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蜘蛛女とはなんぞや。

 ミタキの街というか、異世界生活が1週間が過ぎた。ここ数日は午前から2時くらいまで、クエストをこなし、その後、自宅に必要な物の買い出しというパターンの生活となっていた。才華、千歳の2人は「新婚の気分」とか言っており、ニコニコ顔だった。


 今日は第1期食鳥植物型魔物討伐のクエストを他の登録者とともにこなしてきた。そして、このクエストで俺も1人で魔物を1匹倒せた。やったぜー。まぁ才華、千歳みたいに華々しくもなく、泥仕合の末、薄氷の勝利だけど。本当はこのことをもっと語りたいが、今日はそれどころではなくなった。


 

 クエストを終えギルドに戻ると、カタムさん、コア、ジーファさん、ガタクンさん、キャノさんがいた。ガーゼットさんと何やら真剣に話をしている。コアがこちらに気づき、手を振る


「おーい、ザイト、サイカ、チトセ。ちょっとこっち来てー。」


 それに応じ近寄ると、ガーゼットさんがこちらを一瞥し、


「ちょうどいいわね。小部屋で話しましょう。全員着いてきて。私も同席します。」


 俺たちの返事を待たず歩き出す。俺たちは訳が分からないまま付いていく。いや、アラクネルの件だってことは分かるけど。

 受付奥の部屋に案内される。室内にはガタクンさん、キャノさんを除く7人。キャノさん、ガタクンさんは「団長に任す。」そう言って、ギルドのロビーに残った。各々室内の椅子に座ったところで、カタムさんが切り出す。


「前置きなしで始めるけど。アラクネルの件。この数日間、森を以前以上に捜索してるけど見つからない。ただ、2週間前にはなかった痕跡があるから、アラクネルが森にいる可能性は高い。それで、他になにか知っていることがあったら教えてほしい。」


 俺に聞いてくるけど、俺より才華の方が詳しいだろう。たぶん。俺は才華を見て、促す。才華はスマホを出し、アラクネルの画像を出す。カタムさん、ジーファさん、ガーゼットさんが注視する。特にガーゼットさんは初めて見るものだから興味津々だった。


「私に分かるのは、時間帯は早朝。東にまっすぐ進んでいった。動きは負傷しているのか拙い動きだった。この写し・・・絵を取られたことには気づいていなかった。だけよ。自宅のノートパソコンなら動画・・・動いてる様子もわかるんだけど。」


「そうかい。ありがとう。早朝だから、人の動きには警戒しているな。」


 カタムさんは腕を組み考えている。


「街や傭兵団は今後どう対応する予定なんです?」


 千歳が右手をあげ質問する。


「街としては当分の間、森に許可なしでは立ち入り禁止。入る際にも傭兵団か、街の守備隊の付き添いつきね。森周囲にはこの後、街の魔法の使い手に頼んで、魔物探知の結界を張ることになっているわ。あとは傭兵団がしらみつぶしで捜索、見つけて討伐か。もう移動していないと判断するか。ね。」


 ガーゼットさんが答える。今度は俺が質問する。


「もう死んで、犬に食われた。魔法で姿を消している。地面に潜った。とかはないんですか?」


「食われたなら血痕とか残骸があるはず。蜘蛛女は魔法を使用しない、地面に潜らない。」


 これにはジーファさんが答える。ふーん。というか俺たち蜘蛛女についてなんも知らないな。


「あのー、蜘蛛女ってどんな魔物なんですか?」


 俺の質問にジーファさんの回答はこうだった。



 蜘蛛女

 手、尻から糸を出し、口からは消化液を飛ばす。

 足先は鋭利なので、刺さりどころが悪いと即死。

 動き自体は早くない。

 基本森、洞穴の中に滞在し、糸でテリトリーを作り、そこに入った獲物を捕食する。

 獲物は小鳥からニワトリサイズのものまで動物なんでも。無論人間も対象。

 蟻や蜂みたく、兵隊役の子蜘蛛を使役する。

 子蜘蛛は地中や巣の卵から生まれるが、次世代女王蜘蛛は体内で長期育てた卵から生まれる。

 自分から餌を探す、襲うよりは罠を張ってじっくり待つタイプ。

 テリトリーに入らなければ割りと無害。

 言葉は理解し、会話は可能。


「一番厄介なのは、子蜘蛛を使って生物、死体を操ること。」


 カタムさんが付け加える。操る。なんか恐ろしいワードが出てきた。


「どゆことです?」


「言ったままだよ。人ならこぶし大の子蜘蛛が首後ろあたりに憑りついて、意のままに操る。実際、ロシック王国の兵士の半数はそれによる同士討ちなんだよ。憑りつかれたらその人の魔法以外の技術そのまま使えるのが余計厄介。殺されたり、殺してしまったら、死体が操られると、負の連鎖さ。」


 カタムさんの顔にも面倒だ、と出てる。


「憑りついた子蜘蛛を倒せば助けれるけど、手練れの人だったらそう簡単にはいかなくなるのよね。」


 ジーファさんが付け加える。


「ん?憑りついた時点で操られた人を殺して、死体にして操れいいんじゃないの?子蜘蛛がやられてもこっちの戦力は減るんだから。こんな風に」


 才華が首を傾げつつ、俺にチョークスリーパーをかける。なにがこんな風に?俺は操られてないぞ。てかやめい、まじ苦しい。あとお前胸が当たってる。あっ、そっちが狙いか!


「死体だと動かせるだけで、その人の技術は使えないんだよ。身体能力はそのままだけどね。あと生きてれば人質にもなるし。蜘蛛女自体がすごい強いわけではないから、結構考えてるんだよ。」


 コアがこっちをにやにや見ながら答える。なーる。それより助けてくれよ。


「蜘蛛女は魔法を使えないんですよね。だったらどういう原理で操っているんですか?才華、そろそろ危ないよ。大丈夫?在人。」


 千歳が才華を俺から離し、俺を自らの胸に押し付けながら質問する。それも気になるけど、どっちにしろ息が出来ない。


「わからない。そっちの世界の知識で分かんないかな?」


 カタムさんがお手あげで答える。俺は千歳を押しのけ、やっと息ができる。



 カタムさんの質問に才華が自分の頭を指さしながら答える


「推測になるけど、人の動きや思考って脳からの電気信号が関係してるんだよね。あー電気信号は脳からのメッセージね。それを受けて体が動いてるの。だから子蜘蛛も首後ろから脳や体に電気信号を送っているのかも。死体だとその活動もしていないから、それを子蜘蛛が補ってるのかも。だから動かすだけで精一杯なんじゃないのかな?」


 千歳を除き皆、感心して才華を見ている。才華は気にせず続ける。


「対策としては、体の電気信号の送信先をおかしくする魔法を作るとか。」


「どうゆうこと。サイカ?」


 ジーファさんが質問する。俺にもようわからん。才華は俺の前に立ち


「本来は脳が右手を挙げろと命令したら、そのメッセージは右手に行って、その命令を受け、右手をあげるんだよね。」


 才華は俺の頭を叩いた後、右人差し指で俺の頭、首、右手となぞり。俺の右手を持ち上げる。


「でもそれをおかしくして、右手を挙げろと命令しても右手じゃなく左足に行って左足をあげちゃう。みたいにしたちゃうの。」


 今度は俺の頭を叩いた後、右人差し指で俺の頭、首、胴体、左足となぞり、俺の左足を持ちあげる。


「こんな風に、手を使おうとしたら足、目を動かそうとしたら口、みたいにするの。これなら操られてない人でもすぐには体を動かせないでしょ。それを蜘蛛がすぐ動かせるとは思えないよ。」


 俺は今までの説明でピンとくる。


「才華、それってあの忍者漫画にあったよね。」


「うん。そうだってばよ。でも実際有効そうでしょ。うまく操れないなら自害もできないし。少なくとも同士討ちだけは避けれるよね。ジーファ、こんな魔法ある?作れる?」


 ものまねをさらりと入れる才華。俺たちにしか分からないけど。


「そんな効果の魔法はないけど、治癒とか力の増加みたいに、体に作用させる魔法に近いから作れるかも。」


 ジーファさんが口に手を当てながら答える。


「もともと結界の件でイナルタ、ターロホに協力してもらう予定だったから、その魔法開発にも協力させるわ。あなたたちも協力お願いね。」


 ガーゼットさんが付け足す。イナルタさんの名前が出たけど、知り合いっぽい雰囲気だな。


 

 才華、千歳はうなずいた後、千歳がカタムさんに質問する。


「カタムさん。蜘蛛女って罠を張って待つタイプなんですよね。集落を襲うってあるんですか?」


 才華は襲うの言葉に合わせ、手をあげ俺を襲おうとするも千歳に首をつかまれ失敗。


「ほぼない。テリトリーを作るまでは慎重だし、テリトリーができれば外にでることはしない。このアラクネルはそういった意味では大胆な方。人に性格があるように魔物も種族差、個人差はあるからさ。それこそ、南西の方にいる種族は人の集落で一緒に生活してるしね。」


 へー、魔物との共存か。まぁエルフ、ドワーフと共存できるんだ可能性は0じゃないよな。才華、千歳も興味深々な顔をしていた。この件が無事解決できたら行ってみたいとか言うかも。今度は俺が質問する。


「個人差でいうなら、アラクネルの特徴は?」


「相当タフ。兵士が負傷させたのは聞いてると思うけど、傷を気にせず戦い続けてたって話だから。」


 うーん、話を聞く限り、俺の手に負えんな。俺たちがアラクネルに遭遇したら、俺がいの一番に操らるけど使えないから、殺されるか、人質になるか。ってところか。2人が憑りつかれるヘマをしないと思うけど、操られたらそれはそれで終わりだな。そう考え2人に視線を向けてると、才華は視線に気づき


「在人、心配してんの?大丈夫、万が一在人が操られたら、」


「操られたら?」


 コアが聞き返す。


「私たちが死体も残さず殺してあげるから。」


 バンと銃を撃つ真似をし、堂々と殺人予告を言い放つ才華。千歳も頷いている。あれ?まず助けるって判断は何処へ?コアだけ少しニヤついている。


「殺すのが第一前提かよ。」


 俺が聞き返す。千歳が俺をまっすぐ見つめて


「だって、操られて私たちが手を出せずに殺されたり、操られたりするのを在人が一番嫌がると思うし、それなら殺してくれって言うでしょ。私たちはわかっているわ。ね、才華。」


「かっこいい。」


とコア。冷やかし入っているよね。カタムさんたちが感心して俺のほうを見てる。まぁそう言われたらそうしたいけど。


「助ける努力を1秒くらいあってもいいんじゃない。」


「それはもちろんあるけど。在人が他人の物になっている状況を1秒たりとも我慢できる自信がない。それなっらいっそこの手ですぐにでもってなる。」


 才華の目が危ない。


「そうね。まぁそんなことになったら、ちゃんとアラクネルは八つ裂きにするし、子蜘蛛も殲滅して、ロシック王国周辺の蜘蛛女も駆逐するから。」


 千歳は顔が笑っている。皆静まりかえっている。


「アラクネルに会った時点で俺の死ぬ確率は相当高いと。あーやだやだ。」


 天上に顔を向け、愚痴る。


「私たちが殺すのはともかく。在人がアラクネルに殺されたら」


「殺されたら?」


 今度はジーファさん。才華はウィンクをし


「死亡確認、って言ってあげる。」


「それどっちの意味。希望をもっていいのか。」


 俺が悩みながら聞き返す。こっちの世界の人には意味不明な会話にしか思えないのだろう。


 俺らのやりとりを見ていたガーゼットさんが締めに入る。


「話はここまでね。この後、結界作成に入ります。サイカさん、チトセさんあなたたちも手伝って。あっ報酬はでるから安心して。」


 俺は2人を見て頷く。


「任せてよ。」


「わかりました。」


 才華、千歳も頷いた。さてもう一仕事だ。俺になにができるかわからんけど、2人だけに任せるのもね。

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