四天王×2
表にでないはずの黒歴史設定
Q 連波黒霞はいつ発動したの?
「お前がなぜここに?」
「遊撃四天王『軍斧カンガミネ』が自分の軍港にいることのなにがおかしいか?」
! こいつがこの軍港のボスか。で、そのボスがヴォヴォの知り合い。世間は狭いというべき?
「なん……だと……」
知人の現状に呆然とするヴォヴォ。そうはなるか
「カンガミネさん。感動の再会中のところ割り込ませてもらいますが、まず、やるべきことをやりましょう」
「ふん。言われずとも分かっている」
プープルとカンガミネの視線がポルヘと向く。
「ではポルヘ君。いえ、ポルヘマリス・ルコ・ゲルハマ様……」
予想通り、向こうもポルヘの正体にたどり着いていた。
ポルヘ・マッコことポルヘマリス・ルコ・ゲルハマ。
ゲルハマ帝国先帝の子であり、現皇帝の甥にあたる。
帝国の皇位継承は男女関係なく実子が優先されるので、本来なら、ポルヘが皇帝となるはずである。じゃあ、なんで、ポルヘ・マッコを名乗っているのか。一言で言うと権力争いの結果だから。
先帝は現皇帝一派によって毒殺され、ポルヘ自身も世間的には先帝と同じ病で死んだとされている。今、ここでポルヘが生きているのは忠臣たちの犠牲によるものだという。
ポルヘの目的は バカ皇帝への復讐と国政の正常化。独裁でも、国民の多くが平穏に生活できる政治だったら、権力争いに嫌気のさしたポルヘは国を出て、どこかで行くていくつもりだった。
が、現実はそうはいかない。侵略国家として暴走。国内での言論封殺。現皇帝派の横暴。バカ皇帝にすりよった家臣の私腹を増やすための政治。
それらにより、積み立ててきた国民の平穏と国家への信頼は崩れ去っており、貧困層は確実に増加している。また、他国からしても暴走した独裁国家として見られている。
ポルヘの皇族としての責任がこれらを無視することはできなかった。だから、現在、現皇帝派の横暴から一般国民を守るために戦っている。恨まれて当然と思っていたヴォヴォと旅に出ている。
また、これは国民を守るだけではない。人材発掘、国内の現状把握、自分の成長のためという部分もある。
いくら、先帝の血が流れている、毒殺の証拠、自身が皇族である証明があるといっても、現状はそれだけ。後ろ盾もなければ、味方もいない。そして、力や求心力のない者を周囲は皇帝として認めてくれない。ポルヘの旅は将来を見越し、自分の名声をあげ、味方を増やすためでもある。
ポルヘは国民と国の平穏のため、自国と戦う平穏とは矛盾した道を選んでいる。そう自らについて語っていた。
死んだと思われた先帝の子ポルヘマリスが生きている。それに気づいたからこそ、プープルは攻撃をやめ、事実確認と今後の対応を慎重に決めることにしたのだろう。
皇帝直属遊撃四天王のプープルが現皇帝の不祥事をどこまで把握しているのかは不明。だが、ポルヘの存在は現皇帝派、それも毒殺にかかわった宰相などの腹心には不都合なのは間違いない。
「……を語る謀反人には、この国の秩序のため、死んでもらいます」
って、そうきたか。ポルヘは先帝の子を語る偽物扱いか。プープルのプレッシャーが増す。
「……分かって言ってますね」
ですか。先帝の子と知っても現皇帝派なら、殺しにくるか。
「プープル、打ち合わせ通り、ヴォヴォは俺が殺る」
カンガミネの両手の毛がグローブとなっていく。ボクサーか?てか、ボクサーだな、ウォームアップがそうだ。
「カンガミネの相手は俺がする。援護はできないと思ってくれ」
「……わかりました」
「すまん」
ヴォヴォは両腕の毛を手甲と変化させながら、俺たちから離れていく
「おいしいところはまかすが、軍港の被害分の補償は頼むぞ」
「ええ。わかっていますよ。そちらこそ、古い知人だとしても、情けはかけないでくださいね」
「掛けるか、ボケ!行くぞ、ヴォヴォーーーーーーーー」
ボクサースタイルとなって、ヴォヴォへ突撃。
「来い!毛具拳の教えを忘れた旧友よ」
待ち構えるヴォヴォ。第一手は
「「うおおおおおおおおおおおお」」
互いに頭突き!
金槌状となったリーゼントとヘルメット状になったアフロが激しくぶつかった。いや、まあ。殺し合いだから、なんでもありだろうけど。想像していた一手とは違う。
「さてこちらも始めますか」
プープルが陣を展開し水流を飛ばす。それを真希奈さんの防壁が防いだ。あいさつ代わりの一撃ってところか。
「今回は見ているだけではないようですね」
プープルは真希奈さんのほうに視線を向ける。俺と真希奈さんの立場の確認ですか。
「では、いきますよ。あちらで暴れている方の相手もし」
「おっと!させるか!」
「っく」
言い終わる前にプープルの先制。狙いはポルヘ。それを防いだのはパチボス。一瞬よりも早い刹那で2人はポルヘの前で腕を押し付けあっていた。俺には見えなかった。俺だけじゃない。ポルヘも反応できていなかった。縮地ってこんな風に見えるのかな。
「いい反応です。っと」
真希奈さんは水弾を飛ばし、プープルは首を傾けることで回避。
「大人しそうな見た目に反して、容赦ないですね」
「……余裕がありませんので」
淡々と答える真希奈さん。真希奈さんの言うことは間違いではない。ここはゲルハマの軍港。ソンフが兵士をひきつけているとはいえ、全部を相手しているわけではない。いつこちらに増援が来るかは分からない。それに比べるとこちらはこれで全員。増援なんてない。余力が尽きる前にプープルを倒し、脱出しないといけない。
「ああ。他の兵がこちらに来ることはありませんよ。あなた方の相手には荷が重いですから。それにサイダさん、エンキンさん、それにカンガミネさんの5人……もしくは6人衆はあちらの方の相手をしてもらっていますので」
ですか。てか、5人若しくは6人衆ってなんだ?
「……ポルヘ君のことを他の兵士に知られないためですね」
「……」
核心をついているようだ。
「……全ての兵が現皇帝派とは限らないですもんね」
天ノ丈が右手を伸ばす。ナメック星人、ゴム人間みたいに。
「偽物とはいえ、皆さんみたく担ぎ出すものが出ないとは限りませんから」
プープルはパチボスから離れ、天ノ丈のこぶしを回避する。そこへ、水弾。それも首を傾け回避する。
「……本人だった場合はどうするんです?」
「ポルヘマリス様は若くして天に召された。おっと。それが事実で、この国のためです」
パチボスのパンチを受け止めた後、ポルヘの黄霞を回避。
「……言論封殺され、経済が回らない国がまともとは思いませんが?」
プープルは間合いを取った。
真希奈さんの世界実情は知らない。だが、俺の世界で考えても、近隣の国を全うだとは思わない。自国もそうならないように天城家の祖父、高祖父世代はあんや……日々動いている。それは才華から聞いている。
「それで困らない方がいるのですよ」
「……保身のためですか」
「そこの全否定はしませんよ」
「……だそうです。ポルヘ君」
「国とビュイさんのため、お前はここで倒す」
ポルヘは決意新たにした表情で、黄霞を作り出す。
「『大連黄霞』」
プープルの周囲を大量の黄色い霞が覆う。
「彼女さんの部分が強い気がしますが……」
プープルの的確なツッコミ。それは俺も思った。真希奈さんも頷いている。ああ、素晴らしき恋愛なり。などと才華たちなら騒いでいるところだろうか。
「う、うるさい!」
ポルヘは顔を赤くし、両手にも黄色い霞を纏い、突進する。その動きに合わせてパチボスも突進。
真希奈さんは水弾、天ノ丈は右腕を伸ばす。
「自分から来ますか!」
標的が自ら突っ込んでくる絶好の状況に笑みを浮かべるプープル。ポルヘの右腕を左手で捌き、左腕はいつの間にかは発動していた水流で拘束。天ノ丈の拳をしっぽで防ぎ、パチボスは顔面を水で覆われ、動きが止まる。左腕に力は入ったところで、真希奈さんの顔面狙いの水弾が飛んでいく。
「狙いが真っすぐすぎで!?」
プープルが首を傾けたところで、水弾が弾けて、プープルは被弾。
「やりま、ごはっ」
ダメージ的にはたいして効いていない。だが、この攻撃により一瞬、動きと視界は途切れたのも事実だ。その一瞬でポルヘはプープルに体当たりし、拘束されたままの左腕の霞を爆発させる。
この機を逃すことなく、天ノ丈は左腕も伸ばして呼吸ができずもがき苦しんでいるパチボスを掴んで、そのままプープルの顔面に叩きつける。
「まだまだああ」
ポルヘは間合いを取りながら、右腕を振る。右腕の動きに同調するようにプープルを囲っていた黄霞がプープルに集まり爆破。
これで倒せるとは思わないが、ダメージはどうだ?徐々に煙が晴れてくる。この攻防の成果はいかように?
「ふむ。いい攻撃ですね」
プープルに汚れやかすり傷、わずかな出血は見えるが、平然としている。全然効いてないのか?
「そんな……効いてないなんて」
呆然とするポルヘ。
「あ、落ち込む必要はありませんよ。結構効いてはいます。ここまでのダメージは久々ですよ」
体の汚れをはらいながら、ポルヘを励ますように答えるプープル。
「本当かよ?」
「さあ、どうでしょう?私が四天王という立場から弱みを見せていないだけかもしれませんし、本当に効いていないかもしれない」
余裕のある態度を崩さないプープルはこちらに揺さぶりもかけてきた。
「……効いてないならどうします、ポルヘ君?」
ポルヘの真横へ並ぶ真希奈さん。
「真希奈さん……」
「……ビュイさんを助けるのをあきらめますか?」
「いえ、ビュさんを助けるのは変わりません」
ポルヘの握る拳に力が入った。
「……以前の戦いとは異なり、今はダメージを与えることができました。……負傷具合はわかりませんが、そういう駆け引きを使う状況にまで進めた。……そう考えることができます」
以前は真希奈さんは見ていただけとはいえ、一方的に攻撃されていた。たまたまプープルがポルヘの正体に気づいたことから、攻撃をやめただけで、全滅していてもおかしくない。
「……倒れるまで、積み重ねましょう」
真希奈さんは杖頭部をプープルに向ける。
「はい!」
ポルヘも構えを取る。
「俺を忘れるな」
パチボスが鼻から水をたらしながら、死にそうな顔で恰好をつけている。呼吸できない状況でたたきつかられたからな。
「そう、おれも「あなたも油断できませんね」いや、俺まだしゃべっている最中」
プープルの視線は真希奈さん。 天ノ丈五月蠅い。
「最初から破裂する水弾を撃っていたんですよね」
「……ただ撃つだけだと当たらないと思っていましたので」
最初に外れた2発も同じ魔法だったのか。顔面狙いだから避けないといけない。だけど首を傾ける程度で避けれる。これを2回繰り返し、ちょっと邪魔な直線的な弾丸と刷り込んだか。
「まずはあなたからにします」
「させるか!大連黄霞」
体を沈め、狙いを真希奈さんにしたプープル。ポルヘは大連黄霞。真希奈さんの杖先には水の塊が
出来る。
「この爆破は効きませんよ?」
霞を交わしながら迫りくるプープル。
「だったら、効くまで攻撃するだけだ!」
両腕に霞をまとうポルヘ。
「そこまで、生き残れるとでも?」
「残るさ」
「いい啖呵です。ではその言葉を証明してみなさい。ほら、行きますよ」
「2度もですか!」
あの縮地での突進をまたパチボスに止められ、プープルは驚愕の表情となった。
「このパチボス様をなめるなよ!」
得意げな顔をするパチボス
「止めれると思わないことです」
「ぬお!?」
冷静な表情に戻り、パチボスをつかんで上空へ投げ飛ばし、すぐさま一歩前へ出るプープル。ポルヘが弓を引くような体勢をとる。
「飛ぶなら自分の翼で華麗に舞うわああ!」
「ぐっ」
パチボスが宙でなにかを蹴飛ばし、プープルに頭突きを食らわす。あ、天ノ丈の腕を足場にしたのか。
これは効いたみたいでふらついたプープル。
「霞虎阿!」
「この程度で」
ポルヘが引いていた右腕を押し出してプープルの腹を突く。プープルはこれを左腕で止めた。その状態となったプープルを人影が覆う。
「もう一発!まんじゅうダンク」
影を作り出した正体の天ノ丈が両手を組んでパチボスをプープルに叩き込む。
「ぬううううううううううああああああ」
プープルは雄たけびをあげて、倒れることを拒む。それどころか、尾でパチボスを弾き飛ばし、右手でポルヘをつかんで天ノ丈に叩きつけた。
「水振刀でいきます」
とてもリスの獣人とは思えない、血走しった眼を真希奈さんへむける。両手に術式を展開させ、水に覆われる。ただ覆っているだけには見えない。なんだ?
いやそれよりも、状況が悪い。前衛がいない。壊れた車のところで、ビュイの盾をしている俺は間に合わない。
吹っ飛ばされた3人は壁に、地面に、海にたたきつけられて、動き出せない。視線をヴォヴォのほうへ向ける。ヴォヴォは三節混、カンガミネはヌンチャクをぶつけ合っていた。こちらも無理。
視線を戻すと展開は悪化していた。視線を動かして、判断する。たった1秒程度の時間でだ。
視線を動かす前には真希奈さんとプープルの間には距離はあった。杖頭部を水弾を撃つ準備をし終えていた。この状況だとまだ、魔法のほうが有利と思われる間合いだった。
だが視線を戻した今、プープルはその間合いをつぶして、杖先にできていた水の塊を左手で粉砕していた。あの縮地か。
右腕を振りかぶるプープル。咄嗟に杖で防ごうとする真希奈さん。
結果は見る間もなく、プープルの勝ち。杖は折られ、真希奈さんは地面をバウンドしながら、俺の目前まで吹っ飛ばされた。真希奈さんじゃなくても致命傷か即死する一撃に思えた。さらに、指先を向けるプープル。!水弾を撃つのか。
「真希奈!」
俺は真希奈さんに駆け寄り、腰を低くし、盾を構え防壁の魔法を発動。これで地面にまで防壁が張られる。なんとか間に合ったらしく、盾に3度の衝撃がはしる。
だがこのままだとやばい。どうする?このまま同じ攻撃が来るか?だがそんな甘い相手ではない。
なにか状況を変えるきっかけが欲しい。だがどうすればいい。と考えていたところで、なにかが爆発する音。それも1発じゃない。連続でだ。そして、プープルの水弾が止まった。なんだ?
プープルに視線を向けると、本人の姿は見えなかった。視界に入ったのは爆発。これはポルヘの大連黄霞か。だが、その使い手のポルヘは離れた位置で動けないでいるのが見える。どう考えても、ポルヘじゃない。
「風で……動かしました。はあ……はあ。っ……」
爆発に気をとられちた俺はハッとして、すぐさま真希奈さんのほうに視線を落とす。苦痛をにじませた表情の真希奈さん。! 死んではいない。よかったと思ったがその判断は早すぎた。
「かばって……っ。はあ、はあ。ごほっ。がっは。」
口から大量の出血。外見の負傷より、内臓のどこかのほうがひどいのか?ダメージで動けず、呼吸もあらい。
俺は片手で盾を構えながら、腰のポーチより傷薬を取り出し、真希奈さんの口に流し込んだ。
この世界は生存戦争が終わっていないからか、薬の効果はパヴォロスより上。完全回復とは言わずとも最低限活動はできるようにはなる。今流し込んだのは、体を動かせるようにするための薬。傷薬を飲ますことも考えたが、動けるようになれば、真希奈さんなら自ら治療できる。
「す、すい」
「しゃべんなくていい」
薬が効いてきた真希奈さんは自ら治療を始めた。内臓の治療なら治癒術のほうが効率はいいだろう。
爆発が終わり、煙は晴れていく。
「少々驚きましたよ。あの靄は彼にしか操れないと先入観がありましたからね」
プープルは透明な球体に包まれていた。
「それに……」
プープルを覆ってた球体が崩れ去る。あれは魔法で発動させた水のシールドってところか。あんな芸当もできるのか。
「杖で防ぎつつ、間合いを取ろうと後方にジャンプ……」
それが失敗して、真希奈さんはここまで吹っ飛ばされた。
「……と思わせておいて、魔法の防壁で直撃を回避し、殴られた勢いを逆に利用して、私との距離をとった。それと同時に風の魔法で先ほどの霞を私に向けて足止め」
ですか。ダメージ覚悟で距離をとるほうを選んだと。真希奈さんは才華たちとは違って格闘戦ができるタイプではない。なら判断は間違っていない。
「術師よりは、武人の動きや判断ですね。失礼ながら、武人とも、戦いの経験も多い方には見えませんのに……」
そこまで気づくか。四天王という立場は伊達じゃないか。
「ですが、私の使用した魔法『水振刀』は振動を送りつけるもの。咄嗟に防壁を押すことで密着していた身体、杖に振動を送ることができました。もう少し防壁と隙間があれば、完全に攻撃をふせがれていましたがね」
プープルはこちらに一歩ずつ近づいてくる。抱えて動きたいところだが、あの一瞬で目の前にくる速度相手には意味がない。そもそも動かすのも危ういが。
「マキナさんと言いましたか。確実に仕留めさせてもらいますよ」
今は余裕があるからゆっくり歩いてくるのだろう。これを利用したいところ。考えろ。今は時間をかせげ。
「確実にねえ。それなら、最初からビュイにかけた眠りの呪いを使えばよかったんじゃあないか?」
自分で言っといてなんだが、実際にそう思う。現状、解除の術がないあの術。1人1人眠らせるほうが安全で確実だろう。てか、なんでその手段を取らない?前回は捕らえるためで、今回は殺すからか?
「あれは戦闘要員ではないあの子だったから、簡単に掛けることができたんですよ。そして、その子を受け止めていたから、彼にも掛けれそうになっていただけです。そもそも戦闘中にそう使える術ではありませんし、使うとしてももう少し動けなくしてからですね」
そうなのか?まあ、印が展開している時点でなにかあると警戒するか。そう簡単に使えない可能性がある。それは分かった。
「それにマキナさんには効かないでしょう。では他の方に、といきたいところですが、術を何度もみせれば、マキナさんなら解除できるようになる。その手には乗りませんよ」
正解。俺たちはそれも考えていた。効かないかはともかく、見ることは考えていた。真希奈さんもあの術の術式を観察したいと言っていた。
「時間かせぎは構いませんが……」
一瞬で目の間に移動し、反応できることもなく盾がはじ飛ばされる。
「っつ」
「はあ。はあ」
自分の心音以外で異様なほど聞こえる真希奈さんの呼吸。異様に聞こえるといったが、それは弱弱しい。この状況がそうさせているのだろう。そして、真希奈さんは動けないでいる。それは背中越しでもわかる。わかってしまう。
「どうもなにかを隠している気がしますね」
絶対強者と弱者。蛇ににらまれたカエル。パヴォロスで幾度もあった死を実感させる状況。背筋が凍り、鳥肌、冷や汗。生きた心地はしない。
戦いから生き延びても、俺の世界でいくらか、鍛錬しても、俺の実力は戦いに参加した弱者。この状況の打破は俺ではできない。
それでも俺は真希奈さんをかばうように前にはでれた。それだけはできた。これは男の意地。でもあり、少しでも生き残るため。
「い、言うとでも?」
隠していること。真希奈さんが神具使いであること。その神具を使わずに戦っていること。2週間以上前は死ぬ直前の病人だったってこと。
真希奈さんには振動によるものだけでなく、吹っ飛んだ際のバウンドですら、深刻なダメージだ。今は少しでも治療してほしい。
「その言い方はなにかあると言っているものですよ」
「こ、ここからが駆け引きの始まりになるだろ」
隠しているなにかに、ビビッてくれれば儲けもの。実際神具使いという発想はないだろうけど、まだ、神具を使っていないという事実はこちらにはまだ余力があるということにはなる。
「おや、先ほどの意趣返しですか」
「そ、そゆこと」
恐怖でこれ以上は動けないけど、口だけは動いてくれる。それだけでもいい。
「ふむ。これを待っていたんですね」
「霞虎阿!」
背後からポルヘが青い霧をまとったパンチ。それを見ることなくプープルは首を傾けてさけた。ドラゴンボールの世界かよ。
「あまぶ」
プープルの余裕ある口元がつぶされ、歯が飛んだ。口元には浅葱色の物体。霧に隠れてわかりづらいがポルヘの右腕から胴体にかけて浅葱色のロープみたいのが巻き付いている。
「ぶははっは。しゃべっている最中に邪魔される気分はどうよ」
浅葱色の物体がしゃべった!この声は天ノ丈!
「この!こんにゃくが!」
こんにゃくあるんだ!じゃなくて、プープルの尾が動く
「天ノ丈!」
「こいやああ」
ポルへは足腰に力を入れ、両腕で防御。その動きに合わせて、天ノ丈が両腕を覆うように形を変え、尾による攻撃を防ぎ切った。ニヤリと笑みを浮かべるポルヘ。
「もらったあああ」
尾が止まったタイミングで、パチボスのドロップキック。海からは這い上がってきたためべちょべちょだ。
「ふんに!?」
尾が踏みつけられ、驚愕の表情をするプープル。ダメージはともかく痛みはでかいようだ。
「今のうちに盾を!」
ポルヘがプープルを持ち上げるように腰に組み付き。そこから足元が爆発し少しだけ浮き上がる。
「ぬらあ!」
ポルヘの背中に上半身だけの天ノ丈が両手でプープルの胴体を押し込む。そのタイミングで再度ポルヘの足元が爆発。爆発と押し込みにより後方へ吹っ飛んでいった。パチボスも追いかける。
「なんのー」
そこから、ポルヘたちは乱戦となる。これにより俺は盾を回収し、真希奈さんの回復する時間が取れた。
「……人多さん。もう大丈夫です」
真希奈さんは少しふらつきながら立ち上がる。顔色はよくない。無茶するなと言いたい。が、この状況を打破には真希奈さんの力が必要になる。
「……盾を構えてもらっていいですか。『太極図』を取り出します」
小声で話す真希奈さん。
「盾?それはいいけどなにを?」
「……相手はあの乱戦でもこちらを見ていますので」
空間から杖を取り出せば、それが神具だと思いつく可能性があるか。
「あいよ」
盾をプープルの方に向けて、立ち上がる。そして、真希奈さんは『太極図』を取り出した。立ち位置と動作からして、俺のカバンから取り出しように見えるはず。
「ぬええい」
プープルは尾でパチボスをつかみ、振り回すことで、ポルヘ、天ノ丈を吹っ飛ばす。
「はあ。はあ。おや、先ほどより相当いい杖ですね」
見た目は基礎用の杖より、少しだけ装飾がいいだけだが、見るだけでわかるものか。あと、空間から取り出しことには気づいていないか。
「……折られてしまいましたからね。ポルヘ君、傷を治しますから、こちらへ。パチボスさんたちは少しの間お願いします」
「あ、はい」
ポルヘは致命傷こそないように見えるが、細かい傷や疲労が見える。
「キャノンボーラ作戦タイプG3で行くぜ、天ノ丈!」
「へ?なにそれ?俺しらん」
ガチで?が浮かんでいる天ノ丈。大丈夫なのか?おい
「アレだよ、アレ。鉄の球だ」
「! おうよ、パチボス!」
天ノ丈の右手が巨大化してパチボスを掴んだ。そして、自らの右腕を鉄球のように回し始めた。ドンドンと右腕が伸びてゆく。
「死ねよやああ、パチボスハンマー」
天ノ丈が遠心力付きで右腕を伸ばした。
「下らないコンビプレイ、なんていいませんよ」
今までみたくギリギリで回避することなくある程度、余裕を持った回避。ギリギリだと、パチボスからの攻撃がよけれないと判断したか?
「……アバラ、折れてますね」
! マジでか。
「はい。壁に飛ばされたときにです」
「……天ノ丈さんがクッションとなって衝撃を減らしたとはいえ、よく耐えれましたね」
「ですが、俺だけ治療する状況です。パチボスや天ノ丈、ヴォヴォさんはまだまだ動けているのに、情けない。くそっ」
悔しさで涙を浮かべるポルヘ。確かにパチボスや天ノ丈、敵のプープルはまだ余裕が見える。ヴォヴォのほうは出血が目立ち始めているが、より一層激しくぶつかり合っている。これは種族や年齢、体格の差のせいか。
「……こればかりは、年齢、個人、種族、体格、その差だと思います」
「だけど俺がもっと強ければ、ビュイさんがこんな目に合わなかったかもしれないです」
強さがあれば、その気持ちはひじょーーーーーーーーーーーーーーーによくわかる。
「……望んだときに、全てが望み通りに行くなんてそうそうはないです」
「ポルヘよりちょっと人生の先輩として、そこは真希奈さんの言う通りだと断言できるぞ。ポルヘだってそこはわかるだろ」
結果を求め地道に努力する。才華や、愛音、マアカ、あの3人だって努力はしている。望んだ結果に至らないことだってある。そもそもポルヘだって本来なら、皇族としての生活をしていたはずだろう。
「……それにポルヘ君にとって強さはそう簡単に手に入るものですか?」
「それは……」
そもそもなんらかの強さがあれば、ポルヘはすでに皇帝の座を引きついていたかもしれない。
「……だから頑張りましょう。そして、今はあるものであがきましょう。それこそ、ビュイさんのためにできますよね?」
「そもそもお前以上に弱い、というか戦いとは無縁の一般人と変わらない強さの俺がここにいるんだ。実力不足に嘆いてる場合か??あと今後、弱くても戦場にでる可能性は絶対にあるだろ。今から慣れとけ」
俺が弱いことは既にというか、共闘することになった時点で説明はしている。力がなくても戦場に立つことはできる。次の瞬間、死ぬことになっても戦場に赴くことはできる。その経験だけはある。
「それとも絶対に勝てる戦いにしか挑めないのか?勝てる戦いじゃなきゃ、ビュイを助けもしないのか?てか、それなら、皇帝に挑む理由なくなるだろ。その後の遺物魔との闘いはどうするんだ?」
絶対に勝てる戦いしかしない。そういう判断も必要なのは否定しないが、そういかないときだって絶対にある。敗北濃厚でも戦わなければいけないことがある。
ビュイの立場が才華たちだったら、俺はどうする?
ビビりながら、策を練りながら、仲間を探して、戦いを挑む。そして、俺1人だったら勝てずに死ぬだろう。
俺は『なにもしない』が選択肢にあっても、脳裏に浮かんでも、選びそうになっても、選びはしない。選んでたまるか。俺は生命至上主義じゃあない。そういう奴と才華たちの『命は手段』の生き方なら、俺も後者を選ぶ。そうじゃなきゃ、俺はより惨めになる。
そして、この世界にいる以上、異物魔との闘いは避けられない。絶対的格上の遺物魔と対峙する可能性は戦士である以上かぎりなく高い。そのときに打ちひしがれる余裕なんてない。
「……そうですね。闘うしかないですね」
決意を新たにしポルヘは立ち上がる。たのむよ。
A 球体天ノ丈の中に大量に詰め込んでいました。なので人間砲弾ならぬゼリー爆弾による攻撃を実施しました。