ただいま
その後、カタム傭兵団の30名が西の森へ向かった。そして3時間後、森周囲の子蜘蛛討伐を完遂させ、西の森周囲には東の森と同じく結界が張られたとの情報が入った。俺らは門前で警戒待機となっており、森に向かった班と傭兵団の帰りを待つ。
1時間後、西門に最後の傭兵団、登録者が帰還してくる。門前にいたから、重傷者、死者はいないことが分かる。よかったよかった。俺も汚れだけだ。強くなったと思いたいが、ガタクンさんや2人のおかげだろう。俺はいつ強くなったと実感できるだろうか。俺の明日はどっちだ。
人数確認と報酬配布を終えたガーゼットさんが登録者に頭を下げる。
「お疲れさまでした。警戒は続けますが、本日はこれで解散となります。各自報酬を受け取ってください。また、今後、この件に関する情報はギルドで確認の方をお願います。本日はお疲れさまでした。」
再度、頭を下げるガーゼットさん。登録者は各自帰路につく。
「ガーゼットさんもお疲れさまです。」
千歳がガーゼットさんに声をかける。お疲れ様です。
「君たちもね。怪我もないようね。」
俺を一瞥するガーゼットさん。俺を一番に心配ですか。いやー照れるなー。ってか。ただ無傷に驚いてるだけですね。はい。
「今後どうするつもりなの?」
「カタムと相談したけど、西の森の捜索に変更ね。東の森の結界はそのまま維持するけど、出入りの制限は解除するつもり。」
才華の質問に答えるガーゼットさんは少し困った顔をしている。まだまだ解決しそうにないからなー。
「ごめんなさい。私たちの情報のせいで。街が危なくなって。」
才華が頭を下げる。まだ気にしているのか。
「君たちが責任を感じる必要ないわね。君たちの世界では知らないけど、ここなら、たまにあることよ。ある意味、皆慣れているから。それに西の森にいるってことは確実になったんだから。」
気を使ってか、慰めてくれる。だが、それよりも気になるのは、
「確実って根拠があるんですか?」
「子蜘蛛を生むのは巣を作ってからなの。ちなみに300くらいの卵を1回で産めるのよ。」
なーる。だとしたら、まだまだ出てくるのか?あーやだやだ。
「食事量によるけど、何日も連続で産卵はできないから、それまでに討伐したいところね。西の森も東の森なみに広いから大変だけど。」
そこは傭兵団の頑張りどころだなー。あいかわらず、人任せすぎるか。
「ま、そこはカタムたち次第ね。君たちは今回みたいなときに力を貸して頂戴。」
はい。そうします。
「じゃあ俺達も行きます。」
「そう。お疲れさま。」
手を振り、職員の元に行くガーゼットさん。まだ、事後処理があるのだろう。お疲れ様です。
西門を離れようとしたところで、傭兵団の集まりが移動を開始していた。へーこれが全メンバーなのかな。ドワーフ、エルフ、あ、猫の獣人かな?あっちは犬の獣人?いろんな種族がいるんだな。逞しいし、頼りがいのある雰囲気がする。
「お疲れー。」
一行の中から俺らに気付いた、コア、ジーファさんがこちらに近づいてくる。
「そっちもお疲れさまー。」
才華が手を上げる。
「3人とも怪我はないのね。」
ジーファさんは俺の全身を見ている。いやージーファさんも俺のことが心配でしたかー。照れるなーってか。やっぱり、意外なものをみた表情をしている。あれか、怪我をしてた方がいいのか。看病してくれるのか。それならやぶさかではない。
「ええ。お疲れさま。ジーファ、コア。大変だったわね。」
「そうね。東の森の奥の方からここまで走って。そこから西の森まで子蜘蛛退治だから、さすがに疲れたわ。」
ジーファさんが首を回す。この発言に才華は反応し頭を下げる。
「ジーファ、コアごめんね。私のせいで無駄足ふませて。カタムさんにも謝りたんだけど。」
「そんなつもりで言ったんじゃないわ。サイカ、頭を上げて。お願いだから。」
才華の行動に慌てるジーファさん。
「そうそう。東の森にいたのは間違いなかったし。悪意があったわけじゃないでしょ。団長もわかってるって。気にしない。気にしない。」
落ち込みぎみの才華を見て、コアが明るく振る舞う。だが頭を上げない才華。ふーむ。俺も加わるか。しおらしいのは似合わんぜ。
「だってさ、だから落ち込むのはここまで。はい、切り替えて切り替えて。」
俺は才華の頭をなでる。千歳は黙って様子を見ている。
「わかった。そうする。ごめんね。みんな。」
頭をあげる才華。よしよし。それでいい。
「ジーファたち、明日は?」
千歳の問いに、ジーファさんが答えてくれる。
「私もコアも明日はクエスト当番なの。今日の件で休日も減るかもしれないわ。当分チトセたちと買い物は行けないかも。」
表情は相当残念そうだ。才華、千歳との買い物や街めぐり楽しみなんだなー。
「じゃあ、今度夕食だけでも一緒にしましょ。それじゃあ、私たちもシク迎えに行くから、また今度ね。」
約束をしてコア、ジーファさんと別れる。
イナルタさんの塾に着くと、入口前でシクが立っていた。その姿を見た千歳、才華が武器を俺に投げ出し、走り出す。
「「シクー。」」
「みな」
シクがしゃべり終わる前に2人が抱き着く。だけでなく、しっぽを握る、顔を頬に押し付ける、頭をなでる。胸にシクを押し付ける。昨日もこれをやられたのか。
「約束守ったでしょー。」
シクのしっぽに頬ずりしてる才華。いいなー。
「いい子にしてたー?」
シクを胸に押し付ける千歳。いいなー。2人とも顔がにやけている。
「ーーーーーーーー。」
シクがなにか言っている。だが胸に押し付けられて聞き取れない。2人は気にも留めていない。おいおい。
「2人とも離れようか。」
「えー。疲れ取れてない。」
「そうね。もう少し。」
にやけた顔のまま反論する2人。心なしかシクがぐったりしてきている。・・・呼吸できてないのか。
「シクが死んじまうぞー。離れろー。」
俺の発言に口をとがらせ、仕方なく離れる2人。
「はー。はー。はー。」
シクは呼吸を整えている。目線は千歳の胸。
「無事でよかったですぅ。」
シクの目に涙が浮かんでいる。目線は俺だ。いやー照れるなー。そんなに心配だったんだ。・・・7歳にも心配されるのか俺は。というか俺らの実力関係まだ知らんないよな。あれか本能か。本能で俺が最弱って判断したのか。それは正解だけど、ショックがあってもいいよな。
「当り前よー。シク。あたしを誰だと思っているの。」
シクの顔を両手で挟む才華。
「そうよ。結構強いんだから、私たち2人は。」
シクの耳をいじる千歳。俺を抜いているな。いつか俺もと思いたい。それよりもまだ触れ足りないのか君たりは。
「警戒解除になった途端、外でずっと待ってたのよ。その子。」
イナルタさんが出てきた。
「健気ー。」
「待たせてごめんね。」
また抱き着く2人。懲りないねー。
「お疲れさま。怪我もないようね。」
イナルタさんの視線は俺。照れるなー。シクと一緒に心配してくれて。はい。わかってますよ。意外って顔を俺は見逃しませんでしたよ。
「はい、なんとか。えー。シクのこと、ありがとうございます。今度なにかお礼を」
「そんなこといいわよ。」
手を振って断るイナルタさん。流れで預かってもらったんだけど。
「じゃあ帰りましょうか。イナルタさん。また。」
才華が頭を下げる。
「ええ。お疲れさま。」
イナルタさんに頭を下げ、自宅に足を向ける。
「お腹すいたね。今夜は何にしましょうか。」
千歳が俺に尋ねる。確かに昼抜きだったからな。
「それもだけど。お風呂も早く入りたい。」
才華は髪を触っている。動きっぱなしだったもんな。
「家に着いたら、2人は先にフロ入りな。シクと俺で飯作るから。」
俺より2人が活躍してるから、それぐらいはしないと。
「え。一緒に入ろうよ。」
「うんうん。それがいいわ。」
2人がこっちを見る。・・・・。
「だって。シク。俺は1人で晩飯作るから。」
「え。私ですか?」
振られたシクが驚き、聞き返してくる。うん、違うね、俺のことだね。でも、「はい」なんてそう簡単に言えない。
「違うよ。」
「違うわ。」
ハモる2人を俺はスルー。俺だってそれなりに疲れた。突っ込みも面倒だ。家の前についたところで、慌てて、シクが走り出す。3人で顔を見合わす。誰も意味が分からなかった
シクは玄関のドアを開け、俺らを見てにっこり笑う。今日までで一番嬉しそうな笑顔だ。
「おかえりなさい。」
「「「ただいま。」」」
俺らも笑顔で返した。こっちで言うのは初めてだな。うん。




