大クモだー。
案の定、これで終わりではなかった。今まで大きくても人くらいだったが、門前からでもわかる大きさが違う個体が現れた。それも2匹。人間なんて丸飲みできる大きさだ。蜘蛛ってこんなに大きく育つのかよ。
「大クモだー。」
外壁の弓兵が大声を上げる。ガタクンさんの矢が1頭の背中に数本突き刺さる。が、怯む様子も足が止まる様子もない。その姿を見て、
「前方は他の子蜘蛛を倒せ。大蜘蛛は門前で引き受ける。」
ガタクンさんが大声で指示をし、外壁から飛び降りてくる。地面に着地したところで、
「2人はそのまま、抜けてきた奴をまかせる。」
外壁の弓兵に指示を出す。そして、俺らに近づき、俺が回収した矢を受け取りながら俺らに指示を出す。
「俺が1匹。あんたら3人でもう1匹。足を鈍らせるだけでもいい。」
その指示に才華が
「私と千歳なら、倒せるよ。そっちこそ1人で大丈夫なの?」
ニィと不敵な笑みを浮かべ、自信満々に答える。・・・俺は?と言いたい。戦力ではないけどさ。分かってるけどさ。疎外感はあってもいいよな。
「矢がこれだけあるなら問題ない。そっちこそ、串刺しになよ。」
そう言って、矢の刺さってない方に向かっていた。わざわざ矢が刺さってない方にいくから、こっちへの考慮なんだろう。余裕がある証拠だろう。く、カッコいい。
「まず、氷の魔法で足止めね。そのあと、才華は頭を魔法で狙って注意を逸らして、その間に私が足を1本1本切るわ。在人、蜘蛛をガタクンさんから離れるように引き寄せて。」
千歳が簡単に言う。そんな簡単に言われてもってやつだけど。やってはみるけど。本音は今すぐ逃げたいだよ。俺の思考をよんだのか、才華が俺の前に立ち、まっすぐ見つめる。
「在人、あなたなら出来るわ。」
こんな状況でもどこかで聞いたセリフを言う才華。余裕あるなあ。はいはい。俺も単純になって。頑張りますか。
「とりあえず。蜘蛛の前に立ってこっちへ逃げるから。あとよろしく。」
「私が右側を凍らすから、千歳は左側をお願い。」
作戦が決まった。覚悟も決めた。あとはやるだけ。よし。
「いってみよう。」
俺が2人を促すと。
「やってみよう。」
千歳が続き。教育番組か。千歳も余裕あるなー。
「やぁぁぁってやるぜ!!」
才華が叫んで締める。そうきたか。くっ、そのセリフは俺が言いたかった。なかなか言える機会なんてないのに。というか、才華は余裕ありすぎ。良くも悪くも力が抜けた俺は大蜘蛛に向けて走り出す。
「お手柔らかに。」
独り言をつぶやきながら、大蜘蛛の視界に入ると、やっぱり大蜘蛛が俺に向かってきた。いい餌に思ったんだろうな。俺は絶対に不味いけど。作戦通りに俺は振り返り、2人の方へ全力疾走。2人とすれ違ったところで2人とも両手を地面につけ魔法を放つ。大蜘蛛は何本か足を凍らされ、足が止まる。全部の足が凍らないのは蜘蛛の足の動きのためか。
移動が止まったのを確認した千歳が、大蜘蛛の側面から回り込み、左側の前から3本目の足を切断する。続けて、その後ろの足をもう1本といったところで、斬られた足が千歳に向かう。危ない。千歳は大蜘蛛から距離を取る。あんな風に足って動くもんかね。と千歳の方を気にしていると。
「在人。なにやってるの。」
才華が俺をひっぱり、大蜘蛛から距離を取る。大蜘蛛は口から溶解液を飛ばしてきていた。俺らがいた場所は氷ごと溶けていた。危ない危ない。あの量なら当たり所関係なくまず重症だな。
「ごめん。助かった。」
才華に感謝を述べる。才華は一瞬こっちを見て笑う。けど直ぐ真面目な顔つきに戻り、
「それよりも、まだまだ動けそうね。どうしようかしら。」
大蜘蛛は今、氷から足をはがそうとしている。もうすぐ足の氷は砕けそうだ。俺は大蜘蛛を見て才華に聞く。
「全身凍らせれないの?」
「ごめん。無理。」
才華の即答に俺は驚き、思わず顔を見る。
「できるって即答すると思ってた。」
俺の質問に戻ってきた千歳が答える。
「私も才華も、イナルタさんに魔法を放つ際、魔力は意識して少なく込めるよう言われてるの。無意識だと自分たちに被害があるくらい、私たちの魔力が多いともね。だからクエストでも威力は弱く弱く使ってたんだよね。だんだん込める魔力を多くはしてるけど。それも時間や状況に余裕があるから試すことができてるだけなのよ。」
魔力が多いのはイナルタさんに聞いていたけど。常に弱くを意識しなきゃいけないほど、強すぎて困るってやつかい。フリーザやバーンと同じ立ち位置か。
「弱くコントロールはできるようになったけど。あの全身を丁度よく凍らすのにどれくらいの魔力を込めればいいのか、正直、まだつかめていない。下手に使うと登録者ごとこの一帯を凍らせちゃうかも。」
才華も困った顔をしている。強者ゆえの悩みか。恨めしいし、羨ましい。
「一回、全力の魔法を使えば、コツが分かると思うんだけどね。」
ここまで引いてきた千歳が恐ろしいことを言う。その瞬間、世界が燃え尽きるイメージが脳内に浮かんだ。うん、このまま徐々につかんでいく方向でないと困る。
「その件は後回しにして。才華は頭を狙いつつ、足を凍らせて、1度が駄目なら回数でいこう。千歳はそのまま足を狙い。俺は正面に移動して、糸と液を俺に向けさせる。ガタクンさんに倒すと言った以上やらないと。2人なら絶対できるし。」
先ほどとは逆に俺が2人に発破をかける。とりあえずこれで挑んでみよう。俺が逃げれるうちになんか打開策を思いつけばいいけど。
「りょーかい。」
「そうね。」
2人は頷き、行動を開始する。俺はガタクンさんの方を見る、ガタクンさんは動き回りながら、頭部に集中して矢を放っている。まだ仕留めていないか。前方の方も、第何波目かわからん子蜘蛛退治に専念している。どっちにしろ援護は期待できない。俺らでなんとかしなきゃならん。うーん。
千歳は動けない3本の足を狙い、まずは右側面に移動。どうやら右前足を切るつもりだ。才華は炎を顔に向かって放つ。炎はバスケットボール大の大きさ。うーん。効果はあるけどまだまだ倒せそうにない。と観察してたら、糸が飛び出てくる。俺はそれを避ける。まだまだ大蜘蛛は元気だ。
才華は地面、顔と魔法を放ちながら、じっと大蜘蛛を観察している。何を考えている。それとも何かを狙っているのか。頼むぞー。俺はそこまで回避し続ける自信はない。糸のせいで足場が減っているのも困るな。
「才華、余裕があれば糸は溶かして、足場がなくなるのはまずい。俺は2人ほど飛べない。」
俺は走りながら叫ぶ。まだ足場に余裕があるが手は早めに打たんと。才華はすぐ火で糸を溶かし始める。
氷が溶ける恐れもあるが、そこは才華がフォローしてくれるはず。この間、千歳は先頭の右前足を斬り、そのまま、右の前から3番目の足を切った。
足を切られたが大蜘蛛に怯んでいる様子がない。うーん。足の先を切っただけだから移動速度は落ちたと思うけど、移動自体はしそうだ。それを千歳も察したのか、千歳は大蜘蛛の背中に飛び乗った。そして前から2番目の両足を胴体との付け根から斬る。これで無傷の足は3本、移動はできまい。
これには大蜘蛛も動揺し、千歳を振り払おうと体を上下に激しく動かしす。しかし、千歳は慌てることなく背中から離れる。ありゃ、かっこいい。大蜘蛛は俺らを近づかせないためか、顔を上下左右に振りながら、糸や液体をばら撒く。だから尻から糸をだせよ。
「背中に乗るか。いいね。」
才華はこの上なくあくどい顔をする。
「良いアイディア浮かんだ?」
「背中をえぐり取って、そこから体内を凍らす。蜘蛛も自分には糸や液体をかけないよう行動してるし。いけると思う。私に注意を逸らすから、在人は千歳にそれ伝えて。えぐるのは刀の方がやりやすそう。」
才華は顔に向けて氷、火、風、雷と多種の魔法を放つ。弱くしか撃てないから威力はともかく、連射はできるようだ。その隙に俺は手を挙げ、千歳を呼び戻す。そして、才華の作戦を伝える。
「わかったわ。」
「なるべく、俺らの方に注意は引きつけるける。えぐった部分から溶解液とかでるかもしんないから、気を付けて。」
千歳は側面へ移動し、背中に飛び乗るチャンスを伺う。足5本に斬撃、顔に魔法で大蜘蛛にもダメージが出てきたようだ。動きは少し鈍った気がする。ただ相変わらず糸や溶解液を振りまくのはやめない。根性あるなー。才華は大蜘蛛の正面に立ち
「竜巻地獄。」
と言いながらなぎなたを横に振る。小さな竜巻が大蜘蛛の胴体に当たる。吹き飛びはせんがダメージは大きいようだ。一瞬動きがやむ。腕が6本あれば。なんて思ってる場合じゃない。動きが止んだ間に、千歳は大蜘蛛の背中に再び乗り込み、間髪入れず背中の肉をえぐり取った。血が飛び出す。見た感じ、溶解液はないようだ。そこは一安心する。
大蜘蛛は激しく体を動かすが、千歳は刀を背中に突き刺しその場に留まる。千歳は背中から離れるつもりはないようだ。確かにこのまま押し切りたい。血を浴びながら振り落とされないようする千歳の顔も必死だ。がんばれ。頼む。
「千歳ー。」
俺が叫ぶと千歳の表情が笑った。嬉しそうだ。大蜘蛛の動きは変わらないが千歳には余裕ができたみたいだ。
才華が顔に向け、魔法を連射する。そのため大蜘蛛の動きがまた止まった。そして、その隙に千歳はえぐり取った部分に手を当て魔法を放ったようだ。大蜘蛛の背中が凍り付いていく。チャンスと思ったのか、才華も大蜘蛛の背中に飛び乗る。才華、千歳は背中のうえで魔法を連発する。どうやら、才華は表面を凍らせてるみたいで、大蜘蛛は凍り付きながら動きは徐々に緩やかとなり、やがて止まった
動きが完全に止まったのを確認して、千歳が胴体と足の付け根を全てを切る。胴体が地面に落ち砕け散った。これで撃破。やった。というかやっぱり才華、千歳の2人が倒した。
ガタクンさんの方を確認すると、ガタクンさんも大蜘蛛を倒したところだった。そして、前方の方も一段落している。千歳、才華が俺のもとに近づく。俺は門前に置いたリュック内からタオルと水を出し、千歳に渡す。
「今のうちに顔だけでも拭きな。あと水分補給。」
「ありがとう。」
才華にも水を渡す。
「才華も飲んどきな。2人とも魔法大分使ってたけど、体力とか大丈夫?」
「問題ないよ。」
「大丈夫。」
2人は水を飲み、答えてくれる。表情もケロッとしているから大丈夫そうだ。
「ガタクンさんもすごいねー。何方向からも矢を継ぎ足して、心臓を貫いて倒したみたい。」
ガタクンさんの倒した大蜘蛛を見て才華が言う。まじでかー。あんなに動き回っていたのに。心臓をピンポイントで狙ったのか。すげー。
「ガタクンさんは宣言どおり1人でも余裕だったんだ。こっちは3人ていうか、才華、千歳の2人で倒したたのに。やっぱり俺なんもしてねーな。」
俺の何気ない愚痴に2人が不思議そうな顔をする。
「なに言ってるの。在人の声援のおかげよ。あのとき一旦離れようかなって思ったけど、在人のおかげで留まれたんだから。ありがとう。」
千歳が微笑む。そう言ってくれるとありがたい。声援というより心配で声を出したのは秘密だ。
「そうだそうだ。千歳だけずるい。いいなー。いいなー。」
才華が頬を膨らませる。はいはい。
「機会があればちゃんとするから。今は集中してくれ。」
2人を促し、前方を見る。まだ終わりではないようだ。子蜘蛛がまた出てきた。が、数自体は今までより少ない。ガタクンさんはサポート班の助けで外壁に戻り、前方の方も戦闘態勢になっている。数が少ないのでそろそろ打ち止めか。今度こそ願う。




