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親も兄も形見も

 尖った犬耳、銀髪のくせ毛で顎までの長さ、八の字眉、幼いけど整った顔。ただ、全身薄汚れているのは環境故か。


「あー、かわいい。」


 泥棒の顔を見て才華がうれしそうに声を上げる。そうだね。


「本当だ。かわいいね。」


 千歳が同意している。さて、子供をこのまま押し倒すとくのは良いものか?


「うーん。千歳、押さえるのはもうやめとこうか。えーと、君を抑えるのやめるけど、逃げたり、抵抗はしないでね。なければ俺は手を出さないから。どう?」


 『俺は』手を出さないというのは卑怯かも。この発言に気づいていないのか、泥棒は無言で頷く。とりあえず信用して千歳を促す。


「じゃあ離すけど、在人になにかしたら怒るから。それだけは覚えといて。」


 千歳の脅しに泥棒は恐怖したんだろう。うんうん頷いており、それを見て千歳は押さえ込むのをやめる。泥棒はその場に座り込み、俺らを一瞥する。とりあえず、千歳に恐怖を感じているのは見て分かった。


「はーい質問するから、答えて。先に言っとくけど、君に供述拒否権も嘘をつく権利もありません。それらがあったときは触るから それだけは覚えといてねー。にひひひ。」


 才華がゲスな笑顔をしている。さらに両手の動きはいやらしい。エロおやじめ。セクハラする気か。泥棒も別に意味で恐怖を感じている。


「まず、名前、種族、年齢、家族。」


「シク・クオーテツ、狼人ウェアウルフ、7歳、家族は・・・いない。」


 こちらをまっすぐみながら機械じみて答える。ウェアウルフか犬じゃなくて狼ね。へー。コートでわかんないけどしっぽもあるのかな?いやそれよりも家族がいないってのは気になる。才華は質問を続ける。


「最近、壺の入った袋を盗んだ?」


「袋って、白色で。赤色の壺をいれてた袋のこと?」


 割と素直に答えてくれるな。そして当たりだ。


「あーそれだね。その袋だね。それどこにあるの。」


 俺が質問する。


「私にはもう分かんない。」


「分かんない?あー売っちゃたのか。それでもう分かんないのか。」


 この世界だと盗品とか関係なく換金できそうだしなー。まー俺たちは捕まえるのが依頼だからいいか。そこはボトムスさんに任せよう。


「違うよ、在人。袋は別の人に渡したってこと。ここに逃げたのも、渡す場所なんじゃないかな。あわよくばそいつかそいつらに助けてもらおうとか考えたのかも。」


 才華の言葉にビクッとするシク。才華の考えは当たりらしい。


「シク、なんで泥棒をしているの?拒否権はないけど誰にも言わないから。」


 才華がシクの肩に手を当て、シクをまっすぐ見つめる。



 少し逡巡した後、シクが口を開こうとすると


「待って、誰か来た。」


 千歳が後ろを振り向く。俺、才華も後ろを振り返ると、ギルドでガーゼットさんと口論になってた2人組がこっちに近づいてきた。


「ドジったのか。また買い取りが遠のいたな。」


 下卑た笑みの長い男。右手にはナイフを持っている。


「いいのかーい、シク。アレ売っちまて。は。というかオメーラか。」


 太い男は俺を睨んでいる。こっちはこん棒だ。会話からシクと関係があるのは間違いない。アレってなんだ?


「あー、おたくらはシクとどういった関係で?」


「うーん。おめーらには関係ないだろ。」


 俺の問いに太い男は馬鹿にした顔で答える。


「買い取り、アレねー。要するにシクにとって大事な物をあんたたちが持っていて、それをシクに高額で売る契約をしている。でもシクには稼ぐ方法がないから盗みを働くしかなかったってとこかしら。」


 才華が2人を見下した顔で推理する。


「ちょーっと違うなー。俺たちはそいつの命の恩人で、その報酬代を払ってもらっているところ。」


 長い男が左手に袋をぶら下げている。シクの目線はその袋にいっている。


「そうそう。蜘蛛女に襲われ、両親と兄を失ったそいつを俺たちが救ってあげたんだよー。」


 太い男はシクを見ている。アラクネルから救う?こいつらが?無理でしょ。


「シク、説明して。」


 千歳がシクのを問いただす。シクが口を開く。




 シクの話はこうだった。薬売りの父 料理人の母、3つ上の兄とシクは世界を旅する生活をしていた。しかし、今から1か月前、ロシック王国からミタキの街への向かっている最中、負傷した蜘蛛女に襲われ、シクのみがなんとかその場を逃れた。そして、助けを求め走ったところ、出会ったのがこの2人組。見た目から登録者や冒険者など判断したシクは懇願した。


「お母さんたちが襲われてるの。助けて。」


 シクの叫びに長い男はヤル気なく答える。


「はー、報酬は?」


 シクに手持ちはなかったが、母親のペンダントをそのときは身に着けており、それは、前日だだをこねた結果、母から借りていたものだった。シクは一瞬悩むも家族の命のは変えられなかった。


「こ、これで。」


「へー。いいもんじゃん。」


 ペンダントをひったくり、状況を聞く2人組。3人で現場に行くもすでに遅かった。散らばった被服。血痕、遺体の一部、それらが3人の死を物語っていた。それを見てシクは絶叫し気絶した。

 目覚めたとき、遺体は2人組によって片付けられ、遺体は埋葬されていた。シクは家族の死を受けいるしかなかった。そこでペンダントのことを思い出す。


「あの。そのペンダントなんですけど。」


「あー。これは依頼金だろ。お前の依頼を受け、助けには来た。ただ間に合わなかったけどな。まっ埋葬したからそれで我慢しろ。お前の命があっただけで良かったと思いな。」


 太い男が睨みつける。報酬から依頼金に代わっているがシクは恐怖で言い返せない。


「それに、お前は気づいてないけど、俺たちが近づいたから、蜘蛛女は逃げたんだ。じゃなきゃ、遺体も残らん。なにミタキの街までは護衛してやる。そこからは知らんけど。」


 本当か嘘かは判然としないことだが長い男が付け加える。


「でも、お母さんの形見で。もう他になにもなくて。」


 シクが勇気をしぼり、お願いする。長い男は太い男と相談したのち、シクに告げる。


「あー、したら俺たちから買い取れ。これなら30万ゴルだな。まっ、一括で用意しろとは言わねーから。毎週、少しずつでも用意しろ。俺たちが他に売っちまう前にな。どんな金でもいいぜ。なんなら盗みの技術を教えてやるぜ。俺も昔はそうするしかなかったからなー。」


 2人組はニヤニヤしていた。シクは盗む技術を教わった。戦えない、身寄りもない、そんなシクにはそれしか選ぶ手段がないことは分かっていたから。そこからシクの苦難の日々は始まった。




 シクの説明を聞き、千歳が2人組を睨む。


「納期までに一銭もなければ、シクに暴行。分かりやすいわね。」


 千歳の目と声が冷たい。暴行?どこからそんな発想が?


「なんのことかなー。」


 長い男が首をかしげる。が心当たりのある様子だった。


「在人、才華、これ見て。」


 千歳はそう言い、シクのコートの腕の部分をまくる。シクの腕には痣やらアオタン、擦り傷だらけだった。才華も驚きの顔を見せる。シクは目をつぶっている。俺は腕を凝視しながら千歳に聞く。


「いつ気づいたの。」


「押さえるのを辞めたときね。チラッと見えたの。たぶん腕だけじゃない。」


 千歳の顔が辛そうである。体もか。どこにでもこんなことは起きえることだけど、目の前でこの事実は応える。


「シク。2人にやられたんだね。まだ私たちの質問は終わってないよ。」


 才華がシクに優しく質問する。シクは無言で頷く。目に涙が浮かんでいる。才華の優しさが染みたんだろうか。


「まー約束を破ったら、どうなるかを教えてあげたんだよ。大人として。」


 太い男が鼻息荒く答える。大人ねー。なに言ってるんだか。


「まー教えるのは大人の役目ね。体罰だって場合には必要ね。約束を守るのも大切だし。」


 才華がうんうん頷き、2人組に同意する。


「そうそう。わかってるじゃないか。」


 長い男が以外そうな顔したあとまた下卑た顔で頷く。


「でも、限度もあるし、やり方ってのもあるでしょ。このクズ。」

 

 2人組を睨み付ける才華。もう我慢の限界だな。才華の言葉に男2人組も才華、千歳を睨んでいる。一触即発状態だ。この世界に来る前みたく俺を完全に無視して。またかよ。


 

 

 ここまで来て俺は考える。ボトムスさんの依頼は『泥棒を捕まえろ』。ボトムスさんの様子から盗品を取り返したいからお願いしたんだよな。犯人であるシクは捕まえたが。盗品の行方を知っているのはこの2人組。どっちにしろこの2人組は連れていく必要がある。クエストはこれで解決だろう、とりあえずは。仮に俺たちが見逃しても他の登録者によっていずれは捕まる。

 

 それよりも、この世界の法律がどうなっているかを俺は知らない。罰するとなればシクはそうなる。じゃあこの2人は?今まで聞いた内容からこいつらは罰されるのか?話からこの2人が盗むのを強要してるだろ。でもこの2人なら盗品の行方を知ってても、「盗品とは知らなかった。」、「盗んでも金を稼げとはいったが、本当にそうしてるとは思わなかった。」など言ってシラをきるかも。言った、言わなかった、じゃあ話は平行線になるだけ。シクへの暴行も同じだ。はっきりしてるのはシクが泥棒であることだけ。

 

 親も兄も形見も失って、暴行を受けて罰される。これじゃシクがあんまりだ。シクが無罪とは言わないけど、救いがあってもいいはずだ。この2人のことを話せば減刑くらいはできないのか。そう考えるのは甘いか。

 考えろ俺。ない頭をふり絞る。駄目だ、いい案は思いつかない。・・・とりあえず、やれることをやろう。あっ。才華の資金で解決・・・は最低か?いいや、俺が最低なのは昔からだし。


「才華、千歳ちょっと待って。俺も聞きたいことがある。」


 2人を制し前に出る。2人は何故という顔をするが、俺は才華に視線を送り、察してくれた才華は後ろへ下がる。俺は頭を掻きながら2人組に聞いていく。


「あー俺、頭悪いから確認するけど、あんたらはシクの依頼を受けて依頼金として、形見になったペンダントを受け取った。そして、シクはそのペンダントを取り戻すために、あんたらに教わった盗みの技術で日々その資金を稼いでいた。シクが盗んだ金、品物をあんたらは受け取っていた。その金がないときは罰を与えていた。ここまでは合ってる?」 


「そうだよ。それで?」


 太い男が答える。


「ちなみに、品物はどうしてるんだい?」


「そんなの、街で換金しているさ。」


 長い男は俺の質問にイラついてるようだ。


「あーじゃぁ、最近赤い壺の入った袋ももう売ったのかい。」


「あーあれか。壺も袋も価値がなさそうだし、中身も土だったから、この前の西草原のクエストを受けた際、草原の横にある森に投げてきた。」


 土ってなんでそんなもん売ってんだ?まぁそれはいいや。こんなもんかな。


 「うーん。そうか、うん。あのさ俺たちは今クエスト中で、街で発生している泥棒を捕まえろ。なんだよ。」


 俺がそう告げる。


「ふーん。じゃあシクを連れてけばいいじゃないか。さっさと行けよ。俺たちは登録者、泥棒じゃねーし。」


 俺たちは関係ないって顔をして太い男が答える。この世界じゃこの2人は罪に問われんのか。


「あのさ、この依頼って盗品を取り返したいって意味もあるだろ。で。その行方はあんたらしか分からん。なら、あんたらもついてきてもらうよ。なんと言われても。」


 この宣言に2人組が怒りを表す。どうやらヤル気だ。 


「ふん。俺たちは関係ないっていてるだろうが。どうしてもっていうなら力づくでやりな。」


 長い男は袋をしまって、ナイフを構える。


「今は獲物もないくせによくそんなことを言えるもんだ。」


 太い男もこん棒を両手で掲げる。


「まかせて」


 千歳が前に出る。


「殺すなよ。あと運ぶの面倒だから、気絶と足を折るのはなし。あー難しいならいいないけど。」


 俺の注文に千歳は頷く。ここは俺がやりたいとこだけど、1対2で勝てる実力はない。情けないな。2人組も「えっお前じゃないの」って顔をするけどしかたないだろ。千歳も我慢の限界だろうし。


 結果は言わずもなが。千歳が一方的にボコって終わり。千歳は終始、無表情で攻撃していた。それだけシクの件が頭に来てんだな。まさにギャグマンガみたいにぼろぼろの2人組。顔は腫れ、両腕は折れて、地面に倒れている。ざまぁ。でもこれにはシクが怯えている。うん、それはしゃーない。


「これでいいかしら。在人?」


 汚れを払いながら千歳が聞いてくる。汗もかいてない。


「うん。問題ない。才華もいい?」


「うん。問題ない。」


 後方に下がっていた才華が頷く。では行きますか。


「じゃあ行くかい。シクも立って。あんたらも。先に言っとくけど、逃る、暴れる、大声を出す。助けを呼ぶなどのそぶりがあったら、足は折るし、口には物を詰め込むから。」


 3人とも立ち上がる。


「ひゃい、ひげまへん。」


「ひゃ、ひゃかりまひた。」


 2人組が素直に応じる。素直でよろしい。うんうん。


「うん。」


 シクも頷く。さてギルドでどうなるか。






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