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第1次 異世界生活報告 

 両腕に何かが絡んでいて体も動かせない。腕には弾力のあるものが当たって暖かい。なんだこれ?あれ腕だけじゃない。体の両方に暖かいなにかがある。その違和感で俺は目覚める。毎度目覚めの悪い俺は体を起こそうとするも両腕が上がらない。腕を確認して、俺の脳は覚醒する。右腕には才華。左腕には千歳。それぞれ俺の腕を組んで寝ていた。

 いつの間に。なぜ俺は気づかない。・・・違う、夜中、周りがもぞもぞと動いて、腕に違和感を感じた。そうだ、確かに感じた。寝ぼけた頭でそれを確認しようと思った途端、異様な眠気が襲ってきてそのまま寝た気がする。・・・眠りの魔法?こいつらのやりそうなことだ。


「おーい。起きろー。おい。」


 俺の叫び声で、2人は寝ぼけた声を出しながら


「あー起きちゃったの。つい気持ちよくて、魔法追加し忘れた。」


「まだ5時だよ。在人。もうひと眠りしましょう。ね。才華も。」


 こいつら、腕を離そうとしない。おい。魔法って。眠らす魔法も基本なのか。


「とりあえず、自分のベッドで寝ろ。」


「うーん、きっと冷えてるからいや。ここ気持ちいいし。」


 とろんとした目の千歳。


「右に同じ。ということで、おやすみー。ちゃんと8時には起こすから。」


 才華は右手を俺の顔にかざす。その途端俺は睡魔に襲われ敗北する。こ・・・いつ・・・・ら。また眠りにつく俺、起きたのは才華の宣告どおりに8時だった。2人は満足しきった顔をしていた。


 

 宿を出て、才華の購入した家へ向かう。家というより屋敷。中古だというけど、俺や千歳の住んでるアパートより新しいし大きい。掃除が大変そう。この考えは庶民、貧乏人ゆえか。

  

 鍵をもらい中を確認する。1階には暖炉付き広間、キッチン、広い浴室。書庫もあった。2階に部屋が6つ。各階にトイレ付き。この世界に家電はないが、それに準じる魔法を応用した家財があった。洗濯機の代わりの洗濯瓶、アイロン代わりの熱石ゴテ、ないのはテレビくらいか。

 

 3人で暮らすには広すぎると思うが、才華の金塊なので文句は言わない。というか今日までの支払いはすべて、才華。・・・男として情けない。

  

 2階の部屋にそれぞれ、荷物を置く。俺の部屋には3人くらい寝れるベッド、タンス、机付き。1番大きい部屋なのだが、才華は俺にゆずった。理由は簡単、他の部屋にこのサイズのベッドはない。俺の部屋のベッドなら今日みたいにベッドで添い寝できるから。



 家に荷物を置き終えたので、ポイントへ向かうことにする。街の東門にはすでにコアが待っていた。


「おはよう。ジーファは今日、クエストでいないけど、この私にまかせなさい。」


と胸を張る。自信満々の顔をしている。なんだか嬉しそう。


「よろしく。コア。頼りにしてるよ。」


「お願いねコアちゃん。」


「頼りなさい。頼りなさい。」


 うんうんうなずくコア。団の中では若手とジーファさんが言っていたので、先輩ポジションになれるのは嬉しいんだな。


「頼んどいてあれだけど、クエストに関係なく街から出ても大丈夫なの?傭兵団とも関係ないし。」


 昨日はそこまで考えず、頼んだけど、実際問題ないのか。


「あー大丈夫、大丈夫。訓練の一環みたいなもんだから。一応ジーファにも伝えているし。あっポイントのことは言ってないよ。安心して。」


「そうなんだ。なら、お願い。」


 4人でポイントに出発する。



 既に街周囲の地図を購入しているので、途中までは隣街へ向かう道を歩いていく。整備された道なので、危険性はない。才華はすでに歌っていた。


「~♪。道を押し付けるな、道は貫け~。」


「これザイトたちの世界の歌?」


 コアが俺に近づき、聞いてくる。


「うん。そうだけど。」


 日曜朝の子供向けアニメ、『ゲキピュア』シリーズ。第13弾『ピュアロード』のオープニング。才華はこの『ピュアロード』がお気に入りで、半年前に3人(俺は強制的)で劇場版を含め全話一気見までした。あれは結構きつかったな。才華の推しメンは『ピュア・ザ・武道』、フィギュアもコンプリートするまで買って、あと自作したとか。


 一応アニメやらも含め説明する。コアは興味津々といった顔


「ちょっと見たいかも。見ることできない?」


「うーん、パソコンで見れるかも。まぁ用意できたら、家に呼ぶよ。ただ、全話見るとしたら1日につぶれるし、才華がすごいことになるから、それは覚悟しといたほうがいいよ。」


 コアにはこれからも世話になる気がするので、これくらい約束しておこう。後で才華に確認しとこ。


「ここから南下ね。」


 地図を持っていた千歳が指示する。はい、のんびり散歩はここまで。集中集中。


「よーし、魔法の威力をためす時が近づいてきたわ。見ててよ在人。」


「私も私も。目に焼き付けてね。」


 2人は魔法を試したくて、うずうずしている。能力的に心配はないんだけど、緊張感が足りないと思う。まぁ、コアがいるから、初日みたいなことにはなるまい。

  

 ポイントへの道中、何回か犬と鳥に襲われるも3人が一蹴していた。コアが切り込み役となり、才華が魔法、千歳は魔法と刀で追撃していた。コアのナイフ捌きもさることながら、軽業師のような身のこなしに目を追ってしまった。才華、千歳の身のこなしも初日とは明らかにレベルが違った。無駄がないというか、隙がないとうか。表情に余裕があった。

 

 ちなみに、俺は特性故真っ先に狙われるので、避けて、避けて、耐えて、耐えて、ときには助けられ、討伐数0のまま。まぁ初日より怪我は少なく、ポイントについたときは腕と胸傷だけ。その傷を治療するのに「私がする。」と才華、千歳が無言のにらみ合いになる。結局、腕と胸を2人でそれぞれ治療。魔力の無駄使いだと俺は思った。コアも「懲りないねー。」とあきれていた。もう簡単な討伐クエストならこなせるよとコアの弁。なら明日にでも行ってみよう。

 

 

 ポイントにて才華がリモコンを操作する。本来はリモコンでメールを送れば終わりだが、コアに装置のドアを見せるため、世界を繋げてもらう。ドアが足元から現れる。こうやって繋がるんだ。やっぱりどこでもドアだ。


「ひゃー。ドア出てきた。ドア出てきた。何これ、何これ。魔法じゃないんでしょ、これ。」


 大興奮してドアをまじまじ見るコア。まぁそうなるか。


「科学の力。私の力。愛の力ね」


 腕を組みドヤ顔の才華。ドアが開き、ドアの向こうには良子さん。


「ご無事でなによりです。3日たっても街はありませんでしたか?」


「えーと、残念ながらありました。いろいろあってその街に在住の子も今ここにいます。」


 俺はコアのほうに手を向け説明する。


「へー、ドアの向こうがザイトたちの世界なのね。見える範囲だけでも全然違うね。・・・あーーー、ガーゼット。なんでいるの。なんで?・・・あれでも、服装が違う。どーなってるの。」


 コアはドアの向こうを覗き、良子さんの姿を見るなり驚き叫んだ。


「コアちゃん、ガーゼットって誰?この人は良子さんっていうの。」


 千歳が冷静に説明する。


「えーっと。あれ、あーギルドの職員。私たちは結構その人から直接クエスト紹介されているの。でリョウコさんだっけ。顔はリョウコさんと同じ。」


 コアは良子さんから目を離さず説明してくれる。千佳さんに続き2人目のそっくりさんがいると。明日ギルドで会えるかも。ここまできたら、沙緒里さんそっくりの人もいるかも。いや、是非いてほしい。沙緒里さんみたいに俺の愚痴を静かに聞いてほしい。才華、千歳に愚痴ってもあの2人はその原因の排除に暴走するから話せないんだよ。2人の件で愚痴りたいときもあるし。


「コアさんですね。空良子です。3人がお世話になってます。」


 コアにお辞儀する良子さん。


「あっコアです。こちらこそお世話になってます。」


 つられてお辞儀するコア。


「在人君。現状の説明とこれからの方針を教えて。」


 あいさつもそこそこに良子さんは俺の方を向き質問してくる。俺は今日までの出来事、住居の確保、この世界にまだ残ること、今後はクエストに挑んでいくこと等説明する。良子さんは最初クエストの件についていい顔をしなかった。だが最終的に、俺が選ぶこと、簡単なものからこなしていくことで納得してもらった。報告期間については3か月に1度にしてもらった。


「では3か月後に。コアさん3人のことを今度もよろしくお願いします。」


 ドアが閉まり足元から消えていく。報告無事終了。何事もなくとりあえず一安心。


「はー声も一緒だった。本当に似てた。驚いた。驚いたといえば、あのドアも。びっくり。本当に異世界から来たんだ。聞いたことない。見たことない。会ったことない。ザイトたちみたいな人たちには。」


 コアは興奮が残っている。普通はそうだろうなぁ。でも落ち着いてほしい。これから森を通り抜け、街にもどらんきゃならんだから。

 


 帰り道も襲われるけど、犬と鳥のみだった。コアには手を出さないでもらったが2人で一蹴していた。俺の立場はかわらずだけど。俺、経験積んでいるのかな?強くなっている気がしない。


 無事、森を抜け、ミタキの街への道へ出る。ここまでくれば安心。俺も気が楽になる。


「結局、犬と鳥だけだったなぁ。写真の蜘蛛女は珍しいのかな。まぁ会いたくはないけど。」


 俺は何気なく口にする。するとコアがものすごい形相で食いついてきた。


「今、蜘蛛女って言った。本当?下半身が蜘蛛で、上半身が女のやつ?どんな見た目だった。いつ?どこで?写真って?それ本当?」


「なに、なに、落ち着いて、コア。ちょっと。待って。ほんと落ち着いて。」


 こんなに食いついてくるとは思わず、俺は答えれない。顔も近い。胸も当たっている。それを見た千歳がコアの肩をたたきながら、コアを宥める


「はーい。落ち着いて、落ち着いて。深呼吸、深呼吸。あとコアちゃん、少し在人から離れようか。」


 最後の一言だけ声のトーンが違った。コアもそれを感じ取ったのか。無言でうなずきながら俺から離れる。 


「蜘蛛女ね。はいこれ見て。」

 

 才華はスマホを取り出し、画像をコアに見せる。画像入れてたんかい。コアは画像を注視し、しばし無言となる。そして、才華にいつになく真剣な声で質問する。


「報告にあった特徴と同じだ。この道具がよくわかんないだけど、蜘蛛女はいつ、どこで見たの?」


「うーん。写真に写ったのは1週間前。割と最近よ。場所はさっきのポイントよ。ドアにカメラってのが付いていて、それで今見てるのが撮れるの。で、蜘蛛女がどうしたの?コア。」


「1週間前か、私たちが森を調べ終わったのが2週間前だから入れ違いになったのかな。私たち、この蜘蛛女の討伐依頼を受けてるんだよね。」




 ミタキの街から南方に所在するロシック王国。1か月前、そこの領土内にある名もない村で村人が2人を残し全滅する事件がおきた。その元凶がアラクネルと名乗ったこの蜘蛛女だという。

 

 蜘蛛女はこの周辺ではいないが、南方のほうでは割りとメジャーな魔物で、強さは中の中くらい。コアなら1人での戦いを禁止される強さになる。しかし、このアラクネルはあきらかにワンランク上の強さと慎重さを持ち、村の異変に気付いたロシック王国の兵士2小隊が3人を残し、全滅した。

 

 この際、アラクネルも負傷をしており、依頼を受けたカタムさんたちが来た際には、既に逃走していた。このため、カタム傭兵団は現在、北上しながら、ギルドの依頼で資金を稼ぎつつ、アラクネルの捜索をしているとのこと。


「全然見つからないから、ギルドに伝えて、次の街へ移動しようとしていたんだよね。でもまたこの森で探さなきゃ。あーでもどうやって説明しよう。団長にザイトたちが見たで通じるかな。」


 しゃがんで悩んでいるコア。確かに悩むなぁ。しかし、意を決めたように立ち上がり


「いいや、とりあえず、報告しなきゃ。あ、ザイトたちはアラクネルに会ったら絶対に逃げてね。あと森に行くときは私か、ジーファに教えて。また何か聞きに行くかも。ごめん、私行くから。」


 一方的に話し終え、街へ走りだした。


「わかったよ、コア。蜘蛛女はポイントから東方向に向かってたから、あと私たちのこと、ジーファと団長さんには伝えていいし、場合によってはガーゼットって人にもいいよ。」


 才華が手をあげコアに伝える。千歳も手を振っていた。コアはこちらを見ず手をあげ、そのまま走っていった。俺らの秘密がどんどん広まっているがこれは仕方ないか。


 恐ろしいことを知ってしまった。初日に遭遇してたら、確実に全滅していたな。これはマジで危険なやつだ。正直、今すぐ帰りたい。


「危険だから、帰ろうって言ったらどうする。」


 俺は一応確認する。


「嫌よ。森に行かなければいいでんでしょ。」


「そうね。大丈夫、大丈夫。」


 やっぱり帰る気はない2人。説得にも応じまい。先に手を打っといたほうがいいかも。しかたない腹をくくるか。


「あーしたら、次の報告日まで討伐されなかったら、一旦帰るでいい?帰ることになったら、・・・デート・・・するから。」


 デートで釣ってみるのは安易か?言った後で我ながら単純すぎる気がした。が。


「「いいよ。」」


 2人が光速で俺の方に振り替える。ちょろい。2人は「映画見に行きたい。」とか「服買いに行きたい。」などぶつぶつ独り言を言いながら、真剣に考えている。・・・この真剣味を森の中で見せてほしい。

 まぁ言質は取ったからいいか。アラクネルはカタム傭兵団に頑張ってもらおう。俺たちにはというか俺には荷が重すぎる内容だ。俺たちはクエストを頑張ろう。無事解決してほしい。

 




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