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これは治療行為。

「はい、在人はこっちに注目。まず、横になりましょう。」


 千歳の声にハッとし言われるまま、リュックをおろし横になる。どっちにしろ今の才華なら心配無用だろう。千歳は俺の左側面にしゃがみこむ。気の抜けた俺とは違い、千歳はいたって真面目な表情で俺を見る。


「落下したときの負傷は?」


「頭から出血してたのはクルンさんが治療した。あと軽い脳震盪。」


「左腕、足、頭、左脇腹以外で痛むところは?」


「口中切った、若干ぼーとしている。」


 俺は口を開ける。それを見て千歳は


「なるほどね。うん。」


 そういって、俺の全身を再確認したあと、周囲を確認する。?危険な状況はないか確認したんだろうか。そして再度俺を見て、


「在人。指としたどっちがいい?」


 尋ねる千歳。?腕か口どっちか直すということか?まぁ、俺は直してもらう立場なのでどっちでもいいが。


「任せるよ。」


「ん。わかった。」


 そう言って、千歳は俺に口づけする。


 

 ???????????????????????????????????????????????????????へ?えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー?

 あれ、どゆこと。なに。今どうなってる。え。キス?口じゅけ?おちちゅけ。おちちゅけ俺。キスってなんだっけ。口づけってなんだっけ?唇が触れ合ってるだけじゃない。千歳の舌が口の中に入っている。舌がゆっくり優しく口の中を動き回る。舌先に、舌の裏に舌が絡んでいる。絡まれるにつれ、だんだんと口の痛みが引いていく。頭の中は真っ白になる。


「ん。と。」


 千歳が口を離し、舌で口をペロと嘗め回す。顔はケロっとしている。俺は心臓バクバクしてるのに。体が熱くなったのに。痛みとは違う熱さが。


「ち・・・とせ。今。」


「うん。口の中の治療。舌先に魔力を込めたの。痛みとれたでしょ。」


 微笑む千歳。


「あ、はい。ありがとう。」


 俺はとりあえずお礼を言う。いやそれよりも。


「じゃなくて、口、キス。」


「指入れるのと舌入れるのどっちでもよかったんでしょ。指は嗚咽したりするかなーって思って。」


 俺のしどろもどろな質問に対して、悪戯心の見え隠れする目の千歳。


「まだ、痛む?」


「いや。だから、その。」


 考えがまとまらない。どーてーダメ男な俺。真っ白になってた頭が今度は暴走している。


「落ち着いて。はい。深呼吸、深呼吸。はい、吸ってーはいてー。吸ってーはいてー」


こーほー。こーほー。千歳に言われた通り深呼吸する。うん、少し落ち着いた。か?


「これは私なりの治療行為。」


 平然としている千歳。


「・・・ですか。」


「血の味でした。」


 ペロと舌を出す千歳。ですよね。いいのかいそれで。


「いいのそれで?」


「ん?なら今度違う味を味わせてちょうだい。」


 色気を含む笑みの千歳。単純に見惚れる。声がでない。




 甘い空気というか、なんとも言えない空気のところへ、殺気が差し込まれる。俺でも感じる殺気。もちろん、才華から。才華はこっちを凝視している。ちなみにこの間に2体ゴーレムを倒したみたいだ。千歳は才華を見て


「が、ん、ば、れ。」


 にっこり笑いながら片手を振る。才華の殺気、凝視なんてお構いなしだ。才華は何か言いたそうだが、ゴーレムの方を向きなおす。うん、あとが面倒そうだ。


「はい、こっちに集中。」


 千歳に催促され、千歳の方へ目線を戻す。


「えーと、なんで、口から直したので?」


 口の治療でアドレナリン切れしたのか、腕の痛みは尋常じゃない。泣き叫ばないのは、思考が他でいっぱいだから。


「腕や脇腹は才華と一緒にしたほうがいいと思ったの。あと才華ならすぐゴーレムを倒せそうだから、短時間なところを終わらせようと思ったわけ。」


 それなら、頭や足なのでは?と俺は思うが。


「まーしゃべりやすくなったけどさ、口は無視しても困んないじゃね。それより足とから頭とか」


「・・・シクや私たちの料理を、痛みを我慢しながら食べてほしくないわ。あと水分補給をしたほうがいいと思ったから。」


 俺の質問に少し間をおいて答える千歳。その間はなんだ?あと水分補給?どゆこと?千歳は自分のリュックから水筒を取り出し、中の水をコップに移して俺に手渡す。


「はい。気づいてないと思うけど、軽度の脱水症状ね。ゆっくり飲んで。」


 俺は上半身を起こしドリンクを飲む。まじでか、全然気にならんかったけど脱水症状かい。最近医学の勉強をしている状況からその言葉には素直に従う俺。


「いつもと違う状況だから、水分補給まで気が回らなかったんじゃない?クルンさんと2人きりだったし。」


 千歳が説明する。言われるとそうかも。


「・・・・いいなぁ。」


 ボソと千歳が一言。これはスルーしたほうが無難だ。うん。




「次は頭。」


 千歳は俺の正面に移動し、たちひざ状態になり、頭に手を添え魔法を発動させる。俺の猫背と相まって、自然と俺の目の前には千歳の立派な山脈。否応にも目に入る。目を逸らそうが逸らすまいが、千歳にからかわれそうなので。あえて目線はそのまま。目の保養のためじゃない。うん。そして、千歳に何か言われる前に俺は全く別の疑問を聞く。


「あのさ、この世界に来て、そうそうに俺は鳥に攫われたけどさ。」


「そうね。カタムさんたちがいて良かったわね。」


「でさ、そのときに合流したときの方が2人とも冷静じゃなかった?さっきみたく抱き着いてこなかったし。」


「あ、抱き着いてほしかったの?失敗したわね。今度からそうするから。」


 悔しがる千歳。少し山脈が揺れる。いや、重要なのはそっちじゃないから。


「・・・実際のところは?」


「あのときは、割とすぐに鳥の気配がなくなったのは分かったし、カタムさん達とこっちに向かっているのは分かったから。たぶんそのときだけ、在人の気配は感知できてた気がする。今はもう感知できるけど。」


「なるほど。」


 なるほどとあっさり流したが、確か魔力少ない人の感知ってそれなりに訓練いるんじゃななかったけ。そうだとしたら、火事場のクソ力ってことかか。さっき、才華がゴーレムの全身を凍らせたけど、確か全身凍らすのって無理ってクモ退治で言ってたよな。これもこの数時間でできるようになったってことか。・・・成長スピードが違いすぎる。2人の背中を追うどころか、目視もできてない気がする。もうそろそろ望遠鏡でみなきゃいかん気がする。


「ただ、あの高さから落下して重症なのかなって思っていたわ。こっちに来たのは抱えられて来ると思ってたし。だから歩いてきたのは内心驚いていたの。」


「ですか。」


 魔法なんて知らないから、そう結論づけるよな。俺だって思う。


「今日は、クルンさんと落下したでしょう。クルンさんが浮遊の魔法使えるのは分かんなかったし、在人は絶対クルンさんを守ろうと無理、無謀、無茶、して大けがすると思ったから。そしたら案の定だった。」


 そうだね。ただ無理、無茶、無謀のどれかでよくね。


「まーね。クルンさんに怪我させたら、2人に顔向けできないし。」


 俺の軽口に対して、千歳は泣きそうな顔になる。


「そんなことないから。頑張っても駄目なことは世の中いっぱいあるでしょ。それを私も才華も責めないから。他のだれが責めても私たちは責めないから。だから・・・無茶・・・しないで。私・・・。」


 また、千歳に涙が浮かんでる。うーん。泣くなよ。


「分かったよ。無理、無謀、無茶はしないよ。」


「・・・約束よ。・・・・。」


 うん。無理、無謀、無茶はしない。それはしない。


「ただ、状況によっては無茶だけは一瞬する。」


 千歳が不安な表情をする。


「それじゃあ、約束守ってない。」


「『無理、無謀、無茶』をしなければいいんでしょ。なら『無茶』だけならいいだろう。俺にもね、やらんきゃいけときあるし。」


 そんなときがあるのか、何ができるか分からんけど。目はそらさない。千歳はなにも言わない。


「まー。死なない程度に頑張るってこと。怪我したら、こんな感じで治療してらうから。」


 俺は千歳の山脈を、凝視する。うん、やっぱ、でかい。


「もー。真面目な話なのに。」


 根負けした千歳が呆れた顔をする。うんうん。こんな空気が俺には丁度いい。


「とりあえず、ナース服は用意しといて。」

 

「あ、それはもうあるから大丈夫。」


 千歳がさらりと答える。


「えっ。」


 俺は力が抜ける。俺のボケはあっさり潰れた。この前のときか。あの大荷物に入ってたのか。なんのため。なんのため。なんのため。2人のナース姿が脳裏に浮かぶ。つっ。至れり尽くせり。


「今、想像したでしょ。ふふ。いろいろ楽しみね。」


 千歳が怪しく笑う。なんとも言えない。ツッコめない。







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