オーク来る!
「さて、うちのお姫様を迎えにいくまで時間があるから、夕飯の買い物してこうか。在人は荷物持ちするか、私をお姫様抱っこするか考えておくうように」」
姫様だっこはお姫様ことシクじゃないの?街中にお姫様抱っこなんてただの罰ゲームにしか思えんのだけど。・・・・だっこするほうが軽いくらい買い物するとか?
「はいはい。ぜんs」
「きゃあああああああああ」
「びっくりしたあ。なんだ?」
クエストを終え、ギルドを出た俺達。歩き出そうとしたところに女性の叫び声。周囲を見渡すと女性が南門方向へ走っていく。
「オークがきたわあああああ」
オーク。豚顔の魔物。ゴブリンよりは大きい。邪悪の手先。なイメージ。
「どこ?どこに?」
「きゃああああああ!」
「南門近くの広場よ。」
南門のほうへ我先と走っていく女性たち。南門にオークがいるんじゃないのか?見た感じ討伐しに行くような女性ではない人のほうが多い。なんだ?
「「くっころせ!」」
「・・・・・・・・・。」
叫び声が収まったところで、マアカと才華がテンプレではもった。愛音はにこにこしているが無言でいる。ぜひ突っ込んでほしかったところだが。俺が突っ込めと?
「で、どうする?才華、マアカ、愛音。」
俺も突っ込みはスルーして話を進める。2人が頬を膨らませている、可愛らしいといえば可愛らしいいが、これもスルー。
俺の知識のオークなら南門から離れるべきか?それともこの考えは偏見か。所詮俺の知っているオークは人の作った創造のもの。現実は違う。
「うーん。行ってみようか。面白そうだし。在人は危険かもって思ったかもしれないけど、もしそうならギルドからなんらしかの動きがもうあるでしょ。」
元の表情となり答える才華。なるほど。言われるとそうだ。
「賛成。ザアイはブタ顔をイメージしてるけど、現実はどうかしら。ブタ顔って違うらしいからね」
そうなの?へえ。知らなかった。
「じゃあ、行きましょうか。」
愛音も興味あるようだ。早速歩き出した。
南門付近の広場に到着。そこは女性であふれていた。だが女性だけということではない。女性の目線の先にはいる、女性ではない存在が。この場所をにぎやかにしている存在たちが。
「あれね。ほーう。」
「なるほどねえ。」
「ワオ!」
3人はすべてを納得し理解した声をだす。
俺の目に映るのは、緑や黄、茶色の皮膚をした存在。あれがオークなんだろう。体格はいい。筋肉ムキムキではないが高身長で筋肉もあるように見える。
なにより顔があれだ。イケメン、二枚目、ハンサム、美男。見える範囲のオークは全員美形。個人差といより個人の好みの差はでるだろうが、美形しかいない。
戦士じゃない、魔物じゃない、アイドルとか俳優。芸能人の類に分類される。
そら、女性は歓喜しますがな。
・・・・・・・・・・・・オーク?そのオーク?はチラシを女性に配布している。
「明後日、開演でーす。」
「チケットは明日販売です。」
「来てねー」
「物販は明後日からでーす。よろしくおねがいしまーす。」
開演?ショーでもやるのか?・・・・・・公開あーだこーだ。
「在人の思う公開あーだこーだはないと思うよ。」
「ザアイ。残念ながら、才華のいう通りだと思うよ。」
「そうね。」
3人して俺の心を読むなよ。
「ですよね。じゃあ、なんだと思う?」
「今いるのは、オーク歌劇団だから、ミュージカルだよ。」
声に反応して振り返るとそこには
「やっほい。ザイト。サイカ。イトネ。それに金髪の姉さん。クロスティも。エルージュは・・・飛んでると」
「クエスト帰り?」
コアとジーファさんが並んでいた。・・・・この2人もオークを見に来たのか?しゃがんでクロスティを抱き込むコアは違うか?
「コアちゃん。ジーファ」
「おっすー」
「ども」
「初めまして。」
愛音、才華、俺は気軽に、初対面のマアカは丁寧に頭を下げる。
「マアカ。この2人はちょっとだけ話したカタム傭兵団のジーファさんとコア。」
俺は2人を紹介する。
「ジーファです。初めまして。」
こちらも丁寧にお辞儀するジーファさん
「私はコア!よろしく。」
「マアカ・イゾ・マーラウトです。」
片手をあげるだけで終わる気楽なコアと丁寧にお辞儀するマアカ。
「で、姉さんはザイトとどういう関係?私はサイカやイトネと同類とみた。どうよ、クロスティ?」
マッハなコアの遠慮しない質問と的確な予想。今はクロスティのあごしたをいじっている。
「ザアイ・・・在人のガールフレンドで、フィアンセで将来のワイフ。よろしくね。コア、ジーファ。」
俺の右腕を組んで答えるマアカ。
「かああああ。ザイト、もってるうう。ザアイ?両手に花だけじゃなかったと。ひゅー。ううううううう、イタタタ。」
冷やかしてくるコアだったが、ジーファさんにその口を引っ張られる。相変わらずだな。
「はい、そこまで。つまり、同郷でいいのかしら?」
周囲を見て小さい声で確認してくるジーファさん。異世界の来訪者であるのかの確認か
「ま、ここか別かの2択でいったら、同郷だね。」
「そう。わかったわ。」
才華が頷く。同じ世界から来たとなるとそうなるか。細かく言ったら別になるんだろうけど、俺も知らないんだよな。
2人での夜に聞いてみたけど、「乙女の秘密」とか、「私に夢中になるための隠し味」と言って教えてくれなかった。たしかに気になるからマアカのことを考えざるえない状況にはなる。それでいいのか?
「ジーファたちもオークを見に来たの?」
「うーん。付き添いかな。ほら。あそこ」
愛音の質問にある方向を指さして答えるジーファさん。その指の示す先には傭兵団の女性だな。見たことはある。
「あの人って確か」
「うちの副団長。」
ジーファさんが答える。そう副団長だ。長身、メガネ、捻じれた角に紫の髪、見間違えようがない。確かジブルさんだったかな。でも、名前より『狂った天秤』の異名のほうが記憶にある。
ジブルさんは今、オークからチラシをもらって、幸せそうな顔をしている。
「コアちゃん、今いるのはってことは、他にもオークの団体があるってこと?」
「そ、ミュージカルの歌劇団、サーカスの雑技団、演劇の劇団、ライブの楽団の4つが世界を回って公演してるんだよ。」
指折り数えるコア
「へえ。オークってあんな感じの男性しかいないの?」
「そうね。サイカ。容姿だけでいったら平均数値1位ってなってるわ。戦闘力でいったら、平均より下だけど。」
それって人や獣人、エルフ、ドラゴン人間体とかの男性の中で1位ってことか。イケメンランク1位ですか。空想と現実は違うなあ。
「ほうほう。これは良子の相手を見つけるにはチャンスかも。ちょっとチラシとるついでに間近で見てくる。在人とクロスティはここで待ってて。あとなぎなたよろしく。いくぞ、マアカ、愛音。全ては良子のために!」
「「ために!」」
悪い顔の才華、不敵な笑みのマアカ、ニッコリ笑顔の愛音。3人はピッと片手をあげた後、俺に武器をあずけ、女性の間をかき分けていった。行動が素早い。
「ちなみに見える範囲でオークの女性はいないんだけど、それは歌劇団には属していないだけ?」
スタッフポジションの他種族の女性は数名いるけど、どうなんだ?
「オークの女性はいないのよ。」
「ん?どゆことジーファさん?」
「オークの種族は男性しか生まれない。だから他種族の女性と結婚して子孫を残す。生まれるのはオークの男性か、その種族の女性のどっちか。容姿に関しては男女ともにあの影響を受ける。」
「はあ。」
オークの子は男女ともに美形ですか。
「真面目に解説すると、オークの総数は多くない。子供が絶対に男の子とは限らないから、割と深刻に生涯の相手を探している。その一環の一つがこれ。」
「これは種族総出で相手を探すお仕事ってこと?」
「まあ、そうね。」
「・・・・・ゲスな言い方だけど、襲って攫って生ますというのは?」
はい、俺の知っているオークのイメージから出ました。
「昔、それを実践したオークは、それに反したオークたちや登録者たちによって一掃された。」
いるにはいたんだ。
「現在、個人の考えはともかく、オーク全体の考えではその手の考えにはなっていない。というより、その考えには至らない。健やかに恋愛して、平凡で平穏な幸せを送ろうって考えだからね。」
「ですか。」
紳士的というべきか、素朴というべきか。
「肝心の劇はどうなんです?オークしか出ない?」
うーん、それだとみる気が減る、というか、起きない。
「今、チラシ配りしてるのはアルバイトだけど、女性の団員も少数だけどいるわ。入団試験は厳しいららしいけど。世界でも有数の劇団だから、中身はいうに及ばず。」
レベルは高いんだ。すると値段も高いのか?
「ジブルは好きなんだよねー。」
のほほんとしながらジブルのほうを見るコア。
「好き?オークが?それともミュージカルが?」
「公演とかが」
と答えたのはジーファさん。へえ
「オークが」
と答えたのは立ち上がったコア。どっち?
「ジブルは真面目でお堅いイメージに見えるけど、実際はどきついうえに、すんごいコアでミーハなんだよ。そういう部分もあるから『狂った天秤』って言われるんだよねえ。ぎゃああ」
後頭部からのアイアンクローで絶叫を上げるコア。よくみると少しだけ足が浮いている。
「誰が『狂った天秤』なのかしら。」
「がにゃああああああああ。割れる、頭割れる。」
「ジブル、人が見てる。」
「そうね。今はここまでにしとくわ。」
ジーファに言われて、ジブルさんはコアを手放す。と同時に足を払った。
「がぶ。いっったあああああい。」
尻もちをつくコア。ここまでって足払いも含むのか。こえええよ。クロスティが心配そうに見つめる。
「っと見苦しいとこせ見たわね。話すのは久しぶりね、サイカ、イトネ。つまり、あなたがザイトかしら?そして、そちらの方も初めまして。」
ふと後ろを見ると才華たちは戻ってきてた。各自宣伝チラシを手にもっている。
「どっも、ジブルさん。」
「お久しぶりです、ジブルさん。」
アラクネルの件で2人はジブルさんと接点がある。
「初めまして。マアカといいます。ほら、ザアイもはじめてなんでしょ。」
会釈したマアカは俺にひじ打ち。確かに話すのは初めて。
「あ、ザイトです。お世話になってます」
「よろしく。マアカ、ザイト。」
「ねえ、ジーファ。ジブルの異名はなんていうのの?」
「普段は『紫淵の天秤』」
マアカの質問に答えたジーファをキッと見るジブルさん。普段はってことは普段じゃないときは?
「で、3人とも間近で見た感想は?」
話題を変えるため3人の調査報告を聞く。
「性格はそれぞれだけど、悪人ではない、ダメ男ではない感じだね。」
ですか、才華。
「男尊女卑という考えもないわね。むしろザアイと一緒で女尊ね。」
ですか、マアカ。そんな風に俺が見えるかは別としておこう。
「子供たちにも優しかったわ。」
ですか、愛音。つまり性格面も良好ということか。
「ですか。で、良子さんへの候補は?」
「あん中にはいないかな。」
ですか、才華。
「もう少し、逞しさが必要ね。良子さんが静かにもたれかかれるような安心感ある逞しさがね。」
ですか、マアカ。というか、マアカも良子さんのこと詳しいね。
「少なくとも良子さんの蹴りを受け止めれる技量と、身心ともに受け取める器量を両立していないとね。」
ですか、愛音。つまり、良子さんを相手するにはこのオークたちには荷が重いか。
「ジブルのほう成果は?」
「・・・・駄目だった。」
コアの質問にジブルさんは明らかに落ち込む。?なんだ?
「席の優先販売権があるの。で配られたチラシの裏にその結果が書かれているってわけ。まあ10あるかないかくらいだから、ほとんどの人が外れね。」
俺の疑問に答えてくれたジーファさん。
「もう一回チラシをもらいに行けば、チャンスはあるんじゃ?」
「初公演のは見たいけど、客のマナーとしてできない。あと、」オークは鼻が少しだけいいの。そして、このチラシにはほんのわずかだけ、香りがついているの。」
ズルは見抜かれるということですか。
「あ!これ、あたりだ。」
チラシの裏を見た才華。流石に持ってる。
「私もそうね。」
愛音もチラシ裏を見せてくる。あらら、すごい
「ザアイ、私も。」
マアカがチラシを渡してくる。あっらあー。でありますか。
この流れにジーファさん、コア、ジブルさんも目を丸くする。10分の3がここにあるんだもんな。
そりゃそうなるか。
才華の持っていたチラシ裏には
優先販売権、おめでとー
最大5名様までの席が取れるよー
きてねー
と書かれあとは、役者のサインが書かれている。愛音、マアカのも同じようにサイン入り、どうやら裏面は役者の手書きのようだ。
「すごいわね。」
ジーファさんもこれには心底驚いているようだ。
「どうなってんの?ザアイ?日頃の行い?」
コアも俺を揺らしてくる。驚きすぎてなのか、ワザとなのか『ザアイ』と呼んできた。日頃の行いとは思えないので、運がいいとしか言えないんだけど。
「うらやましい・・・・あ!いえ、確かにすごいわね。」
本音が漏れたことに気づき、慌てて訂正するジブルさん。
「じゃあ、1枚あげるから、一緒に見に行こう。」
才華がジブルさんにチラシを差し出す。
「いや、悪いわよ。サイカ。」
「ん。気にしない。気にしない。私たちは1枚あれば、シク含めて5人でいけるんだから、遠慮しないでよ。」
受け取れないと首を振るジブルさんにそのまま手渡す才華。
「ジブルさん。初心者の私たちにいろいろ教えてください。」
その光景を微笑んで見守る愛音。
「もう1枚でルンカたちも呼んであげましょう。ね、ザアイ。」
「それでいいんじゃない。この後迎え行くとき聞いてみよ。ということで遠慮なくもらってください、ジブルさん。」
「そ、そう。ありがとうね。」
チラシを受け取ったジブルさんは裏面を見て震えている。結局どっちが好きなんだ。
「じゃあ、俺たち4人にシクたち4人で8人?」
「そうね。っともう1人追加ね。在人。アマちゃーん。」
手を振る愛音の目線の先には、アマだ。オークを遠くから見ていたアマは声に驚き、周囲を見渡しこっちに気づいた。
「アマちゃんも歌劇団を見に来たの?」
「あ、えーと、ルーパが一度見たいって言っていたんで・・・・」
「そうなの。じゃあ、一緒に見に行きましょう。ちょうど優先購入権もあるし。」
「いえ、見たかったのはルーパなんで。私が見るのは・・・・」
「アマちゃん・・・・・」
目を伏せるアマ。なんて声をかければいいか、思いつかない。
「いなくなった仲間の望みを変わりに叶えてあげるのも、仲間の役目よ。」
真面目な顔で口を開いたのはジブルさん。
「そうね。」
「そうそう。全てができるわけじゃないけど、できることはするもんだね。」
その意見にコアやジーファさんもうなずいていた。傭兵団という組織だから、仲間の死別は俺らなんかより身近なんだろう。
「だって。もうなにも言わせないわよ。」
マアカがアマを引き寄せる。
「お金の対価は、今度、シクたちの面倒を見てもらうで。」
金銭面について先に答えた才華。
「そうね。シクやルンカちゃんたちも、また一緒に遊びたいって言ってたしね。」
愛音は微笑んでる。ここでシクたちの名前をだすのはずるい気もするが、分かってやっているんだろう。
「あ、ありがとうございます。」
涙をぬぐって答えるアマ。
「ということで、さっそく作戦会議。」
才華、ジブル、アマは3人で予定調整。 数分後、
「よし、じゃあ、アマは明後日ね。」
明後日、初回開始30分前にここ集合となった。