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また日常へ

表に出ないはずの黒歴史設定

Q 天城家の敷地には才華の自宅と研究所がありますが、心臓にロードローラーや炎であーだこーだを、研究所の人たちは気にしてないんですか?

「落ち着くって言葉を知ってほしいわね」


 装置をいじりながら、呆れた表情をしている良子さん。その隣で真はシクに常春のマントを装着させている。


「そんなこと言って、シクと別れるのが名残惜しいんじゃないの」


「ふ。なにを考えているのかわからない捻くれた子より直でかわいい子のほうが誰だって好きよね。ねえ、真」


「え、あ、その」


 良子さんの軽口に困った反応を見せる真。シクと良子さん、真はこの3日間で良好な関係を築いたようだ。


「自分の部下を困らせて、楽しむなんてひどい上司じゃない。良子」


「あなたの行動に比べれば、気楽なものよ」


 一瞬、納得する表情となったのを見逃す才華ではない。


「まーこーと。今、納得してたよね」


「え、そ、そんな、ことは」


 ものすごい顔で迫られる真。


「ほらほら真が困ってるじゃない、才華。本当のことなんだから仕方ないでしょう」


「本当のこと?!」


 才華をドア前まで押すマアカ。


「ドアも開いたからいきましょう。シク、いい?」


「あ、待ってください」


 シクは良子さんと真の前へ移動し深々とあたまを下げる。


「リョーコさん、マコトさん。ここにはいない皆さんにも3日間お世話になりました」


「こっちも楽しかったわ」


「私も楽しかったです、シクさん、また会いましょう」


「はい!」


 3人の笑顔を見て、ぎゃあぎゃあ騒いでいた才華も大人しくなる。


「そんじゃあ、あっちの戦後処理にケリがついたら、戻ってくる」


「お気をつけて、才華様」


「手をぬくんじゃあないわよ」


「わかってるって。じゃあ、行くよ、シク」


「はい!」


 才華たちに続いてシクがドアをくぐった。さて俺も行くか


「ちょっと待て、在人」


 良子さんに止められた。無視していきたかったんだけどなぁ。これねぇ。ドアのある部屋に置かれていた。多数の買い物袋。山のような買い物袋。


「えーっとこれは?」


「真、千佳、沙緒理、3人組から、シクへのお土産」


「ですか」


 沙緒理さんも噛んでるのか。皆、妹や、娘ができた気分なんだろうなあ。素直でいい子だし。気持ちはわからんでもないけどさ、限度ってあるよね。


「1つでも残すと五月蠅そうだから、残さずに持っていてね」


 まあ、激戦を潜り抜けた3人とシクなら、俺が持つしかないよな。俺は何往復すればいいんだ?後日じゃあダメかなぁ。


「ね」


「おっす。元気なので頑張って持っていきます」


 良子さんもシクにお土産買ってるな。「ね」の圧力が強い。逆らえん。


「よろしくね」


 良子さんはにっこりしている。




 マントのおかげで寒くはないが、目に映る世界は冷凍室。


 竜の肉片は凍り付いたまま。あとはこれの処分か。


 竜の肉片から情報を食べて、竜の毒対策を構築する。これが才華最大の戦後処理。4000年間、パヴォロスでは解決できなかった問題に才華が挑むことになる。


 竜の毒が勝つのか、異世界転送を実現した才華の頭脳が勝つのか。


 生物は専門でないと思うが、


「天才ですから」


とVサインで答えたので、それを信じるしかない。どっちにしろこっちのほうは時間をかけていくしかない。


「あとは予定通り肉片の処分だね」


 俺が往復している間に現状の確認は終わったようだ。残っているのはシクとジーファさん、コアの3人。


「で、これからどうするんだ?」


「ガーゼットさんたちは街の片付け、カタムさんたちがこの森の片づけ。私たちはこのまま竜の対応」


「ですか、マアカ」

 

 戦いの後だが、仕方あるまい。いつまでも凍結させとくわけにはいかないし、毒が広がって俺たちが帰れなくなっても困る。


 じゃあ、別の場所で戦えばいいんじゃないかっと思ったが、心臓の運搬を考えると近距離のほうがいいからこの場所になったんだよな。転移で移動するのも魔力がかかわってくるから選択から外された。


「コアちゃんはシクと離れていて」


「はいはーい。よーし、シクこっちおいで~」


「はい」


 シクとコアは竜から離れた。


「じゃあ、俺は最後のお土産とって、そこでドアは閉めてもらうか」


「良子にもこっちから呼ぶまでは装置は起動させないように伝えて」


「あいよ」


 俺がドア前にきたところで


「在人!」


 愛音の声に反応して振り返ると鉄球が飛んできた。はあ?!マアカのではない。じゃあ、誰が?

あ、いやこれ、顔面直撃。周りがスローに見えるってやばい?この鉄球の射線上にいた、マアカたちは回避してる。あ、足もつれた。これもう避けれない。


「っさあ!」


 マアカの気合と同時に鉄球が巻き戻っていく。なんだ?ん?どうやらマアカが鉄球のチェーンをカチあげたようだ。これで、鉄球の軌道が変わったのか。


 助かった。いや、それより。この攻撃は?鉄球はレイダーのもの。それを扱ってきたのは持ち主本人とゲイザム。


「はあ。はあ。はあ。くっ」


 ゲイザム、まだ生きていたか。それもそうか。マアカによって戦場から吹っ飛ばされただけだから。


 で、右手がないのはなんでだ?


「まだだ!死ぬ前に一人でも。一人だけでも……!ぐはっ」


 吐血しながらも鉄球を回し始めた。右手がないのといい、あの口ぶりといい、教団信者じゃなくて、本来のレイダーに見える。右手がないのは、もしかして、教団の印を切り離すためか?そう考えれば辻褄があっている気がする。


「せい!」


 飛んできた鉄球を地面にうちつけたマアカ。愛音がナイフを投げ、コアが走り出す。魔法は使えんか。


 寒さと出血、今までのダメージで動きが悪いレイダー


 ナイフをよけれず、足が止まり、コアのナイフが首筋を切り裂いた。


「く……そ……」


ゆっくり倒れていくゲイザム。さすがに終わっただろう。


「きゃああ」


シクの叫び声に反応すると、また生きていた人物がいた。


「ふ。ふふ。ひゃはははっはは」


 ゲイザムがシクを抱え、魔女の杖の石突きを突き立てている。


「うあああ」


 恐怖で顔がひきつるシク。


「動くなよ。動くなよ。コイツを傷つけたくないなら」


 どこから出てきた?なんで生きてるのか?戸愚呂弟は死んだのに?今はまるで兄のほうみたいにガリガリだけど。いやそんなのはどうでもいい。


 俺も含めて誰も気づかなかった。なぜだ?


「最後の最後に役立つのが、想定外の拾い物だとは思いませんでしたよ」


 拾い物、レイダーのことか?確かにレイダーに注視していたのは確か。


「うーん。死んだと思ったんだけどなあ」


「思いつきの予備の心臓ってのがうまくいった。ヴィテスの信者爆弾で地面に穴があき、そこに身を隠せた。信者だったから、竜の触手もこなかった。魔女の杖を手に取れた。魔女の肉体の効果が残っていて転移の魔法も使えた。誰もかれも死んだと思ったから意識から外れた。おっとヴィテスから気配の隠し方も教わっといてよかった。コイツも手に入った。ツイてる。私はツイてる。不死を手にいれるのは私だ」


 生きてたのはそういう理由からか。そして、運がいいのも確かか。カタムさんや、ガーゼットさんたちをも欺いて、この状況にもっていけたんだから。


「まだシクを諦めていないようね」


 才華の冷酷な声。


「信じがたいことだが、竜は死んだのだろう?なら次の可能性を選ぶに決まっているでしょう」


「で、この状況からどう逃げるつもりなの?まだ、転移妨害の効果はあるんだけど」


「それも、君たちが用意してくれたではないですか」


 俺たちが用意したてくれた?なんだ?あ!転移装置のドアか


「この扉がどこに通じているがわかりませんが、竜の心臓を始末したんです。倉庫などではないでしょう。それにわざわざ転移の魔法ではないことから、この扉ででしか移動できないのでしょう」


 研究タイプだからか、頭が切れるのか。必死だからか。異世界であることまでは想像できなくても、的外れなことは言っていない。


「ですから!」


 ゲイザムは術式を展開した。あれ心臓に使っていた竜の封印の逆の魔法。逆『精神と時の部屋』魔法。


 魔女の効果か、杖のおかげかは不明だが術式は2か所に展開される。1つは竜の肉片。そして、もう1つはドアに。ドアに?


 「ドアが壊れたら追ってこれないでしょう」


 ドアが異常な振動をし、異音と火花が出てくる。な、なにが起きた?


「魔法の効果で一部の部品が劣化した」


 才華は淡々と答えた。冷静かと思たが、そうではない。


 あのドアというか、装置は精密機械。それも想像を絶するレベルの精密さだろう。全体の一部、数パーセントにも満たない一部だが、それだけでもあの異常事態。あのままだとなにが起こる?


 ただ、ドアが閉まらなくなるだけならいい。それだけなら、まだ希望はあったかもしれない。だがそうではない。


 ドアと同じくたった1か所。だがその一か所から凍り付いていた竜の肉片が解凍され、竜の体が変化し、即死級の毒へ変化した。


 見た目だけでもヤバイ雰囲気を醸し出しているのかわがる。そして、その毒は周囲の凍結部分も融解し、広がっていく。これもまずい。毒の浸食が早い。どうする?どうする?


 「さてと、私はこのままおさらばといきますか。杖はなくてもこの首を折ることはできますので」


 杖をどこかに仕舞い、シクを抱えたまま、ドアへとゆっくり下がっていくゲイザム。あ!


「その子になにをしてるのかしら?」


 ドスの聞いた声に振り返ったゲイザム。声の主は良子さん。それも冷酷に激怒状態の良子さんだ。ドアから出てきた良子さんが流れるような動作で手首と腕を折った。


「ぐひいい」


 ゲイザムは悲鳴を上げシクを手放し、真がシクを抱えてゲイザムから遠ざける。良子さんは顔、のど、ボディと追撃を決めた。


「お怪我はありませんか?シクさん」


「あ、はい」


 おもいっきり抱き着くシク。怖かったよな。


「うがああああ」


 のたうち回りながらゲイザムは良子さんから距離を取ろうと必死だ。


「まだ、動けるようね?」


「ひいいい」


 あ!


「ひゃあああああああああああああああああ」


 凍結に足を滑らしたゲイザムは自ら解凍した肉片に触れてしまった。


「ぎゃああああああああああああああああああああああああ。助け、だれか」


 断末魔をあげ、苦しむゲイザム。身体をばたつかせるも誰にもどうしようもできない。自業自得というべきか?


「お嬢様。ドアを閉めて装置の起動を止めます。アレを見続けるよりやるべきことがあるのでは?」


 良子さんの声に皆がそちらを向く。確かにゲイザムの死にざまはどうでもいい。 


「うん」


「真、行くわよ」


「は、はい。それではシクさん。また」


  良子さんはシクを一瞥したのち、振り返ることもなく、ドアをくぐった。別れを促している。


「なんともならないか?」


 藁にも縋る思いで聞いてみた。俺の知っている天才才華なら、と思ってしまう。


「毒の情報は得た。でも…。時間が足りない。あの毒に対して運用試験もできない…。ドアさえ無事だったら。っ」


 下唇をかんでいる才華。圧倒的な毒に対して無謀なことはできないか。


「そっか」


 マアカも空を仰いだ。才華でダメならどうしようもできない。コアとジーファも結論を理解したようだ。


「そう」


 愛音はシクを見つめた。


「え?あの……」


 シクだけはまだ答えにたどり着いていない。もしくはたどり着かないようにしているのか。


「シク、ごめんなさいね」


 ぎゅっとシクを抱きしめる愛音。惜しむように謝罪のように優しく抱きしめている。


「なんのこと」


 視線を才華にむけるシク。


「シク。私たちと住むようになったときの話は覚えているね。私たちが帰ることになることは」


「え、あ……はい……」


 顔が曇っていくシク。この間にも毒は広がっていく。コアが慌てているが、それをジーファが制している。もう少しだけ我慢してほしい。


「それが今」


「そんな……」


「ごめん。こんなつもりはなかったのに。教団も竜も倒したのに。もっともっと一緒にいるつもりだったのに」


 握りしめた手が震えている。教団は全滅。竜は死去。当面の問題は解決したと思っていい内容だ。


「……やだ。やだやだ。一人になるのやだ。いかないで」


 大粒の涙を流し訴えかけてくるシク。


「シク……」


 愛音も言葉が詰まっている。1人にはさせたくない。それは皆が思っていること。だが、俺たちの住む世界はここではない。家族はこの世界にいないのもそうだし、良子さんとの約束でもある。


 仮に俺たちがこの世界に残れば、才華が毒対策を成立させれるだろう。


 それに才華ならあの装置を作れはする。ただそれは作れるとしても何年かかる?天城家に生まれたから、現代の科学知識、設備があったから、装置はできた。才華の才能だけで、今日明日にはできない。作るにはそれ相応の環境が必要だ。


 そして、才華曰く

  

「こちら側の同じ位置にドアを開いても、私たちの世界の同じ場所に繋がるとは限らないんだよね」


 以前、そんなことを言っていた。装置をつくっても俺たちの世界とつながる保証がない。


「もっと研究しとけばよかったのかなぁ。でもそうなるとシクとあそべなかったしなぁ。かといって、シクを連れていくわけにもいかないし」


 才華も空を仰いだ。時間は巻き戻らない。現状どうしようもない。


「あ……わ、わたしもそっちに。1人になるくらいなら」


「シクは1人じゃないでしょ」


 精一杯の笑顔のマアカがかがんで、シクと目線を合わせた。


「ひう。マアカさん?」


「イナルタさん、ガーゼットさん、ターロホさん、ガンソドの皆。アマ。私たちも知らないミタキの住人。それにルンカにライジー、サウラは友達でしょ?」


「ああ……」


 3人のことを思いだしているんだろう。ルンカたちとは俺たちとは異なる楽しい日々を送っていただろう。それこそ、より素でいられるのは俺たちよりあの3人とだろう。そう俺は思っている。


「シクもあの3人と一緒にいたいでしょ?」


「うん」


 うなずくシク


「私たちもシクと離れ離れになるのは寂しいけど、私たちはお姉さんだから、ルンカたちからシクをとれないわ。ルンカたちと元気でね。いい女になってね」


 名残惜しそうに頭をなでるマアカ


「うん」


 シクは涙をぬぐいながらうなずいた。もうそろそろ毒がやばい。ドアの火花もやばい。


「コア、ジーファ、シクのことお願いしていい?」


「ええ。任せて。ガーゼットさんたちにも私から伝えておく」


 愛音に微笑むジーファ


「うおおおおお。わたちもさびしいいよおおおお」


 涙をボロボロながしているコア


「もう時間だね。行こうか」


 才華はドアを潜ってり、愛音、マアカが続く。俺もドアの取っ手をつかむ。もうこの世界ともお別れだ。胸中いろいろあるが、閉めないといけない。


「サイカ、イトネ、マアカ!」


 ジーファさんの叫び声に3人はドア越しで降りかえり、ジーファを見つめる。なんだ?


「また、『会う』でしょ?サイカ」


 あ。


「……ふっ。あったりまえよ。この私を誰だと思ってる?現代世界ぶっちぎりで超越した化学力を持つ天城才華だよ。試作2号機が完成した暁には、そのアトミックバズーカで私の家とこの世界を結ぶ新たな通路を開拓することになる。その日を楽しみにしてなよ」


 ジーファの言葉に不適な笑みで答える才華。愛音もマアカも笑顔となる。


「ええ。楽しみにしてるわ」


 ジーファさんも微笑んだ。


「じゃあ、またね」


 互いに笑みとなって手を振りあう。俺はドア閉めた。こうして日常となっていた非日常な異世界と別れを告げた。またの再会を約束して。




 ジーファさんとコアがシクを連れて、移動を始めた。その様子を装置のモニターで見ていたが、その画面もぷつりと途切れ真っ黒となる。


 「起動停止確認と」


 良子さんが装置を停止したことにより、異音や火花は徐々に収まっていた。ちょい焦げ臭いが大惨事にはならなそうで一安心。


 「真は風呂の用意と、皆の着替えを用意しなさい」


「は、はい」


 涙を拭って真は部屋を出ていく


「私は食事のほうと部屋の準備しておくから、荷物や装備をおいて、真が来るまで休んでなさい」


「うん」


 微かに聞こえた返事を聞いて、良子さんも部屋を出て行った。


 言葉を発さずに、のそのそと装備を外し始める才華たち。目指していた未来とは違うから仕方ない。いや、最悪は回避できたけど、この状況にするつもりはなかった。


 もっと明るい未来を目指していた。そう思って頑張っていた。それが……


「疲れたな」


 口に出すと体が重く感じたので、椅子に座った。外はもう夕暮れ、激動の1日だから、疲労も仕方ないか。俺はなにもしてないけど。


「在人」


 才華が抱き着いてきた。


「わあああああああああああああああああああああああああああああああん」


 子供のように泣き散らす。愛音もマアカも寄り添いあって泣き始めた。俺も才華の背に腕を回して優しく抱きしめた。


 どれくらいたったかわからない。真が来ないから、そんなに時間は経ってないか?それとも空気を読んで入ってこないのか。釣られて廊下で泣いているのか?


泣き止んだが顔をしたに向けたままの才華。


「おい、落ち込んでる恋人をはげましてよ」


 どうやら、区切りはつけれるところまできたようだ。


「悔しかったら、強くなれ、ってなんかのアニメで言ってたな」


「それは魔女じゃなく天狗に言う言葉。もっと優しい言葉をかけれないの?」


「と言われてもなあ」


 我ながら、自分のふがいなさにあきれてしまう。女たちにいい言葉すらかけれん。


「ふふ。でも、ま。バージョンアップは必要か」


 顔を上げた才華。その表情は区切りがついて吹っ切れたようだ。俺のふがいなさでと思うと複雑だが、落ち込んでいる姿よりはいい。


「よし。優しい言葉は今夜かけてもらうとして、マアカ、愛音今後の方針を決める」


 同じく踏ん切りのついたマアカと愛音。


「あの世界、パヴォロスにもう一度行くのは決定しているでいいわね」


「そうだね、マアカ。何年何十年かけても行く。私も断固たる決意はできてる」


「確認だけど、あの装置はでいけないのよね」


 愛音は装置の部屋のほうへ目線を向ける


「そうだね。毒対策の成立ができないうちはむりだね。一か八かに賭けるにはこの毒は危険すぎる」


 ゲイザムの最期を見ると納得する。情報があっても完璧に対策できるわけではない。今回の戦いの結果がまさにそのとおりだ。


「で、才華はどうするつもり?」


「まず確認として、1号機はさ、異世界とつながることを最優先したんだよね。だから世界を選べるわけでもない」


「うんうん」


 まず、そこにたどり着くのがおかしいと思うが。


「で。企画段階の試作2号機は装置自体が平面での移動式なんだよね。だけど試作2号機Fbへと修正して、立体的にも移動できるようにする」


「それはなんのために?」


 首をかしげる愛音。


「2号機Fbでこの世界と他の世界のつながり方、異世界の位置関係のデータを集める。情報は多いほうがいいからね」


「なるほどねえ」


「そこから、パヴォロス世界の位置を特定する。それと並行して3号機を作る」


「3号機?それはなんのため?」


「2号機だと可動範囲が決まっている以上、いける世界には限界があるからね。3号機は装置の位置に関係なくあらゆる世界につながるようにする。一種の完成形だね」


「ですか」


 ものすごく運が良ければ、2号機のデータ収集段階で繋がるかもしれない。そうでなくても2号機の可動域範囲内で繋がるかもしれない。だめでも3号機で確実に繋げるってこと


「まあ、ドアの小型化。運搬の容易化。異世界の繋がる場所の選定可能。ドアの頑強化。見た目。整備性。拡張性。エネルギー代。開発費。それらを除外して納期優先の完成なんだけどね」


「機能は十分と思うが。お金の問題はなあ」


1号機の開発費だって、どんだけの金が動いているやら。想像もつかない。


「まあ、そうだね。だから、マアカそこらへんは頼むよ。愛音と在人も天城家に就職してもらうから。私一人じゃあ、手が足りないからね」


「!。ええ。わかったわ」


 愛音もこの言葉に一瞬驚いていた。


「わかった」


 才華が俺と愛音を雇う。それは絶対にしない。才華が昔からそういっていた。愛音の両親というか、地陸家は昔から天城家の護衛。いずれは愛音もそうなる立場で、愛音本人もそのことに抵抗自体はなかったようだ。だが、才華は


「愛音と主従関係になるのはいや。才華様とかお嬢様なんて言われたくない」


と拒否した。


 才華なりの友情なんだろう。愛音もその考えに応じ、大学へ進学している。同じ理由で俺も才華の元で働くことはなかった。まあ、大学に行く余裕なんてない俺は、就活大失敗で天城家のコネを使うことにはなったけど。


 それを覆す発言。才華の本気度がうかがえる。


「愛音バリバリ働いてもらうからね。在人、昼も夜もどっぷり甘えるし、甘えていいから」


「ええ」


「そこは支えてとかじゃあないか?」


「これで方針は決まったね。細かい話は、良子も含めて後日にしようか」


 俺の問いは無視ですかい。まあ、いいけど


「よーし、おフロ、ごはん、在人で今日はもう寝よう」


 立ちあがた才華さん、ごはんと寝るの間はなに?


「そうねえ。早速お風呂にいってさっぱりしましょう」


 続いていく愛音さん。疑問はないの?


「おっふろ、ごっはん、ざいと!おっふろ、ごっはん、ざいと!」


 マアカさん歌いながら出ていかないくれ。吹っ切れてから、元気すぎない?


 長く激しい1日は間もなく終わる。そして、明日が来る。


 明日からは今までとは違う日常が始まる。才華、愛音、マアカ、俺の4人で1つの目標に向かって生きていく日々。


 俺たちがまた異世界に乗り込むために。非日常というべき異世界に向かうための日常。俺になにができるかわからんが、任されたことは精一杯こなそう。


 『また会う』


 そのために。



A 賢さの人たちなので、

  なんかの実験。

  気にていないほうが、見て見ぬふりのほうが、秘密のままにしたほうが、自分の人生のため

 などの結果に至っています。

 誰だって最高級の職場にはいたいもんね。うん。 

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