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依頼人は殺す

 ギルドでボトムスさん、ガーゼットさんと合流する。ギルド地下には犯罪者を確保した際に用いる部屋、牢屋があり、今は部屋の方。シクには才華が付いている。2人組はロープで縛りつけ、ロープを千歳が握っている。2人組はボトムスさんの顔を見てから、なぜか顔を下げている。


「泥棒はこの子。で、この2人組はこの子に泥棒を強要したやつら。あと盗品はこの2人組が受け取っていたんで、壺の場所もこいつらが知ってます。」


 俺が説明すると、ボトムスさんは2人組に近寄り顔を確かめている。


「お前ら、1か月前にペンダントとか売ってきた奴らか。」


 2人組はビクっとした。よく覚えてんな、商人だから取引相手の顔は忘れないってやつか。それよりペンダント?それってもしかしてシクの?


「ボトムスさん。そのペンダントって今あります?」


「ん?あーちょい待ち、結構いい品だったからペンダントだけはまだ売ってない。鞄の中にあるぞ。ほらこれだ。」


 そう言って鞄からペンダントを取り出す。ペンダントを見て、シクの目が見開く。


「それ、お母さんの。なんで、どうして、私がお金用意する間は売らないって。」


 シクが2人組を絶望した顔で見ている。2人組は黙っている。こいつら。怒りがこみあげる。才華が冷静に2人組を見る。


「あんたたち、シクの窃盗がクエストになることを待ってたのね。」


 才華から目を逸らす2人組。どうゆうこと?意味が分からん。シクが捕まれば自分たちも立場危ういじゃない。今見たく。


「才華。説明して。俺には意味が分からん。」


「この街の法律は知らないけど、犯罪者に一切の申し立てができないとしたら。そうなら、シクに味方はいない。シクが盗んだものでお金を得て、クエストが来たらシクを捕まえて報酬を得る。依頼しだいでは殺して口封じもできる。生きててもシクは犯罪者だから、真実を言っても誰も信じてくれないまま罰される。どっちにしろ形見のペンダンドを売っとていても問題ない。あとペンダントとかって言ってたから、シクの家族を埋葬したときに他の金品も盗んだのね。埋葬したのは善意じゃなく、ばれないようにってことね。」


 淡々と説明する才華は2人組をまっすぐ見ている。手が思いっきり握られていた。怒っている。


「なにそれ。」


 千歳も呆然としている。2人組の態度から才華の推測は当たっているようだ。が。


「なんのことかな。」


 太い男があぐらをかき開き直る。


「そもそも、俺たち、そいつとは一切関係がない。こいつらに一方的に暴行されて、連れ込まれただけだ。職員のねえーさんよー。俺らも登録者だ。犯罪者とつるんだりするかよ。犯罪者の言うことを信じるこいつらがおかしいぜ。証拠もないしな。」


 長い男もあぐらをかき、俺たちを睨んでくる。



 あーやっぱり、こうなった。俺は才華を見る。才華は頷き、スマホを取り出し操作する。


『あー俺、頭悪いから確認するけど、あんたらはシクの依頼を受けて報酬として、形見になったペンダントを受け取った。そして、シクはそのペンダントを取り戻すために、あんたらに教わった盗みの技術で日々その資金を稼いでいた。シクが盗んだ金、品物をあんたらは受け取っていた。その金がないときは罰を与えていた。ここまでは合ってる?』 


『そうだよ。それで?』


『ちなみに、品物はどうしてるんだい?』


『そんなの、街で換金しているさ。』


 スマホから路地裏のやりとりが流れる。2人組は顔を真っ青にする。シクやガーゼットさんはスマホに注目している。あー才華への視線と口パクが伝わって良かった。さすが才華。この世界で機械技術は俺らの強みだな。


「これでもシラを切る気?ガーゼットさん。これでこいつらも犯罪者になるよね。」


 才華が尋ねる。


「えっ、えーそうね。少なくとも関係ないは無理ね。」


 ガーゼットさんが頷き答える。スマホの機能に驚いてんだなー。ボトムスさんもスマホを注視している。


「ふざけるな。そんなの魔法での作りもんだろ。」


 長い男が声を荒げる。才華がまたスマホを操作する。


『これでもシラを切る気?ガーゼットさん。これでこいつらも共犯になるよね。』


『えっ、えーそうね。少なくとも関係ないは無理ね。』


『ふざけるな。そんなの魔法での作りもんだろ。』


 今のやりとりが流れる。


「私の声、ガーゼットさんの声、あんたの声、そして今のやりとり。前もっての作りものじゃ無理よね。」


 才華が長い男を見下ろす。対照的に長い男は頭を下げる。これでもうあきらめただろう。



 さて次はボトムスさんだ。その前に千歳が口を挟む。


「ガーゼットさん。この街での犯罪者はどうなるんですか。」


「依頼がない場合は街で裁判をして判決がでるわ。サイカさんの言ったとおり、犯罪者は一切の証言はできない。一応、知人たちが弁解したりはできるけどね。懲役、死刑となったらロシック王国で行われて、あとは街への出禁、罰金とか。依頼があれば依頼者の判断しだいね。大抵は街へゆだねる形が多いけど、商人やお店持ちの人は、仕事を手伝わせたりする場合もあるわね。」


 証言できないってきついな。これだと冤罪もありそうだけど。うーん。それはともかく、シクの場合はボトムスさん次第か。


「まー泥棒は捕まえたけど、元凶はこいつらで、盗品のありかはこいつらが知ってるんですよ。だからこいつらがいれば問題ないですよね。」


 俺は嘆願するように尋ねる。


「だめだ。取引の損失分はこいつにも稼がす。」


 損失分は働いて返せか、この発言だと裁判で罰するつもりはないのか。シクにとっては処罰よりはましかもしんないけど。どうする。


「壺は西の草原近くの森に捨てったて言ってました。中身が土なんですよね。土の取引ってあんまり聞かないんですけど、珍しいから相手も待ってないですか?損失したとは考えられないですけど。あっ中身はこいつらが言ってました。」


 とりあえずは食いついてみる。俺の発言にボトムスさんは


「壺の土は東の農村の周囲の土でそこの農作物は有名なんだ。そこの土で作物を育てれば同じものを作れるんじゃないかって考えた俺が西の農村のやつに取引をしていたんだ。まずどんな土かってことで壺に入れて運んでいる最中だったんだ。将来的にはもっと運ぶつもりだったんだ。土を持っていくことに東の農村のやつは何も言わんからおいしい取引なんだ。」


 怒気を込めて答える。へー。そうなんだ。っとそんなことよりどうする。ボトムスさんは引き下がらないか。


「俺は善人じゃない、商人。そして、こうゆうときは働いて返すか、体を売ってもらうかだ。今までそうしてきた。そこの2人は働かすが、そいつは将来性があるからどこかに売って金にする。依頼人は俺だからグダグダいうな。」


 ボトムスさんが最後に怒鳴る。それって、娼婦とかになれってことか。人身売買だけど、ガーゼットさんが何も言わないのは、依頼人の判断だからということか。シクは顔を下に向け怯えている。千歳が俺に寄り添って静かに言う。


「在人。この人もう殺しましょう。そうすればクエストの解決はうやむやになるよね。そうすればいいでしょ。ね?もう私は無理。シクのつらい顔を見たくない。もしそれでギルドともめたり、カタム傭兵団と戦うことになったら、私は戦うから。そして、シクを連れて帰りましょう。ね。お願い。」


 ボトムスさんが怯み、シクは千歳に目を向ける。いやそれはダメだって。確かにそれならシクは助かるかもしんないけど、この世界にも帰ってこれないよ。俺に聞いてくるのはまだ我慢してはいるんだろうけど。ただ解決をうやむやにか。それはいいかも。でも今度は街での裁判か。


「千歳、ちょっと待って。ボトムスさん。ボトムスさんが依頼した理由は盗品と損失を取り戻したいってことよね。ちなみに損失っていくら?あと、ペンダントとシクはいくらで売るつもり?」


 才華が語尾を強め尋ねる。今度は才華に目を向けるシク。


「あっ、ああ、そうだ。損失はそうだな。とりあえずは300万ゴル。ペンダントとそいつは50万かな。」


 才華に気押されて、勢いで答える感のあるボトムスさん。300万ってそんなもんかよ。人一人50万ってどうなんだ?ペンダントもだけど。


「だったら、そこの2人で盗品は取り戻せるから、それで内容の半分解決よね。で損実は3人で割るから、1人100万ね。ペンダントとシクで100万、それでいいんですね。あとから変えたりしないよね。商人としてそんなことないよね。」


 才華がさらに詰め寄る。どうするつもりだ。


「あーそうだ。それがどうした。」


「このクエストでの泥棒になるのはこの3人。全員ボトムスさんに引き渡すわ。それでクエストは解決。」


 うん。そうだね。


「そして、ここからよく聞いて、シクは私が買う。シクの分の損失100万、ペンダント代100万、シクの身体代100万、合わせて300万ゴルを私が用意する。もちろん、私たちへの報酬はいらない。これでどう。100万以上のプラスよ。それで駄目なら。あんたを殺す。この街の法なんて知らない。私も善人じゃないから、私のわがままで殺す。」


 才華の買い取り宣言にシクは驚いている。才華はシクを見た後こちらに視線を向ける。千歳は頷いた。シクを買う、それなら丸く収まる。ただ、断れば間違いなくボトムスさんを殺す。才華の目は本気だ。こうなったら2人とも止まらんな。まー才華の考え自体は否定しないけど。俺も頷く。となるとガーセットさんかな障害になるのは。ガーゼットさんは警戒した様子だ。まーそうなるか。


「わっ分かった。それでいい。俺から離れろ。」


 ボトムスさんは冷や汗をかきながら才華の案に応じた。ふーそれが正解だよボトムスさん。脅迫で訴えないでね。



 才華はにっこり笑う。


「取引成立ね。じゃあお金を用意してくるから、4時間くらい待ってて。その間、在人を保証人として、置いとくから。ガーゼットさん、森に行きたいけど、許可ってでる?」


「実力的には問題ないけど、クエストのこなした件数が足りないから無理ね。そうだ。許可出せる人を同行させるわ。少し待ってて。」


 そう言って部屋を出るガーゼットさん。しばらくして、ターロホさんを連れ戻ってきた。


「なんで私が。」


 ターロホさんは嫌がっているけど。


「あんたしかいないのよ。私はギルドの仕事、イナルタは塾。あんたは術の件で呼んでだけど、今はなにもしてないでしょ。」


「うっ、そうだけど。もー。そしたら、封印は解いてよね。」


 ガーゼットさんに押し負けたターロホさんはあっさり観念したようだ。


「はいはい。私の分の封印は解くから。はい頑張って。」


 そういってターロホさんの背中に手を当てるガーゼットさん。背中が一瞬光る。なんの封印なんだ?


「ターロホならいいでしょ?現状やあなたたちのことは道中で話しなさい。ただ万が一森でアラクネルに遭遇したらすぐに逃げること。それが条件よ。」


「うん。ありがとう、ガーゼットさん。そしたらシク、在人、ちょっと待っててね。一旦家行って武器とりに行こう、千歳。ターロホさんよろしくお願いします。」


「今週中にお店に飲みに来なさい。それが条件よ。ただ働きはやだから。」


 ターロホさんはそう言うと、才華、千歳が頷く。俺も文句はない。


「それなら4時間後、東門で合流だ。街に従業員が戻ってくるはず。」


 ボトムスさんがそう告げ、3人は慌ただしく部屋を出っていた。まぁこの状況なら良子さんも納得してくれるはずだ。



 3人が出た後、ボトムスさんは別室で、2人組とシクは牢で待機となった。ガーゼットさんの協力のもと、2人組とシクを別の牢に入れる。そして、部屋に戻るとガーゼットさんから説教を受ける。


「依頼人を殺すとかの発言は本当にやめなさい。下手したら、登録抹消もありえるんだから。あの子のためってのは分かってるけど、チトセの発言の段階で交渉が終了してもおかしくないのよ。」


「ですよね、すいません。2人は俺が伝えときます。」


 説教に俺は素直に謝る。まー非はこっちにある。


「私は見逃したけど、別の人はどうするかは分かんないからね。」


 ガーゼットさんの説教は終了した。良子さんよりはあっさりだな。良かった。俺も聞きたいことを聞いとくか。


「あのー話ついでなんですけど、封印ってなんですか」


「私、イナルタ、ターロホはそれぞれの種族から問題視され、討伐対象だったの。それを数年前、力を封じてミタキの街で住むことを条件に解除されたわけ。今、私たちは全力の4分の1しか力がでないのよ。その封印の第一、二段階の解除を私たちはお互いに持っているの。私の場合、イナルタ、ターロホの封印解除で2段階封印が解けて、全力の4分の3。 さらにギルドの許可で最終封印が解けて全力が出せるの。」


 まじでかー。3人とも問題児ですか。俺が目を丸くしガーゼットさんを見る。じゃあイナルタさんの能力値ってどうなってんだ。あれは全力なのか。それとも4分の1なのか。気になる。


「あと牢の2人組はギルドとしてはどうするんです?」


「うちのギルドでは登録抹消ね。」


 そうか。ざまぁ。



4時間後、3人は戻ってきた。才華、千歳は相当な荷物を持って。金塊以外になにがあるんだ。


「はい金塊2個、これで足りるしょ。」


 ボトムスさんに金塊を渡し、ペンダントを受け取る才華。


「あーそうだな。最後に聞くがなんでそいつを助ける?」


 ボトムスさんはシクを指さす。その問いに才華と千歳は


「「かわいいから。」」


 ただ一言。まぁ2人らしい回答だ。もちろん、同情とかもあるけど。この回答に目を丸くするボトムスさん。そのまま踵を返し


「ふん。そうかい。じゃあ俺らは行くぜ。西の草原で壺も回収したいし。」


 従業員と2人組を連れ西草原に向かっていた。これでクエスト自体は終了した。


 





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