ダイブ再び
ゴーレム6体分の素材を回収し、マアカはバインさんにハンマーの意見を告げる。
「2人の感想は?」
「・・・・・・・・・力SSがいるって心強いね。」
「頼りになるね。」
2人とも真剣だけどどこか嬉しそうではない。
「・・・・・・本音をどうぞ。」
「ただでさえ、芸の細かい技タイプ対策で頭が痛いのに、その反対の剛タイプ対策を考えないといけないのか。」
「溢れる魔力の魔女だけでも面倒なのに、力ありあまる魔人も隣にいるのね。やになっちゃうわね。」
あの力だけでも脅威なのに魔法、技術もあるマアカ。一筋縄ではいかないと2人は判断した。ライバルだからと思いたいが、俺を廻る敵としての決戦を想定している2人。表情がそれを物語っている。
「・・・・・・本音をどうも。」
「それを言うなら、私はフェニックスとゼブラと戦う気分よ。」
他人事としてとらえた俺の後ろからマアカが声をかける。フェニックスとゼブラ?ああ。なるほど。
マアカの例えに俺だけでなく才華、愛音も理解していた。するとマアカはビックボディ?それともスグル?
「おーい。いくぞー。」
アルトアさんが背丈を超える大ばさみを手に持っている。
洞窟を進み。現在は俺が落下したあの現場。ゴーレムによって崩れた地面は修復されている。
「これなんで元に戻っているんです?鉱山の特徴?」
「ああ。土木作業員による環境回復。ここは通り道としてないと困るからのぉ。前よりは丈夫にしたって話だの。」
ああ。なーる。東の森と同じか。
ゴーレム3体をアルトアさんと愛音、才華が相手しているので、マアカと一緒に薬草採取。
「これでいいのね。」
「うん。」
のほほんと2人で採取。平和だ。特徴的な叫び声がいや応なしに聞こえるので戦闘チームの方をチラっと見てみる。アルトアさんは両腕を失っているゴーレムに大ばさみを突き刺し、そこから大ばさみを開いていた。えぐっ。はさみってああ使うもんだっけ?
胴体を内側から切断されたゴーレムを今度は挟んでそのまま、他のゴーレムに叩き付けた。うわっ。はさみってああ使うもんだっけ?
・・・・・・・向こうは問題ないな。
視線を戻すと、マアカは崖際に立っていた。髪が揺れていい絵だ。
「うーん。絶景。絶景。」
「端によると危ないぞ。」
落下経験から注意をしておく。
「まあまあ。そういわずにザアイもこっちにおいでよ。」
満面の笑みで振り返るマアカ。っつ。きれいだ。少しビビリながらマアカの隣に立つ。
「怖くないの?」
「ええ。それより、登ってきた以上に地下が深い。ここって鉱山なのよね。」
「この鉱山が大昔ゴーレムだったらしいよ。」
クルンさんたちから聞いた話をそのまま伝える。
「へえ。魔物の体内かあ。」
「とかんがいにふけるのはいいんだけど、端は危ないから移動しよう。」
「どう、危ないの?」
「上からゴーレム降ってきて、地面を殴って崖が割れる。で俺はクルンさんと落下した。クルンさんがいなかたら死んでた。」
本当によく生きてたな。
「上からゴーレムってこんなふうに?」
マアカが振り返るので俺もつられる。
「そう。こんなふうにいいいい?!」
大型ゴーレム1体が落下してきて、地面が揺れる。揺れのせいかマアカが俺に摑まってくる。動揺しているせいか、マアカがわざとなのか、本当なのか判断できない。と、とりあえずは!
「とりあえず、皆の方へ行こう。」
「それも遅かったわね。」
焦る俺とは対照的に冷静なマアカ。
「遅いって。あ!」
さらに追加で5体ゴーレムが落下してきて、地面にヒビが入る。そのヒビは俺達の足元まで。あ。駄目だ。これ。
とどめにもう一体ゴーレムが落下して、案の定足元は崩れさった。なんでこうも続けてゴーレムが、それも大型のやつが一斉に飛び降りてくるのかな。大型計7体って。
「才華、愛音、アルトアさんたちよろしく。私はザアイとデートにいくので。」
俺を掴むから抱き着くに体勢を変えたマアカは、才華と愛音に対して手を振る。対して2人はこっちへ駆けだそうとしていたが、マアカの言葉でなんともいえない顔で堪えていた。まあ、クエスト中だからね。
ごめんよ。2人ともいつも通り不甲斐ない俺で。あとデート気分になるかは分からんよ、マアカ。
心臓は爆ついているが、頭は冷静だ。叫び声もでなかった。マアカがいるという心強さのおかげか。それとも2回目という経験のおかげか。どっちにしろ、思った以上に冷静だ。たぶん。
「ザアイ。前はどうやって助かったの?」
「クルンさんの浮遊の魔法。密着状態で地面激突の直前に魔法を発動してゆったりと着地した。」
実際には着地直前で効果が切れたので、そこそこの衝撃はあったし、破片が頭にぶつかり気絶はした。
「着地はできても、落下物には気をつけてな。俺は前回ぶつかった。」
「密着状態。」
「そう、密着状態。」
食いつくべきところが違う。もうそこそこ密着状態だろ。俺の右手はマアカの腰、左手は肩だよ。そこじゃなくて、浮遊の魔法にくいついて。
「じゃなくて魔法、魔法。俺は使えない、魔法。」
「うん。その魔法は・・・・」
マアカは困った顔で上を向いている。・・・・・・え?
「使えない?もしかして使えない?え?あ、どうしよう。」
どうしよう。どうする。浮かべないとなるとあとは衝突あるのみ。母なる大地ガイアに突っ込むだけ。あ、ここゴーレムの中か。いやどうしよう。まずはマアカだ。あのときみたく俺がクッションになれば、マアカだけでも助かるか。
そうなるとマアカが愛しくなる。ごめんよ。マアカ。俺を好きでいてくれたのに、なにも答えられなくて。ああ。それなりに日にちあったんだから、やるべきことしとけばよかった。
「ザアイ、ザアイ。力強く抱いてくれるのは嬉しいんだけど、ちょっと力抜いて。」
マアカの声で現実に戻る。
「魔法は使えるけど。」
「そうなの。はああ。よかったー。あ。」
助かると思うと自分の行動が恥ずかしくなる。とりあえず、力は抜いておこう。抜けるかはともかく。
「でもね。今のまま使うと、ゴーレムにつぶされるんだよね。ほら。」
マアカが指さすので上を見る。うわあ。上にはゴーレム、ゴーレム、ゴーレム、ゴーレム、ゴーレム、ゴーレム、ゴーレム。
確かに、転落死はないけど、圧死する。
「ザアイも死ぬときはでっけえ~のほうがいいでしょ。今みたいに。」
「・・・・・・ゴーレムと女なら。そうなる。」
「でしょう。なら、ゴーレムの上に移動かゴーレムから離れないとね。だから、まずは足のほうを堪能してちょうだい。あとふとももにほおずりしてて。」
指示に従い俺は両足に抱き着き、ほおずりする。
「ううん。」
色っぽい声を出したあとマアカはハンマーの鉄球を取り外して、鉄球を振り回す。
俺に当たることはないけど、この回転だけでも俺の頭は吹き飛ばされる気がする。回転音が耳にも入るせいでか背筋には悪寒が走る。
「もっと離れていれば討たれなかったのに!はい。はい。はい。」
どこかで聞いたようなセリフとともに、マアカは鉄球を投げ飛ばし、真上にいたゴーレムの頭、腕、足を粉砕した。
「はい。やーーーー。っと。」
マアカは鉄球を胴体だけになったゴーレムに巻き付ける。そこから柄に皮紐を収納し、鉄球のほうに俺たちは移動していく。アニメや漫画でよく見る奴だ。
「これで圧死はナッシ。」
ゴーレムの胴体に乗り、マアカは鉄球を回収。
「さあて、母なる大地じゃなくて、ゴーレムのどこかまで後、何秒?ザアイとの空中散歩もあと何秒?」
絶叫マシンに乗ってるようで、テンションが上がっているのか?マアカが端に行くよう指示するので俺はマアカを抱えて移動する。なにかおかしい気がするが思考する時間が今はもったいない。
「5数えるから、0で思いっきりジャンプ。っとその前に体勢を整えてと。」
マアカにされるがままに体勢をかえていく。
「5・4・3・2・1・0!」
「っしゃー。」
指示通りジャンプ。飛ぶと同時にマアカが魔法を発動させ、全身が浮遊感につつまれる。目線を下に向けるとゴーレムが爆音と土煙をあげていた。
本当にマアカ様さま!
「残骸に気を付けてね。」
「あいよ。」
ゴーレムより遅れて数秒後、土煙が舞う地面の上にフワリと着地する。
「ふう。」
地面につくとマアカの重さを実感してバランスが崩れるがなんとかふみ留まる。
「重い?」
「ん。ハンマーがね。」
「じゃあしばらくこのまま、煙が収まるまで待ちましょう。」
「あいよ。」
マアカをお姫様だっこしたまま、その場で待機。マアカは左手は俺の首後ろに回し、右手でハンマーを持ち、鉄球を地面につけているのでハンマーの重さはない。なので実感する重さはマアカそのもの、まあ3人の中では一番ある。いろんなところもあるからな。才華よりも。
目が合うと満面な笑み。
・・・・・・なんで俺はマアカをお姫様だっこしてるんだ?これをみたら、才華や愛音は騒ぎ出す。
土煙が晴れたところで、マアカは上を見上げた。
「うん。うん。りょーかいっと。」
魔力信号で連絡をしているのだう。すでに暗記しているところにスペックの高さが見える。それとも勤勉というべきか。
「で、どうするんだい。」
「素材集めながら、のんびり登ってきてって。」
「りょーかい。じゃあ、行こうと思うけど、まだこの体勢でいる?」
「ぜひぜひ。あ。写真撮ろうっと」
マアカはそう言って、胸に手をつっこ。え?
「はい。そのまま。そのまま。いいよ。」
マアカは取り出したスマホで自撮りをし、そのままスマホを元の場所にしまった。俺が見ている状態で、何事もなくしまった。え?どうなってるんだ?
「どうしたの、ザアイ?変な顔して。」
「いや、どこから取り出して、どこにしまった?なぜそこ?どうなって?」
「見たままの場所から出して、しまった。しまえるから。乙女の秘密。」
「ですか。」
「ですね。さ、行きましょう。」
可愛らしくウィンクしたマアカを下ろす。俺の目線は収納場所に行きそうだったが、ぐっとこらえて、マアカの顔を見る。