魔改造参戦
3人が満足し離れたところで、マアカは改めて才華をまじまじと見る。その目線は髪を上から下と移動していく。まあそうなるよな。
「で、才華その赤髪はどうしたの?眉毛、まつ毛まで。目立ちすぎなくらい赤いよね。」
良子さんに言われて髪を以前と同じ長さまで切った才華。あの髪触りや見た目も慣れれば悪くなかったから。もったいない気もしないではない。
「ん。在人といろいろあってね。」
「ふうん。色々ね。じゃあ。ここに逃げてきたのはなんで?」
「それは、その。」
口ごもる才華。・・・・才華は異世界のことを教えてはいないのか。マアカは不審に思い、才華の顔を覗き込む。
「ねえ。なんで?」
才華の目の前で山が揺れる。
「こんな山脈を持ったマアカを在人に近寄せるわけにはいかないだろ。会うたびにザアイ、ザアイと依存レベルが上がっていくマアカを在人に会わせるわけないだろう。ただでさえ、愛音という油断も隙もない悪女と戦っているのに、三国志状態にできるか。」
悪女と言われも表情の変わらない愛音。・・・・・自覚はあるんだ。
「要するに俺に会わせたくなかったっと。ってか会っていたんだ。」
俺は連絡手段すらないのに。当時、マアカは携帯を持ってはいたが、余計な連絡先は入れるなと父親に厳命されていた。
「そうだよ。直接会うたびに大きくなるし、魅力が増していくし、どう考えても私たちと同類だし。私達以外にいるはずのない存在だし。」
俺への好意を持つ数少ない同類。才華としては愛音以外存在しないと思っていたのだろう。俺もそう思えるのが悲しい。否定できないのが虚しい。あとマアカの変遷を知っているのか、見たかったな。
「ここに来れなかっただけで、日本には何回か来て、才華、才馬さんや千佳さんには会っているの。」
「そうなんだ。俺も会いたかったよ。愛音もそう思うだろ。」
「そうね。」
「ザアイ。愛音。」
両手で口を押えて目を潤わせるマアカ。
「あー会えないだけで、情報は千佳義姉経由で相当仕入れているよ。こんなのとか。」
「これは2年前の7月19日に送られた居眠りシリーズのね。」
「そうね。」
才華が取り出したスマホの画像にはうたた寝している俺が写っていた。・・・・・・いつどこで。あ、沙緒里さんが働いてる喫茶店だ。
「沙緒里さんか!」
「うん。」
あっさり頷く才華。・・・・・それとマアカ、なに今の即答?何?居眠りシリーズ?愛音も頷いていたよね。
「俺はどこ突っ込むべき?」
「ここにどうぞ。」
マアカが胸を突き出す。ここに突っ込めと。ちょうどいい高さにあるね。
「よーしって。突っ込めるか!」
「もう照れちゃって、今はザアイの物なのに。」
「今は?」
俺が好きって言ってたけど、別のだれかの物になると。
「来年には私たちの子も使うことになるでしょ。」
なーる。
「ですか」
「ですね。」
「楽しみだねえ」
「そうね。」
「俺はどこから突っ込むべき?」
「「「ここからどうぞ。」」」
3人が突き出した。絶景なり。って言えるか。
「ザアイが困ってるから、話を戻すけど、ここに逃げ込んだ理由は?」
うん。困ってた。
「さっき言ったとおりだよ。」
「うん、逃げる理由は分かった。でもこの部屋の理由は?なにを隠しているの?」
「ええい。離れろ。マウンテンドロップでつぶす気か。」
また顔を近寄せられて圧迫されている才華。まあ、異世界のことなんて言えんよな。言ったらマアカは付いてくるだろうし、それはそれで危険に巻き込む可能性ある。
「ねえ。愛音?なんで?」
「さあ?私はここに来てと言われたから分からないわ?」
詰問対象を変えるマアカ。愛音は目を瞑って話を流す。
「ザアイは?」
「俺も才華に呼ばれたから・・・・」
下手にしゃべると嘘がばれる自信がある。
「そう。」
目を伏せて悲しそうにするマアカは立ち上がる。言いたいけど、言えない。ごめん、マアカ。
「・・・・あの扉の奥に答えがあるのね」
この言葉に俺を含めた3人は驚きの表情でマアカに視線を送るも、マアカは既に奥の扉へ走り出していた。なんで分かった?まあ。俺のせいなんだろうけどさ。
才華、愛音も追いかける。だが座っている状態と立っている状態の差がそのままゴールへの差となった。ゴールインしたマアカは異世界転送装置を見上げている。
「ホワイ?」
見慣れない物体に驚きを隠せないマアカ。そうなるわな。
「伊勢、回転、操装置。」
観念したようだが、微妙に誤魔化したい気持ちがある才華。俺の珍回答で答える。
「・・・・・・・・・・・異世界転送装置」
惑わされることなく正答にたどり着いたマアカ。装置を触ることなく事細かに観察している。
「ザアイ。本当に?」
装置のドア前に立ち俺のほうへ振り向くマアカ。・・・・・嘘は通じまい。
「うん。信じられないと思うけど、本当。1か月くらい。その世界で生活していた。才華。」
才華は装置を操作して、ドアをあける。
「・・・・・・・精巧な映像。ってわけではないのね。」
俺がドアの向こうに行くことで現実であることを確認するマアカ。ドアの向こうから手を伸ばし、マアカをパヴォロスへエスコート。エスコートで合ってるのか?ま、いいや。マアカは恐る恐るドアをくぐり、森を見渡す。VRでも幻でもない現実であることを目で鼻で耳で肌で実感している。
ちょうどよく三つ目犬が通りかかり、一鳴きし去っていた。マアカは目を丸くしながら三つ目犬を見送っている。
「なんて感想を言えばいいのかしら。」
「とりあえず、信じれる?」
「信じるしかないわね。」
「まあ、一旦戻って、説明してもらおうか」
部屋に戻り、装置のこと、異世界パヴォロスでの生活のことを説明する。
「・・・・なかんじ。ああ。大事なことが1つ。このことを口外することは許さない。」
説明の締めに冷酷な目線を送る才華。
「それはなんで?いろいろ活用できそうというか、できるよね。それこそ、天城家にとってプラスにしかならないと思うけど。」
怖気ることなく質問するマアカ。
「これはお金のために作ったんじゃない。在人のために作ったもの。」
「お金はかかったんじゃない?」
「それを補うために装置作成に必要だった技術、理論の一部は開放してる。そのことは知っているでしょ。」
「あの関連性の見えなかった技術や理論の連続はこのためだったの。」
「その通り。」
「才馬さんやお父様は何も言わないの?」
「親父はこのことを知らない。兄貴は技術、理論で装置開発に使った金を補完しろって。」
「才馬さんは異世界のことでなにか言ってきたの?」
「迷惑かけないように機密事項にするから、って。」
才馬さんのマネをした才華。 ぼーっとしたように見える表情の才馬さんが脳裏に浮かぶ。たぶん。愛音、マアカも同様のようだ。
「それってどういう意味?」
「私達の世界がそれを知ったら、新しい領土、新鉱石に新技術の宝の山、現在の新大陸としか見ない人のほうが多い。どう考えても交流より搾取の対象にしかならない。そう動く人が圧倒的多数。異世界に侵略者は送れないだろうって。」
今現在の世界状況を考えると才馬さんのいうことを否定はできないか。ろくでもないこの世界。
「今の人類に異世界は早すぎるって兄貴は考えている。もし漏れたりしたら公表したもの以外で装置に関するものは全部破棄って約束している。」
「そうなの。」
才馬さんの言葉だからか、マアカも納得はしてくれたみたいだ。
「だから、知っている人は限られているし、口外しないように徹底している。」
良子さん、夢、真ちゃん、才馬さん、千佳さんってところか?あ、研究所の人はどうなんだろう。そこそこいるのかな?大人数になると情報漏れそうだが、天城家を敵に回すのはリスクが大きすぎるか。
「でも信じる人っているのかしら?」
それもそうだ。俺だって最初は信じられなかった。噂だけでは信じる人は少ないんじゃないのか?
「天城家。それだけでもしかしたらって思う奴がいる。そのもしかしたらを確かめる奴が現れる。そこから面倒な奴に知られて広まる。面倒なことはしたくない。」
「そうね。」
才華の言葉にマアカはあっさり納得した。『天城家』ってだけで信じる理由になる。
「だから、仮にマアカが情報を漏らしたら、在人の望みをマアカが壊したことになる。そのときは絶対に許さない。」
「そういわれるのは心外ね。私にとってザアイの優先順位は才華、愛音と同じよ。」
2人が無言でにらみあう。ハラハラして2人を見る俺と、平然としている愛音。共倒れになること祈ってそうで怖い。
「ふう。機密事項は分かったけど、研究者としての才華は鉱石や技術に興味はないの?」
「ある。だから鉱石などは持ち帰ったりしたけど、これは装置の進化のため。新しい発見をしたとしても、こっちの素材で代用できるまで公表はしない。」
「へえ。じゃあ、今度はいつ出発するつもりなの?」
・・・・もしかしなくても、そうなるよな。
「・・・・・4日後の昼」
「もちろん、私も行くから。いいよね、ザアイ。」
ですよね。どうするべきか2人を見るが愛音は目を閉じ、才華はそっぽを向いている。俺に決定権があると。うーん。マアカがいるのは嬉しいし、楽しいとは思うけど。もうただ異世界楽しいとは言えないんだよな。
「えーっと、危ないからやめたほうがいいと思うよ。物語のようにはいかないし、俺はもう2度も死にかけてるんだから。俺はマアカを守りたくても守れないよ。」
「だいじょーぶ。私も鍛えてるから。」
「こっちとの連絡手段ないから実家や職場に迷惑がかかるよ。」
「実家は弟が継ぐから私がいなくても問題ないし、仕事も優秀な秘書がいるから問題ない。」
弟がいるのは初耳。いなくても問題ないって家族とうまくいってないように思える。職場もだがそれでいいのか?・・・・・妹にはいないほうが楽といわれ、仕事は才華の同行という俺が説教できる立場ではないか。
「死んだり、この世界に帰れなくなるかもよ。」
「ザアイと一緒にいれるならどこにでも行く。」
マアカの目は愛音、才華と一緒だ。妄信されても困るよ。
「情けない俺を見続けることになるよ。幻滅するし後悔するよ。」
自分で言って情けないが事実だ。
「それならとっくに2人から見限られているんじゃない?」
・・・・・それもそうか。そうですね。よく見捨てられないな。
もう俺では無理か。・・・・説得は諦めよ。
「異世界行く決まり事はあるからこれは順守。服装や装備も才華と相談して用意。あと、行くときまで、互いに遺恨がおきないよう、家族や職場は説得。今言ったことはちゃんとしてくれよ。そしたら4人で行こう。」
「ザアイ。わかったわ。それにありがとう。」
俺の両手を握って感謝を述べたマアカだった。・・・かわいいな。
「いいでしょ?」
「在人が言うなら。よろしくね、マアカ。」
愛音は笑顔を見せる。
「3人いれば常に誰かは在人を守れる形になるからいいか。足引っ張んなよ、マアカ。ふう。天才、チートに続いて魔改造が参戦決定か。」
才華はマアカを指さす。2人はアタッカーで1人は俺の護衛ですか。俺は泣きたくなるよ。というか同格の力があると認めているのか。あと魔改造って。
「ふ。私より強い奴に会いにいった成果を見せてあげる。」
不適な笑みをこぼすマアカ。やだカッコいい。
「じゃあ早速、出発の準備に行ってくるわ。っとその前にザアイ。」
マアカが振り返る。なんだ?
「何?」
「連絡先交換しましょう。」
笑顔でマアカはスマホを取り出した。