安心した日
さてシクが住むことは無理くり決まったけど、7歳の子に家事をしてもらうのは実際どうなんだろう?ま、いいか。
「シクには俺らがクエストに出てる間に、晩飯を用意、洗濯、掃除をしてもらうって考えてるんだけど。シクは料理、掃除、洗濯のどれが出来る?」
俺の質問に
「料理、洗濯は手伝ってました。掃除はあんまりしたことがないです。」
はっきり答えてくる。世界観というか常識や生き方が俺らとは違うから、この年でしっかりしているのかな。俺7歳のときなんか、なんもできんかったけどなー。
「ふーん。なら掃除は覚えてもらうかなー。あーあと、俺らも家事はするから、あくまでクエストで不在の間に少しお願いしたわけ。」
「分かりました。」
素直だね。意見、苦情、要望はないのかね?していいんだよ。受け付けるよ。
「俺の考えはそれだけなんだけど。2人は?」
才華と千歳の意見を伺う。
「うーん。イナルタさんのところで魔法を覚えてもらって、あと私たちが少し武術を教えるからそれも覚えてもらう。少なくとも1人であの2人組は倒せるまでは鍛える。うん。」
千歳が答える。最後の部分まで達成するのは道のり遠いと思う。覚えといて損はないけど。シクは不安な顔をしている。
「話すこと。笑うこと。楽しむこと。頑張ること。あきらめないこと。わかった?」
才華が指を折りながらシクの顔を見る。
「は、はい。」
「素直でよろしい。」
シクの返事を聞き、才華は腕を組みは頷く。偉そうだね。
「それも大事だけど、私たちのことを説明しなきゃ。」
千歳が才華を見ている。まーそうだね。千歳に促され才華は口を開く。
「そうね。シクこれからの話はよく聞いてね。私たちは・・・・・・・。」
シクは目を丸くしたり、信じられないって顔で話を聞いている。
「・・・なの。この件は他の人には秘密ね。といっても知っている人は何人かいるけど。知らない人には私たちは遠い故郷から、怪現象で東の森にきたことで通しているから。お願いね。」
ウィンクでシクにお願いする才華。
「わかりました。・・・すいません。よくわかってないです。」
シクの素直な感想。だよなー。そうなるよなー。
「私たちは違う世界の人。これは秘密にして。この2点を覚えといて。」
千歳が要約する。まそうだね。そこがわかればいいだけ。
「それだけじゃないよ。私たちは元の世界に帰らなきゃないし、そのままこっちには戻ってこない可能性がある。それはシクがいつ一人になるかわかんないってこと。それは明日かもしんないって可能性もある。」
才華が真剣なまなざしをシクに向ける。そうだね。その可能性は否定できん。
「迎え入れたばかりで悪いんだけど、いつ1人になってもいいよう覚悟はしといて。私もそのときのために手配はしとくから。・・・・ごめんね。勝手なことばかりで。」
才華がシクに頭を下げる。シクは困惑している。
「手配ってなにをするつもりなんですか?」
「家と土地の所有権の移譲。とりあえずの就職先の確保。後見人の確保かな。それらをどうするかはシク次第だけど。」
才華が指を折りながら説明する。
「他になにか聞きたいことは?」
千歳がシクに尋ねる。
「何か気を付けることはありますか?」
恐る恐る質問するシク。
「あー、意見、苦情、要望があったらいうことかな。あと気楽にして。」
まず俺が答える。そんなもんだろ。と思ったら
「在人をいじるのはいいけど、傷つけたら殺すから。」
続いて才華。重苦しい声と笑顔でシクを見ている。ウォーズマンスマイルに見えた。
「ないと思うけど、在人に手を出したら殺すから。」
締めに千歳。笑っているけど空気が冷たい。ウォーズマンスマイルに見えた。
「は、はい。」
シクも空気に気づき首を縦に振っている。ごめん。怖がらせて。
「あと、在人はロリコンだからそこも気を付けて。」
才華が余計な一言を加える。おい。
「ロリ・・・コン?」
シクに言葉の意味は分かってないようだ。首を傾げている。
「シクくらいの若い子が大好きってこと。四六時中監視したいくらいね。だから、危険を感じたら大声をだしてね。」
「ひっ。」
千歳の補足にシクがこちらを見て引いている。
「おい、ロリコンだけはやめい。ロリコンは。シクが引いてるだろ。」
俺は声をあげ、2人に反論する。
「ごめん。在人。ロリコンだけはやめるね。」
千歳があっさり謝る。
「ロリコンに、変態だから。シク、下手に近づかないでよ。」
才華が変態まで加えやがる。おい。悪化してるぞ。
「なぜにそうなる。」
「だって。ロリコンだけは嫌なんでしょ。だから変態も加えたんだけど。」
俺の反論に不思議な顔でこちらを見る才華。
「そうね。『だけ』じゃ足りないんでしょ。在人。」
千歳が才華の味方をする。2人とも顔は笑っている。こいつら。
「っ。」
シクは笑いを堪えていた。・・・空気は変わったからこの件は保留だ。
「俺はロリコンでも変態でもないから。で。俺もひとつシクに聞きたいんだけど。いいかい?」
「なんですか?」
シクがこちらを見る。個人的に確認したかったことだ。
「今日、俺から財布すった理由は?」
「えっとその。見つけたときに1人だったのもあるんですけど、隙だらけだったというか。見つかっても逃げ切れるというか。なんというかその。」
歯切れが悪いシク。
「舐めてたんでしょ。」
才華がニヤニヤしている。
「はい。」
素直に頷くシク。やっぱりかー。そうか。そうですか。すごいな俺の特性。この世界でも子供になめられるのは変わんないのか。思えばこの世界にきてから基本3人で行動してたから、ガキにいたずらされなかったのかな。
「落ち込んでるね。でもね、私は在人のおかげで、シクに会えたと思っているから。すっごく感謝しているわ。だから元気だして。ね。」
無言でいる俺を見ていた千歳が励ましてくる。
「私と千歳だけなら警戒されてもっと解決に時間かかったと思うよ。その分だけシクは苦しんでいたんだよ。在人の手柄だよ。」
才華が付け加えてくる。腑に落ちない部分はあるけど。そうかい。俺の手柄かい。
「そうですかい。2人は感謝してくれ。」
棒読みで答える俺。
「「ありがとう。在人。」」
2人は笑顔でハモる。ま、いいか。とりあえず切り替えよ。
「うーん。話し合いはこんなところか。とりあえず、腹減ったから、夕食作って才華、千歳。お願い。」
俺がお願いすると2人は
「「任せて。」」
と言って部屋を飛び出していった。と思ったら千歳が入口から顔をのぞかせる。
「シク食べたいものは?材料しだいのところもあるけど。」
「え、えっと。」
突然の質問に答えれないシク。
「思いついたの、パッと言えば。」
俺が促すと、シクは目を一瞬伏せて答える
「暖かいシチュー・・・。が食べたいです。」
「わかったわ。」
千歳は返事を聞いたら手を振り、光速でいなくなった。その様子を見てシクがあっとし
「私も手伝います。」
と言うが、俺はそれを制し、
「今日はいいよ。2人もそのつもりだから。」
「でも。」
シクは戸惑う。うーん。自分の立場を考慮しているのか。真面目だー。
「今日はしかっり休みな。」
「・・・わかりました。」
シクの顔は戸惑ったままだ。
「さっきも聞きましたけど、なんでここまでしてくれるんですか?」
「2人はシクへの同情、愛情かな。あの2人は兄、姉はいるけど、妹はいないから。妹ができたみたいで嬉しいんじゃないの。それもあると思う。」
「そうなんですか。」
「たぶん。あと俺はさ。10歳のとき、両親が死んで。そのときからあの2人や周囲の人が助けてくれてるんだ。んで、その人たちの一人に『助けられたことを恩義に思うならそれを違う人に返せ。私はお前からはいらん。』って言われたんだ。それを今シクにしているところ、それが俺の都合。」
シクは黙って聞いていた。
「だから、この状況を受け入れて生活して欲しい。ただ・・・。」
「ただ?」
俺はシクの目線に合わせる。
「もう自分が奴隷だとか商品だとかは言うな。2人が悲しむし、俺もそれは許さない。・・・ま、なんていうか家族みたいにってのがあってるのか分かんないけど。安心して、ここに住んでちょうだい。」
「分かりました。」
シクが頷く。・・・顔が怯えているというか泣いている。俺そんなに怖がらせたかな。確かに最初はきつめに言ったつもりだけど。泣かせるつもりはなかった。
「あーごめん。怖がらせて。泣かないで。」
「違うんです。あ、あの日からこんなに、こんなに優しくされた日も安心した日もなくて。」
シクは顔を下に向けて静か泣き続け、 俺はその様子を黙って見ていた。
数分後、シクは泣きやんだ。目もとが赤い。この状況を2人に見られたらなんと言われることやら。まぁそれは置いといて。
「落ち着いたかい。」
「はい。」
「落ち着いたついでにもう一つ覚えてといて。俺を傷つけたら2人は怒るけど、冷やかすくらいなら喜んでそのノリに乗ってくるから。あの2人と暮らしていくなら、ノリはよくないとやってけないから。」
「はー。そうですか。」
すると才華とが部屋に戻ってくる。
「シクあの・・・。シク、どうしたの?」
才華がシクの目元を見て質問する。
「あの。ザイトさんに言い寄られました。私それが怖くて。」
へ?シク?何を言ってるの。その発言に才華の顔が凍りつき、こちらを見てくる。よく見ると右手に包丁がある。
「在人。苦しませはしないし、死体でも私は愛するから。言い残したいことは?」
質問とともに包丁をこちらに向ける。えー。弁解なし、言い分なし、かよ。
「いやいや。ちょい待ち。俺がそんなことすると。あれだよ、シクの冗談だよ。」
「じゃあ。なんで泣いたあとがあるの。」
「それは、2人の優しさのおかげだよ。」
俺は声を荒げる。そのおかげか才華の反論が止まる。
「ごめんなさい。嘘です。ノリをよくしたほうがいいって、在人さんに言われたので。挑戦してみました。」
シクが頭をさげ、白状する。それを聞いて才華がきょとんとしてシクを見る。そして肩を震わす。シクに怒るか?
「ははっ。いいよ。シク。うん。そういうノリは好きよ。いきなりしてくるとは思ってなかったからあんな風になったけど。」
才華が大笑いしている。ふー。助かった。
「良かったです。それで。私になんのようですか?」
シクの顔が綻んでいる。
「食べられない物ある?個人的にとか種族的にとか文化的にとかでさ。」
「なにもないです。」
「そ。わかった。できたら呼ぶから。部屋で休むなり、荷物を整理するなりして待ってて。」
才華も光速でいなくなった。
「だって。必要なら手助けはするから。」
「・・・さっきの件は怒らないんですか?」
シクが聞いてくる。
「初回サービス。・・・ただ、今後は凶器の有無は確認してくれ。さっきシクが白状しなかったら、間違いなく刺されてた。千歳もそうだから。」
「それは気を付けます。」
シクも才華、俺の表情から危険性は理解したみたいだ。
「あと好き嫌い無理してない?」
「・・・ピーマンは嫌いです。でもシチューに入ってるイメージはないのと、申し訳ない気がしました。」
くくっ子供だ。割りとポピュラーなもんだけど。
「そう。今後どうするかは自分で決めな。白状するか頑張って食べるかは。まっ荷物整理をするかい。」
そうして荷物を整理していると
「できたよー。」
「食べましょう。」
2人が部屋に入ってくる。
「あいよー。行こうかシク。」
俺が2人と並んだところで
「あのー。3人は異世界から来たのはさっき聞きましたけど、3人はどういう関係なんですか?」
シクが俺ら3人を見て、聞いてくる。
「彼女。」
「恋人。」
2人は俺の両腕をそれぞれ組んでシクに笑顔で答える。そして、いつも通り2人は顔を見合わせている。シクは目を丸くし言葉が続かない。
「えっ。あの。えっ?」
「幼馴染。親友。」
俺の回答を聞いてシクは
「はー。」
とただ一言。2人があーだこーだ言ってるが無視、無視。
「いいから。飯、飯。あー、お腹すいたー。2人のごはんはおいしいよ。」
「はい。」
シクは今日一の元気な声だった。少しは打ち解けたのかな。