実戦
今日はマアカ加入後初のクエスト。
内容はガンソドの面々と鉱山で材料採取と試作品の運用試験。ガンソドのメンバーはバインさんとアルトアさんの2人。
「おーい、ザイト。前はクエストの話しかできなかったけど、モテる男はどこまでいったのか。いくのか。お姉さんに教えなさいって。まず2人の件は?あの子には?」
アルトアさんが早速肩を組んできて、質問攻め。腹を小突いてくる。・・・・・・・無難な話は通じないし、しつこいと見た。
「・・・・・夜の2人はもう篭絡しました。マアカは近いうちに。どこまでと言われれば俺も男ですから、深く濃く深く濃く。」
実際どうなるかはわからないけど、言うだけならタダ。そんな気持ちがないわけでもないので才華に習って2回言う。
「お・・・・・ふ。そ・・・・・・・う。」
顔を真っ赤にして離れ言ったアルトアさん。・・・・・・・・勝った。というか意外だな。
「どうしたの、アルトアさん。顔を真っ赤にして。」
才華が不思議そうにしてアルトアさんを見ている。
「ん。彼女と恋人との仲睦まじさとガールフレンドへの目標を教えただけ。」
「ほっほう。仲睦まじさを公にしちゃうのかい?」
「どうせ隠していても読まれるなら逆に教える方向でいってみた。それに隠す必要ある?才華自身、隠す気ある?」
「ない。」
思った通りの答えをする才華。
「だろう。」
「でガールフレンドへの目標とは?」
あらそっちにも食い付くかい。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「ほっほう。私たちと同じ領域に連れて行こうと。あの明るい存在を常闇に堕とすと。おっと。もともと魔の属性だから、より深く濃く、不覚酷すると。」
「ノーコメントだ。」
無表情で目をそらすも無意味だった。魔の属性の意味はよくわからんが。深く濃くを2回いう理由はわからんが。
「と、出てきた。出てきた。」
目つきが変わる才華。才華の目線の先にはゴーレム。とりあえずは3匹か。
「マアカは在人とバインさんの護衛しつつ、ゴレームの動きを見て覚えて。あとは1人1匹。」
才華がなぎなたを回しながら、前方へ行き、入れ替わるようにマアカは下がってくる。マアカは初めての実戦なので、才華や愛音の指示には従うように厳命している。まずはゴレームの動きを覚えてもらう。
「後方2匹は私たちで対応します。そっちのほうがバインさんも見やすいと思いますので。」
愛音は刀を抜いて飛び出していく。
「ありがとね。っと。ちゃりゃーーーーーーー。」
アルトアさんもウィンクをした後、ハルバードを構え突進していた。相変わらずの変わった掛け声とともに。
「ねえ、ザアイ。ゴーレムは刀やなぎなたで斬れるものなの?」
マアカは振り返ることなく、質問してくる。
「2人とも腕や脚を斬ってた。一度だけマジ切れ愛音は氷漬けにして胴体ぶった切り。素でアルトアさんみたいに胴体ぶった切ったり、拳を受け止めることはしてない。」
アルトアさんは斧でゴーレムの腕を受け止めているた。そのまま押し返して、あ。殴った。試作品の性能実験じゃなかったけ?
「ふうん。」
「マアカ、無理しなくていいからね。命がけの実戦なんだから。」
自分でも気楽に言っているようでならないが、これは実戦。下手を打ったら命を落とす戦い。
なんだかんだで死線をくぐりぬけてきた2人とその隣にいた俺。もともとそれが身近なアルトアさんとバインさん。それに対してマアカは実戦未体験。
なにが起こるか不安でならない。戦う前から心配しすぎか?
「心配してくれてありがと。ザアイ。」
俺の不安とは裏腹にこっちに向けてくれる笑顔がまぶしい。初の実戦なのに気負いや不安が感じられない。慣れている?まさかな。
この間に戦闘は終了。素材回収後、各人からの斧の感想を述べ、記録係の俺はメモにそれをまとめといた。
そして、マアカの番となる。
「油断すんなよ~。なにかあったらザアイの寿命尽きるよ。」
そこは寿命縮むじゃないの?尽きるの?才華。心配なのは否定しないけどさ。
「そのときはお姫様のキッスで目覚めさせる。」
投げキッスされた。俺は白雪姫?死者蘇生できるの?
「怪我は治すわ。」
「自分で治すよ。愛音。」
シクの稽古を始めてから1週間、マアカは合間を見て基礎魔法習得と試作品ハンマーの訓練に勤しんでいた。
「やばいと思ったら逃げてくれよ。あとやばいと判断したら助けに入るから。」
まず、助けに行くのは愛音と才華だけど。俺が行く状況なのは相当切羽詰まったときになるし、できてもクッションか皮の盾になるくらいだ。出番のないことを祈る。
「センキュー。ザアイ。無事終えたら褒めてね。」
マアカは目を輝かせてのぞき込む。
「ああ。本当に無茶すんなよ。」
「行ってきます。」
首や肩を動かしながらマアカはゴーレムに向かっていた。やっぱ慣れてる気がする。
マアカの武器はバインさんの新作ハンマー。
金属製の柄は刀より長く、なぎなたよりは短い。人の頭部くらいの鉄球を4つの爪で挟んでいる形状のヘッド。鉄球と柄頭は革紐が繋がっている。
ゴーレムの攻撃を避け続けるマアカ。焦りは見えないが、攻撃する素振りは見えない。あの迫力に実戦だから緊張でもあるのか?慣れているように見えたのは気のせいか。
「もうそろそろかしら。愛音。」
「そうね。」
2人はなにかに気付いている。
「すいません。説明願います。」
「動きの速さや迫力に慣れてきたから、マアカの避け方がだんだん小さくなっているの。」
そういわれると初めよりマアカの動きが小さくなっている。なーる。
「で。もうそろそろと言うのは?愛音。」
「攻撃。」
愛音のいう通り、マアカはゴーレムの横なぎに合わせてハンマーを振った。何回見てもバットのスイングだよな。
新作ハンマーの横なぎとゴレームの右手の横なぎがぶつかり合う。
打ち勝ったのはハンマーというべきか、マアカというべきか。ゴーレムの右手は吹っ飛んだ。
「肩から先が吹き飛ばなかっただけ有り難く思え。ってか。」
才華の感想はどこかで見たセリフ。マアカは才華や愛音ではできなかった、しなかった真正面からのぶつかり合いを実行した。そして、体格的には愛音より少し背が高いだけのマアカはそのぶつかり合いに打ち勝った。力SSは伊達じゃない。
ゴーレムが苦痛で叫び声をあげる。その叫びを取った瞬間にマアカは飛び上がり、左肩にハンマーを振り下ろす。
左肩から腕は粉々になり、あれでは腕の再生はできまい。着地していたマアカは不適な笑みを浮かべ、そのまま横なぎで、右膝を粉砕。バランスを崩し、前に傾いてきたゴーレム。
「はあああああ。」
マアカは横なぎの勢いそのままで一回転。胴体に吸い込まれたハンマーはそのまま止まることなく、邪悪な笑顔で分厚い胴体を分断した。才華といい、愛音といい、邪悪な笑顔はなんとかならんのかな。第3者からみたら、どうみても俺たちが悪役。天使よりは悪魔なのはどうしようもないし、笑顔自体は似合っているんだけど。
っと余計なことを考えたが決着はついた。とりあえずは一安心。
だがマアカは警戒を説いていない。さらに奥を見据えている。
「とりあえず、気配は5体ね。」
愛音がつぶやく。さらにゴーレムが来てるということか。5体は1人で相手するには多いな。
「透視も使ってみたけど、普通のサイズね。」
「そうね。」
「とうし?どゆこと才華、愛音?」
「壁やら透けて見えるってやつ。基本的な魔力感知だけだと普通、大型のサイズの区別が付かない場合あるから、余裕がある場合は姿を見ておこうって思って。」
「ですか。っていつ覚えたの?」
「シクを引き取ったころには。」
「ふうん。」
「マアカー。手伝う?」
「いいよ。才華。まだこれを試しきていないから。」
マアカはハンマーの柄をねじる、鉄球を挟み込んでいた爪が開いて鉄球が地面に落ちる。マアカの武器はハンマーからモーニングスターもどきに変化した。これが試作品のキモ、売りの部分で試作品な理由。
革紐を手に取り鉄球を回し始めるマアカ。ドンドン回転数が上がっていく。背中がゾワッとしてくる。
「せえの!」
マアカはの叫び声と共に鉄球は何もいない空間へ飛んでいく。あ!
鉄球は上空から飛び降りてきて着地したゴーレムの顔をふっとばした。ナイスボール!
マアカは鉄球を引き戻し、体を一回転させて鉄球を飛ばす。鉄球が頭のないゴーレムの胴体を貫通。再度鉄球を引き戻すとゴーレムは倒れる。この間に奥から4体のゴーレムが姿を現す。
マアカは鉄球を引き戻し、今度は上半身を回して頭上で鉄球を回転させる。ゴーレムがじわじわと近づいてくる。だがマアカはそのまま動かない。回転速度があがり、その回転音が響きわたる。
「まだ。」
愛音がつぶやく。次はなんだ?
「まだ。」
才華もつぶやく。
「「今!」」
2人が告げると同じくして、マアカは体全身を使って鉄球を投げ飛ばす。弧を描く鉄球は3体のゴーレムの頭を飛ばした。弧の軌道に並ぶのを狙っていたのか。マアカも2人もよくわかるなあ。
「はあああああああ。」
マアカは間髪いれずに、残ったゴーレム1体に向けて真正面から鉄球を飛ばした。マアカの足元にはひびが入っている。
ゴーレムは両腕で防御態勢をとる。さてどうなる。
激しい衝突音とともに、ゴーレムの胴体に風穴があいた。このぶつかり合いもマアカが制した。うわあ。魔力ウンヌンもあると思うけどこれが力SSなのか。
この状況を才華、愛音は神妙な目でマアカを見ていた。なぜこんな目付なんだ?
一応2人にできるのか、視線を送る。2人とも首を横に振る。やっぱり無理か。あれができるのはマアカだけなのか。SSと自覚しているからしてみたのか。できる確信があったのだろうか。
・・・・あ。敵対したときのことを考えていたのか。魔力や技術を無視できそうなパワー。そりゃ警戒するか。こんな言い方だと、マアカが脳筋に思われて失礼か。マアカはちゃんと魔法も使えるし、格闘技術もある。3人の中では力に秀いでていると言うべきか。・・・・・3人とも俺より強い。これが真実。はあ。
「こんなものかしら。」
鉄球を爪ではさみハンマー形態に戻すマアカ。ちなみに紐は柄内に巻き戻す仕掛けがある。動力は魔力で柄のねじりを戻すと紐も戻される。
「ザアイ。どうだった。」
当然のように俺の胸に顔をうずめて抱きついてきたので頭をなでる。よしよし。そして、どうだった?と聞かれたら。
「かっこよかった。」
かな。戦う前に言われた通り褒めた。
「そう。ありがとう。」
正しい答えとは思わないが、頭をなでることで満足しているみたいなので、これでいいや。正直
「怖かったよー」
とか言って来たらどうしようかと思ってました。
「抱き着く寸前まで、『怖かったよー』っていうつもりだったろ。」
才華の言葉に腕の中のマアカはピクッと反応した。・・・・・思ってたのか。
「思ってたのね。」
愛音もその反応を見逃さなかった。
「まあ、わかるけど。」
「そうね。」
2人が同意を示し、腕の中のマアカも無言で頷いている。わかるんだ。