召喚とステータスと報酬
Q 表に出ないはずの黒歴史設定
日本人って説明してたけど通じる?
「召喚に関しては、私から説明いたします」
ウームさんが立ち上がる。
「結論から言いますと、ザイト殿を元の世界に戻すことは可能です」
まじでか?
「現在、使用されている召喚儀式では召喚した際、異世界側の場所に楔が撃ち込まれ、帰還の際にはその楔を道しるべに帰る形となっています。ただ、時間に関してはこちらの時間経過に比例するところがあります」
要するに?
「私たちが転移した場所に戻るってことでいいのかしら。」
「で、時間についてはまばらだと。直後もあれば、数年のずれがあると」
あ、そういうこと。すげーな槍見、アロッドよーわかるな。
「そのとおりです。さすがに数十年のずれはありません。このことについては、2度召喚された神具使いが数例ありそこから判明した事実になります」
アロッド以外は俺と同じ人間に見えるが、エルフやドワーフなど長寿の種族を召喚した事例があるってことか。
「ですが、今すぐ可能というわけではありません」
「……それはなぜなんです?」
「召喚の儀式を成功させるには、多大な魔力、複雑な術式への理解、魔力のコントロールなど術者自体の人的要件。ため込んだ自然魔力の量、時間、場所など自然的要件。この2つの条件が満たされる必要があります。」
「あれ、神具は必要ないんですか?」
「エラボザ殿のいう通りです。召喚自体に神具は不要です。ただ、現在の召喚技術は異世界側の対象を選ぶまでのレベルに至っていません。その役割を果たしているのが神具になります」
闇雲に召喚して、俺みたいの来られても困るってことだよな。
「帰還の際は討伐した遺物魔の膨大な残留魔力、瘴気を利用して、場所、時間の制約を取り払って魔法を発動させています。ちなみに瘴気や残留魔力を使うのは、それらを残さないためという面があります」
「つまり、僕たちの帰還には膨大な魔力、時間、場所の制約があるんですね」
「だけど、某達を召喚したばかりだから、まず魔力が足りないのであるな」
なーる。
「魔力ってのは魔法使いの数でカバーできねのか?それこそ異物魔退治についていけな奴多いだろ。そういう奴らの魔力は使えないのか」
「ケイログトさん。その言い方はよくないと思うよ」
「ああ?戦力になれない奴にはっきりと真実を言うことが間違っているか?」
「だとしても言い方があるだろう」
「はっ。優しく言ったところで、真実が変わるわけでもない。ずいぶん甘い世界にいたようだな」
なんでケイログトと矢賀がもめてるんだ?
「はいはい。そこまでそこまで、各々世界が違うから、生き方も考え方も違うものであろう。さきも言ったがいちいちケンカしてては、話も進まぬよ」
手を叩いて仲裁に入ったアロッド。
「っち……」
「……そうですね」
ケイログトの一撃を止めたこと、ハッタリに魔法を使ったこと、あと有無を言わせなかった威圧感から2人は大人しくなった。
「ケイログト殿の問いに答えますが、魔力には個人個人の性質もあります。ある程度性質も一定にしないと今度はそのコントロールが厳しくなりますので、その案はよほど魔力のコントロールに長けた者がいないと難しいです」
なーる。
「ちなみに最短だといつになりそうです?」
「ザイト殿1人だと2年ほどでしょうか」
2年か。正直長い。しかもどんどん世界環境が悪化していくなか、生き残る必要がある。って考えてもどうしようもないか。今は手段が確認できたことを良しとしよう。うん
「申し訳ありませんが、現在の私たちの技術ではこれが限界です」
「あ、いえ、仕方のないことです。頭を上げてください」
そうなると、月平均より1.2倍程度の電気代で異世界転移できる才華の技術は、どうなっているんだ?
「だいたい、召喚と期間についてはこのようなところですね」
「まだ、説明していないところがあるだろ。ウーム」
主だったメンバーではない人物からの声。周囲の顔がある方向へ向かうので、俺もそちらに目を向ける。
部屋の隅に突如現れたのは30手前の黒ジャケットを着た男性。
「デスマスク……」
すごい名前だな。かに座か?名前のせいか、そのキャラとイメージが重なってしまう。それとウームさんたちの様子から、最初から潜んでいたのか。あ!そういえば、あそこは真希奈さんが最初に目線を向けた場所。真希奈さんは気づいていたのか?
「お前、なんで姿を現す」
「ふん。ウームが説明をしないからだろうが」
「しかしだな!」
「お前は、これでいいと思っているのか!」
「それは……」
黙り込むバランデルアさん。ヤセント国側の空気が重くなる。ウームさんいや、皆何を隠しているんだ?
「なにを隠しているんです?ここまで来たら説明してください」
槍見の言葉に、ウームは姫殿下のほうへ視線を向け、姫殿下もうなずく。
「俺が説明してやる。召喚に人的要件が必要なのはウームが言っていたな。それを満たす奴はそうそういねえ。現在はウームの一族がほぼ担当している」
選ばれた一族ってことなのか
「そして、召喚の魔力コントロールには相応の負荷がかかる。その負荷に耐えきった者はいねえ」
それってつまり……
「召喚魔法を使った人は死ぬってことですか?」
「現状はそうだ。今回の召喚者、ウームの師匠筋の奴も死んでる」
まじでか。これを聞いたら、帰れないだろ。帰れる空気にならんだろ。いやはやいやはや、どうしよう。……ふう。これもどうしようもない。
「大師も連鎖界への最後の奉公とおっしゃておりました」
「そいつは高齢ってのはあるが、それでもウィーリク、いや連鎖界では五指に入った魔法の使い手だ」
そんな人物ですら死んでしまうのか。
「1人の帰還だと死なない可能性はあるが、それでもこの戦いからリタイアしざるえない」
「……魔法を使うとしたら、……誰なんです」
「2年の月日で増える可能性はありますが、現状では私か私の師匠ですね」
「だが、どっちも早々に失うわけにはいかねえし、それこそ、あんたらの帰還にはこいつらが必要になる」
戦力となりえる人物、それも上澄みのほうを早々に失うわけにはいかない。それに遺物魔との闘いで死ぬ可能性もありえるか。……見た目や雰囲気に反して仲間思いなのかな
「皆様の帰還は必ず実施します。それが私になるかはわかりませんが、それはご約束いたします。もちろん、ザイト殿が2年後の帰還を望みなら応じます」
まっすぐとした瞳でこちらを見るウームさん。
「あ、いや。この話を聞いて、2年後に返してくれなんて言わないですよ」
こんな俺でも空気は読む。それにもしかしたら2年掛からず解決するかもしれない。と思ったりもしたが、そう楽観視はできんだろう。
「ただ、元の世界に帰るのは譲れないので、そこは言っておきます」
この世界に骨を埋める気はない。やらんきゃいけないことはある。才華、愛音、マアカこの3人とこのままお別れなんてできない。もっと一緒にいたい。逢瀬を満喫したい。欲や望みはつきない。
ん?
心配そうにこちらを見る真希奈さん。
「まあ、俺は俺でなんとか生きていくよ」
「人多さん……」
こんなことになるとは思っていなかったせいか、顔色が悪く見える。ごめんね、俺のせいで。
「帰る方法は分かったが、実際俺たちはどう行動すればいいんだ」
「皆様の力が必要なときは連絡を致しますが、それ以外は力を高めるのを基本として、行動自体はお任せします。戦いと無縁な生活をしている方もいると思いますので、ここでまず修練を積むのも考えの1つです」
ですか、姫殿下。これレベルアップしてくださいってことかな。
「かつての神具使いだと、自分の組織を作っり、行商を行ったり、領地を得て、そこの経営をしている記録がある。もちろん、ただひたすら1人で魔物を倒していた者、山籠もりしていた者もいる」
ですか、バランデルアさん。余裕ある時期ならなんだけど、結構自由にやっているようだ。どれも俺には縁遠いが。
「他にはも合間合間に小説を作っていたもの。プロレスを広めたもの。『サツ・マハヤト』の精神を残したものなどがおります。連鎖界に学校を起こしたものは現在も存命です」
ですか、ウームさん。プロレス?レスラーでもいたのか??サツ?サツ・マハトマ?なんですかそれ?あと存命の人もいるのか?
「存命と言うより現役だろ、あの700近いジジイ。アレ、本当にただの人間なのか?」
「デスマスクの言いたいことはわかりますが、れっきとした人間です。わが師や教導総長コウドを子供扱いできる人間はあの方だけでしょう」
人間?人間なのか?エルフのハーフとかじゃあないのか? しかも現役といえるような力を持っているのか。極端に言って化け物じゃね?それに……
「……その学校を起こした方は、……帰還しなかったのですか?」
そうそれ、真希奈さん。それは気になる。
「元の世界でも教鞭をふるっていたようで、もうその世界は教え子に任せれるからと連鎖界に残ったそうです」
受験勉強のための塾じゃあないよな、それ。なにを教えている塾なの?
「……帰還するしないも……選べれるんですか、ウームさん?」
「ええ。それは可能です」
ふーん。全員が全員、帰還を希望するわけでもないのか。まあ、俺には関係ないか。
「姫殿下、私たちはヤセント国を拠点に活動すればいいのかしら?」
「初めはそうなると思われますが、その後は各々の判断にお任せします」
初めは?
「この国一帯の厄介な魔物は俺達が定期的に討伐しているから、残っているのは危険度が低い魔物だけ。ここで戦闘を経験するってのが一番安全ってことだ。ま、それでも危険は0じゃないが」
ですか、バランデルアさん。他は安全じゃあないのか?
「ですが、ここも安全とは言い切れません。遺物魔の瘴気が増え、濃くなるほど、魔物は増え、強くなりますからね」
ですか。瘴気の濃度に合わせてこちらも強くならんといけないのか。
「こちらでの生活費はどうなってるんです?」
エラボザのいうことも重要だな。金は生きていくのに必要。
「討伐した魔物の魔石を売って活動費に充てる、ギルドの依頼を受けるなど一般的ですね」
ですか、ウームさん。それが一番手っ取り早いか。
「お前らが援助してくれねえのか?」
不満を顔に出すケイログト。勇者……自称勇者の可能性もあるか。ともかく、勇者として、優遇措置があったのか。それが当たり前にでもなっているのかも。
「当面の生活費はお渡しします。それと我々からの要請時や緊急時に必要経費は支払いますが、すべてを援助することはできません」
「申し訳ないですが、全面援助だとそこから、内外でこじれた歴史があるもので」
「それだけじゃねえ。その援助だけで生活し、全く使えないままの神具使いもいたって話だ」
ですか。優遇が良い結果に結びつかなかった。そして、そうなると困るのは双方。
「そうですか、気をつけます」
矢賀がケイログトのほうを見ていた。それにケイログトも気づいていたが、無視。まあ、そっちのほうが静かでいい。
「あとはそうですね。ウーム、あの件をお願いします」
「はっ」
ウームさんが立ち上がり、俺たちの前へ。そして、模様の入ったカードを配る。
「これは?」
「皆様の強さを見るための札です」
「強さであるか?」
「この札を持って、意識を集中してください。皆さんの今、現在の強さが数値で現れます」
「おお。ステータスであるな」
アロッドが興奮しながら、カードを手にとり、皆も続いた。俺も手にとって意識をカードに集中してみたが、反応なし。ですよね~。どんなことが書いてあるんだ?
「おい、俺様のレベルが1ってのはどうゆことだ。俺はゲジックスでは38はあったぞ」
机をたたいて怒りを現すケイログト。高いんだか低いんだか、反応に困るな
「レベルについてはこの札を作った段階からの数値になります。それゆえ誰もがレベル1からの始まりになります」
誰もがレベル1からか。
「レベル1でも強さはバラバラってことになる?」
「むしろ、ステータスのほうが重要そうですな」
「そのようになります」
勇者のケイログトやアバターのアロッド、軍人っぽい槍見は俺や真希奈さんよりは高そうだ。
「レベルやステータスはどのように上がるのです?」
「鍛えたり、戦いの経験を積めば、それに応じてステータスが上がります。レベルはステータスの合計値に応じてですね」
「ゲームみたいにレベルが上がれば強くなる。ってわけではないのですな」
ゲームと現実は違う。ここはゲームや物語みたいな世界かもしれないが、あくまで現実。それを理解しておかないと死ぬ。
「このカードは強さや成長をわかりやすくするために開発されたもの」
数値で現れれば、成長を実感しやすいか。1秒でも早く時間が短くなれば、1センチでも長くなれば、1キロでも重くなれば、成長したと思う。
「戦いは数値だけで決まるものではありません。ステータスが、レベルが相手より上でも100%勝てるわけではありません。このことを忘れると死につながります」
今までにない厳しい口調のウームさん。
「あとこのカードは皆さまの身分証明にもなりますので、大切にお扱ください」
身分証明か。確かにそれも必要だ。
「長くなってしまいましたが、こちらかの基本的な説明は以上になります。なにか確認したことはありますか」
「なあ。遺物魔を倒したら報酬はあるのか?」
ケイログトが尋ねる。報酬か。まあ、本来無関係な世界のために命懸けの戦いに応じるから、それを要求すること自体はありか。それにこの世界に残る選択肢もあるから、あって困ることはない。
「こちらで可能な範囲でしたら、要求には応じたいと思います」
……!
「あ、あの、この世界に植物状態を治せる薬ってありますか?」
つい勢いで立ち上がってしまった。皆の視線もあつまり、姫殿下も驚いているが、気にして引くわけにはいかない。こんな状況だが、千佳さんを治す手段がここにはあるかもしれない。
「はっ。俺たちと違うまがい物が、報酬の権利を求めるのか」
「戦いもしないのに、それはどうかと思うよ」
言いたいことはわかるが、俺の立場からすればなにも知らない奴の言葉。かまっている暇はない。
なので視線すら向けない。どうなんですか、あるのか、ないのか、姫殿下答えてくれ。
「おい、無視かよ」
ああ。そうだ。
「可能性があるとしたら、ドクタストンで精製される赤石樹の雫になります」
……あったよ、治す可能性。
「それを手に入れるにはどれくらいの金や労力がいります?」
「まず、量がとても少ないもので、大よそ30年1度、3人分程度しか取れません。その雫の割り振りは決まっていまして、1人分は、この戦いのために確保されています」
「残り2つは?」
「1つはオークションに掛けられるが、物が物だからケタ違いの金額がかかる。正直手に入れることができるのは限られた金持ちか、貴族、国くらいになる」
ですか、バランデルアさん。
「最後の1つはこの世界のどこかにあります。これは、誰にでも手にいれるチャンスをと赤石樹を管理する楽化の一族が決めたことです。手に入れて使うのも、売るのも本人次第ですね」
ですか、ウームさん。
「過去だと、どこかのダンジョンや街の中にあったり、どこかの店にさりげなく置いてあったり、大会の商品になったりしている」
ですか、デスマスクさん。えーと、考えろ。手に入れるルートを算段を経路を。
「最後にできたのはいつになるんです?」
まずは、そこだな。
「半年前ですから、まだ隠された1本がどこにあるかはわかりません。一応楽科の一族の上層部は把握していますが、教えてくれる保障ありません」
「隠された1本って全部見つかっているんですか?」
「いえ。全部ではないはずです」
だとしたら、もう少し見つかる可能性はあるか。こうなると可能性をあげるためにとれる手段はとるべきだよな。といっても
まず遺物魔戦用のものを得るには俺が参戦しつつ、生き残りつつ、終戦時に雫が残っている状況で報酬としてもらえるか?3か所同時だから、0じゃないけど、厳しいか。いや最初から参戦を宣言し雫狙いを1本確保してれくないか?まあ、生きのこる保証がねえ。
オーデション。膨大な金額が必要だが金があれば確実。そう金があれば。ただし、稼ぐ手段はない。ギルドの依頼を成功させたとしても、それだけでは無理だろう。
どこかにある1本。運があれば見つかるかもしれない。ただ、俺にそれらを見つける運はない。
まっとうな手段は俺には厳しい。
じゃあ、真っ当とは言えない手段は?例えば盗むとか?
「言っておくが、その雫を悪意、不法、不当な手段で入手、独占しようとした場合、呪い殺されるからな」
ですか、デスマスクさん。うん、盗むはなしだ。まあ、元々無理だし。俺は怪盗にも大泥棒どころか、コソどろにもなれない。……呪い殺される?
「赤石樹を囲う呪海に呪仙都という仙術使いの里がある。そこの3指に入る奴の術だ。雫の場所、状況は手に取るようにわかるだろうし、そうそう解除はできねえぞ」
樹海?に呪千都?仙術使いの里?そこは呪術なかいせんの間違いじゃないのか?
「そいつらと楽化の一族は連携している」
「そいつらと言っていますが、デスマスクも呪仙都出身です」
「余計なことは言うな、ウーム」
「悪意、不法、不当な手段というのがあいまいですよね」
エラボザのいう通り、どこまでが不当なのか、分かりにくい。
「だから良いんだろうが。拡大解釈でどこまでも、どうとでも取れる。それでも手を出すのはバカな奴は死んでも困らんだろ」
こわっ。だれもが単純に正当って思える利用法と入手法でないといけないか。とりあえず、困難な正攻法で入手するしかない。可能性は低くてもやるしかない。やるしかない。
思考を遮る軽い衝撃。って?
「マキナ様!」
真希奈さんがもたれかかってきた!? え、はい?ってやばい。そのままずり落ちそうな身体を支える。
真希奈さん本人から力が感じらない。両腕で支えているけど、軽く感じてしまう。息があらいか。やっぱりいい香り。いやいや、そんなことより、これ熱があるか?風邪?疲れ?
「このまま横にします。頭を支えて」
動き出しが早かったのは槍見
「医療班や休ませる部屋は?早く!」
「私が見ます。デスマスク運んでください!」
「たっく……そこ代われ。ウーム行くぞ」
デスマスクさんが両腕で真希奈さんを抱えて、ウームさんと部屋を出て行った。
「この場はこれで終了いたします。皆様は部屋に案内しますので、今日のところはお休みください。リンマ、部屋へ案内を」
「はっ。皆様こちらへ」
あわただしく説明会は終了、俺たちは姫殿下の執事に案内で部屋を出て行った。
A ウーム「歴代召喚者のリストによると『日本人』を名乗ったもの毎回いますし、元の世界について聞きまとめた書物もありますので、割と通じます。ただ、同一の日本というわけではありませんので、差異は結構あるようです。」