癒し系じゃい
Q「人間なら告白したい」って言った男の結果
ランカ・リィド社刊 『明日から君もハンター 教科書購入編』を読んでわかったこと。
魔物の増え方
1 魔物も生物なので、生物と同じように。
2 長年たまった魔力から魔石を生み出す。魔石は時間がたつと魔物へ至る
3 魔含雨
魔力の濃度が一定以上籠った若干塗色のある雨。人畜に害はないが、少なからず強力な魔物
となる魔石そのものが降ってくる。七つ目鬼もこれに該当するようだ。
なんでそんな雨が降るかというと、雲に魔力や、魔物の血やら毛、骨からなるチリが混ざっ
ているかだそうで。
この雨は頻繁に降るわけではないが、強い魔物がうろつく可能性があるので、この雨が降っ
たのちに魔物討伐が必須となる。
俺たちがたどりつたケモツノ村では冒険者に討伐依頼をだしており、そのためにあの宿はあるらし
い。
「……着きましたね」
ケモツノ村で。8体ほど魔含雨産と思われる魔物を倒し魔石を集めた後、ゲルハマ帝国最北西の街ハバキゲにたどり着く。
『ご利用ありがとうございました。またのご利用お待ちしております』
アナウンスを聞きながら、俺たちは約5時間使用した移動手段と別れを告げる。
ここまでの移動は徒歩でも人力車でも馬でも馬車でも魔法の絨毯でもない。俺の世界ではお馴染み。パヴォロスでは見ることはなかったもの。それは
『バス』
ケモツノ村から20分ほど歩いた先にバス停があり、そこから何か所のバス停を通過しハバゲキ入り口のバスセンターへ到着。ただ場所が場所なので、ケモツノ村からは1日4本しかない。いや4本もあると考えるべきか?
そのバスにしても、乗客以外に乗車しているの運転手と護衛3名。護衛の役割は魔物や野盗の相手だそうだ。
魔物のいるこの世界では移動には自衛手段が必須。一応、街道は定期的に魔物を退治しており、魔物との遭遇は少ない。ただ、車の速度より早いなにかを持つ魔物。広範囲を移動できる魔物。乗り物を壊せる魔物。それらは街道を離れればすぐそこにいるからだ。
故に護衛を乗せれる人数的余裕や戦える場所を用意できるバス、機関車、飛行船が広まることになる。自家用車を持つ者もいるにはいるが、護衛を雇える金持ちか、単純に自衛の力を持つ者のみ。値段の面からも一般家庭で持つものは希な状況。
とバス内にあったランカ・リィド社刊『よろしくメカ道中 車両発展伝編』に書いてあった。
まず街の壁を2人で見上げる。魔物がいるからかこの世界で街は壁でおおわれているのが基本のようだ。
そして、視線を下げると人間しかいなかったヤセントの砦やケモツノ村とは違い、このハバゲキの街を多種多様の種族が往来しているのが目に映る。ここまで骸骨のアロッドと魔物しか見たことのなかった真希奈さんも異世界にいることを実感しているようだ。
俺たちが到着したハバゲキの街はゲルハマ帝国北西端にある街。
ゲルハマ帝国
第三次遺物魔戦にて活躍した傭兵団が北東の大陸にゲルハマ武兵国を興す
周辺諸国を次々に吸収し、6割を有するまでに成長した際、ゲルハマ帝国と改名。ドッサルリーナは皇帝を名乗るようになる。
戦争好きという面が強かったドッサルリーナ皇帝だが、内政自体は安定し今に至る基盤を築き上げたため、一般国民からの不満はなかった。また、異物魔対策として実践経験を積む、数十の連合国軍より統一国家軍としたほうが、軍として足並みを揃えやすいと考えがあったのではないかと言われている。
3年前、前皇帝が若くして病死したことから、現皇帝フォッスルリーナが結果的に皇位を継いだ。でバカ皇帝はこの現皇帝。
が。バカ皇帝は初代皇帝を超えるという考えしかなく、南にある隣国ノケに宣戦布告。多数の強戦士はいれども小国だったノケは隣国ユウギ王国の協力を得るも、地図から名を消した。
ゲルハマの次の標的はユウギ王国であることは誰の目にもあきらかだが、先の戦いの影響により今のところ、目立った動きはない。
ただ、先代まで均衡のとれていた内政とのバランスは崩れたらしく、この現状をバカ皇帝とその周りのアホ家臣が理解しているのか、それに対する考えがあるのかは怪しいものだという。
とまあ、隣国にいるには百害しかない国。こんな国が隣にあるなら、さっさと滅んだほうが平穏なのではと思うが、なにゆえ、他国は放置していたのか?そこは世界が違っても国家間のあーだこーだは変わらないから。俺のいた世界と異なるのは
『遺物魔戦線に、各界、国家問わずに総力をあげ共闘する』
この条約が絶対としてあるくらいだ。
まあ、現状、俺たちにはこの国に対してどうこうしようともしないし、関わることもできない。ゲルハマからの干渉があったら、即お断りするぐらいである。
そして、この国の北西端に転移した俺たちは大陸西側を南下して、ユウギ王国へ向かう。これがこの国を出るの最短であり、ヤセントに戻る最短となる。ゲルハマの北側には今は亡き神々の拠点ディービーのある神住大陸のみであり、人の往来がある場所ではない。
だが、ユウギ王国へ行くには、問題はある。
パスポートがないってことではない。むしろ、パスポートはこの世界にないようだ。
この国では入国出国には手続きが必要となる。むしろそれが俺としては普通な気がするが、それが問題となっている。
往来のある道を行き、国内に正式に入るには、身分証明を持って、入国費を支払うか、許可証が必要。それらがない場合は多額の追加料金の支払い。内容によっては逮捕。逮捕されればこの国なので全うな扱いがなるかはお察し。
じゃあ、非合法の手段というと、魔物多数の険しい険しい山道なり、渓谷を超えていく。それか密出国。
現状、転移でこの国に入国している不法入国者の俺たちが穏便に出国するには多額な金額がいる。
そんな手持ちはない。才華とマアカの宝石類はあるが、これは本当に緊急時以外に手を付けるべきではないだろう。
真希奈さんの身分を明かせば、出国できる可能性はありそうだが、バカ皇帝のしがらみがありそうでそれもできるなら避けたい手段。
なので、街に入り、目指すは換金所。ここまでの道中で得た魔石で必要分が賄えるとは思えないが、金があって困ることはない。
魔含雨のおかげで、平民には大金となる軍資金を手に入れて、まずは武器屋で杖を購入。神具の『太極図』はバスに乗る前に収納空間に閉まっている。これはできる限り神具使いであることは隠していくため。あと、神具頼みにならないためとも真希奈さんは言っていた。
その後、街をぶらりと散策し、真希奈さんの服を購入し、酒場で飯を食べた後、宿を確保し1泊。
翌日、酒場、宿で得た情報を元に街1番の情報屋へ。情報屋なんて空想上のキャラでしか知らないが、存在するなら有効活用させてもらう。
「……今、現在把握している……国の現状。……世界情勢。……出国に必要な経費を……これで足ります?」
昨日得た資金の2割を情報屋を受け渡す真希奈さん。情報屋はこちらの顔色をうかがう。
「理由は聞かないほうが宜しいですね?」
「……知らなかった。……無言の圧。……お金さえ払えばというキャラ付けで、……十分だと思いますが」
「ですね」
知らないほうが互いのため。それが通じて欲しい情報は手に入った
世界情勢
・ ヤセントの砦において遺物魔眷属との闘いがあった
・ その戦いに3人の神具使いが参戦していた
・ 鎧を着た神具使いが南西の大陸に現れた
・ 上記から、異物魔戦線が近いと噂が流れている
国内情勢
・ 国境警備が厳しくなった
・ 出国の手続きが厳格になった
・ 皇帝が国内で神具使いの捜索をしている
・ 帝国兵と対立する戦士一行が国内で暴れている
などなどが分かった。
「……神具使いの捜索?」
この国とヤセントの関係がわからない以上、狙いが読めない。単純に捜索を依頼されているのか。それとも、これ幸いと神具を手に入れようとしているのか。
「理由はわからんがこの国にいる可能性があるらしい。前皇帝なら戦後を見据えてだと思えるが、今の皇帝だとなんとも言えん。神具そのものか神具使いが狙いなのか」
「……神具使いはどんな方なんです?」
他人のふりをする真希奈さん。情報屋も当の本人が神具使いだとは思いもしないだろう。
「そこまでは分からんねえ。国軍は見かけない人物には片っ端に声をかけているらしい。それもかなり強引なところがあるって話だ。だからあんたたちも気をつけたほうがいい」
とりあえず、見かけない隠し事のある2人組としか思ってないようだ。目の前の本人がそうですと言っても、すぐには信じられないだろう。というか、信じてもらう方法や区別する手段はあるのだろうか?神具の『対極図』だって特別な見た目はしているわけではない。
「……ご忠告感謝します。……では戦士一行については?」
「そっちは金髪アフロの『ヴォヴォ』と言う名のガタイのいい男をリーダーとした5人組だとさ。連れは白髪の少年と桃髪の少女。青色とオレンジ色の友好魔物2人」
金髪アフロ……。脳裏でサングラス付きの戦士が弾けている姿が浮かぶ。
「そいつらの目的はなんなんだ?」
「そこもわからん。滅んだノケの生き残りじゃないかと噂が流れている。ま、関わりあいにならんほうがいいだろう」
滅ぼされた祖国の復讐ってことか。関わるのは面倒だな。遺物魔との戦いを考えると戦士組を止めるべきなんだろうけど、この国のバカ皇帝が暴走しているなら、それを戦士組に止めてもらいたいという感がもある。
この国の人には悪いが、関わるべきではない。
「じゃあ、この国を出るのに結局どれくらいの金が掛かる?」
「大人1人分だと現在追加料金は赤紙幣2枚」
えーっと 真希奈さんの見立てだと
白紙幣1枚 1万 青紙幣1枚 5万 黒紙幣1枚 10万 赤紙幣1枚 100万
円銀貨1枚 1千 三角銀貨1枚 5千
円銅貨1枚 1円 三角銅貨1枚 10円 四角銅貨1枚 100円
くらいだったかな。 つまり200万円。2人で400万円ってところか
「高!平民にとっちゃ高すぎね?!」
才華、マアカの宝石でも足りるかどうかってところだ。
「まあ、軍費の補填と労働力の確保。あと神具使いを国外に出したくないってところだろうよ」
財政の傾きのためでなく、軍費と言い切れるのがこの国の現状を言っている。この国に全うさを求めてはダメなようだ。
「ですか」
「……出国するには?」
真希奈さんは残り資産の1割を渡す。情報屋は合法の出国ではないと目で察している
「中枢から最も遠い西端の関所。3の倍数日の閉門前 『ギリギリですいません』『ゆらぎ草温泉への向かう最中』『追加料金は黒紙幣5枚ですよね』でこの袋に黒紙幣5枚を入れたまま渡せ」
渡されたのは花と鳥の模様がある赤い紙袋。『ギリギリ~』以降は合言葉って奴か?、で50万で出れると。先に追加料金よりは安い
「……わかりました。『内乱の戦士5人組』の情報確かに受け取りました。……ではこれで」
さらに資産の1割を受け渡す真希奈さん。口止め料だろう。 あくまで内乱の戦士5人組について話を聞いた。
「毎度あり」
真希奈さんとともに情報屋を出ていく。まあ、知りたいことも密出国の手段も判明した以上、長居は無用だ。
情報屋を出て、街中をぶらりと歩く。まっすぐ宿に戻らないのは『こそこそしてませんよー』とアピールするため。
情報を集めるため街の図書館へ向かっていた真希奈さんはぴたりと足を止める。
「どうしました?」
「……あの噴水にいる人たちの姿」
視線を追うとその先には5人組が楽しそうにアイスを食べているところだった。これを見た真希奈さんが「アイスを食べませんか」と言ってくれたら、可愛らしいところなのだが、そうではない。そうではないことに俺ですら気づいてしまう。
ターバンを巻いたアラビアン風衣装の金髪でガタイのいい男
眼鏡をかけた知的な印象のある桃髪の少女
帽子、サングラス、黒の首輪を付けたチャライ感じの白髪の少年
麦わら帽をかぶった浅葱色のやや角ばった人型ピクトグラム
とげ付きの兜?をつけたオレンジ色で釣り合わない手足の生えた饅頭
5人組の内訳がさきほど聞いた内乱の5人組と一致する。
本人達なのか?特徴が一致した他人か?情報が足りないので判断は付かない。
「……離れましょう。本物だとしても別人だとしても関わらないほうが互いのためです」
「ですね」
本物だとしたら、巻き込まれる可能性がある。他人の空似だとしたら、巻き込む可能性がある。
金髪男が視線に気づいたのかこちらを見たが、少女の呼びかけに視線を戻す。楽しい時間をわざわざ壊す可能性がある状況にする必要はない。
「……すいません」
「ん?なにが?」
「……遅かったかもしれません」
真希奈さんの視線のほうを見ると、平穏が壊れる予感をビンビンとさせる足音と影が近づいてくる。
「どけい!」
「うおっ!?」
足音と影の正体は30人程の兵士と思われる格好の武装集団であり、俺は突き飛ばされた。
「……大丈夫ですか?」
「ええ」
真希奈の手を取り立ち上がる。俺を突き飛ばした集団は5人組を囲んでおり、その様子を通行人が野次馬として見ている。
「探しましたよ、ヴォヴォさん」
指揮官と思われるリスと思われる獣人。その脇を固める女性兵士と煙草を吸った紙箱でできた人形みたいな存在は副官か?そして、『ヴォヴォ』と呼ばれたターバン男。本物なのか?
「ヴォヴォ?俺、コホン。失礼しました。私はハハノ・ナナヒトというジャーナリストの端くれです。あ、これ名刺です」
「おやこれはご丁寧に。私はプープルと申します。サイダさん、私のほうの名刺をハハノさんに。エンキンさんは他の方に名刺を渡してください」
「はっ。プープル様」
「おっと。少年の前だからな」
女兵士が丁寧に名刺をターバン男にわたす。紙箱はたばこを消してから周りの4人へと名刺を渡す。一触即発な空気な中、ニコニコ笑顔で名刺交換が目の前で行われている。異常だよな?
「これは無礼を働きました。あなたが皇帝直属の遊撃四天王の1人『死累のプープル』様ですか。プープル隊のご活躍はお耳にしています。特に航海の妨げとなっていたヤマタコ入道を討ち取った件についてはアポを取り取材したいくらいですよ」
「おや。それは嬉しいですね。部隊の名が広まっていることは士気や給料にも影響しますからね」
ニコニコとしているリス男
「私もあなた方が宰相直属の遊撃隊を5度も返り討ちにした活躍を耳にしています。
ノケ国の生き残りヴォヴォ・ヴォーゴさん
若年ながら才能ある異能使いポルヘ・マッコ君
若手の治癒術使いビュイさん
逆癒し系ペットのパチボス
おまけの 所天ノ丈
ぜひ配下に欲しいくらいですよ」
「俺は癒し系じゃい」
「ペットの件は否定しないの?!?」
「俺、おまけ扱い?!」
騒いでいるオレンジ饅頭が女子が止めながら、突っ込みをいれており、その隣ではピンクドラムが驚愕の表情をしている。
「おっと、話が逸れてしまいましたね」
「そうですね。これ以上、捜索のお邪魔をするわけにはいきませんから、我々は行きますね」
ターバン男は笑顔のまま会釈をし、他の面々を促し、リス男の横を通りその場を立ち去ろうとする。が、紙箱と女兵士がターバン男の行く手を阻む
「その様な変装をしても、分かる人には分かりますよ。私の目は節穴ではありませんのでね」
リス男がピッと指先をターバン男に向けた瞬間、ターバンがハラリと地面に落ちる。そして、ターバンで抑え込んでいた金髪がもこもこと広がり、髪型がアフロと判明。
リス男がなにかをした?
「……指から魔法の水滴を飛ばしたみたいです」
「見えたの?」
「……指先からなにかが出たのは分かりました。……それと指先と布がかすかに濡れています」
あ、本当だ。濡れている。ターバンもといアフロ男も顔つきが変わる。逃れないと判断したか。
「やはり、ヴォヴォさん本人でしたか。やれやれ、この街の守備兵はなにをしているのやら。パスカル宰相に伝え、引き締めないといけないですね」
「こんなところでやるのか?」
「おや?民衆の被害を気にするなら大人しく捕まってもらいたいですね。我々も労働力が減るのは困るのでね!」
リス男の目つきが変わると同時に紙箱のがこぶしを繰り出す。路上のケンカとは訳が違う、殺気のこもった攻撃。パヴォロスでの経験のせいか、それだけは感じる気がする。
「そういうわけにもいかんのでな」
アフロ男ことヴォヴォは紙箱の拳にカウンター気味に拳を繰り出し、互いに拳を受け止めた。
「ポルヘはビュイを守れ!」
「分かりました。ヴォヴォさん。赤霞!」
少年は両手から赤いモヤみたいのを出して。それを迫て来た兵士に投げ飛ばす。
「ゴホッゴホッ。辛い~」
「目が~」
「鼻が、口が染みる~。ひいいいい」
赤いモヤをあびた兵士は目や口を抑え悶え転ぶ。刺激のあるマヤを投げ飛ばしたのか?
「……あれは術や魔法じゃあないです」
特異能力か。言うならばヒーロー社会の個性みたいなもの。この世界では武術、道具を使った攻撃、魔法、術、それに特異能力。これらを見極めていくのが生き残るために必須となる。
とランカ・リィド社刊『ハロー!異能者』に書いてあった。
「これはどうかしら!」
互いに腕をとり膠着していたヴォヴォと紙箱。そこに女兵士はヴォヴォ目掛けて回し蹴りを繰り出す。
「やらせるぶあ!」
ヴォヴォをかばうように割り込んだピンクドラムの頭が吹っ飛んだ!?
「天ノ丈!?」
「天ノ丈君?!」
少年と少女が声を叫び声をあげる。
「まずは1人!」
勝ち誇る女兵士。が。
「どったの?ビュイにポルヘ」
残った口がパクパクと動いたと思うと、アマノジョウと呼ばれたピンクドラムのはじけ飛んだ破片が戻り、元の姿に戻る
「魔石を見極めるべきかしらね!それともそのゼリーの全身を吹っ飛ばす?」
平然としているピンクドラム。それを見た女兵士が走り出す
「危なーい!」
饅頭がピクドラムを押し飛ばす。女兵士の方へ。
「まんじゅうううううう!ぐえええええ」
驚愕の顔をするピンクドラム。 女兵士の右手はピンクドラムのボディを貫通した状態となる。ゼリーみたいな体で体勢が悪ければ防げないか。
「魔石諸共弾けなさい!」
「ぐひゃああああああ」
女兵士が叫ぶとともに、ピンクドラムの背中の一部が弾けとぶ。なんだ?なにをした?魔石が粉砕されたのかピンクドラムは人型を保てずドロドロに溶けていった。
「っくううううう」
ピンクドラム死んだ?
「……狙いは胸に見えた魔石様の物でした。……それを察して天ノ丈の方は自ら魔石に当たらないように刺さりに行ってます。……そして、右手から出た小さい衝撃波により背中が弾き飛んだ流れです」
ですか。よく理解したな。ピンクドラムの動きは突き飛ばされたようにしか見えなかったが。
「死んだように見えるけど、冷静ですね」
「……いえ、あれは……」
冷静な表情で攻防を見ている真希奈さん。あれは?
「まずは1匹。次は饅頭」
女兵士が体を饅頭のほうへ向き直る。ん?
「ん?」
背後から肩を叩かれた女兵士は振り返る。
「サイダさん!」
「な!きさま!あ」
異変に気付いたリス男が声を出すも時すでに遅く、アサギ色の拳が女兵士を襲う。
「……天ノ丈は死んでいません」
拳を繰り出したのは人型に戻ったピンクドラム。死んだふりだったのか?それに真希奈さんは気づいて、女兵士は気付かなかった。
無防備だった女兵士は反応が間に合わず、その拳が顔にぶち当たる!
プニャン
重みも衝撃も感じない衝突音がかすかに聞こえたように思える。いや聞こえなかったかも。
……………………。
女兵士とピンクドラムの周りだけ音も時の流れもないようだ。実際にはアフロ男と紙箱は声をあげながら力比べをしており、少年と饅頭は周りの兵士と戦闘を繰り広げている。
「ふ。その不死身っぷりには驚かされたけど、所詮はゼリーね」
攻撃をもろに喰らって、焦った表情をしていた女兵士。だが、攻撃が聞かないとなると見下す笑みを浮かべる。だが、ピンクドラムは気にすることなく、女兵士に背を向ける。
「……避けるべきですね」
「どゆこと?」
体を回転させて、腰の入ったピンクドラムの拳がまた女兵士の顔へ。
「サイダさん。避けな……」
「ふ。避けるひつきゃび!」
リス男の叫び声間に合わず、女兵士は地面に思いっきり叩きつけられた。
「大津波は建造物を壊す。加圧された水はダイヤを切る。柔らかいだけで答えを出すべきではなかったな」
ピクピクと震え戦闘不能になった女兵士に勝ち誇るピンクドラム。あらカッコいい。
「もしかして、最初にやられたときから全部演技だった?」
「……押し飛ばされた件も含めて、恐らくそうです」
ですか。イロモノに見えるけど、侮れない存在か。
「サイダさん……。ふう」
呆然としたリス男は切り替えるように目を一度閉じて開けた。右手に水を出すと、その水が女兵士を包みこみ、浮かばせた。器用な奴
「誰か、サイダさんに応急処置をお願いします」
リス男は水の魔法で浮かばせた女兵士を他の兵士のところまで運んだ。
「エンキンさん以外の方も一旦下がりなさい。最初から私が相手をするべきでした。エンキンさんならしばらくヴォヴォを抑えれますね?」
「あいよ、大将」
紙箱以外は間合いをとり周りを囲むようにする。首を動かし一歩前へ出たリス男
「くっ」
「おっと、行かせんよ」
アフロ男に焦りの表情が見えた。
「では行きますよ」
「へ?」
言い終わったとき、リス男はピンクドラムの足を掴んでいだ。はっ?!見えなかったんだけど。
「あなたは一旦、捨ておきましょう」
「ふええええええ……」
「ぐべ」
リス男はピンクドラムをそのまま上空へぶん投げる。同時に饅頭は掌底から放たれた水弾で吹っ飛んでいった。 それにしてもあんな勢いで投げられたら、それだけでピンクドラムは形を保てない気がする。だが、形を保っている。
「……水で薄くコーティングしたみたいです」
ですか。あの一瞬でそんなことも。そして、よく見えたな。
「次!」
また姿が消えたと思えば女子の目の前に移動し、指先を向ける。その指先には赤い印が浮かび上がっていた。
「子女に手荒な真似はしたくないのですがね」
指先が光ったと思うと、女子はそのままカクンと顔を落とす。死んだ?
「……眠らせたみたいです。た……」
ですか、真希奈さん
「ビュイ!」
少年は慌てて少女を抱きかかえる
「そうそう。惚れている子には優しくしてあげなさい」
少年の目の前に指先を向けるリス男。あら、そういう関係ですかい。
「うおおおおお」
少年は自ら後方に倒れこみ、指先からの術を回避しながら左足を蹴り上げる。
「ふむ。いいセンスですね。おっと」
リス男は顔を傾け、蹴りを回避。だが、左足から黄色のモヤが出て爆発。
「いい判断でしたが……」
「ぐあああああ」
煙が晴れると、リス男はピンピンとしており、逆に攻撃をしかけた少年が苦痛の声を上げた。水が少年の左脚が覆っている?あと脚の向きが変だ。
「水で左脚を覆い、そのまま折っています」
なーる。それで攻撃が逸れたってことか。強くね?あの、リス男。
「叫んでいる場合ではありませんよ」
リス男が右手の人差し指を少年に向けるとなにかが光った。
「っく」
帽子が割れ、額から血を流す少年。倒れたせいで、サングラスも地面に落ちた。
「ポルヘ!」
「だ、大丈夫です。ヴォヴォさん」
「その根性は部下の皆さんに見習わせたいですよ。ですが元気すぎるので、眠ってもらい……?!」
また指先を向けたリス男の動きが止まる。少年の顔を素顔を見て驚いてるように見える。
「ふう。ふむ」
深呼吸をし、逡巡するリス男。何かに気づいたのか?なんだ?あの少年になにかあるのか?
「皆さん。一度カンガミネさんの港まで引きあげます」
「な?大将!あとはコイツを始末すれば終わりじゃあないですか!」
紙箱が驚きの声をあげる。特殊な能力や魔法などを使わず、拳でぶつかり合っていた紙箱が驚きの声をあげる。
「早急に確認すべきことができましたので、反論はエンキンさんでも許しませんよ」
「ったく。分かりましたよ。ただ、後で理由は聞かせてもらいますよ」
「ぶへっつ」
戦闘体勢を解いて、頭をかく紙箱。そして、このタイミングでピングドラムが地面に衝突する。まだ、コーティングが解けていないのか、ばらけることなく悶絶している。あの体で痛みを感じているのか、ダメージがあったのかはわからないが悶絶している。ただ。誰も気に留めている者はいない。
「ええ。確認後に許可が出ればお話しますよ。ただ、許可が出ない場合は、食戟荘ノマ・銅ジマ支店貸し切りで了承してください」
「大将がそういうなら、大事なんでしょうね。オラ、ぼやぼやしないで撤退始めるぞ!」
紙箱の一喝に呆然としていた兵士が慌ただしく動き出す。
「では、この場は失礼します。おっと勝ち負けを気にするようなら、我々の負けで構いませんので。それではまた近いうちに会いましょう」
にこやかな笑みで会釈をし、踵を返すリス男。
「今度は全力で戦える場所にしようや」
「っく」
アフロ男にそう告げて、紙箱はリス男に付いてゆき、他の兵士もゾロゾロと歩き始める。
「おっといけない。私としたことが忘れることでした。動揺を抑えれないなんて、私もまだまだ未熟です」
足を止めて、右手の人差し指を立てるリス男。その指先が怪しく光る
「人多さん、私の後ろへ」
突如、俺の前に立つ真希奈さん。
「『これは帝国特有の冒険者、傭兵への抜き打ち試練です。なので彼らのことを気にしないでください』」
瞬間、指先の光とリス男の言葉が周囲に広まり、真希奈さんは防壁を張りその光を防いだ。
光を受けた通行人や野次馬は一瞬動きが止まる。抜き打ち試験?あきらかにそんなんじゃあないだろ。そんな言葉でごまかせるか?
「皆様、お騒がせしました。私どもはこれで失礼いたします」
周囲の人々へ会釈をして歩き出すリス男。
「抜き打ち試験かあ、初めて見た」
「おっと急がなきゃ」
「やべ、母ちゃんに叱られる」
殺気バリバリの殺し合いをしており、それに悲鳴などを上げたりもしていた野次馬。だが、何事もなかったように日常に帰っていた。
「……術による暗示や催眠のようです」
「ですか」
それを察して防壁を張って防いでくれたのか。
「それなら、なにもなかったとか戦いはなかったでいいんじゃね?」
「……暗示がとけたときに、戦いはない状況と戦いがあってもおかしくない状況。……どちらが違和感を感じないか、まで考えていると思います」
「なーる」
俺たちの目前で、リス男はこちらというより真希奈さんのほうへ視線を向ける。
「お嬢さんの言うとおりです。魔法や術は決して万能ではありませんからね。先ほどは部下が手荒いことをしてすいませんね。お詫びと言ってはなんですが、このまま私たちは去りますのでご内密でお願いしますよ」
俺たちの前を通るリス男はしーっとしたジェスチャー。だがその表情を見ているだけなのに、背筋には寒い汗が流れる。無言の圧、プレッシャーか。もともと帝国と五人組の争いに自衛以外で介入するつもりはない。だから、肯くだけでいいんだが、体が動かない。
「このまま放置しておくので?」
紙箱と目が合う。俺が動かないせいか、翻意ありと考えたか?殺意を感じる。真希奈さんが一歩前に出る。よく動けるな。ってか、俺が動かんといけないだろ。一歩足を踏み込んで、真希奈さんの横へ。
「見ているだけの方なら構いませんよ。それでは失礼します」
紙箱を手で制し、俺らにもにこやかに一礼して、リス男達は去っていた。
「……はあ」
緊張が解けたのか大きく息を吐く真希奈さん。ようやく一難さった。って言葉を使うのはこの場合あっているのか?と思ったところで、
「ビュイさん、起きて!」
少年の悲壮な叫び声が、この騒動がまだ終わってないことを告げた。
A 攻撃!!(男「一目ぼれです、付き合ってください!」)
粉砕!( 真希奈「……すいません」)
玉砕!( 真希奈「お断りします」)
大喝采ー!(在人を含む村の男性陣より盛大な拍手)