釣り合い
ハラハラしながら進んだ前回とは違い、バラバラにしながら進んでいく今回。逃げながら進んだ前回とは違い、逃がさず進む今回。魔物をやり過ごすためコソコソ話ながら進んだ前回と違ってベラベラしゃべりながら進む今回。
戦いながら進んでいるのに前回より進むペースが速い。いやー、本当に頼りになる。俺は前回の記憶を頼りに通路を案内しているだけ。
そして、現在は俺がズタボロになった場所までたどり着く。
「ここでザアイはクルンさんを守るために、あの大型ゴーレムにボロボロにされたのね。」
「ん。まあ。」
あのときは状況が状況だから仕方ないけどひどい目にあった。
「そして、愛音に舌で傷口を嘗め回してもらった。」
「ん。まあ。」
舌先で発動した口内の傷を治してもらっただけ。だけっていうのも変か。
「で。その夜は才華のしたを嘗め回したと。」
「んん?なにかニュアンスが違う。」
まあ、才華が欲しがっていたから、キスしただけ。だけっていうのも変か。
「・・・・・・この世界に来るまですることなかったの?」
「はい。恥ずかしながら。」
そこまで恥ずかしいとは思っていないが、2人はどうだったんだろう。遅すぎるか?
「なんで?」
「まあ、正式に付き合っていたわけじゃないからね。」
俺達3人は幼馴染よりは深い関係だったとは思うが、2人のラブコールにはっきりと答えていなかった。キスするのも抵抗があった。
現在は関係者公認の2股状態。その状態に2人曰く同類のマアカが現れた。
「ふうん。」
「あと・・・・一度進んだら、止まれない気がしたから。」
この異世界という環境のせいか、いろいろと型が外れた俺達。キス、交際、セ・・・・・。実際一気に進んでいる。元の世界でもこうなっていた可能性はある。
「ああ。」
俺達のおおよその流れを知っているから、マアカも納得している。
「どっちかと付き合ったりするって考えていなかったの?」
「ん。したいという思いはあるけど、どっちと?ってなってた。」
どっちも魅力にあふれて、危険にあふれて、俺への好意にあふれている。選べんかった。 俺が蝙蝠みたく2人の間をフラフラしているだけだった。真剣に考えたことはあるにはあるが、まとまらず、そのうち人多在人は考えるのやめた。という結果に落ち着いていた。
「そこに私がいたら?」
「うーん。誰と?って悩んでいたと思う。蝙蝠のようにその日その日でフラついている自信がある。」
「ふうん。」
やや不満そうな顔をするマアカ。「マアカを選んだ」と即答してほしかったのだろう。うん、それは無理、選べない。再会して数日だが、マアカも魅力にあふれ、危険にあふれ、俺への好意にあふれている。マアカが増えても俺が3人の間をフラフラしているだけになるのはすぐ想像できる。
「今ごろじゃあ遅かったのかしら。」
「ん?今なんて?」
小声だったので聞こえなかった。表情も少し悔しそうにしている。
「ザアイは結婚や子供は考えてないの?私と。」
元の明るい表情に戻った。私とって。
「結婚はしたいかな・・・・」
自分が相手と思ってより笑顔となるマアカ。こういう部分が才華、愛音と同類部分だな。結論早い結論早い。
「って思っているけど、当分はない。」
「それはなんで?」
がっくりとするマアカ。やはり同類、表情の変化が忙しい。
「少なくとも、夢が独立するまでは無理かな。あいつは大学に行きたいから、そのための金は用意しないといけない。」
学業に熱意を持てなかった俺とは違い、進学希望の妹。兄としてそれくらいかなえてやりたい。
「なのにこの世界に来て問題ないの?」
はい。もっともな質問です。
「一応才華の監視、護衛という名目で才馬さんに雇われている。愛音は才華のアクセルよりだから、ブレーキとしてって理由で、何度か才華の旅行遠征出張にはついて行ってる。あ、ちなみに上司は良子さん。」
それを仕事にしたほうが楽なことも多いが、なにか違うのでなんとか就職はしていた。
「ふうん。」
「とにかく、俺は金銭面的に余裕があるわけでもない。むしろ天城家にはだいぶ助けられているところはあるけど、そこに甘えるのも俺はよしとはしない。・・・・甘えたい気持ちはあるけどね。とまあ、こういう理由で結婚はまだまだ先、そこは2人も納得している。・・・・・・・マアカも納得というか知っててほしい。」
この言葉にマアカも目を丸くした。
「私も?」
「え?いや、2人と同類ならそこまで考えているのかなって。え?」
以外な反応だった。それとも待てないのか?
「ねえ。私達は付き合っているの?」
・・・・・・・・・・・・あ。真剣な顔で俺を見るマアカ。そういわれると・・・・・・
「・・・・・どうなんだろう?」
「どうなの。私はまだザアイからの答えを聞いていない。」
回答権は俺か。俺だよな。再会したときのあの行動に俺はなにも答えていない。どう答えるべきだ。
「私はザアイが好き。才華や愛音に負けないくらい愛している。ザアイは私のことをどう思ってるの。」
「俺は・・・・・・・」
どう答えればいいか言葉に詰まる。周囲の音が大きく聞こえる。
「なにも言ってくれないのね。」
寂しそうにして振り返りマアカは歩み始める。止まっている場合ではないが、この話を終わらせるわけにもいかない。
「ちょっと待って、待って。言いたいんだけど、どういえばいいか悩んでるの。俺はマアカたちみたいにすぐ答えを出せる頭はないの。考えなしでも考えても失礼なことを言う自信があるから、言葉を選んでいるの。」
マアカの横に並び立ち会話を続けることにした。
「文章が整理されなくても、矛盾だらけでもいいから思ったことを言っていいよ。怒りはしないから。」
ではお言葉に甘えて。
「えーっと。マアカのことは好き嫌いの2択で言うと好きだよ。告白?されたことも、驚きもあったけど、嬉しい、やっほい、ヒャッハーてなるし。あれ俺リア充?ってなるし。ああ、数年ぶりだけど美人であることは変わらないな。って思った。」
これは嘘偽りない
「へえ。」
表情が緩くなるマアカ。
「だから告白されたから、はい付き合いましょう。っていきたいわけだけど。本能では行きたいんだけど。欲のままにいきたいわけだけど。」
そういう部分がないわけではない。酔っていたり、疲れていたらいっていたかも。
「だけど?」
「俺の好きは異性として好きになっているのか?って疑問に思うわけ。再会したばかりなのに告白されたからなにも考えずに付き合うのもマアカに失礼って思うわけ。互いの現状をもっと知ったほうがいいのかなって思ったわけ。俺のだらしなさをもっと知ってから判断したほうがいいと思うわけ。マアカの想像上の俺と現実の俺が違うことを知ってもらいたいわけ。」
「ザアイはそんないいもんじゃないよっと知って、そこから判断してほしいのね。」
「まあ。そゆこと。落胆されるのは慣れてるけど、ショックは少ないほうがいいと思うわけ。なんかこれ思ってたとのと違うって思うところあるって知ってほしいわけ。」
「ふうん。その部分を知っていてザアイと交際している2人のことはどうなの?」
「俺の恋愛に関しては愛音、才華しかないし、その2人はずっと好意を示していたわけで。結論でいうと異性としても好き。だから、マアカとは友達から始めましょうっていうべきかって思ったりもしたけど、それもなんかしっくりこない。」
しっくりこないのは俺の中でだけど。
「ふうん。」
「それに俺は公式公認二股中。二股中だから3人目がいても問題ない。愛音、才華と同類だから、マアカも許してくれるんじゃね?って思う自分がいる。それはマアカに悪いって思うわけ。あの2人は二股を納得してくれたけど、マアカがそうとは限らないだろ。」
客観的に見て、公式二股はいいのか?って思いはあるけど、あの2人だからって思うところはある。ハーレム万歳って思っているところはある。それにマアカを巻き込んでいいいのか?って思う。
「それにマアカの知っているときより、ダメ人間だし。成長したマアカとの差がどれくらいかわからん。」
「釣り合わないって思ってるの。」
マアカは歩みを止めるので、俺は振り返る。それ正解。
「うん。俺にはマアカはもったいない。才華や愛音もそうだけど。そう思うわけ。」
「ならなんで才華や愛音は一緒にいると思う?なんで好きだと思う?」
「2人が一緒にいるのは幼馴染だから。なぜ俺のことを好きなのか詳細は知らない。聞いても教えてくれない。」
付き合っている状況だけど、客観的にみると本当に釣り合わない。今は楽しいかもしれないけど、将来は暗い自信がある。マアカもだけど、俺とかかわらないほうがよりいい人生を歩めると思う。俺は幸せだけど、3人のためになる気がしない。俺だけが幸せでいいとは思わない。もらっているだけでなにも返せていない。しゃべっているうちにどんどん自己嫌悪におちる。
「俺の気持ちを度外視で言うと、3人とももっと男を見る目をつけたほうがいいよ。俺はこの世界でも役に立たんし、元の世界でもなにもできないでいる。俺に価値はない。」
ピシッ。
唐突に俺の頬をマアカの平手うちが襲う。強くもなく当てるだけのものであったが全く予想外であった。
「ザアイ、自分で思うあなたの価値と人が思うあなたの価値は一緒じゃないの。私の人生をあげたいと思える価値がザアイにはある。無論、他の人にとってザアイの価値はないかもしれない、でも私にはある。」
「・・・・・・・・・・マアカ。」
「ザアイの覚えていないあの言葉、私しか覚えていないあの言葉。そのおかげで私は変わった、強くなった。だから人生が楽しいと思えるようになった。世界が明るくみえるようになった。ザアイは大したことをしていないって思うかもしれないけど、私の人生でとっても大きくて大事な出来事だった。」
「それは、あのときだから。今の俺じゃあ・・・。」
俺は覚えてない言葉でマアカは救われたのかもしれない。それがきっかけで俺への好意を持ったのだろうけども。今の俺はマアカの思いに応えるだけのなにかを与えているのだろうか?なにもない。
「私もあのときのイメージしか持っていなかったから、ザアイの変化に戸惑いや不安をもった。でもね。それはザアイが成長したからなのよ。数日だけど、ザアイの好きだった部分はなにも変わらない。シクたちを優しく見守るところや、私たちを心配してくれるところ、強くなろう、なにかできるようになろうと努力しているところ。そういう部分が好きなの。ありきたりかもしれないけど、私はそういう部分を見てたから、自分も頑張ろうと思えたの。私もあの2人に負けないようになろうと思ってここまできた。」
「そういわれると嬉しいけど。それでも俺は・・・・人を幸せにできる自信はないよ。妹の件だって最低限の義務だと思っているし、俺といないほうが幸せになると思う。」
貧乏、能無し、運なし。両親が死んだときから、『自分はいなければよかった』という言葉は俺から消えない。そのことがあるせいか、2人と付き合っている今でも、誰かを幸せにできる未来は正直想像できていない。今がよければいいという感じで付き合っている。
「ザアイの考える幸せが私たちの幸せとは限らないわ!」
涙を浮かべて声を上げるマアカ。
「数日の生活でもああ、やっぱりザアイが好きなんだって思ったの。一緒いたいって思えたの。あの2人も同じよ。」
マアカは涙を腕でふきこちらを見据える。
「不幸になるといわれても、地獄に落ちるといわれても、狂っているっていわれても、世間を知らないといわれても、恋愛を知らないといわれても、ザアイ本人に拒まれても、私はザアイと結ばれたい。一緒にいたい。ザアイと小さな幸せでも感じたい。」
マアカの目から大粒の涙があふれ出ている。昔のマアカが泣いてるように見えた。あのときのマアカが精いっぱい訴えているように見えた。
「マアカ。」
「だから、自分を嫌いにならないで。いないほうがいいなんて思わないで。私はいてほしい。変わった私をもっとみてほしい。しってほしい。成長していく私をみていてほしい。私だってあなたのおかげで変われた。ザアイだって、在人だって変われるわよ。そのために私も力を貸す。だから・・・・・・・・・」
マアカは俺に抱き着いた。
「・・・・・マアカもやっぱり同類だよ。」
「ザアイ?」
「あの2人にもさ何度も何度も似たような話しているんだよ。でも2人は鼻で笑って無視してきた。同じように言い返してくる。」
何度も同じ話をして何度もそれを否定してくる2人。そういう2人だから、2人のことが無視できないんだろう。そして、好きになったんだ。マアカも同じで無視できない存在なんだ。俺のために泣く人、その想いに応えたいという自分がいることは否定しない。
「そして、俺はやっぱり単純だ。」
「・・・・・。」
「マアカ。」
両手で優しく抱きしめた。ここはダンジョンだとか、今すぐにでも2人が出てくるとか、魔物が出てくるとかそれらを無視して抱きしめていた。
「ザアイ。」
「喜んでいるところ悪いんだけど、3股は続けるから、また同じ話はするから、振られるまでは何度も何度もあるから覚悟してよ。」
「ふふ。今言う?」
「俺と付き合う大前提だね。」
「同類なんだから安心して。」
「そ。あと、俺は男女平等って大事だとおもうし、一発は一発だからね。」
俺は右手で平手打ちをマアカに。当たる直前に体をビクつき目をとじるマアカ。
そのまま口づけをかわす。前回の不意打ちの1発を返す。マアカのことを思いながら、濃く深く、濃く深く。
「さて、行こうか。」
「そうね。っと、ちょっとまって。・・・・・うん。・・・・・・うん。大丈夫っと。2人からなにかトラブル?って連絡がきたから、休憩って伝えておいたわ。」
「・・・・・・ん。」
「どうしたの?」
「たぶん。才華に追及される。愛音が掘り下げてくる。アルトアさんが茶化してくる。その三拍子?三連携?3コンボが予想される。」
2人はすぐ異変に気付く。間違いなく気づく。アルトアさんは絶対にノッてくる。うん。
「ああ。そうね。そうなりそうね。というよりそうなるわね。アルトアさんはわからないけど、2人はそうね。同類の私が保証するわ。」
マアカも理解してくれたというか共感している。さすが同類。
「ありのままを説明して、言いたいことはあるけど言い出せない2人を見て、優越感にひたればいいと思う。」
「・・・・・ですか。」
昔のマアカからは絶対に出てこない発想。成長って怖いね。愛音も才華もマアカの位置に立場を置き換えれば、同じ結果になり強く発言できないとマアカは思っている。そして、その考えに2人も行き着くと確信している。さすが同類。
「まあ、そうなるかな。」
マアカの発言に俺もそう思ってしまう。
数十分後、4人と合流。
「同じ場所で2度も落下する人なんて初めて見たわ。」
「今回は前回より無事でよかった。よかった。」
アルトアさんとバインさんは笑っていた。本当、その通りで。
「マアカがいるから大丈夫とは思っていたけど、直接確認できるまでは不安だったわ。これで一安心ね。」
愛音が俺の全身を確認して述べる。
「本当に頼りになるよ。」
「ま。」
素直の感想に嬉しそうにするマアカ。
「で?なにがあったのかな?」
顔を真横にまで傾けて俺とマアカの周囲をぐるぐる回る才華。目を全開にまで見開いている。
「なにが?なんかあったの?サイカ?別に変わった様子は見えないけど。」
ノリで同じように顔を真横に傾けて周囲を回るアルトアさん。
「落ちる前より親密になった。堕ちる前より深く濃くなった。」
「ほう。ほう?」
愛音が変化の内容を告げる。アルトアさんに前者は通じたが後者は通じていないようだ。
「言葉を交わして、体を抱きしめて、関係を近寄せて、舌を交じわせたってところかな。」
才華が見てきたように状況を説明する。
「ほう。」
「ん?」
バインさんは感心したように俺を見る。アルトアさんは理解できていない。
「ええい、なにがあったか、私にはわからん。教えろザイト。」
「・・・・・・・・・口論の末、口説いて、結果3股突入。」
要約するとこうなる。
「おう。」
「ほう。」
目を丸くし、口をすぼめるアルトアさん。あごひげをさわり『よくやった』と笑みを浮かべるバインさん。
「ふーん。」
「へえー。」
やはり複雑な顔をする2人は俺を凝視する。それをかばうようにマアカが俺の前にたつ。
「改めてよろしく、同類。」
「「よろしく、同類」」
3人の無言の火花を見守るしかできない元凶の俺。
「まあ。この件は長くなりそうだから、あとで当事者同士で話あってくれ。で口論ってなにがあったんだ?」
バインさんが質問する。
「ザアイが私とは釣り合わないって。」
「それって、私じゃなくて私たちと釣り合わないって話なんだろ。」
マアカの回答に才華が補足を加える。
「またそれなのね。」
心底呆れた顔をする愛音。
「まあ、2人・・・3人ともこの街じゃあ美人だし、能力も上位だよな。」
アルトアさんの『美人』発言に差はあれど照れる3人。
「で、ザイトはその3人とは釣り合わないって考えていると。まあ、わからないでもないか。」
俺のほうを見て理解を示すアルトアさん。
「天秤を支点から壊せば一緒の高さまで堕ちれるよね。」
刀を天秤に見立てその中心に手刀を加える動作をする愛音。
「天秤の両端にいるからそう思うのよ。私と密着して秤で量れば1つとして量れる。1つとして堕ちればいい。」
同じく腕を組んで胸をはる才華。なぎなたで地面に秤を描く才華。
「ああ。だから、ザアイは2人といたのね。」
なにかに気づくマアカ。
「才華だけだと釣り合わないから、その反対に愛音をおいて、バランスをとっていたのね。」
「「「ああ。」」」
マアカの意見に納得する女性陣。俺は重りでもなく支点か。マアカが参加した時点で、バランスをとれる位置に2人が移動していく。そんな絵が脳裏に浮かんだ。・・・・全否定できん