最後尾にはヘトヘトのコア。カタムさんは後方の方で、杖を持つ爺さん、メガネを掛け、捻じれた角のある女性と割と真剣な顔で話をしている。その後を体格のいい団員2名がそれぞれ大きな袋を肩に担いで続いている。クエストで採取したものだろうか。その袋を杖を持つ爺さんが見て、ため息をついていた。朗報でなさそうな雰囲気だ。まーとりあえず、お疲れ様です。 


 






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