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ニワトリは鶏じゃない。

 報告を終えた次の日の朝。昨日は2人が風呂に入ろうとすると「私も一緒に入る。」とは言ってくるし、寝たら、入口のドアはガチャガチャされる。部屋の鍵は掛けるに決まってるだろ。なんだかんだ寝付くまで騒がしかった。それでも、やっと静かな朝を迎えた気がする。

 広間では千歳が朝食を用意していた。昨日の報告後、夕方までフライパンやら食材やらを購入し、その際、朝食は当番制と決まった。掃除、昼食、晩飯は3人でとなっている。「俺の朝食は期待するな。」と2人に伝えると、「味はいいから、愛を入れて。」と真面目な顔で言われた。愛ってなんだ?『料理のあいうえお』は『愛、慈しみ、敬う、笑み、思いやり』とも言われた。なんじゃそりゃ。


「おはよう。」


「おはよう。在人。・・・なんか、昨日、一昨日よりすっきりした顔しているね。」


 千歳が不思議そうな顔をしている。そりゃそうだろ。宿でのことを思えばな。


「宿と違って、落ち着いて寝たから。まー寝てからドアノブがガチャガチャ鳴ったのは気になったけど。」


 疑いの目を千歳に向けてみる。


「そっそうなの。さっ才華ったらー。悪い子ねー。」


 俺から目をそらす千歳。バレバレなんだよ。


「あれ?目が泳いでますよ。千歳?」


「えーっと。それはね。あっ才華。そう才華が起きてこなくて。どうしたのかなーって。在人起こしてきてくれる?ね。お願い。起きたら朝ごはんにしましょう。」


 話を逸らしてきた千歳に頼まれ、俺は無言で才華を起こしに行く。千歳はほっとしていた。才華の部屋のドアをノックし、


「才華、起きろー。ご飯食べれるぜー。」


「起きれないから、起こしてー。鍵は空いているから。」


 割と大きな声で帰ってくる。千歳を待たせるのも悪いかと思い、ドアノブに手をかける。そこで俺は一考し、質問する。


「・・・服は着てるよな。」


「着てるよー。入って起こしてー。」


 即答される。


「嘘だったら、もう俺が起こしに来ることはないから。」


「・・・3分待って。」


 声のトーンが落ちていた。やっぱり。


「起きたから下で待ってる。」


「えー。入ってよ。朝一の私を見てー。」


「俺は朝食が見たい。」


 そのまま俺は1階へ戻る。まだ才華は叫んでいたが無視無視。朝から元気なこって。

 朝食を済ませ、各自武器を持ち、ギルドへ向かう。さて初仕事だ。


 

 ギルドに入り、掲示板へ向かう。けっこう登録者が殺到している。うーん初心者だからか。他の登録者から逞しいとか頼りがいがある雰囲気を感じ、俺は萎縮する。こんな俺とは違い、隣の才華と千歳は平然としている。大物なのか、気楽なのか。こういうところは昔からで、一生敵わん気がする。掲示板につき、3人で内容を確認する。


『畑仕事手伝い募集』 


『第2期 東方面道路における清掃、魔物討伐』


『ニワトリ確保』


『西ミタキ湖、魔物討伐。』etc.


 さてこの中から、安全そうなのを探すか。・・・いやそれとも、ギルド職員に初心者向けのを紹介してもらうか?畑仕事とかニワトリは安全そうだが、あの2人は納得しないか。どうせなら一狩りしてみたいと討伐系を望んでいたからな。うーん。どしよ。どしよ。


「3人で並んでいると他の人の邪魔になるわよ。」


 後ろから声をかけられる。


「すいません。良子さん。」


 振り返り反射的に謝罪する。良子さんに。ん?・・・・違うよね。いるはずないよね。ここ異世界だよね。あっこの人が昨日、コアが言っていたガーゼットさんかな。


「素直なのはいいことね。君。リョウコがだれだか知らないけど。」


 職員の正装なのか、白ブラウス、赤色の横ラインの入った黒ベスト、黒スーツズボン姿をした女性。顔は良子さん。声も良子さん あっでも耳が尖っている。エルフなのかな。髪も黒に近い青色みたいだ。


「うわー。良子だ。エルフ耳の良子だ。」


「そうね。良子さんね。髪の色も若干違うけど。」


 2人ともガーゼットさんの周りをうろついてる。あーやめなよ。怒られるかもよ。ガーゼットさんの顔が嫌がっているよ。


「すいません。えーと、知人にそっくりだったんで。つい。ほら2人も辞めな。迷惑だよガーゼットさんに。」


「あら、私名乗ったことあったかしら、見た顔でもないし?」


 不審な顔をするガーゼットさん。千歳がお辞儀をしながら返す。


「カタム傭兵団の方に教えてもらいました。ギルドに登録したばかりの千歳です。よろしくお願いします。」


「同じく、才華。よろしく・・・お願いします。ガーゼット、さん。」


 ぎこちない挨拶の才華。そうだね。別人だから言葉遣いは気を付けたほうがいいね。最後に俺の挨拶。


「在人です。クエスト初挑戦です。あわよくばちょうどいいクエストの紹介お願います。」


「あーなるほどね。じゃあ君たちがジーファの言っていた3人組ね。うん。わかったわ。」


 こっちを見つめて頷くガーゼットさん。掲示板を一見し、1枚の用紙を選び、俺に渡してくる。


「はい、これ。」


 俺は用紙を受け取り内容を確認する。


 ニワトリ確保。依頼人ボトムス 報酬10万ゴル

 北西の草原にいるニワトリを確保(生死は問わず)数は10以上

 確保したものは 草原にある7つ岩先まで運ぶこと。


「ニワトリってあの鶏ですよね?卵産んで、食事で出てくる鶏肉の。」


「そうよ。」 


 内容だけでは安全ではありそうだし、簡単そうだ。お勧めだからこれでいいだろう。2人はやや不服そうだけど。


「君たちの強さの件は聞いてるけど、いきなり信じるほど私はお人好しではないの。だから、これで証明して。依頼人にはこちらから連絡して、草原に向かわせるから。はい、頑張って。」


 そう言い残し、ガーゼットさんは仕事に戻る。



 3人で草原へ向け出発する。鶏を10羽捕まえる。簡単。簡単。と思うのは安易か?そもそもクエストになっているんだから、それなりの理由、原因があるはず。草原が広いから探すのも、捕まえるのも大変なのか。それとも1000羽とかが襲ってくるのか。うーん、2人ならなんとかはなりそうだけど。

 

 「依頼人のボトムズだっけ?なんでクエストにしたんだろ?誰でもできそうだけど。」


 才華も同じことを考えてたらしい。ただ、その名じゃ『最低野郎』だ。


 「依頼人はボトムスさん。その人、足腰が悪いとかご年配とかじゃないかしら。」 


 千歳が答える。あーそうかも。なるほど。


「じゃあ10羽については?1人で食べる量でもないよね。」


 そう言われると、そうだね。


「パーティとか祭り用かな?それか肉屋さんじゃないの?」


 千歳が答える。まぁ筋が通っているかな?


「鶏肉かー。照り焼きかなー、食べるなら。在人は?」


 才華の質問に


「ん。焼き鳥一択。千歳は?」


「うーん。甘酢炒めかな。」


 3人でクエストの内容の話は終了し、のんびり話ながら、草原の7つ岩に着く。




 千歳が草原を見渡しながら


「うーん。いい景色ね。在人。」


 確かに。さらに天気もいいし、気温もちょうどいいから。気分は自然と良くなる。


「ピクニックやお昼寝にもいいかも。」


 才華も体を伸ばしている。そうかも。とっのんびりしてる場合じゃない。鶏探さなきゃ。 


「では探しますか。どこらへん探してみる?」」


 俺は準備運動をしながら聞く。体を動かすんだ。準備運動はしとかなきゃ。


「探してみる?そんな必要ないよ。在人がただ歩くだけで大丈夫でしょ。」


 才華がきょとんとした顔で答える。どゆこと?それ。俺は首を傾げる。俺の様子を見てた千歳が答える。


「昔から、カラスやら犬には襲われる方だったよね。こっちに来てもそうじゃない。鶏もそうだと思うわ。」


 さよですか。そうだね。そうですね。鶏にもなめられるのね。2人ともそう思ってたのね。事実だけど、ショックはあってもいいよね。多少傷ついてもいいよね。俺の落ち込みを見た2人は


「怖いの?大丈夫。私がいるんだから。」


 胸を張り親指を立てる才華。


「安心して。私が守ってあげるから。」


 俺の顔を覗き込み、ウィンクする千歳。そうじゃない。そうじゃないんだけど。どうも考えがかみ合わない。チートと凡人の差なのか?


「はい、頼りにしてます。俺を守って。」


 それしか答えれない俺。2人から笑みがこぼれてた。



 2人に言われた通り、俺が1人草原を歩き出す。2人は距離を取っている。すると遠くに鶏の姿が見えた。俺に気づいたのか。鶏はコケコケ鳴きながらドンドン音を立て、近付いt・・・でかっ。俺は目を疑った。


 近づいてきたのは鶏だった。確かに。テレビで見たことあるあの鶏。ただ、大きさが違う。両手で抱える大きさなんてものじゃない。2階立ての一軒家くらいの大きさをしている。鶏って見上げるものだっけ?ヤックデカルチャー。異世界ギャップだ。鶏という名前で気にしてなかった。俺らの世界の鶏=こっちの世界のニワトリじゃないか。そうだよね。これは羽じゃなくて頭で数えるよね。ボトムスさんこれ10頭もどうするんだ。余計な考えで頭がいっぱいになり、立ち尽くす俺。


「在人よけて。」


 千歳の声で我に返る。ニワトリが俺を突っつこうとしていた。俺は慌てて避ける。ズドンと音ともに地面にくぼみが出来てた。当たってたら、体にトンネル開通していた。


「あっぶねー。これ死ぬ、まじ死ぬ。」


 これが初心者レベルなのか。いや、才華、千歳のレベルに合わせたのか。2人の強さと俺の強さの違いはガーゼットさんに伝わってないのか?距離を取ろうとするもニワトリは追ってくる。俺は2人の方へ「逃げるんだよー。」を実行する。

 才華が俺とニワトリと1直線の位置へ移動する。さらにそこで、しゃがみ込み、両手を地面につけ俺に叫ぶ。


「在人ー。左右どっちかにずれてー。」


 俺はそれに従い右へずれる。その途端、才華の足元からニワトリに向かって地面が凍り付いていった。俺は才華を通り過ぎたところで振り返る。


「シベリア仕込みの足封じ。なんちゃって。」


 才華は冗談を言いながら、魔法で地面とニワトリの足を凍らせた。ニワトリは「コケー」と大きく鳴くも足は動かせないでいる。これ基本卒業レベルなの?

 そこへ千歳がニワトリに向かってジャンプ。明らかに俺たちの世界でだせる跳躍力を超えていた。昨日コアの動きを観たからできるようになったのか?千歳はそのまま、ニワトリの体に飛びのり、首を撥ねた。首から飛び出る血を浴びる前に千歳は飛び降り、俺に近づく。


「在人、ぼーとしてたら危ないわ。」


 2人は余裕だ。なんか実力の差が広がった気がする。これも適応性SSのおかげなのか。もうすでに俺たちの世界の住人より、こっちの世界の住人に見える。ええなー。こんな活躍をしたいと思うのは誰だってあるよなー。俺もしてみたい。俺が2人を羨望のまなざしで見てると2人は照れていた。



「コーチンだね見た目は。見た目だけでいうなら卵もおいしいはずよ。」 


 ニワトリを見て才華は言う。


「へーさようですか。」


 俺は名前しか知らんが。一息もつかの間、ドスンドスンと足音が近づいてくる。数頭いるね。先の戦闘でニワトリが最後鳴いたのは仲間でも呼んだのなかー。ニワトリを見て千歳が


「1人ノルマ5。千歳。」


「そうね。」


「1人ノルマ5だったら、15になるけど」


 この発言に2人はこっちを見て


 「「倒せる?」」


「・・・無理です。」


 わかっているけど、わかっているけど。


「運ぶの大変そうだから、7つ岩のところまで下がって在人。」


「そうね。そうすれば、ニワトリも勝手に来てくれるね。」


「あっはい。」 


 2人の指示に俺は素直に頷き、全力で走り出す。予定通り、ニワトリは7つ岩付近まで勝手に来てくれた。


 約2時間後、結局ニワトリ13頭確保。2人とも魔法をいろいろ試す余裕まであったようだ。ただ、炎の魔法は流石に止めた、一応生死問わずだけど鶏肉がメインなら焼くわけにはいかないだろう。

 俺は東西南北に走ってニワトリを誘きよせただけ。相当走ったから汗だく。足跡やら嘴の跡で草原の景色はひどいことになったけど。俺のせいになるのか?訴えられないよな。それとも草原の景色回復でクエストになったりするのだろうか。


 

「おっ終わってたのか。早いじゃねえか。」

 

 7つ岩へ行くと、小奇麗で高そうな服を着た小太りのおっさんがいた。おっさんの後ろにはガタイのいい男が数人。依頼人か?後ろの男たちならニワトリ捕獲できそうだけど。俺は質問する。


「ボトムスさんですか?」


「そうだ。おめえらが登録者か?ドロドロだな。」


 おっさんが俺を一瞥し、やや馬鹿にした顔をする。まぁ俺は誰にもなめられる特性だし、走って汗だくだし、嘴をよけて泥だらけの姿だからなー。


「そうです。えーっと。この周囲に12頭、少し離れたところに1頭います。すいません。離れた1頭を引っ張る力は自分たちにないです。」


 状況を説明する。


「ふーん。まぁいい。ご苦労さん。はい報酬。」


 いきなり袋を投げ渡される。俺はもちろんその袋をキャッチできずに落とす。その様子を見てたボトムスさんは疑った顔で質問してくる。


「そんなんで、よく13頭も倒せたな。」


「まぁ倒したのは後ろの2人ですから。俺はおびき寄せただけです。」


「そうかい。じゃあ帰りな。邪魔になるから。」


 そう言って男たちの方に向き直る。あきらかに消えてくれとの態度だけど、気にしない。気にしない。言われたとおりに帰ろう。俺は2人を促すと才華はボトムズさんの後ろに立ち、質問した。


「ボトムズさん。答えなくてもいいけど、ニワトリどうするの?」


 わざと間違えただろ。面倒ごとはやだよ。


「解体して、東の街で売るんだよ。ここのニワトリはそこそこ有名だから。あと俺はボトムスだ。」


 ガタイのいい男たちに指示しながら、こちらを見ず答えるボトムスさん。


「ごめんなさい。噛みました。答えてくれてありがとう。それじゃ行くね。縁があったらまた。」


 てへぺろで謝り、振り返る才華。もめごと起きなくてよかった。


 こうして、初クエストは無事終了した。帰りの道中、2人はぶーぶーボトムスさんの文句を言い続けていた。俺はなめられることに悲しいけど耐性があるので、もう気にしていなかったが雰囲気が良くないので、俺は一言。

 

 「あー2人の手作りの鶏肉料理が食べたい。」


 この一言で2人の会話は料理のことに変わり、わいわいしながら家へ帰っていた。こういった雰囲気のほうがいいよな。うん。














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