出発
表に出ないはずの黒歴史設定
Q 抱き枕カバーのことを知っている人は?
装備やら道具の点検。家族や勤務先の報告、装置の動作試験、行き先の選定。ルール決め。などなどするのに3日日間なんてあっという間だった。
状況が状況なので、困難になると思われた異世界へ行きへの説得。
俺はまあ、「頑張って」と妹からはあっさりとした返事だった。ま、俺たちはこんなもんだろう。
大反対こそしなかったが、いい表情をしなかったベガラットさん。
「身近な大切な人を助けたいと思うのはダメなの?」
「助けれるチャンスになにもしない私じゃあないのはあなたが一番知っているでしょう?」
「もし事故にあったのがベガラットでも、同じ結論に至るわ」
「現代医学では無理でも、私たちだけ可能の手段があることは無駄じゃあない」
仕事の合間を縫いながら、マアカはベガラットさんを説得する。どう見ても尋常じゃない量の仕事を口、手、脳を休ませずに双方ともにだ。その結果、
可能な限り1か月に一度の5日間帰還。
そのさいに仕事の状況の確認。1日は愛音の撮影。
探索は1年おき(1年探索したら、翌年は1年仕事)。
異世界で商売につながるなにかもついでに探す
等々といった内容のルールで決着がついた。
危険に突っ込んでいくのを良しとはしない良子さんは案の定反対した。だが、その場にいた才馬さんが
「頼むよ」
と一言。たったそれだけ。その言葉を聞いた良子さんは怒るような、悲しむような、なんとも言えない表情で才馬さんを見る。才馬さんには一緒に反対してほしかったのだろう。
下手したら、才華や愛音までいなくなってしまう可能性はあるからなあ。結果的にパヴォロスでは無事なだけで、危険なのは確かだった。次もそうとは限らない。
「良子。在人君たちだってもう、子供じゃないわ」
ここで割り込んできたのは沙緒里さん。
「でも」
「それに、千佳のためだけの行動を起こせない才馬君や良子の代わりに行動してくれるんでしょう。本当なら才馬君だって行きたいんだから」
才馬さんのほうを見る沙緒里さん。
「今ほど、僕と才華の立場が逆だったらと思ったことはないよ」
異世界という手段がなかったら、才馬さんはどうしてたのだろうか。天城家の財と才なら、千佳さんの医療費に困ることはない。だが救う手段は金だけではどうしようもならないことはある。
「良子。遊びに行くわけでもないし、才華たちも自分で決めたことなんだ。尊重しないかい?」
才馬さんの諭す言葉に、良子さんも黙りこむ。娯楽目的だったパヴォロスとは違い、今回はかなり真面目なものだ。
「はあ。ベガラットとの規則は守ること。それと千佳のことを思うなら、自分たちの安全を第一にね」
頭に右手をあて良子さんは了承してくれた。しぶしぶとだが。
俺たちの誰がが犠牲になって、千佳さんが助かっても素直には喜べないか。いや千佳さんだけではないか。良子さん、才馬さん達も素直には喜べない。
「できるだけ、コントロールはします」
愛音、才華に危機回避能力のないことは俺も知っている。2人だけじゃあない、マアカもそうだってこともだ。良子さんもそれを把握しており、その危惧は立ち位置的に俺より深刻かも。
「無茶はしなくていい。ただ期限は2年。ベガラットさんとの決め事を考えると3年以内」
才馬さんがこの手のことを言ってくるとは正直思わなかった。
「このためだけに人生を使うのは、千佳も喜ばないからね。それでも救いたいなら、この世界で医療の道を選ぶこと。これが境界線だね」
普段、プライベートへの干渉がほとんどない才馬さん。言うべきことを良子さんが言ってるからかもしれないけど、その才馬さんがここまで発言してくる。
「わかりました、お兄様。そうします」
才華も才馬さんを「お兄様」とかしこまって呼んだ。となるとこれ以上、あーだこーだ言うべきではない。ここらが兄として、義兄として許容できる境界線。妹としても感謝を素直に述べたのだろう。
「じゃあ、僕は行くよ。良子あとは任したよ」
才馬さんは部屋を出て行った。そして、良子さんと細部の打ち合わせを1日かけた。
出発の日。試作2号機のある施設内では俺、才華、マアカがパヴォロスの時の装備で荷物の最終確認中。愛音はまだか。まあ集合時間までにはまだ時間はある。っと思ったら来た!?
「愛音。その髪は?いや髪型は?」
「似合うかしら?」
愛音の髪型が変わっている。ベリーショートでいいのか?細かい名称はわからんけど。
「やるな、愛音」
「いいんじゃあないの。ね、ザアイ」
才華やマアカも驚いている。2人も知らなかったのか。逆にこの様子を見て少し微笑んでいる良子さん。知っていた、違う良子さんが散髪したのか。いや感想をいわないと。
「いいと思うじゃなくて、いいよ」
語彙力はないので、勘弁してほしい。俺は時速30キロくらいのヘロヘロ山なりボールしか投げれんのだから。
「ありがと」
ありきたりの感想の返事は満面の笑みだった。いい。うん。これはこれでいい。
「じゃあなくて、いやこれはこれで大事だけどなんで。なんでこのタイミングで髪を切ったわけ」
「ん。心機一転にね」
願掛けとか、気合い入れみたいなことかい。まあ。そういうのをする気持ちはわからんでもない。
「で、在人のリュックにこれも入れておいてね」
と手に持っていた紙袋から取り出したのは……髪の束。はい?
「これは愛音の?」
状況的にそうなるよな。これで違ったらどう反応せばいいか、わからん。
「ええ。そうよ」
当たってはいた。
「何故?」
「使えるかもと思ったの」
どこで?さも当然と答えれれても。
「まあ、可能性はあるわね」
マアカは頷いてる。
「身体の一部を素材として作った武器、防具はより身体になじむ。って、バインさんが言ってたんだよね」
「ですか、才華」
「でこれから行く世界にも同じことができる鍛冶師がいるかもしれないし、そういう装備を作成してもらうかもしれない。」
「なーる」
俺たちは鍛冶師じゃあない。今の装備の軽微な修理はできても、完全大破したら修理できない。一から装備を用意する可能性もある。その際にあって困ることはないか。
「在人、こっちも。はい」
「おうよ」
才華から渡されたのは2号機のスマホ型通信機。こっちは見た目だけじゃあなく機能的スマホに近づいた。
ポイントでの装置の呼び出し、装置との通信機能。
近距離間での通信機同士での通話、メール機能。
指紋認証。
動画、静止画撮影。
充電こそ電気だが自然魔力並びに太陽光を電気に変える充電器は別途開発済み。
メモ帳。電卓。
などなど
予備含めて2台を受けとる。リュックにいれようかと思ったが、異世界に行ったらすぐ動作確認をするはずだよな。あ、ちょうどいいから愛音の髪と一緒に袋にいれておく。
「真。装置を異世界No2に繋げて」
異世界No2。無数にある異世界から才華が選定した異世界。俺たちにとってNO1はパヴォロス。
「分かりました」
装置のドアが開かれる。
「ドアをくぐったら、通信機の動作確認や座標の記録。装置用アンテナの設置。身体能力、魔法の確認。そこから、拠点となりそうな集落の探索」
パヴォロスのときと同じく3日間の間に集落を探す。集落が見つからない、もしくは集落として機能していない場合はこの世界での探索中止。次の異世界へ切り替え。
、
「よーし、行くよ」
「ええ。行きましょう」
「おお」
「ああ」
才華、愛音、マアカ、俺とドアをくぐる。
「お気をつけて」
良子さんがドアを閉めた後、そのドアは消えていった。
ドアをくぐった先は平原といった場所か。
「じゃあ、さっそく装置と通信機の繋がりを確認して」
才華の指示に従い、愛音、マアカも通信機を取り出す。うん。問題なし。
「1つは問題なし。で予備の?!」
予備のほうを袋から取り出した時、俺は異変に気付く。気付いてしまった。偶然だが、本当に偶然、たまたま、目についたから気づいた。俺が一番早いってのも3人が通信機を操作していたせいか。
予備機の故障?そんなんじゃあない。むしろそっちのほうがよかったかも。
そして、俺は反射的に動いていた。考えなしに。向かったのは愛音のほうへ。
「あら?」
「愛音!」
「これは?」
俺が向かった本人も異変に気づいた。才華、マアカもだ。
異変。それは、愛音の足元に魔法陣、術式が展開していること。ここは才華が選んだ世界だから魔力はある。だが、この世界に来たばかりの俺たちというか、才華たちはまだ魔法を使うっていない。
じゃあ誰が?なぜ俺の愛音に。なにが狙いだ?攻撃?
っ余計なことを考えるな。今すべきことは……。
「愛音!」
俺は飛び込みながら、愛音を術式の外へ押した。
火事場のクソ力のせいか、3人より早くうごいたせいか。それは功を奏した。
そして、3人の戸惑いの表情を最後に3人の姿は見えなくなった。
A 発案者 千佳。発案時に居合わせた良子、紗緒理。
不在時に部屋にいたずらしに行った影崎、止めようとしたうつつ。
誕生日会いる夢。才華経由で真。などなど