飲んで飲まれて追い込まれて
結界作成は7時近くで終了した。2人はイナルタさん、ジーファさんから10分ほどでその魔法を習得して結界張りに協力。俺はカタムさん、キャノさん、ガタクンさんたちと共にその護衛についていた。何も現れなかったから、なにもしてないんだけど。
ギルドに戻ると報酬が支払われ、
「結界張りお疲れさまでした。今後はカタム用兵団及びこちらから依頼する登録者でのアラクネル捜索となります。結界解除の際にはまたこちらから連絡しますので。その際はまたお願いします。本日はありがとうございました。」
ガーゼットさんのお礼で解散となった。
各々帰路に着く皆を見ながら、俺は才華、千歳に質問する。
「飯どうしようか。」
「折角だから、ジーファたちと『グラッチェ』に行ってみよう。この報酬でお酒を飲もう。」
報酬を掲げる才華。いいね。まだこの世界のお酒飲んでないもんな。キャノさんにも「飲むべ」と言われてたし。
「賛成ー。そうしましょう。聞いてくるね。」
千歳がジーファさんたちのところへ駆けていく。ほどなくカタムさん、ガタクンさんを除く3人がやってきた。
「カタムさんとガタクんさんは?」
「2人は明日も仕事だから、戻ったの。私たち、明日はオフだからご一緒させていただきます。」
俺に質問にコアが頭を下げて答える。
「いくべ。」
キャノさんを先頭に隣へレッツゴー。
『グラッチェ』は大盛況だ。どこもかしこも登録者らしき人だらけ。ウェイターさんがあっちへこっちへせわしく駆けている。店内は騒々しく、おいしそうな匂いが充満している。うーん。お腹が余計減った気がする。
角の席に座り、各々注文する。コアも酒を注文していた。
「酒って何歳から飲めるの?コアは大丈夫なの?」
「なにそれ。そんな決まりあるの?飲めるときに飲む、以上。それがこの世界のルールよ。」
親指を立てスマイルのコアが俺の質問を一蹴する。へー、そうなんだ。
「一応、街ごと店ごとによる。ってなってるの。年齢を確認されることはほぼないけど。まっ、コアは気にも留めてないわ。」
ジーファさんから補足。そうですかい。コアはそうだろうね。
注文が届き「いただきます。」「乾杯。」と飲み会が開始される。
この世界の食べ物、料理は俺たちの世界に近いもの、見たことないものと半々だ。和食はないけど米があるのは良かった。米は『ワコク』の特産で、ボトムスさんみたいな行商が世界各地に運んでるそうだ。
2時間が過ぎた。現在俺、キャノさん、コアはビール。他3人はワイン。キャノさんは見たままだが、ジーファさんも結構な勢いで飲んでいる。
「ジーファさん。いつもこんな感じで飲んでいるの?」
俺が小声でコアに聞く。
「そだよ。それがどったの。普通だお。」
俺をばしばし叩きながら答えてくれる。コアは出来上がっていた。
「コアはそろそろ、控えろ。」
キャノさんが注意している。キャノさんは全然変わってない。
「そうね。お子様はもうそろそろ潮時ね。」
ジーファさんも変わっていない・・・顔は。そして、うちの2人は
「ビール足りないね。はい。飲んで飲んで。」
才華が8割残っているジョッキについでくる。これで20回目
「はい。あーん。食べて食べて。」
千歳は俺が口を開けるまでずっと待っている。これで20回目。ジーファさんのペースに合わせたせいか、割りと酔っており、普段の3割増しのしつこさ。コアは俺の様子を見て笑っている。笑い上戸か。
両手に花の状況に他の席の男性から恨み、妬みの視線を浴びている。たぶん、キャノさんたちがいるから、手を出せないんだろうな。いなければ俺が絡まれて、そこから酔っている才華、千歳が乱闘を起こしてたな確実に。あーよかった。今日は一緒の席で。酔っている2人を止めれる訳がない。
3時間弱が過ぎ、
「よし、次に行こう。」
キャノさんの一言で2次会へ。キャノさんたち3人は明日オフって言ってたけど、俺たちもそうしよう。キャノさん、ジーファさんの顔は変わっていない。強いんだなこの2人。
「なら、あそこね。行くわよコア。なにしてるの。1人で歩きなさい。」
俺が肩を貸しているコアの耳を引っ張り、ジーファさんが案内を開始する。
着いたのは小さな飲み屋『ククル』 見た感じはスナックっぽく、店内はおしゃれだ。
カウンター席に見た姿があると思ったら、イナルタさんとガーゼットさんの2人だ。カウンターの女性と話をしている。そして俺は絶句する。俺が才華、千歳の2人に女性の方を指さすと。
「そろったー。フィーバー。」
才華は手をあげ跳ねてる。あー酔ってる酔ってる。
「そうだね。やったー。」
千歳も手を挙げている。そして、女性に近づいていった。イナルタさんたちは驚いており、ジーファさんたちはきょとんとしている。
「やったー。やったー。で。どしたの。どしたの。2人とも。店長のターロホがどしたの。」
つられて手をあげてたコアが聞いてくる。
「ん。あのターロホさんっていう人ね。知り合いにそっくりなんだよね。」
赤の肩だしドレスを着た店長のターロホさん。顔は沙緒里さん。髪は緑に近いけど。なんか色っぽいな。酔ってるせいかな。でもいいなぁ。うん。いい。
「いらっしゃいー。でもも少し静かにしてね。お嬢さん方。」
ターロホさんが2人をカウンター席に座らせる。俺やジーファさんたちもその隣へ座る。
「また人の顔をじろじろと見てたわね。誰に似てたの?」
あきれた顔しているガーゼットさん。すいません。
「イナルタの言ってた子たちー?」
ターロホさんが俺たち3人を見て質問する。
「そうよ。でも結構酔っているわね。」
イナルタさんが答える。はい、そのとおりです。
「才華でーす。ターロホさん。」
「千歳でーす。ターロホさん。」
「在人です。」
3人そろって頭をさげ、あいさつ。
「店長のターロホよー。でー、私は誰に似てるのー?」
沙緒里さんよりものんびりした口調と雰囲気だなー。
「俺や千歳の住んでいる家のお隣さんです。その人はイナルタさん、ジーファさんと同じ顔の知人と仲良くて、よく3人で行動してました。ターロホさんたちみたく。」
俺が質問に答える。3人そろっていると本当に沙緒里さんたちだ。
「へー。仲いいねー。ふふっ。」
ガーゼットさんが含みのあるを反応する。
「3人も付き合い長いの?」
才華が手をあげ質問する。イナルタさん目をつぶって答える。
「えーと、初めて会ってから200年くらいかな。」
ん?
「20年ですか。姉さんたちと同じくらいね。」
酔っているせいか千歳は気づいてない。いや俺が聞き間違えたんだ。きっとそうだ。
「違うわ。200年くらいよ。」
ターロホさんが訂正する。あっ聞き間違いじゃない。
「へー。」
才華は気に止めてない。俺が気にしすぎ?
「200年って、見た目20代ですけど。」
俺は目を丸くする。3人とも良子さんたちと年齢一緒だと思ってた。
「私はエルフだからね。」
ガーゼットさん。まー耳でそう思ってましたが。
「私は人だけど、魔女。説明は面倒だからなし。」
イナルタさん。魔女って何?
「私はドラゴンね。」
最後にターロホさん。ドラゴンってあのドラゴン?
「「すごーい。」」
才華、千歳は酔っているせいで大はしゃぎ。俺もこれには驚く。3人が3人普通ではないと。特にターロホさんを見てしまう。ドラゴンかー。この世界にはドラゴンがいて共存してるんだ。へー。姿を変えている人も他にいるのか。
「あーじゃ。3人でクエストしてたとかですか?」
「ううん。殺しあってた。」
へっ?俺の質問にターロホさんがケロっと答える。
「私が故郷に嫌気がさして出てって、登録者としてターロホの討伐が最初かな。そのあと、はぐれ魔女討伐でイナルタね。」
「私はーガーゼットとやりあった後、そこを離れてる最中にイナルタに襲われたのー。」
「そうね。ターロホとの件ではぐれ魔女認定されて。それでガーゼットに襲われた。」
3人ともやや懐かしそうに話している。顔はにこやかだけど、内容はわりと物騒だ。
「しかも、ガーゼットなんて開口一番に「死ね」だし、真っ先に目を潰しにくるしね。」
イナルタさんはガーゼトさんを指さす。
「私もそうだった。あのころなんてもっと目つきの悪い、悪人面だったのよ。ギルドでの姿なんて仮面かぶってるだけよー。君も気を付けてねー。」
ターロホさんが同意し頷く。へー、そうなんだ。
「なによ。イナルタ。あなただって、問答無用で襲ってきたことあるじゃない。クエストに向かってる最中なのに。」
ガーセットさんがイナルタさんをキッと睨む。
「私も最初のとき『腕試しで死んで』といって奇襲された。すごい悪い笑みでねー。」
またも頷いて同意するターロホさん。イナルタさんもこえーな。
「ターロホだって。私とガーゼットがやり合っている最中に上空からブレス撃ってきたことあるじゃない。」
イナルタさんがターロホさんを睨む。
「そうよ。あれは本当に危なかったわ。あとその姿になって、通り魔的に襲ってきたこともあるわ。」
ガーゼットさんがターロホさんを指さす。結構やり方がひどいな。
「まー。それが一番手っ取り早いかなーって思ったからね。」
ターロホさんは悪びれもしない。すごいな。これ、誰が1番強いのなんて質問したら面倒ごとになりそう。そう思った矢先。
「誰が1番強いの?」
酔っている才華が質問してしまう。ばかー。空気読めよ。この酔っ払いさんがー。
「「「私。」」」
3人が睨み合っている。プライドたけー。この雰囲気はやばいよ。
「えーっと。3人でクエストをしたりはないんですか。」
俺が割り込んだ結果、なんとかその話題に変わった。
1時間が過ぎた。ドンと俺の頭に衝撃が入る。いってーーーーーーーーーー。何?何が起きた?酔ってるせいか響く。振り返るとジーファさんが杖を持って仁王立ちし、俺を睨んでいた。目が座っている。なにかしましたっけ俺。怖い。
「そーーーーんなことより、あんた、才華と千歳どっちと付き合ってるの。」
えっ。今ここでそれ。ちらりとキャノさん、コアの方を確認する。あっ2人とも寝てる。そこへ俺の頬に杖をグイグリ押し当てるジーファさん。痛い痛い。
「なに目を逸らしてるの。逸らすとしても才華、千歳のほうでしょ。」
「すいません。」
俺は反射で謝る。言われた通り才華、千歳たちの方に目線を送る。2人は背筋を伸ばし、俺の回答待ちで助ける気がない。イナルタさんは、ガーゼットさん、ターロホさんに俺たちの関係を説明している。
「どっちなの。彼女の才華?それとも、恋人の千歳?」
「えーと、その、そんなかんけ」
「はあー?じゃ遊びってこと、殺すわよ。」
食い気味で返される。しかも殺される。だれか助けて。才華、千歳は少し落ち込んでいる。だめだ。俺は追い込まれている。
「じゃあ一つずつ聞いていきましょう。二人のことは嫌いなの?」
イナルタさんが割り込むけど、助け舟ではなさそうだ。
「嫌いじゃあないです。」
2人の表情が明るくなっていた。
「好きなのね。」
ニヤニヤしているガーゼットさん。追い打ちが入ってる。
「好き嫌いの2択なら、好きです。」
2人の顔が満面の笑みに代わる。
「どっちと付き合うのー。」
ターロホさんもニヤニヤしている。3連コンボだった。ジェットストリームアタックだった。周りは敵だらけ。強者ばかり。逃げようとしてもすぐ囲まれる。退路はない。
「あの、その。どっちも本当に好きで、その、ほんと決めれなくて。あと付き合わない方が違う誰かと付き合ってるのもんか嫌で。付き合うなら両方と最低な考えしか思いつかなくて。結婚するなら2人とかも、えーと。付き合ってみないと決めれないんじゃないかって思ったりもします。」
とりあえず、勢いで言ってみる。
「なーんか、その場しのぎで言ってるように聞こえるんだけど。」
ジーファさん酔ってるのに鋭い。ひっ。どっしよ、どっしよ。誰か助けてー。
「ジーファ、もういいよ。付き合うって言質とれたし。」
才華の顔が真っ赤。酔ってるからだよね。
「そうそう。今まで付き合うとかも言ってくれなかったし。」
千歳も顔が真っ赤。飲みすぎだね。
「そーおう。2人がいうなら仕方ないわね。続きは今度ね。」
ジーファさんは席に座る。また今度ね。いやだ。
「まぁ6人が聞いていたから、言質は取れたわね。明日は付き合って初めてのデートかしら。」
ターロホさんたちは笑っている。俺は自分を追い込んだだけだった。
こうして、2時くらいまでこの店にいた。起きたキャノさんがコア、やっと潰れたジーファさんを引きずり、帰っていった。俺は追い込まれた時点で酒を一旦やめて、才華、千歳にしこたま飲ませた。飲んで記憶をなくせばいいと思ったからだ。その結果2人も潰れたので、肩を貸して帰る。帰り際にイナルタさん、ガーゼットさん、ターロホさん(この3人も結構飲んでいたけどケロっとしている。)の3人にお願いする。
「えーと、潰れた3人の記憶がなければ今日の件はそのあの。」
「はいはい黙っておきますよー。思い出さない限りわー。それじゃ気を付けてー。」
ターロホさんが答える。とりあえず一安心。
家に着き、2人をそれぞれの部屋に運ぼうとするも俺の体から離れなっかたので、俺の部屋のベッドに2人を投げ捨てる。俺も大分酔いが回っている。もうこのまま寝よ。2人の顔は幸せそうだった。2人の表情を見てるうちに俺も寝ていた。
2日後、ギルドでジーファさんが謝罪にきた。
「本当にごめんなさい。覚えてないんだけど、杖で殴ったとか、脅したとか。ガーゼットさんに教えてもらったわ。」
「いや。いいですよ。そんなときもありますから。」
俺は手を振る。あんま良くはないけど。
「在人がそう言ってるから、気にしない、気にしない。」
俺の右腕に組んでくる才華。
「うんうん。また飲みましょう。」
俺の左腕に組んでくる千歳。あの時しこたま飲ませたおかげで2人に記憶はなかった。よかった。よかった。それでも俺の顔を伺ってくるジーファさん。うーん、なら。
「今度なにかあったら助けてくださいね。それで。」
「うん。約束する。本当にごめんね。じゃあね。サイカ、チトセ。」
ギルドを出ていくジーファさん。飲むのはいいけど、飲み過ぎないでほしい。